かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

ご案内

  1. このブログの作者,執筆方針,「かけ算の順序」への見解など
  2. 新しい『小学校学習指導要領解説算数編』関連
  3. 「×」の事例

数検10級に見る,かけ算の順序

 ぶらり入った書店で,「実用数学技能検定(数検)」の特集をしていました。級のうち,6級から11級までが小学校の1学年ずつに対応し,「算数検定」となっています。小学校2年の「10級」の書籍のうち3冊を手に取り,レジへ持って行きました。
 購入した理由はというと,そのいくつかに「かけ算の順序」を問う文章題*1を見かけたからです。
 『文章題入門帳』ではp.34です。上半分の「れんしゅう 2」には「子どもが 6人 います。1人に 画用紙を 3まいずつ くばります。画用紙は 何まい いりますか。」,下半分の「れんしゅう 3」には「たまごの パックが 5つ あります。どの パックにも たまごが 6こずつ 入って います。たまごは 何こ ありますか。」とあります。緑色のガイドに注意しながら,穴埋めで解答します。正解となる式はそれぞれ「3×6=18」「6×5=30」です。
 『文章題入門帳』のp.38には「はこに ジュースが 50本 入って います。この ジュースを 9人の 子どもに 4本ずつ くばりました。」とし,(1)と(2)の小問に分けて,ここでも穴埋めです。(1)では「□本ずつ □人に くばるので,」とし,順に4と9が入り,順序をひっくり返すことが想定されます。
 『要点整理』では,p.80の最初の2問が該当します。「(1) 子どもが 5人 います。1人に 色紙を 7まいずつ くばります。色紙は ぜんぶで 何まい いりますか。」と「(2) 長いすが 6つ あります。どの いすにも 4人ずつ すわって います。ぜんぶで 何人 すわって いますか。」です。
 ここまで挙げた文章題では,いずれも,「ずつ」の付く数がかけられる数となっていますが,「ずつ」がない場合,例えば最初に記した文章題を「1人に 画用紙を 3まい くばります」に変更すると,1人だけに3枚配るという解釈もでき,曖昧さを避けるためと読み取ることができます。それぞれの本に,「ずつ」のない,かけ算の文章題を見つけることもできました。
 『過去問題集』に収録された全6回の問題文を見ましたが,「かけ算の順序」を問う文章題は,含まれていませんでした。

単元テストのかけ算「ひっかけ問題」とその対策

日々のクラスが豊かになる「味噌汁・ご飯」授業 算数科編

日々のクラスが豊かになる「味噌汁・ご飯」授業 算数科編

 「味噌汁・ご飯」授業は,「手軽で」「飽きない」「栄養価のある」授業と読み替えられ,pp.11-12で細分化されています。なお,https://www.facebook.com/miso.gohan/によると,「味噌汁・ご飯」授業研究会は今年3月までで,2月には解散セミナーが催されたとのことです。
 単元の授業準備の段階で,単元終了時に児童らに解かせる「単元テスト(業者テスト)」を分析しておき授業に取り入れようという趣旨が,pp.56-57に見られます。例えばp.57では,低学力児(100点満点で30点以下)でも「味噌汁・ご飯」授業を通じて60点,70点,80点取れるとし,単元テスト分析の必要性について次のように記しています。

 そのためには,事前の「単元テスト」が大きな役割を占めていることになる。このことなくして,このような「事実」を作り上げることはできない。業者テストは,テストの平均を80点や85点に揃えるために,必ず子供たちが間違う問題(私たちは「ひっかけ問題」と呼ぶ)を入れている。そこにまんまとひっかかるのである。
 ここを私たちがマークしなければ,テストの平均を上げることはできない。
 では,具体的にどうするのか。p.58,p.59を参考にしてほしい。

 次のページでは,2年生,東京書籍「かけ算(2) 九九をつくろう」の単元テストを例に,その分析を行っています。単元テストの表面の最後,[6]が「ひっかけ問題」であるとし,その問題文と,対策を述べています(p.59)。

 長いすが8つあります。1つの長いすに7人ずつすわります。みんなで何人すわれますか。

 この問題は,かけ算の基本的な考え方である「1つ分の数×いくつ文=ぜんぶの数」のうち,「いくつ分」に当たる「8つ」が先に,「1つ分の数」に当たる「7人」が後にきている。従って,算数の苦手なこの多くが,正解の「7×8」ではなく,「8×7」と,立式してしまうことが考えられる。その対策として,

  • 教科書p.48で出てくる前に,かけ算すべての段において,先生問題として,問題文で「いくつ分」が「1つ分の数」より先に出てくる問題を解かせる。
  • 「1つ分」の多岐にわたる表現を,模造紙にまとめて掲示する。

という手立てを考え,実際に指導することができた。
 このおかげで,本学級30名の本単元テストの平均点は,50点満点で,思考46.2点(92.4%),技能48.5点(97%),知識46.3点(92.6%)と,3領域とも90%を超えることができたのである。

 上記のほか,p.101には「子どもが8人います。あめを1人に3こずつくばると,ぜんぶでなんこいりますか。」で8×3と立式する子が出てしまう点を指摘した上で,その対策として「図で表す」ことを提案しています。「1はこに,5こ入っているりんごが,3はこあります。ぜんぶでなんこでしょうか。」という文章題も,「りんごのはこが,3はこあります。1はこ5こ入りです。ぜんぶでなんこでしょうか。」という文章題も,1個りんごを●で表し,5こずつ並べて長方形で囲めば,同じ図になるということです。

円周率に「比の値」

 いくつかの辞書で,円周率の説明に「比の値」を使用しています。次期学習指導要領では,「比の値」は小学6年の算数で学習する用語の一つとなっています。


 数日前のツイートで,比の値が意味不明というのを見かけました。探し直すと,容易に見つかりました。

 「比の値」のパターンマッチを試みるとすると,辞書による定義です。オンラインで読める2つの辞書で,「円周率」の説明に,この語を使用しています。

  • Weblio辞書三省堂 大辞林):「円周の直径に対する比の値。記号 π (パイ)で表す。その値は 3.141592… で超越数であることがリンデマンによって証明された。 」
  • コトバンク(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典):「平面上の円の円周と直径との比の値。すべての円で等しい。3.14のほか 22/7という数値がよく用いられる。(以下略)」

 「比の値」ではありませんが,wikipedia:円周率では「円周率(えんしゅうりつ)は、円の周長の直径に対する比率として定義される数学定数である」,goo辞書では「円周の、直径に対する比」と書かれています。
 次に,「比の値」とは何なのかを辞書から知るには,「比」を見ます.Weblio辞書には「a,bを同種の量とするとき,aがbの何倍かあるいは何分のいくつかに当たるか,という関係をaのbに対する比といい,a:bと書く。a/bをこの比の値という。」とあります。
 比の値については,メインブログで記事にしていました。比の順序問題 - わさっきです。そこで書かれた「比と比の値について,2:3=2/3(中略)とすることの批判を,Web上で見かけました」というのは,http://8254.teacup.com/kakezannojunjo/bbs/t21/2104より読むことができます。
 円周率と,比の値への批判を組み合わせると,こうなります。円周との直径との比が一定になるのはいいとして,この比の値は,「円周÷直径」でなくても,「直径÷円周」でもいいのではないか,と。
 とはいえ円周率の定義として「直径÷円周」を認めている文章を,見たことはありません。πを扱った数学の論文や読み物のほか,プログラミングの数学定数にも影響を及ぼします。
 ところで,算数において「どちらで割ってもよいが,一般にはこうする」というのは,比よりも前に学びます。「単位量当たりの大きさ」で,5年の学習事項です。現行では「混み具合」そして「人口密度」があり,学習指導要領の移行措置により2019年度からは,5年生も「速さ」を学習します。
 「混み具合」を(比較できるよう)一つの数とするには,「単位面積あたりの人数(人数÷面積)」のほか,「1人あたりの面積(面積÷人数)」でも求められます。単位面積あたりの人数が大きいというのは,1人あたりの面積が小さいことに相当し,「より混んでいる」となるわけです。その上で,人口密度については「単位面積あたりの人数」が採用されます。
 「速さ」も同様です。「単位時間あたりに移動する距離(距離÷時間)」のほか,「単位距離の移動に要する時間(時間÷距離)」も考えることができ,実際にわり算は行わなくとも,100メートル走などにおいて「タイムが短い」のが「速い」のは,「単位距離の移動に要する時間」だからです。単位時間あたりに移動する距離が大きいことと,単位距離の移動に要する時間が小さいことと,「より速い」がいずれも等価であるのを確認したのち,実用的な速さの式としては「距離÷時間」が用いられます。
 単位量当たりの大きさは「異種の二つの量の割合」です。それに対し円周率や,同じ大きさのコップで3杯と5杯の2種類の液体を混ぜ合わせて液体を作るといったシチュエーションは,同種の二つの量の割合(この語は学習指導要領に出てきませんが)です。どちらで割っても,その場限りで意味のある数値は得られますが,円周率は「どちらでもいい」というわけにいかず,「円周の直径に対する比の値」や「直径が円周の何倍になるかというわりあい」*1が採用されてきたというわけです。
 これからの算数での,「比の値」の扱いを知るには,次期の学習指導要領です。「解説」のつかない,小学校学習指導要領を読むには,次の2つの方法があります。本記事執筆時点で,PDFファイルのURLは「2018/05/07」を含んでおり,ゴールデンウィーク明けに大幅な刷新がなされました。

 いずれにも,第6学年の〔用語・記号〕に「比の値」が入っています。線対称・点対称などとともに,小学校で学習するというわけです。
 「比の値」とは何であるかは,『小学校学習指導要領解説算数編』によると以下のとおりです。a/bをa:bの比の値とすると,アプリオリに与えるのではなく,倍や割合などがその素地になっている点にも,注意をしたいところです。

 二つの数量の大きさを比較しその割合を表す場合に,どちらか一方を基準量とすることなく,簡単な整数などの組を用いて表す方法が比である。第5学年までに,倍や割合に関する指導,分数の指導,比例関係に関する指導などの中で,比の素地を指導してきている。第6学年では,これらの上に,a:bという比の表し方を指導する。比の相等(等しい比)及びそれらの意味を明らかにし,比について理解できるようにする。これに関連し,\frac{a}{b}をa:bの比の値ということや,比の値を用いると比の相等(等しい比)を確かめることができることを理解できるようにする。このようなことから,数量の関係を比で表したり,等しい比をつくったりすることができるようにする。

 比の値は,中学1年で比例式を扱うときにも使われます。『中学校学習指導要領解説数学編』には「2種類の液体A,Bを3:5の重さの比で混ぜる。B 150gに対して,Aを何g混ぜればよいか」を求める際に,Aをxグラム混ぜるとして,比例式3:5=x:150を立て,比の値を用いて\frac{3}{5}\frac{x}{150}とすれば一元一次方程式になり,xが求められるとしています。

*1:isbn:4095018054, p.83。

割合モデルは淘汰されたのか~数直線モデルとの比較を通して考える

 吉田甫氏は2003年に出版した論文および著書において,「割合モデル」を提案しています。以下の図です([吉田・河野2003] p.113)。

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 しかし現在,このモデルが算数で活用されているようには見えません。論文・著書を現在の視点でとらえ直すと,このモデルは,淘汰されたとみなして差し支えなさそうです。割合モデルの利用の困難さを整理するとともに,小学5年の算数で学習する「割合」についての留意点を見ていくことにします。
 なお本記事は,先月27日にhttps://twitter.com/takehikom/status/989603261228302336より開始した一連のツイートを整理したものです。ツイートの内容から見解を変えたところもあります。


 吉田氏の著作として,読んだのは次の2つです。

  • [吉田2003] 吉田甫: 学力低下をどう克服するか―子どもの目線から考える, 新曜社 (2003).
  • [吉田・河野2003] 吉田甫, 河野康男: インフォーマルな知識を基にした教授介入:割合の概念の場合, 科学教育研究, Vol.27, No.2, pp.111-119 (2003). https://ci.nii.ac.jp/naid/110002705910

 一方の文献を指すときに「[吉田2003]」「[吉田・河野2003]」と表記します。なお,[吉田・河野2003]についてはJ-STAGEより論文PDFが無料でダウンロードできます。
 割合モデルの前に,「割合」と「公式」の語句が,算数教育で想定されているものと一部異なっていること,より踏み込んで言うと,学校での授業を通じて学ぶことから少し離れていることを,述べておきます。
 [吉田2003]のp.125で「割合の公式は(略)[割合=比べる量÷基にする量]」とし批判をしています。これを公式として,授業で活用してきたであろうことの判断は留保するとして,「公式」について,現在(そして当時も)の算数で,何を目指しているかは,明確に異なります。
 参照するのは,全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)です。算数は6年生の児童が4月に解答し,その出題内容は第5学年までの学習事項からとなっています。割合や,小数の乗法・除法の問題は,毎年出題されていますが,解説資料や報告書を読む限り,「割合=比べる量÷基にする量」などを「公式」としているわけではないのです。
 報告書に「公式」の文字があるのは,平成29年度の算数B大問1(3)のところです。そこでは学習指導要領に記載の「公式についての考え方を理解し,公式を用いること」を踏まえ,出題場面を「きまり」として説明することを出題しています*1
 [吉田2003]が出た当時の指導に関して,1999年発行の『小学校学習指導要領解説算数編』*2を見ると,第4学年の「公式」では以下のとおり書かれています。同じ趣旨の記述は、現行・次期の解説にも入っています。

 この学年では,具体的な数量の関係を公式の形にまとめるなど,数量の関係を式に表したり,その式をよんだり用いたりすることができるようにする。ここでの公式とは,ふつう公式と呼ばれるものに限らず,具体的な問題で,立式するときに自然に使っているような一般的な関係を言葉でまとめて式で表したものも指している。(以下略)

 ここまでについて,一つの見方はこうです。[吉田2003]が出されるより前から,「公式を覚えて適用すること」からの脱却が図られてきたのです。
 なお,[吉田2003] [吉田・河野2003]とも,対象とする「割合」が,百分率を用いた関係であり,例題の大部分が「部分と全体の関係」であることにも,注意が必要です。『小学校学習指導要領解説算数編』で読むことのできる事例や,全国学力テストの出題例では,しばしば,割合は百分率や「~倍」に限ることなく,「0.4m」をはじめ具体的な量(無次元量でないもの)に含まれています。


 それでは,吉田氏が提案してきた「割合モデル」の検討に入ります。「割合モデル」を再掲します。[吉田2003]ではp.162に載っています。

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 この図を単体で見たときに,戸惑いを感じました。「比べる量」が「基にする量」に,すっぽり収まっているのです。論文・著書のいずれにも,100%を超えてもよいことを書いていますが,それよりも気になるのは,左端が揃っていない点です。1年で学ぶ「長さの直接比較」,具体的には「一方の端を揃えることにより,反対側の端で長さの大小で比べることができる」と,適合しないのです。
 揃えていないと,例えば比べる量が,基にする量の「100%」という状態を描くときに少々難儀します。「比べる量」の網掛け部分を右に伸ばすとして,どこまででしょうか。基にする量と同じ長さにするよう,少しはみ出すのでしょうか。他の人がそれを見て,「100%」だと,思ってくれるでしょうか。
 上で「部分と全体の関係」と書きました。例えば[吉田2003]のp.127にある,「基にする量」「比べる量」「割合」を識別するための3つの文章題は,いずれも該当します。しかし,[吉田・河野2003]の事後テスト(p.114)に見られる,「さとる君の身長は,まさし君の身長の130%です」のような,一人の体にもう一人を入れるというのができない対象には、適用しにくいようにも見えます。
 他のモデルで,百分率を用いた割合の場面にも,そうでない小数のかけ算・わり算の場面にも,適用可能なものとして,「数直線モデル」があります。平成29年度の全国学力テスト出題例,および二重数直線の文章題への適用について,関心のある方は以下をご覧ください。

 その数直線は,「二重数直線」「比例数直線」「複線図」と呼ばれることもありますが(例えば,http://www.kyoiku-shuppan.co.jp/textbook/shou/sansu/files/1934/25/H27_suchokusen.pdf),全国学力テストや『小学校学習指導要領解説算数編』では単に「数直線」です。数直線モデル(の小数の乗除算や割合への適用)は事例が豊富で,『数学教育学研究ハンドブック』では第3章§2(演算の意味・手続き)で取り上げるとともに,数直線に関する1990年代後半の文献がいくつか,参考文献に記載されています。

数学教育学研究ハンドブック

数学教育学研究ハンドブック

 日本限定というわけではなく,以下の文献で,ある海外文献の図を取り上げています。

 そこには,二重数直線と同等のものも見られます。日本のスタイルでは,線を2本引きますが,その代わりに,1本の線の上下に,具体的な量と割合を記すというほか,「帯図」という名称で,帯グラフに基づく図にしています。いずれにおいても,「基にする量」と「比べる量」とで,左端を揃えています。一例として,p.166の図8を取り出しておきます。「40」「100%」などのコンピュータ生成の字体と,「24」「60%」「75%」などの手書きが混在していますが,数量の関係をとらえるのも,関係を式で表すのも,難しくありません。

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 日本に話を戻して,1本の線の上下に,具体的な量と割合を記すのは,中学受験のための算数や,小学校教師経験者が紹介する中にも見られます。2件にリンクしておきます。

 さて,[吉田・河野2003]は査読付きの論文となっているので,学術的な意義はあると言っていいのですが,追試する人が見当たらないのが残念なところです。
 実践に携わるところからの引用は,なされています。Webの検索により,以下の文献が見つかりました。[吉田・河野2003]を引用し,本文には「割合モデル」の図を見ることもできます。

 しかしいずれも「これまでに,割合モデルというのが提案されている」というとらえ方であり,そのモデルを用いて自分でも授業や評価を行ったわけではありません。例えば[山口2006]では,割合モデルの適用の難しさを述べたのち,それを修正したものとして「割合メーター」を提案し,授業で使用しています。

 割合を視覚から捉えさせ,イメージの手助けとするため,割合を図示化したものを用いることとする。
 その一つとして,吉田・河野(2003)の提案する割合モデル(図1)について述べたが,この割合モデルは,量としての割合を感覚的に捉えることはできるが,文章題において,問題文中の数量関係を割合として捉えることはできない。
 そこで,割合モデルに,もとにする量,比べられる量,割合の数値と,もとにする量に対応する1を書き加えた割合メーター(図2)を単元全体を通して使用することとする。
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 割合メーターもまた,二重数直線と同等と言わざるを得ません。
 上の引用のうち「文章題において,問題文中の数量関係を割合として捉えることはできない。」については,『数学教育学研究ハンドブック』第3章§2の記述とも関連します。この本のp.77では,数直線の教育的な役割を5項目挙げていますが,そのうち「③計算の仕方を導くことができる」は、割合モデルでは達成しにくいのです。数直線モデルなら,2つの量の間に矢印を入れて「×1.3」「÷0.6」などを書くことで,何は何の何倍かなどを図上で表現できます。
 淘汰の結果,数直線モデルが『小学校学習指導要領解説算数編』や,教科書や,全国学力テストに採用されてきたと,断言してよいのかは,分かりませんが,[吉田2003]および[吉田・河野2003]のいずれにおいても,数直線モデルと比較した跡が見られず,逆に『数学教育学研究ハンドブック』の第3章§2に加えて§4(量と測定・割合)にて,吉田氏の著書・論文が引用されていないのは,今回調べてみて気になったところです。
 数直線モデルとの比較に関して,[吉田2003]のp.126に描かれた絵を見ておきます。

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 「比べる量」「基にする量」「割合」を吹き出しにして困っている子どもと,帯図が描かれています。この帯図も,二重数直線と見なしてほぼよいのですが,算数で使われてきた二重数直線と1点,違いがあります。「1」(百分率については「100%」)がどこになるかが,明示されていないのです。
 「1」の欠落は,[吉田2003]および[吉田・河野2003]より前に検討され実践されてきた数直線モデルについて,関心が払われていなかった状況証拠であると,見なすことができます。そして「比べる量」「基にする量」「割合」の3つで関係をとらえるのは,[Nesher 1992](http://books.google.co.jp/books?id=Vyl42R9JV1oC&pg=PA189)で述べられている"three-place relation"であると,解釈することもできます。そこに「1」を入れれば,"four-place relation"であり,二重数直線はこちらに属します。昨年,速さに関して取り上げました。

 査読付き論文になったモデルを批判するのが,楽しいわけではありません。提案されたモデルはどのような対象に適用できる(できない)だろうか,そのモデルは何に基づいているのか,その後どのように活用されているのか(いないのか)に関心があり,まずはツイートを行い,さらに得た情報をもとに,この記事にしてきました。


 割合と別に(ただし密接に関係するのですが),[吉田2003]のp.69で「一般には等分除より包含除のほうがかなり困難な課題である」と書かれているのを見て驚きました。この文に関しては,出典が見当たらず,この本以外で個人的に読んできた見解と逆でした。参照可能なものを,箇条書きにしておきます。

  • 高橋裕樹: 比の三用法を伴う小数の乗法及び除法における子どもの知識の構成過程について, 上越数学教育研究, No.18, pp.101-110 (2003). http://www.juen.ac.jp/math/journal/files/vol18/takahashi-y2003.pdf
    • 「Takahashi et al. (1993)は,整数の除法の理解についての調査を実施し,包含除よりも等分除の理解が困難であることを統計的に示した。整数の等分除の難しさは,分けるための単位がその場面に示されていないところにある(熊谷, 1998)。」
  • 佐藤俊太郎: 子どもにおける除法概念の発達について, 福島大学教育実践研究紀要, No.4, pp.101-110 (1983). http://hdl.handle.net/10270/1758
    • 「包含除の方が等分除よりも易しい」
  • Anghileri, J. and Johnson, D. C.: "Arithmetic Operations on Whole Numbers: Multiplication and Division", Teaching Mathematics in Grades K-8, Longman Higher Education, Allyn and Bacon, pp.146-189 (1988). asin:0205110762
    • 「Zweng (1964) found that children can understand the "measurement" (repeated subtraction) concept of division more readily than the "partition" (sharing) concept.」
  • Zweng, M. J.: "Division problems and the concept of rate: A study of the performance of second-grade children on four kinds of division problems", The Arithmetic Teacher, Vol.11, No.8, pp.547-556 (1964).
    • 「measurement problems were found to be easier for children than partitive problems」

 吉田氏の等分除・包含除の解説,ひいては[吉田2003]そのものを,否定したいというわけではないのですが,1冊の記載内容を鵜呑みにするわけにはいかないなというのを、「一般には等分除より包含除のほうがかなり困難な課題である」の文から感じたのでした。

*1:正答例は「カードの差に9をかけると,2けたのひき算の答えになります」であり,式ではありません。これは「このきまりを,言葉と数を使って書きましょう」という出題だからで,式にするなら「カードの差×9=2けたのひき算の答え」と表せます。「2」から始まる言葉の式は都合が悪いので,避けたのでしょうか。

*2:isbn:4491015503

9年ぶりに改訂された本での,かけ算の順序問題

入門算数学 第3版

入門算数学 第3版

 奥付を見ると,「2003年7月10日 第1版第1刷発行」「2009年2月25日 第2版第1刷発行」「2018年3月30日 第1版第1刷発行」となっていました。
 算数の実情と今後を把握するには,p.209からはじまる§7.2(現在の算数教育)以降がおすすめです。2017年の学習指導要領より,小学校算数科・中学校数学科で学ぶべきことが抜粋されている*1ほか,§7.4(数学的リテラシー)では,PISA全国学力・学習状況調査のB問題を何問か取り上げながら,望まれる数学的リテラシーについて記してあります。
 とはいえ本書のそれまでのところ,特に第2章(四則演算について)と第3章(量について)は,数学教育協議会のスタイルを採用しています。かけ算は§2.4で,p.40から始まりますが,2×0や3×0.7を持ち出して累加を批判し,「かけ算はたし算と異なった新しい演算(積)であることを認識しておくことが必要である.」の文で最初の段落を終えています。
 加法および乗法の交換法則・結合法則・分配法則について記載した§2.6(四則演算の性質)で,「順序」の文字と,かけ算の順序問題を見かけました(pp.53-54)。

(略)つまり,結合法則によって,どんな順序で計算しても同じ答えになることが保証されているのである.
 また,かけ算で3×5の答えを忘れても,5×3の答えを知っていれば,交換法則を用いて求めることができる.
 しかし,ここで注意しなければならないのは,これらの法則はあくまでも数という抽象的なことに対して成り立つということである.数の計算としては
  3×5=5×3
が成り立ったとしても,
  3(個/人)×5(人)  と  5(個/人)×3(人)
では意味が違ってくるのである.
 あめを1人に3個ずつ5人に配ったときのあめの個数を「5×3」とテストで書いたら不正解になった.かけ算は乗数と被乗数を入れ替えても成立するので,これも正解ではないか,ということがテレビで話題になった.
 大人からすれば,確かに3×5と5×3の答えが15で同じことはわかっている.しかし,子どもは単なる計算の技術を学んでいるわけではなく,文章から意味を理解して,計算に持ち込むという算数的なプロセスを学習しているところである.この場合は,問題文からどれが「1あたり量」になるかが大切なことである.このことは単位を書かずに計算式だけを書くということから起きてくることである.計算式を書く前に,単位をつけた言葉の式を書くように指導すれば,3×5と5×3を子どもたちがどのように理解して書いたのかがわかり,先ほどの疑問は起きてこないのではないか.

 「あめ」の件には,違和感があります。「あめを1人に3個ずつ5人に配ったときのあめの個数は?」(2~3年生向けに言葉や漢字を変更することとして)を問えば,学校でかけ算をきちんと学んで理解している子どもたちも,とりあえず教わったという子どもたちも,「3×5」という式を立てることが予想できます。
 2種類の理解度を区別するには,例えば「あめを5人に3個ずつ配ったときのあめの個数は?」と問うべきです。きちんと学んで理解している子どもたちは(そして上記引用から読み取れる著者の期待としては)「3×5」,とりあえず教わったという子どもたちは「5×3」と立てることになるだろう,というわけです。
 この本の外で,関連する情報をいくつか挙げておきます。「5人に3個ずつ」の出題事例については,かけ算の順序を問う問題 - わさっきで整理を試みています。2017年にPDFで公開された『小学校学習指導要領解説算数編』にも,「4皿に3個ずつみかんが乗っている」の形で記載があります。
 「1人に3個ずつ5人に」の形と「5人に3個ずつ」の形の文章題の両方に答えさせ,分析を試みている研究は,https://ci.nii.ac.jp/naid/40016569351より公表されています(本文の電子版はありませんが)。2008年のことです。
 「かけ算の順序」を批判する立場の人々が,文章題を例示したのはいいけれど後に訂正することになった,というのを2例,把握しています。メインブログと当ブログで1つずつ,記事にしています。

 「かけ算の順序」やそれに類する語を使用することなく,小学校の教育の状況や,望ましい理解のあり方を語る中で,文章題の例示が適切でないのを見たのは,今回が初めてでした。「テレビで話題になった」の裏取り*2を著者・編集者がしていればと思うと残念な気持ちです。

*1:是認するだけでなく,p.214では「ただし,小学校算数の区分で量というのが見えなくなってしまったのは,算数科のなかで数学化する以前の重要な段階であり懸念される.」として批判も入れています。

*2:とはいっても,放映された番組や放送局,日付を本に記載せよ,と要求するわけにもいきません。書かれても検証が困難ですので。

自然数の意味と活用について

 この中で「(3)「自然数の意味」-悪問中の悪問-」と題して,全国学力・学習状況調査の2016年度 数学Aで,以下の問題が出されたことを批判しています。

(2) 下のアからオまでの数の中から自然数をすべて選びなさい。
  ア -5
  イ 0
  ウ 1
  エ 2.5
  オ 4

 趣旨や,解答類型と反応率の画像が貼り付けられており,「ウ,オ」の正答が41.4%,そして0を含めており誤答扱いの「イ,ウ,オ」が32.0%となっています。
 ここまでについて,0を自然数に入れる定義や活用の仕方も,中学高校を離れた数学ではそれなりにあるので,中学校の教科書ではいずれも0を自然数に含めておらず,そのことを学び理解が定着しているかを,全国学力テストにて出題し,0を自然数に含めて考える生徒がそれなりにいたんだなと,認識していました。
 当該ブログの記述で戸惑いを覚えたのは,主に2つあります。一つは「しかし,学問としての数学では」から始まる段落です。以下「学問としての数学」の言葉を何度か使用します。
 もう一つは,そのまま引用します。

何より気になるのは,問題の趣旨が「自然数の意味を理解しているかどうかをみる」だということです。
自然数の意味を理解する」・・・・真面目に考えると,「自然数の意味を理解する」とはどういう状態を指すのでしょうか・・・・

 このうち「~の意味」は,算数・数学の授業や学力調査でしばしば見かけるもので,「~とは何か*1」「~を,類似する別の概念や用語と区別でき(てい)るか」を表します。
 それで,出題意図を確認しておこうと思い,解説資料を読み直しました。国立教育政策研究所のサイトで,以下の順に進めばアクセスできます。

 数学A大問1(2)を読むと,ブログの批判で欠落している,主要な記述が浮かび上がってきました。
 具体的には,趣旨・解答類型と反応率・分析結果と課題のあとの「学習指導に当たって」です。「数の集合を捉え直し,自然数や整数の意味を理解できるようにする」が太字になっています。
 となると,「自然数とは何か? 整数とは何か? それらはどのように違うのか? 教科書や授業では,どのように取り扱われているのか?」という疑問を持つことができます。
 自然数と整数との違いは,数行あとに記されています。段落全体を抜き出すと,「本設問を使って授業を行う際には,新しく捉え直した数の集合の定義に基づいて,様々な数の中から自然数や整数を判断する活動を取り入れることが考えられる。その際,0は整数に含まれるが,自然数には含まれないことを確認することが必要である。」のところです。
 なお,「新しく捉え直した数の集合」について,文脈から「自然数」と「整数」が挙げられますが,そもそも小学校の算数における「整数」は0,1,2,…,と書くことができ,「学問としての数学」の「自然数」と同じ集合になります。中学数学で負の数の概念を学ぶ際に,整数は…,-2,-1,0,1,2,…に置き換わり,「正の数」「負の数」「0」のいずれかに分類されます。これが「捉え直し」です。正の整数を自然数と呼ぶのか,学問としての数学の自然数を扱う(0を自然数に含めて考える)かは,捉え直しの枠外となります。
 そうすると,小学校の算数における「整数」と,「学問としての数学」の「自然数」とが,集合として一致することになります。たまたまと見ることもできますが,一致していることを踏まえた自然数の活用例も考えられます。
 具体的には「整列集合」です。wikipedia:整列集合では,定義などのあと,自然数の全体Nについて,0を含むものとして取り扱っています。整列集合の性質として,「任意の狭義単調減少列は必ず有限な長さで停止する」というのがあります。
 小学生向けには,「おはじき取りのゲーム」で表現できます。多数のおはじきを用意し,2人で順番を決めて取っていき,最後に取ったほうが負けとなります。1回で取れる数には上限と下限があり,しばしばnを定数として「1個以上n個まで」と表せます。0を入れると,パスとなり,2人ともパスをするとゲームが進まないので不可とされます*2。1個以上取る,言い換えると進行につれて場に置かれた残数は減っていきまして,最終的にはどちらがが最後の1個を取ってゲームセットです。n=2(1回に取れるのは1個か2個)とし,7個から始めると,7→6→4→2→1→0と減るような状況が想定でき,不等号を用いて7>6>4>2>1>0と表すこともできます。
 場にあるおはじきの数(のとり得る値の集合)もまた,整列集合であり,「任意の狭義単調減少列は必ず有限な長さで停止する」ことが保証されています。
 現行および次期の『中学校学習指導要領解説数学編』も読んでおきます。自然数は0を含まないものとするといった断定は見当たらなかったものの,「小学校算数科では整数を0と自然数の集合として用いてきたが,中学校数学科では同じ用語を正の数と負の数を含む数学の概念として用いることになる」から,含まないことが読み取れます。自然数の活用という観点では,「2x+y=7の解については,変数x,yの変域が自然数全体の集合であれば,その解は有限個であり,(1,5),(2,3),(3,1)である」も共通して出現しますが,0を含めるなら解に(0,7)を加えるだけです。「十の位が同じで一の位の数の和が10である2桁の自然数の積を暗算で計算する方法」などの速算法(簡便算)は,現行のみですが,難しかった,あるいはデータの活用に「食われて」しまったのでしょうか。

*1:英語で表すと“what X means”です。“What does X means?”と,疑問文にもできます。2016年度と2018年度とで,「証明の必要性と意味」に関する出題があり,2018年度のほうでは「それが証明になっているのか」を問うています。

*2:取る個数を「n以下の自然数」と表記するのは,「不自然」だと思います。