かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

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  1. このブログの作者,執筆方針,「かけ算の順序」への見解など
  2. 新しい『小学校学習指導要領解説算数編』関連
  3. 「0は偶数だが2の倍数ではない」関連
  4. 「×」の事例
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6キラキラを作るときには,6×1は考えない

 実践報告です。やや短めで,キラキラと光るテープを,黒板に貼り付け,横に「1キラキラル」を書き添えています。次に「あ」「い」「う」と書き,異なる長さの3つのテープを貼り付け,「6キラキラルはどれでしょう」と子どもたちに問います。「あ」と「う」は,1キラキラルの6倍よりも明らかに短く,「い」は,6倍を超えています。そうして,「6キラキラル」を作ろうという活動に移ります。
 子どもたちの解決によると,「1キラキラルの6倍(1×6)」が最も多かったけれど,「2キラキラルの3倍(2×3)」や「3キラキラルの2倍(3×2)」というアイデアも出てきます。それぞれの方法で,6キラキラルの長さのテープを作り,「2×3も3×2も1×6も全部6」「基にする量が違うだけ」とまとめています。
 小学校学習指導要領の「一つの数をほかの数の積としてみる」と関連する授業内容でした。
 ところで,「数」そして「(2年で学ぶ)かけ算」として見直したとき,6になるかけ算の式が,あと一つあります。6×1です。
 ですがこの授業では出てきません。6キラキラルという「量」を作る活動において,「6キラキラルの1つ分」とするわけには,いかないからです。
 メインブログで,アレイを対象として,「全部の数×1」の式を立てていたことがありました。アレイ図 - わさっきに,「一つ分の大きさを12個とし,それが1つある状態,式だと12×1=12」と書いていました。そこでは,できるだけたくさん,かけ算や累加の式を作っていたのですが,今回見てきた授業事例のように,「全部の数×1」を抑制することが可能となるのは,一つの収穫でした。


 長さの単位(任意単位)について,原文では「キラキラ」です。思うことあって本記事では,タイトルを除き「キラキラル」と書いています。そのうち修正します。

UDデジタル教科書体で,「倍」と「積」のかけ算

 これについて,24=2×10+4の記事でも,「もとの数・10倍した数」と「1万がいくつ・数は」の表の中で,このフォントを使用していたのですが,もう少し長い文章で,試してみました。
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 オリジナルはかけ算の順序論争について(日本語版) - わさっき,3.3 「倍」と「積」のかけ算です。この文章を選んだのは,書き直したいと長年,思っていたのに加えて,「4」の字形があります。算数の教科書で見かける「4」の字は,1画目の左下へ進む線と,2画目のまっすぐ降りる線が,上部でくっついていません。そしてUDデジタル教科書体は,このことがしっかり反映されているのです。
 上で貼り付けた2つの画像について,前者はWordで,後者はTeXでそれぞれ作成し,PDFにしてから,スクリーンショットを撮り,文章の部分のみを抜き出して緑色の枠で囲みました。使用したフォントは,「UDデジタル教科書体 NP-R」です。文書ファイルなどの公開は,都合により差し控えます。
 作成にあたり,少し困ったのは,10円玉の3行4列の並びのところです。このフォントに,丸囲みの10が入っているので,Wordではそのまま入れましたが,縦横均等に並べるのに手間を要しました。TeXではpicture環境を使うことで,縦横の配置は支障ありませんが,丸囲みの10の文字は,「○」のみの表示となってしまいました。丸囲み数字は取り除いて,かわりに\textcircledで丸を描き,その中に\scriptsizeで10と書きました.

24=2×10+4

 「二十」は2×10か,それとも10×2かを,小学校の算数での学習と照合しながら検討していくと,そこにVergnaudの「スカラー関係」と「関数関係」が含まれていることに気づきました。

 2人の数学者による全18回のコラムの,第17回です。4歳のお子さんが,23の次が「24」か「42」か迷っている状況に対し,執筆者・谷口隆氏が,「説明することの難しさに気づいた」というのです。
 そして以下のとおり,大人モードで,検討しています。

 24にせよ42にせよ,2と4のある意味での“合併”であることは間違いない.子供もそれは感覚として掴んでいる.しかし,“合わせる”ならどっちが先でも同じではないだろうか.たし算の2+4と4+2は同じ答えになる.
 我々大人は,この“合併”が2と4の単なる和ではないことを知っている.24と書いた場合,ここの2は20を表していて,24とは20+4のことである.位取りの記法と呼ばれるものだ.24と42の違いは,次のように書けばはっきりするだろう.
24=2×10+4=10+10+1+1+1+1
42=4×10+2=10+10+10+10+1+1

 最後の2つの式と,タイトルの「算数」とのマッチングに,違和感を覚えました。「2×10+4=10+10+1+1+1+1」とありますが,乗法を累加で解釈するとなると,2×10=10+10ではなく,2×10=2+2+2+2+2+2+2+2+2+2としたいところです。それと別に,「24=2×10+4」や「42=4×10+2」のような式で表すことを,算数で教えているのか,子どもたちは(執筆者のお子さんも小学校に入ったら)学習していくのかが,気になってきました。
 現行および次期の『小学校学習指導要領解説算数編』,そして手元にある算数の教科書に目を通した限り,この種の式の表示は見つかりません。2×10+4や4×10+2といった計算であれば,2~3年の児童にさせてもいいのですが,百の位まで入れて,3×100+2×10+4の計算となると,4年で,いわゆる乗除先行を学んでからとなります。
 さらに,気になるのは,「ニジュー」をかけ算で表すとなると,2×10なのか,10×2なのか,それともどちらでもいいのか,です。
 かけ算を学習する1年では,「十を単位とした数の見方」に基づき,「40は,10の4個分」と理解します。2年では,6000を「10が600個集まった数」や「100が60個集まった数」などとします。「一つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」に基づいて,かけ算の式にするなら,順に,40=10×4,6000=10×600=100×60と表せます(ただし,そのような式は見かけません)。なお,2×10や10×2といった計算は,2年のかけ算の範囲内です。
 3年では,万を超える数を学習します。啓林館・教育出版のいずれの教科書も,「10000を2こあつめた数を二万といいます。」がその導入となっています。そして,何千何百何十何万…の漢数字表記もあり,数を認識し,きちんと読み書きしたり,大小の判定をしたりするという流れです。そこでも,かけ算は出てきません。
 なのですが,万を超える数と同じ章の中で「10倍の数」も学習します。「20円の10倍は何円でしょうか。」から始まり,10円を2行10列に並べた図が続きます。1行分は,10円が10枚で100円となり,2行あるから,200円です。10円の並びは「アレイ」であり,縦方向に見れば,20円が10列,横方向に見れば,100円が2行となることを,活用しています。
 かけられる数が,ずいぶんと小さくなっています。
 これについては,「ある数を10倍すると位が1上がり,もとの数の右はしに0を1つつけた数になります。」といった形でまとめられ,これを万を超える数にも適用して,十進位取り記数法についての理解を深めていくことになります。
 教育出版の教科書*1では,p.104に,以下の4コママンガがありました。
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 起承転結の「承」のあたるコマでは,「10のまとまりができると,位が1つ上がるね。」と言っています。ここで「10のまとまり」は,「いくつ分」のほうに対応します。その右のコマで「同じしくみだよ」として例示されたことばの式を,かけ算で表すと,次のようになります。

  • 100が10こで千 ⇒ 100×10=1000
  • 1000が10こで一万 ⇒ 1000×10=10000
  • 1万が10こで十万 ⇒ 10000×10=100000
  • 10万が10こで百万 ⇒ 100000×10=1000000
  • 100万が10こで千万 ⇒ 1000000×10=10000000

 これらの式も,「ある数を10倍すると位が1上がり,もとの数の右はしに0を1つつけた数になります。」のルールがあてはまります。表にするとこうです。
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 4コママンガに出現する数だけでなく,20を10倍したら200というのも,この表に入れることができます。「10倍」そして「×10」は,同じ列の上下の数の関係となります。
 それに対し,「10000を2こあつめた数を二万といいます。」をはじめとする「何万」は,「1個で10000」あるいは「万を単位とした見方」に基づきます。表は,こうです。
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 10000が「一つ分の数」であり,かけ算の関係は,「10000のいくつ分」として,見出すこととなります。
 上の表の見方は,Vergnaud (1983)が示したうちの「関数関係」に,下の表は「スカラー関係」に,それぞれ関連づけることができます。
 さて,24を,十円玉が2枚と1円玉が4枚に対応づけるのであれば,式は,24=10×2+1×4,または24=10×2+4としたいところです。
 24=2×10+4とするのであれば,「2を10倍して20,そこに4を足して,24」となります。冒頭のブログに書かれた「2×10+4=10+10+1+1+1+1」の等式は,累加と別の根拠で導かれたもの,と言うこともできます。
 桁数を増やした場合のことも,確認しておきます。
 324を,百円玉が3枚と10円玉が2枚と1円玉が4枚に対応付けると,式は100×3+10×2+1×4または100×3+10×2+4です。
 「10倍」を使う場合,324={(3×10)+2}×10+4により実現できます。「3を10倍して,2を足して,また10倍して,4を足す」という手続きです。
 30024のような数なら,30024={(3×10×10×10)+2}×10+4とします。10倍と加法の組み合わせで,整数を式で表せることが分かります。

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「20分/500円」から,駐車料金と最大駐車時間を計算してみる

 第2特集(pp.57-78)に「なぜ、コンピュータは割り算が下手なのか!?」というのが組まれていました。第1章(割り算はなぜ難しい?),第2章(コンピュータ内部での取り扱い),第3章(CPUレベルで考える実装上の話題)で構成され,執筆者はいずれも,中央大学の飯尾淳氏です。
 あら探しからいきます。というのも,第1章をざっと読んで、「小数」のことを「少数」と書いてしまいがちだよなと思いながら,読み返すと,p.61の左カラムに「少数」があったのでした。そこを含む段落に書かれた「9割る4は、2、余り1」は,「小数や分数をまだ習っていない小学生」ならそう答えることになるでしょうが,次の段落の「小学校の算数では,「9は4で割り切れない」と考えます」は言いすぎで,小数にすること(割り進み)や分数表記は高学年で学習し,6年生が解く全国学力テストの算数Aでも出題されています。
 「小学校の復習:割り算の意味」(pp.62-63)については,「小学校では、割り算は2つの意味があると教えるので、それで混乱する児童が出てきてしまうのだとか。」(p.62)から,除法の指導に関してネガティブな認識を持っているなと判断しました。
 「教えるから混乱」というのは奇妙なロジックで,片一方だけ教えるのでは,もう一方のタイプの割り算が学べないことになります。実のところ,割り算でつまずきやすいのは,割合や小数の割り算が絡んだ5年のところで,そこでは「大きい数を小さい数で割る」といったやり方が通用しなくなるのが一因です。
 今回読んだ記事では,昨今の「かけ算の順序」を念頭に置きつつ(p.63の「いずれの計算も,5×3=15という計算を逆から見ているだけにすぎません」から始まる段落が特徴的です),算数教育の用語を意図的に使われなかったと読めますが,使えば,(小学3年で学習する範囲において)「包含除は累減」「等分除は累減に帰着できる」と表せます。累減以外の方法でも等分できます(例えば,大まかに分けてから,同じ数になるよう調整すればいいのです)。また等分除に対する累減においては,キャンディ配りの1回分が,それぞれの子供の1個分になるという,変換の操作も,必要となります。
 第2章については,負の数を含む整数における余りのある割り算について言及があればと感じました。第3章のCのソースと実行時間を見て,最適化をかけるとどうなるんだろうと読んでいくと,最終ページにあり,あっけない結末でした。
 それでやっと本題なのですが,p.63に「「20分/500円」という表記は正しいか?」と題する文章が始まります。同ページの右下には,写真もついています。「平成26年9月17日付けで「時間貸駐車場における表示・運用に関するガイドライン」という文書を出していました」とあるので,検索すると,http://www.gia-jpb.jp/guideline.pdfより読むことができました。
 「○円/○分」ではなく「○分/○円」と表記していることについては,今年,https://twitter.com/LimgTW/status/901674024530436096https://twitter.com/takehikom/status/901688635677802496というやりとりがあり,当ブログでは駐輪場の時間当たり料金という記事を書いていました。
 「x分/y円」でも「y分/x円」でも,どちらでも計算できそうです。今回の表題に合わせてx=20,y=500とし,駐車時間は20分を少しでも超えれば,さらに500円が加算されると仮定して,以下の3つの事例を検討してみます。

  • 60分駐車すれば,料金はいくらか?(1500円)
  • 90分駐車すれば,料金はいくらか?(2500円)
  • 1500円あれば,何分駐車できるか?(60分)

 カッコ書きの答えは,かけ算やわり算をせず,「20分経過で500円」のルールにより求められます。90分駐車なら,「20分と20分と20分と20分と10分」と考えればいいのです。
 それでは,「20分/500円」をもとに,計算を試みます。はじめに,「20÷500[分/円]」すなわち「\frac{1}{25}[分/円]」と変換しておきます。1円あたり,\frac{1}{25}分間,駐車できるという考え方です。1円あたりの単価,と言いたいところですが,普通の意味の単価ではないので,「'」をつけ,「単価'」と表すことにします。
 「単価'[分/円]×料金[円]=駐車時間[分]」という式を用います(この式の導出については後述します)。この両辺を「単価'[分/円]」で割って,「料金[円]=駐車時間[分]÷単価'[分/円]」という式を得ます。ここに,駐車時間は60[分],単価'は\frac{1}{25}[分/円]を代入して,分数の割り算を行うと,料金は1500[円]と出ます。
 駐車時間に90[分],単価'に\frac{1}{25}[分/円]を代入して,同じように計算すると,料金は2250[円]です。これは単価'を「\frac{1}{25}[分/円]」としているからで,500円単位で切り上げるという処理を入れることで,請求額は2500円となります。
 「1500円あれば…」では,「単価'[分/円]×料金[円]=駐車時間[分]」の式に,単価'は\frac{1}{25}[分/円],料金は1500[円]を代入し,かけ算で,60[分]を得ます。今回のセッティングでは60分を1秒でも超えると,500円加算されるので,「1500円があれば,60分駐車できる」でよさそうです。
 飯尾氏が正しい書き方とする,「500円/20分」についても,「500÷20[円/分]」すなわち「25[円/分]」を単価(1分あたり25円。こちらは「'」なしです)としておきます。基礎となるかけ算の式は,「単価[円/分]×駐車時間[分]=料金[円]」で,これは「駐車時間[分]=料金[円]÷単価[円/分]」と変形できます。
 60分駐車したときの料金は,かけ算の式に代入すると,25[円/分]×60[分]=1500[円]です。90分も同様で,25[円/分]×90[分]=2250[円]ですが,やはり500円単位の切り上げ処理により,請求額は2500円です。
 1500円から始まる件で,活用するのは,割り算の式です。駐車時間[分]=1500[円]÷25[円/分]=60[分]となります。これが最大なのは,1円あたりのときと同じです。
 以上より,「\frac{1}{25}[分/円]」という,1円あたりに基づく単価'でも,「25[円/分]」という,1分あたりに基づく単価でも,駐車時間に応じた料金や,支払額に対する最大駐車時間は,かけ算・わり算で計算できることを確認しました。
 最後に,「単価'」の件を含む式の導出を行っておきます。まず,「'」を使わないほうのかけ算の式,「単価[円/分]×駐車時間[分]=料金[円]」については,問題ないでしょう。そのものの形で,算数の教科書や学習指導案で目にしたことは,ありませんが,これは「もとにする量×割合=くらべる量」の典型パターンです。
 次に,「駐車時間[分]=料金[円]÷単価[円/分]」を変形によって得たと書きましたが,小学校の算数では,両辺を同じもので割るといった操作はしません。「もとにする量×割合=くらべる量」から,「割合=くらべる量÷もとにする量」を認めるというのは,割合の三用法を根拠とします。なお,「三用法」なのに,計算したのは「料金」と「駐車時間」の2つだけだったのは,残り1つの「単価」があらかじめ決まっていたからです。
 「単価'[分/円]×料金[円]=駐車時間[分]」を導出する前に,「\frac{1}{25}[分/円]」と「25[円/分]」の関係を見ておきます。2つをかけると,ちょうど1となり,単位もなくなります。「\frac{1}{25}[分/円]」と「25[円/分]」は,逆数の関係なのです(「逆内包量」と名付けた書籍もあります)。形式的には,「単価'[分/円]×単価[円/分]=1」であり,「単価[円/分]=1÷単価'[分/円]」と表すこともできます。
 この関係式を,先ほどの「駐車時間[分]=料金[円]÷単価[円/分]」に代入して,文字式の性質をもとに整理すれば,「単価'[分/円]×料金[円]=駐車時間[分]」が得られるという次第です。


 本日の記事作成にあたり,メインブログの以下の記事を通じて考えたことを取り入れました。

5間×3間=5坪×3=15坪

 1903年明治36年)というのは,なかなかピンときませんが,ルベーグ積分の博士論文が出版されたのが前年の1902年,そして高木貞治による『新式算術講義』*1は翌年の1904年となっています。
 「乗法或は掛け算」はp.17(コマ番号13)より始まります。最初のページに「被乗数」「乗数」そして「因数」が出現するので,早い段階から被乗数と乗数の区別をしないのかなと思いながら読み進めると,その判断は間違いでした。例えば小数の乗法は,「小数に整数を乗する場合」「整数に小数を乗する場合」「乗数,被乗数ともに小数なる場合」に分けられ,いずれの解説文でも,区別がなされていました。
 面積における単位の扱いが,p.25(コマ番号17)に書かれていました。打ち出します。

 53. 乗数は被乗数を採りて加ふべき度数を示すものなれば,必ず不名数ならざるべからず.例へば矩形の面積等を求むるときに,5間に3間を乗ずるなどいふは,全く意味なきことなり.被乗数若し名数なるときは,其積は必ず被乗数と同名なり.故に前の例に於て,5間に3を乗ずとあれば,其積の15間は長を表す数となるべし.依て此の場合に於ては次の如さ*2く解釈するを適当とす.5間に1間の矩形ならば,一間平方のもの即一坪が五つあり.故に其面積五坪となる.然るに問題は5間に3間なるを以て,其面積は五坪の三倍即ち十五坪なり

 縦の長さが5間,横の長さが3間の長方形の面積については,5間×3間と式を立てた上で,乗数は不名数という理屈で5間×3=15間と計算してしまうと,これは長さになってしまって不適切である(「全く意味なきことなり」),と述べています。
 そうではなく,「一間平方のもの即ち一坪」,言い換えると1間×1間=1坪であることに注意し,5間×1間なら5坪,そして1間ではなく3間なのだから,5坪×3=15坪を得る,というわけです。
 間と坪をそれぞれ,mと㎡に置き換えると,かけ算による長方形の面積計算は,いまの算数で学ぶのと同じように考えることができます。
 「積」と「倍」の違いとともに,「倍」に基づいて「(量の)積」の計算方法を示しているという点で,興味深い内容でした。
 その後の問題集にも,目を通してみると,「音の速力は一秒時に3.031町なり.今電光を見てより15秒を経て雷鳴を聞くときは,其人と雷までの距離は幾町なるか」という速さのかけ算に,「兵士一人一日の食料を五合五勺とし,一隊の人員を百二十名として,八隊の兵士が三十日に要する食糧を計算せよ」という複比例の問題,そして「円形の周囲は,其直径の3.1416倍なり.今直径1.25尺の円柱を三週すべき縄の長さは如何」として,かけ算の順序に注意すべき場面が,pp.26-27(コマ番号18)に収録されていました。

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「算数教育の専門家」と自称する人々が狂信的な教条を振り回しているらしい

数学の二つの心

数学の二つの心

 算数の本2冊,靴の中敷きと合わせて,Amazonで発注し,今日届きました。
 まずは前書きと,奥付に記されたhttp://www.tecum.world/のコンテンツを読みました。小中高の算数・数学教育に対して挑戦的だけれども直接指導する機会を持ってなさそうだなあ,「かけ算の順序」にもカジュアルに言及してそうだなあと思いながら,本文をそこそこに,「コラム」と「脚注」を重点的に見ていきました。予想どおり,p.158の脚注に,書かれていました。

 1) 対照的に小学校では,奇妙に専門的な術語が使われる.掛け算の「乗数」と「被乗数」,割り算の「除数」と「被除数」はその代表格であろうか.後者は概念的な区別が付けやすいのでまだいいが,乗法a×bにおいて,a,bのうち,どちらをどちらというのか.このような数学としては気を配るに値しない問題について,「算数教育の専門家」と自称する人々が狂信的な教条を振り回しているらしい.これなどはまだ軽症の方で,割り算に関する「等分除」,「包含除」の区別に至っては,算数の応用場面での区別の意味は想像できないわけではないが,業界外の普通の人には理解できない世界である.漢字だけではない.デシリットルとヘクタールという単語の接頭辞(deci-,hect-)の意味を介して,これらの概念を理解している教員,生徒ははたしてどれだけいるのだろうか.多くの子どもたちがここで苦しむと聞くが,指数表現を学んだ後に学習すれば苦労する意味がないほど単純な話ではないだろうか?

 打ち出して,読み直してみると,前書きで抱いた不信感がさらに強まりました。「奇妙に専門的な術語が使われる」「狂信的な教条を振り回しているらしい」「業界外の普通の人には理解できない世界である」は,小中高の算数・数学の解説書で見かけない,いわば外からの根拠薄弱な文言だなと感じました(だからこそ脚注なのでしょうが)。「はたしてどれだけいるのだろうか」には統計情報が欲しいし,最後の文についても,著者自身で実証する気がないのですねでおしまいです。
 デシリットルについて,掘り下げておきます。もし「なぜ小学校でデシリットルを学ぶのか」と問われたら,「実感や操作のできる『かさ』として都合がよいから」と理解しています。1Lはまだしも,5Lや9Lになると,扱いが容易ではないし,かといって5mLや9mLとなると,あまりにも少量です。「数デシリットル」や「十数デシリットル」は,リットルやミリリットルに比べて,測りとりやすいのです。
 1dLが10杯で1L,逆に1Lの10分の1は1dLといった,10に基づく量の関係は,小数の計算にも活用できます。例えば4年で,0.3×3を「0.3Lの水が3杯のときの総量」に対応づけ,デシリットルで考えると,整数のかけ算に帰着でき,9dL=0.9Lとなるわけです。
 小学校ではリットル・デシリットル・ミリリットルは学習するけれど,その間の「センチリットル」は学習対象外だっかどうだか,と思いながら,現行(2008年)および今年(2017年)の『小学校学習指導要領解説算数編』のPDFファイルにアクセスすると,どちらにも「飲料などの量の単位としてミリグラム(mg)やセンチリットル(cL)などが使われ,水道の使用量,タンクローリーの容量としてはキロリットル(kL)の単位が使われている。これらの単位は,メートル法に従って接頭語,m(ミリ),c(センチ),k(キロ)を付けて作られた単位である。」が記載されていました*1.ただし現行は第6学年,新しい学習指導要領では第3学年の学習事項です。ともあれ,「cL」の算数教科書への記載は問題なし,というわけです。


 上記引用のうち,かけ算の順序の最も中心となる問題意識は,「乗法a×bにおいて,a,bのうち,どちらをどちらというのか」のところですが,小学校の算数から少し離れて,「aにbをかける」と「aとbをかける」との区別にも,配慮したいものです。この区別を知るきっかけの一つに,メインブログでGreer (1992)と書いてきた文献があり,海外では,「かけ算の順序」「たし算の順序」についてどのような見解を出していますか? - わさっきで主要部を取り出して私訳を添えています。グリアの名前は,今年読んだ芳沢光雄『かしこい人は算数で考える』*2に出現していました。

*1:その次の文は,現行と今年のとで少し表記が異なりますが,いずれも,こういった単位の仕組みや関係を踏まえて,子どもたちは何を行う/何ができるようになるかを示しています。

*2:isbn:9784532263515