かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

ご案内

  1. このブログにおける「かけ算の順序」への見解など
  2. 新しい『小学校学習指導要領解説算数編』関連
  3. 「×」の事例
  4. かけ算以外の順序

1つぶんの数×いくつ分の順序で書かれている式のみを正解とする採点方針が稀?

 今年に入って,編集されていました。「2018年9月27日 (木) 13:02時点における版」と「2019年1月5日 (土) 16:21時点における最新版」との差分は,以下より見ることができます。

 書き換えられたのは,先頭から2番目の段落です。これまでの版では「1つぶんの数×いくつ分の順序で書かれている式のみを正解とする採点方針がしばしば見られ、式を不正解とし答えを正解とすることがある」となっていたのが,「1つぶんの数×いくつ分の順序で書かれている式のみを正解とする採点方針が稀に見られ、式を不正解とし答えを正解とすることがごく少数あったと伝聞される」に変わっています。「などの批判がある」だった箇所は,「などの批判が集中した。批判者で「不正解」したのを直接確認した人もほとんど存在しないと言われる」と,字数が増えています。
 この変更を取り消すべきかどうかは,ノートに委ねるとして,「1つぶんの数×いくつ分の順序で書かれている式のみを正解とする採点方針」を含み,それなりの解答者がある2つの調査が,wikipedia:かけ算の順序問題に入っていないのに気づきまして,ここで紹介することにします。
 一つは,東京都算数教育研究会の学力実態調査です。以下のページより,問題文と正解例,評価基準及び割合(どのような答え方にどれくらいの割合の解答があったか),解説の入ったPDFファイルがダウンロードできます。

 いくつかの年度は公表されていないほか,平成の奇数年度は「量と測定・図形」,偶数年度は「数と計算・数量関係」の領域を対象としていて,かけ算の文章題は偶数年度のほうで出題されています。
 平成22年度実施の第2学年大問3は「子どもが 3人 います。みかんを 1人に 4こずつ ふくろに 入れて くばります。くばる みかんの 数を もとめる しきを かきましょう。」という文章題で,式だけを答えさせます。「4×3」または「4×3=12」が正解で,「4+4+4=12」というのも正答扱いです。調査人員52,681人(都内の小学生の約半数が解答)のうち正答率は55%,それに対し「3×4=12」は誤答扱いで,このように解答したのは38%となっています。
 平成26年度では文章題のあと,「もんだいに 合う 図は どちらでしょう」として2つの絵から選ばせる問題が入り,そのあとに式です。図の選択と式の両方が正解(完答)は51%,図のみ正答が27%,式のみ正答が7%,その他の誤答・無答は15%です。
 もう一つ,公表されている事例として,財団法人総合初等教育研究所による計算力調査があります。平成25年(2013年)3月実施,調査報告書の発行は2015年です。

 ページ下部の「調査結果」より,PDFファイルがダウンロードできますが,ページ内の「(6)学習過程でのつまずきの実態を明らかにするために,各学年で完成する計算の過程がよくとらえられるような問題を選んで配列する。」「計算指導に特殊な環境にない,一般的な学校を抽出した。」も留意したいところです。
 報告書のPDFファイルを見ていきます。第2学年には「6つのはこに,ケーキが8こずつはいっています。ケーキはぜんぶで何こあるでしょう。」という出題があり,式の正答率は62.8%,答えは83.8%です。「しき 6×8=48,こたえ 48こ」と書いたら,式は不正解,答えは正解だったと推測できます。第3学年にも同じ問題が見られ,式の正答率は29.9%,答えは82.2%となっています。
 第3学年にはもう一つ,式の正答率が答えよりも低い,かけ算の文章題があります。「1mの重さが3kgの鉄のぼうがあります。この鉄のぼう12mの重さは何kgでしょう。」で,式の正解率は46.4%,答えは70.0%です。「12÷3」とすると式も答えも不正解,「12×3=36 36kg」だと式は不正解で答えは正解と考えられます。
 この報告書では,「今回」と「前回」の正答率を並べ,比較できるようにしています。「前回」というのは2005年実施で,上記サイトからはダウンロードできなくなっていますが,wikipedia:かけ算の順序問題の参考文献のうち,黒木玄「かけ算の順序強制問題」で,そこにないところだと,清水静海編著の『小学校算数 これでバッチリ! 計算指導』*1で,取り上げられています。


 最新と一つ前の差分を見直しますと,以前は「これに対して」だったのが,「この極めての事例に対して」に書き換えられています。「極めて」という副詞に「の」が続くのには,違和感があります。「極めて」に続く語句の一覧が,https://collocation.hyogen.info/word/%E6%A5%B5%E3%82%81%E3%81%A6で読めるので,「極めての」を探してみると,「極めてのろのろ」の1例だけでした。

トランプ配りの乗法への適用~書籍から

以下の画像は,トランプ配りをすれば「5×3=15」になることを示したGIFアニメーションである.

かけ算の順序論争について(日本語版)

2×3? 3×2? どっちでもいい? ~配る問題,かけ算の順序~

「一つ分の大きさ×いくつ分=全体の大きさ」に立ち返ります.この式(乗法)と,包含除・等分除に対して,トランプ配りを用いて視覚化・手順化を試みている事例が豊富にあります.そこで以下のとおり,名称をつけておきます.

  • トランプ配りの乗法への適用:トランプを配る操作により,「一つ分の大きさ×いくつ分=全体の大きさ」を視覚化・手順化すること
  • トランプ配りの包含除への適用:トランプを配る操作により,「全体の大きさ÷一つ分の大きさ=いくつ分」を視覚化・手順化すること
  • トランプ配りの等分除への適用:トランプを配る操作により,「全体の大きさ÷いくつ分=一つ分の大きさ」を視覚化・手順化すること

文脈から明らかなときは「トランプ配りの」を取り除きます.この3種類の中で,事例として最も多いのは,等分除への適用です.しかし乗法への適用,包含除への適用についても,見るべき記述があります.

わり算,包含除・等分除,トランプ配り (2016.05)

 以下では,「トランプ配りの乗法への適用」を記した書籍を取り上げ,該当箇所を紹介します。

矢野健太郎『おかしなおかしな数学者たち』(1984年)

おかしなおかしな数学者たち (新潮文庫)

おかしなおかしな数学者たち (新潮文庫)

 もう大分前のことになると思うが、あるとき私の所へ、名古屋から電話がかかってきた。そしてその電話の主はつぎの話を私にした。
「名古屋のある小学校で、算数の試験につぎの問題が出た。
 ミカンを4つずつ6人の人に配りたいと思う。ミカンは全部でいくつあればよいか。
 この問題に対して、大部分の子どもは、
   4×6=24
 個と答えたが、なかに一人、
   6×4=24
 と答えた子があったが、先生はこれを0点にしてしまった。
(p.119)

 しかし、1人に4つずつのミカンを6人に配るのにつぎのような方法もある。
まずミカンを1個ずつ6人全部に配る。つぎにまたミカン1個ずつを6人全部に配る。このことを4回くり返せば、ミカンを1人に4個ずつ、6人の人に配ったことになる。このことを図にかいてみると左のようになる。
(図省略)
 もしこう考えたとすれば、1人に4個ずつ6人の人に配るのに必要なミカンの個数は、6のかたまりが4つあることから、
   6×4=24
 と答えるのが自然ということになるであろう。
(pp.122-123)

坪田耕三『おもしろ発見!九九の授業づくり』(1994年)

問題①

子どもが6人います。
それぞれの子どもに5本ずつえんぴつをくばります。
えんぴつは,ぜんぶで何本いりますか。

(略)
「①は,6×5となるよ。」
「そうじゃあないよ。これは5×6だよ。」
 2つの式が出てきてしまった。そこで,この2つの式について,両者の意見を言わせる。
 まずは前者の立場の子どもの意見である。
「はじめに『6』が出ているから,数の順に式にしたんです。」
「5×6の式にすると,問題の文と違ってしまいます。」
「6人というのは,配る鉛筆の数にみてもいいんじゃないですか。」
 はじめの2人は,問題文に出てくる数字の順に式に表すのがいいと思っているのである。
 3番目の意見は,好意的に解釈すれば,6人の子どもに1本ずつ配って1回目を終え,続いて同じように6本を2回目,さらに6本を3回目……と続けて,5回繰り返すと考えるならば,6が5回分ということになる。
 しかし,この子どもの考えは,これだけの言葉の表現では,他の子どもには説得力はなかった。
 続いて,こんどは5×6の意見の発表である。(以下略)
(pp.40-42)

小原豊『授業に役立つ算数教科書の数学的背景』(2013年)

授業に役立つ算数教科書の数学的背景

授業に役立つ算数教科書の数学的背景

 第2に,既習内容や発展内容に高い見通しをもつことで,子どもの問題解決上の気づきをより的確に評価できることです。例えば,「3人の友だちにみかんを4こずつあげます。みかんは全部でいくついりますか」という問題に対して,田中さんは3×4=12,鈴木さんは4×3=12と立式して答えを求めたとします。これを“みかん4こが3人分必要”だから,田中さんは誤っていると評価することも,3×4=4×3だからどちらも正しいと演算の交換法則を式解釈に持ち込んで評価することも早計といえます。
 算数・数学の問題解決を乗法構造という立場から特徴づけて捉えるベルニョの見解によれば,鈴木さんの立式からは,友達1人と3人の間と,みかん4こと□この間に同じ関係を認めており,いわゆる倍操作を行っています。これに対して,田中さんの立式からは,友達1人とみかん4この間,友達3人とみかん□この間に同じ関係を認めており,いわゆる関数的な操作を行っています。もし田中さんが「3人の友達にみかんを1つずつあげれば,みかんは3ついる。これを4回繰り返せばいい」と関数的に考えていた場合,式は3×4となり,正しい立式として評価することができます。
(pp.9-10)

坪田耕三『算数科 授業づくりの基礎・基本』(2014年)

算数科 授業づくりの基礎・基本

算数科 授業づくりの基礎・基本

チューリップがたくさんありました。
子どもが7人います。
そこで,このチューリップを3本ずつくばったら,ちょうどなくなりました。
チューリップは何本あったのでしょう。

すると,必ず文章に登場する数の順に式を書く(ア)のような子が現れる。
(ア)7×3 (イ)3×7
こんな二つの式が登場して議論になる。こんなときは,図が生きる。(略)
もしも,「7×3」の式に意味をこじつけようとするならば,まずは7人の人に1本ずつチューリップを配り,次のもう1本ずつを配り,さらに3度目として1本ずつを配ると,都合3回で配り終わるので,1回に配る数をひとかたまりと考えて,「7×3」とできる。このように説明できる子がいれば,それはそれでたいしたものである。だが,素直に問題を読めば,「3本ずつ配る」と書いてあるので,さきのように解釈すべきであろう。
(p.60)

一松信『数の世界』(2015年)

数の世界 (サイエンス・パレット)

数の世界 (サイエンス・パレット)

 ところで乗法に関するこれらの諸法則は,加法の場合ほど自明とは思われません.以下普通によくある説明を試みます.
 交換法則は図1.8のように縦横に整然と並べた方形配列を考え,縦横どちらもそれぞれの並びごとに数えてまとめれば総数は同じと説明します.しかし単位にこだわって例えばみかんを3人に1人2個ずつ配る総数の計算で,2個×3=6個を正解とし,3×2を誤りとする先生が多いというのが気になります.3人にまず1個ずつ配り,それを2回反復したと考えれば3×2=6個で正しいでしょう.これは交換法則2×3=3×2の説明にもなると思います.
 第5章で述べるように今日の専門の数学ではa×bとb×aが等しくない「交換法則が成立しない乗法」が普遍的ですが,小学校の段階からそれを意識しすぎるのは疑問でしょう.

文部科学省『小学校学習指導要領解説(平成29年告示)算数編』(2018年)

 乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。
 例えば,「1皿に5個ずつ入ったみかんの4皿分の個数」を求めることについて式で表現することを考える。
(図省略)
 「5個のまとまり」の4皿分を加法で表現する場合,5+5+5+5と表現することができる。また,各々の皿から1個ずつ数えると,1回の操作で4個数えることができ,全てのみかんを数えるために5回の操作が必要であることから,4+4+4+4+4という表現も可能ではある。しかし,5個のまとまりをそのまま書き表す方が自然である。そこで,「1皿に5個ずつ入ったみかんの4皿分の個数」を乗法を用いて表そうとして,一つ分の大きさである5を先に書く場合5×4と表す。このように乗法は,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現とも捉えることができる。言い換えると,(一つ分の大きさ)×(幾つ分)=(幾つ分かに当たる大きさ)と捉えることができる。
(pp.114-115)

所感

 次期『小学校学習指導要領解説算数編』(以下「解説」)に,トランプ配りの乗法への適用が入ったのは,一松信『数の世界』の記載が多少なりとも影響したと考えています。
 しかしながら「解説」では,「1皿に5個ずつ入ったみかんの4皿分の個数」に対し,4×5の式を認める記述にしていません。「解説」の中でその根拠を探ると,p.115の「具体物を用いた表現などと関連付けながら,式の意味の理解を深めるとともに,記号×を用いた式の簡潔さや明瞭さを味わうことができるようにする。」や「上で述べた被乗数と乗数の順序が,この場面の表現において本質的な役割を果たしていることに注意が必要である。」を挙げることができます。
 「1皿に5個ずつ入ったみかんの4皿分の個数」を,(一つ分の大きさ)×(幾つ分)=(幾つ分かに当たる大きさ)に当てはめると,5×4=20であり,「1皿に4個ずつ入ったみかんの5皿分の個数」に対する式は,4×5=20と書けばよい(書き分けられることに意義がある),というわけです。
 「解説」からの引用箇所と類似した流れで,トランプ配りを考慮した上で,方針を一つに定め,一つの式にしようというのが,2011年に発行された『活用力・思考力・表現力を育てる!365日の算数学習指導案 1・2年編』*1に見られます。2年のかけ算ではなく,1年の「具体物をまとめて数える」の授業例です(したがって,「乗法学習の素地」となりますが,「乗法への適用」と言うわけにはいきません)。そこでの方針は「置いた結果に着目させる」であり,https://www.slideshare.net/takehikom/23-32-123835241/37でも引用しています。

「割合」指導

  • 山下英俊, 算数教育研究チーム「ベクトル」: 「割合」指導の3つの方略, 東洋館出版 (2018). isbn:9784491036045

 さきに,この本を読んで有用と感じたところを挙げておきます。「数直線」の図について,p.95以降の児童が作成したものを見ると,算数の教科書で多用されるいわゆる二重数直線に限らず,さまざまな描かれ方を見ることができます。
 たとえば比較的後ろのp.106では,1本の直線の上に「180m」,下に「8秒」を書いた数直線と,同様に「125m」「8m」を書いた数直線が,横並びになっています。
 0を揃えない,そのような図でもOKというのです。
 問題場面としては,200mを10秒で走るカンガルー,180mを8秒で走るダチョウ,125mを8秒で走るキリンとの間で,どの動物がいちばん速いかを調べるという学習です。道のりと時間による二重数直線を用いて描いたとき,異なる動物のあいだで0に揃えて縦並びにしたとしても,道のりと時間のどちらか一方が揃えられません(多くの図では時間を合わせて,道のりは,同じ位置でも動物ごとに異なる値をとっています)。その煩わしさから解放されるという観点では,横並び数直線も,意味のある思考活動であるように思えてきます。
 それはそれとして,この本を通して読んだとき,まっさきに気になるのは,書名と授業内容との乖離です。上で述べた「速さくらべ」は,割合というよりは単位量当たりの大きさに関する内容です。
 読み直すと,指導を通じて子どもたちに理解してほしい「割合」の概念はどのようなものであるかについて,答えとなりそうな情報が見当たりません。
 全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)や国内外の論文を通じて,割合や,小数のかけ算・わり算(整数÷整数=小数を含む)の演算の決定に課題があることが知られています。たとえば今年度の全国学力テストの算数Aには「集まった子どもたち200人のうち80人が小学生でした。小学生の人数は,集まった子どもたちの人数の何%ですか」という問題に対し,2.5%を選ぶ誤答が4分の1を超えています*1。大きい数から小さい数を割るという間違いを念頭に置いた出題例には,「8mの重さが4kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。求める式と答えを書きましょう。」や"15 friends together brought 5 kg of cookies. How mush did each one get?"などがあります*2
 『「割合」指導の3つの方略』の速さくらべ授業に立ち返ると,秒速(1秒あたりに進む道のり),または決まった時間を進む道のりを動物ごとに求めて,比較するという求め方を見ることはできますが,1m,または決まった長さの道のりを進むのに要する時間を求めて比較するという求め方は,出現しません。そのような方略が期待されていない,数値の設定となっています。
 ところでこの本では,割合を学習する5・6年だけでなく,1年生のうちからその素地となることを,解説しています。その解説の出だしとなる以下の文章にも,違和感を覚えました(p.29)。

 特にかけ算、わり算は、単位量のいくつ分といった「倍の考え」を中心概念とする演算です。ただ、それらには「一皿に入っているリンゴが3個のとき、4皿分のリンゴの数はいくつ?」のように「一単位の大きさと、いくつ分の大きさ」が皿とリンゴという異なる2つの数量である場合と、「1本のテープの長さが5センチメートルのとき、3本分のテープの長さは?」のように「単位の大きさと、いくつ分の大きさ」が同じ長さどうしを対象とする同種の2つの量の場合があります。この2つは、整数から小数へ、さらに分数への数の拡張にともなって前者が混み具合や速さなどの単位量あたりの大きさに着目したかけ算、わり算の意味の拡張へ、後者は全体量Aを1とみたときのもう一方の同種の量Bの相対的な大きさ(割合)に着目したかけ算、わり算の意味の拡張へと発展していきます。これが、かけ算、わり算の意味から割合に迫る倍概念の筋道です。この筋道がかけ算・わり算のストーリーです。

 この引用のとおり,「単位量あたりの大きさ」と「割合」とを区別するのであれば,速さくらべは,「割合」指導として適切なのかという問題意識を,改めて持つことができます。
 それよりも,違和感があったのは,「一皿に入っているリンゴが3個のとき、4皿分のリンゴの数はいくつ?」と「1本のテープの長さが5センチメートルのとき、3本分のテープの長さは?」との区別のところです。前者から「皿とリンゴという異なる2つの数量」を見いだすのであれば,後者についても「テープの長さと本数」という,異なる2つの数量を考えても,不自然ではないのです。
 3年のわり算の導入(pp.34-36)では,等分除と,包含除と,倍を求めるわり算とを区別しています。倍を求めるわり算の問題例として,p.36に「赤いロープは21mです。青いロープは3mです。赤いロープは,青いロープの何倍ですか。」が書かれていますが,これをアレンジして「赤いロープは21mです。赤いテープは,青いロープの7倍の長さです。青いロープの長さは何mですか。」としてみると,倍を求めるわり算ではありませんし,等分除に入れるわけにもいきません*3
 同書を離れて個人的な理解を述べておきます。倍概念や割合の概念は,B×p=Aとして定式化できる,AとBが同種の量のかけ算の場面*4が土台となります。ここで,「何倍か」や「割合」に該当するpは,「200人の40%は80人」における40%(または0.4)のような無次元量に限らず,上述のリンゴの文章題であれば「4」,テープの文章題であれば「3」のように,「4皿」「3本」という具体量のうち数の部分も該当します*5。このかけ算の式(一つの乗法構造と言ってもいいでしょう)に当てはまるのなら,リンゴの文章題でもテープの文章題でも,百分率でも速さでも重さでも,統一的に図や式に表して,未知の数量を求めることができます。求めるための古典的な道具立てが「比(割合)の三用法」であり,近年では「数直線(とくに二重数直線)」が採用されています。
 倍概念と包含除,そして割合との関連付けに関しては,次期『小学校学習指導要領解説算数編』の第4学年,p.228が分かりやすいです。

 このような学習過程を経ることで,倍を表す数に小数を用いてもよいと,倍の意味の拡張を図る。これまで倍は「幾つ分」と捉えてきたが,ここからは,「基準量を1とみたときに幾つに当たるか」を倍の意味と捉え直す。
 このとき,倍の意味を広げる活動とともに,倍を求める除法の意味についても捉え直す機会になる。包含除の除法の意味について,a÷bを「aはbの幾つ分かを求める計算」と捉えていたものを,「bを1とみたときにaが(小数も含めて)幾つに当たるかを求める計算」と捉え直すことになる。
 このような学習は,第5学年の小数の乗法及び除法の計算や,割合の学習につながる大切な学習である。

*1:http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/index.html

*2:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/12/31/234127

*3:個人的な認識では,これは等分除で求められる場面となります。「赤いロープは21mです。青いロープは3mです。赤いロープは,青いロープの何倍ですか。」は,包含除です。

*4:BはBaseの頭文字で基準量,pはproportionの頭文字で割合,AはAmountの頭文字で総量を,それぞれ意味します。

*5:「4皿」「3本」そのものがpになるのではない点に注意。関連:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/04/08/061135

交錯

 「かけ算の単元でかけ算ばかりするから,子どもたちはきちんと考えずにかけ算の式にしてしまう。すでに学んだ,たし算・ひき算も混ぜて指導すればいい」という主張を支える事例をいくつか取り上げます。
 「指導」について,「文章題を与えて,学習者は適切に演算決定(立式)できること」を目指す場合,その文章題には大きく2つのパターンがあります。一つは,複数の文章題を用意して,すべて解いてもらうのですが,ある文章題はa×b,別の文章題はa+bの形で式にするのが正解とします。もう一つは,1個の文章題で正解となる答えを得るのに,かけ算と,たし算・ひき算を組み合わせます。
 「ある文章題はa×b,別の文章題はa+b」の出題例は,1皿ずつ全部かけ算とはかぎらないよで紹介しています。前者は2013年公開の紀要論文,後者は2010年刊の問題集からです。
 たし算の文章題を,それぞれの出典から取り出すと,「アメが4このった皿と6このった皿が1皿ずつあります。全部で何こありますか。」と「おかしが3こ入った箱と4こ入った箱が,1箱ずつあります。おかしは,全部で何こありますか。」です。どちらにも「ずつ」が出現しますが,かけられる数を意味するものではありません(紀要論文ではこの「ずつ」について,「お皿の枚数といういくつ分を示す乗数を修飾している」と記しています)。2つの情報源について引用・被引用の関係はありません。かけ算学習の段階で,たし算の場面にも「ずつ」を意図的に入れることは,それぞれの問題作成や認知カウンセリングおいて,すでに知られていたと考えられます。
 「ある文章題はa×b,別の文章題はa+b」と同じ趣旨が,大正9年1920年)刊の『尋常小学算術書之教授 第二学年二・三学期用』*1にも書かれています。4の掛算の九九の,「教授上の注意」の2番目です(p.21,コマ番号33)。

2. 既に授けた九九をも適宜塩梅して練習を怠ってはならぬ。又加減の問題をも交錯して練習するがよい。或時期は加法或時期は減法此期間は乗法と単進的取扱に偏することは練習としては有効なものではない。

 ただしその前後を読んでも,かけ算の練習の中に,a+bで求める問題は見当たりませんでした。この本は『尋常小学算術書』(教科書)の解説という位置づけということもあり,その種の出題を入れたところで,解説する必要はない(またはその意義は上記の注意で十分),と思えばいいのでしょうか。ちなみに国立国会図書館デジタルコレクションで「尋常小学算術書」を検索すると,そこそこの件数が得られますが,第二学年を対象とし,今回の本と刊行時期に合致するものは,見つかりませんでした。
 かわりに,かけ算とひき算を組み合わせて答えを求めることのできる,1個の文章題が例示されていました。「教科書の応用問題中「御宮の前に大木があったから長さ二間の縄で其の周をとって見たら縄が1尺余りました此の木の周は何丈何尺ありますか」は提出に余程工夫を要する様に思われる。」(p.30,コマ番号38)から始まり,やや批判的な文章となっています。
 「御宮の前に大木が…」の問題を,いまのアプローチで解くと,次のようになります。1間=6尺,そして1丈=10尺*2に注意すると,式は6×2=12 12-1=11と書きます。「11尺」と言いたいところですが,「何丈何尺ありますか」なので,「1丈1尺」が答えとなります。
 「1尺余りました」だからたし算(12+1=13),とするわけにもいきません。ただし,加法逆の減法ととらえれば,□+1=12という式を立ててここから□=11とすることは可能です。ということで,かけ算と,ひき算(またはたし算)を組み合わせて,答えを得るものとなっています。
 かけ算の学習中なので,かけ算と,たし算・ひき算の組み合わせになりますが,そういった縛りを外せば,この種の文章題について,「3要素2段階」という名称が知られています。啓林館の教科書では以下のページのとおり,2年で学習します*3


 「かけ算の単元でかけ算ばかりするから,子どもたちはきちんと考えずにかけ算の式にしてしまう。すでに学んだ,たし算・ひき算も混ぜて指導すればいい」については,かけ算を含む算数教育が十分でないという,批判的な意図として,Twitterでときおり見かけます。
 本記事の主旨は,それらへの批判では(賛同でも)なく,批判ツイートをきっかけに得ることのできた,算数教育に携わる方による問題意識の紹介となります。把握している最古は,上で引用した「又加減の問題をも交錯して練習するがよい。」を含む注意事項ですが,比較的新しく,かつ「かけ算の順序」批判よりも前*4に書かれたものとして,全部かけ算とはかぎらないよで紹介した『田中博史の算数授業のつくり方』の文章があります。
 メッセージの新しさ古さもさることながら,それぞれの主張を支える事例(文章題や指導など)が添えられているかに着目するとともに,主張と事例の組み合わせをどのように理解すればよいかをよく考えるようにし,これからも「昔話」探しをしていきます。

*1:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/938814/, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20170218/1487362280

*2:http://kurashikata.jp/home/shakkanho/

*3:https://blogs.yahoo.co.jp/tamusi22/40846373.htmlで授業事例を見ることができます。文章題の数量や,「はじめに,色紙 6まいの ねだんを もとめましょう。」というヒントは同一ですが,問題文はほんの少し異なっています。

*4:批判は2010年秋ごろに勃興したと認識しています。https://togetter.com/li/68853http://www.math.tohoku.ac.jp/~kuroki/LaTeX/20101123Kakezan.htmlも,公開は2010年11月です。

難しいのは,等分除でも包含除でもなく

 A÷B=Cという割り算によって,AとBとCの関係式が定義されているときに,A÷C=Bの式でBを求めるのが,間違えやすいと言えます。AとBが同種の量(Cは割合)のときにも,異種の量(Cは単位量あたりの大きさ)のときにも,成り立ちます。


東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた 数に強くなる本 人生が変わる授業

東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた 数に強くなる本 人生が変わる授業

 第3部(技術編)の最初は「5時限目 数字を比べる」(pp.154-190)です.その最初のページには,講演時に「お手元の紙に○を6個書いてください。そして6÷3=2という割り算を、6個の○を使って実現してみてください」と尋ねると,「6個の○を2つずつ3つに分ける」のと,「6個の○を3つずつ2つに分ける」のに分かれるとしています。両方とも正しく,前者は等分除,後者は包含除です。これらの用語は,あとのページに太字で書かれており,「ぜひ覚えてください」とも記されています。
 等分除か包含除かを,4つの例題と割り算の式で整理しています(pp.160-163)。番号・言葉の式・例題を書き出しておきます。求めるための式はいずれも,6÷3=2です。

練習①「距離÷時間=速さ」
例題:6kmの道のりを3時間かけて一定の速さで歩いたときの速さを求めなさい。

練習②「距離÷速さ=時間」
例題:6kmの道のりを時速3kmで進むと何時間かかるかを求めなさい。

練習③「合計÷個数(人数)=平均」
例題:3人の点数が2点、1点、3点のとき、3人の平均点を求めなさい。

練習④「質量÷密度=体積」
例題:ある物質の質量を測ったら6gでした。この物質の密度が3g/㎤であることがわかっています。この物質の体積を求めなさい。

 引用しなかった解説の文章によると,①は等分除,②は包含除,③は等分除,④は包含除です.
 文章は等分除・包含除から離れます.n分の1(1/n)が1÷nであること,A÷BがA/Bという分数で表されること,「比べられる量÷もとにする量=割合」について「比べられる量→は(主語)」「もとにする量→~の(修飾語)」「割合→どれくらい(述語)」と読み替えて理解することなどを経て,p.178では「分数計算のトライアングル」を提示しています。
 式はA:B=C:Dという比例式から始まります。このとき,比の値から\frac{A}{B}=\frac{C}{D}です。外向の積=内項の積に基づくと,AD=BCと書くこともでき,この積の等式の両辺をCDで割ると,\frac{A}{C}=\frac{B}{D}という式にもなります。
 ここでD=1とすると,以下の3つの式が得られ,これが分数計算のトライアングルというわけです。

  • \frac{A}{B}=C
  • A=BC
  • \frac{A}{C}=B

 もちろん,比例式を起点としなくても,3つの式は(A,B,Cが0でない任意の実数のとき)等価と言えます。実際,中学で習う「等式の性質」を使えば,残りの2つの式を導くことができます。
 そして著者としては,3つ(比例式も含めると4つ)のうち1つだけを覚えておき,式変形して使うことを推奨していません。「分数計算や割合(比)が得意な人と苦手な人の差は、この「分数計算のトライアングル」が頭に入っているかどうかだと言っても過言ではありません。ぜひこの機会に身につけてしまいましょう。」(p.179)と述べ,頭に入っている=すぐに取り出して使えることを読者に要請しています。
 直後に,例題があります。

例題:1つ売れると3600円の利益が出るセーターの利益率(価格に対する利益の割合)は20%であることがわかっているとき、このセーターの価格を求めなさい。

 小学5年の知識だと,3600÷0.2=18000 答え18000円ですが,なぜ「0.2で割る」かを説明するのは,ちょっと手間を要します。この本では,「利益/価格=利益率」に数値を割り当て,「3600(円)/価格=0.2」としてから,「3600(円)/0.2=価格」に変換し,価格=18000(円)を得ています。書籍で明示されていませんが,これは等分除にあたります(一方,「利益/価格=利益率」の式に基づき,利益と価格が分かっていて利益率(割合)を求めるのは,包含除です)。
 もっとも興味深かったのは,このセーターの例題のあと,p.180で太字で書かれた2つの文です。例題の直後には「この問題の答えがすぐにわかる人は、数字に強い人です。なぜなら、この問題は、割合に関する問題の中では最も難しいタイプだからです。」とあり,同じページの終わりから3行目には,「政府や民間が行っている学力調査の類を見ると、分母を答えさせる問題は正答率が目立って低いことが多いのです。」も太字です。上記の練習④については,「他の問題よりも難しく感じませんでしたか? これも「質量÷体積=密度」を変形して体積を求めさせる問題だったからです」(p.181)と解説しています。
 セーターの例題は等分除,練習④は包含除であることに注意すると,割り算で包含除と等分除のどちらが難しいかを検討するのは不適切ではないかと思えてきます。わり算,包含除・等分除,トランプ配り (2016.05) - わさっきや,割合モデルは淘汰されたのか~数直線モデルとの比較を通して考えるでは,いくつかの文献やテスト事例を挙げながら,3年の割り算の導入でも,5年の割合(小数の乗法・除法)でも,等分除のほうが難しいことを見てきました。
 これについて,練習④のもととなる,「質量÷密度=体積」や,「質量÷体積=密度」は,小学5年の学習対象外であることに留意すれば,(日本の)算数教育における矛盾は回避できます。
 ただ個人的には,速さを求める練習①よりも,時間を求める練習②のほうが(数値が小数・分数になるか,1時間よりも小さな値が答えとなるような出題では)間違えやすいようにも思います。移行措置により小学校算数での「速さ」の学習は来年度より,5年生となる点と合わせて,出題例や授業例を見ていきたいところです。