かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

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  1. このブログの作者,執筆方針,「かけ算の順序」への見解など
  2. 新しい『小学校学習指導要領解説算数編』関連
  3. 「×」の事例
  4. かけ算以外の順序

2×3? 3×2? どっちでもいい? ~配る問題,かけ算の順序~ Ver.4.00をリリース

 最新版は「2018年11月15日 Ver.4.00」です。
 以前のバージョン*1からの変更点として,式やいくつかの語句(問題文など)を「UD デジタル 教科書体 N-R」を使用してみました。そして関連記事(メインブログ・サブブログのリンク集)およびQ&Aのいくつかを差し替えました。
 バージョン表記を,以前は「第3版」でしたが,今回は「Ver.4.00」としています。気になった箇所を修正して,更新していく予定です。スライドは,これまでのSlideShareのほか,Speaker Deckにも公開しています。フォントの都合で,PowerPointではなくPDFのファイルがダウンロード可能となっています。
 Q&Aの質問は以下のとおりです。Ver.4.00で新設したもの,回答を変更したものについては,項目の後ろに〔…〕をつけています。

  • 高学年の算数は考慮しないの?
  • いややっぱり3×2でもいいでしょ
  • なんでアレイがダメなの?
  • 「2こ/まい×3まい」「3まい×2こ/まい」と書けばいいのでは?
  • 正しい式にバツをつけるのはよくないのでは?
  • 「タコが2匹で足は何本ですか」に2×8と式を書く子どもは,タコが2本足だと考えている?
  • 数学者らの批判には,どのように考えていますか?〔回答を変更〕
  • 算数と数学は違うの?
  • かけ算の順序を教えるのは,わり算のため? 行列の積のような非可換な演算のため?〔新設〕
  • かけ算順序の指導に,エビデンス(科学的根拠)はあるのですか?
  • 中国の風船の絵、日本だったら?
  • 中国の件,何か都合悪いの?
  • 「じゃあティファニーさん,2つの式は異なる場面を表すのに使えないっていうの?」って、どういうこと?
  • 出典はあなたの都合で選んだ?
  • これからの算数はどうなるの?〔回答を変更〕
  • 新しい学習指導要領,何か変わったの?〔新設〕
  • 学習指導要領解説は,法的拘束力がないと聞いたのですが,合っています?〔新設〕
  • 以前のスライドとの違いは?〔回答を変更〕

カレンダーにもアレイ

 6年前の刊行物を読み直していて,一つ,興味深い出題を,見つけました。

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弟が,いたずらをして,ある月のカレンダーの日にちを,全部まっ黒に塗ってしまいました。さて,この月は何日ある月でしょうか。

 小学2年生のかけ算の学習に,手ごろな問題です。読み進めると,「3×5に4×2が2個ついたもの」「3×7に10をたす」「5×7から4をひく」「4×5が2つ,それから3×3を引けばいい」といった求め方が書かれています。最後については,以下のように見ているわけです。
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 これらの求め方のほか,1ずつ愚直に数えることでも,「31日」という答えを得ることができます.31は素数ですので,●を移動させて「a×b=31」という形にはできません。
 文章を読み終え,他にどんな求め方があるか,考えてみました。
 カレンダーなので,「28日」の位置が思い浮かびました。
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 「1日(ついたち)」が左上にくるよう,移動させてみます。
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 こうすると,「7×4=28 28+3=31 答え31日」と求めることができます。
 著者あるいは学校の先生が考えもしなかったことを,自分は思いついたんだぞと,主張したいわけではありません。ある月のカレンダーであるという情報を,いったん*1取り除いて,数を求めるのは,抽象化という面で大事なことです。算数に限らず,与えられた問題を解決するのにどんなことが活用できるか,その求め方・考え方を,クラスの友達や,先生に言って,分かってもらえるかというのは,それはそれで興味深く,そして難しいのです。
 そろそろ,出典を挙げておきましょう。

  • 守屋義彦: まずは『が』のかけ算を大切に, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.80, pp.40-41 (2012).

 この号は「算数授業論究II」というナンバーも振られており,「かけ算を究める」と題して特集が組まれています。前年に『かけ算には順序があるのか』が出版され,各解説の中にも,この本を明示したりしなかったりしています。この号で他に,複数の執筆者が出典に挙げている本として,『算数・数学教育と数学的な考え方』(金子書房,1981年刊)があります。2015年に復刊した*2こと,2017年に文部科学省が公表した小学校学習指導要領の算数に「数学的な見方・考え方」という言葉が入ったことを,思い出さずにはいられません。

*1:答えは「31」ではなく「31日」としないといけないので,カレンダーに戻って考える必要もあります。

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150720/1437344285

3種類を5人に

 何ページかに分けられたまとめに目を通すと,1.2は偶数?へのリンクを見かけました。山本良和氏の著述に関して,今年,増加と合併の区別を読む機会があり,被加数と加数の順序じゃんけんゲームの時系列処理という記事を書いたのでした。
 まとめのツイートに2つ,コメントに1つ,興味深いかけ算の場面が入っていました。

 それぞれのツイートから,問題を抜き出し,ラベルをつけておきます。

  • お弁当の問題:「3日開催のイベントに5人のスタッフを雇いました。お昼にお弁当を出します。いくつ必要ですか?」
  • 参加賞の問題:「クラス対抗のリレーをします。3クラスあって、選手は4人です。選手に参加賞をあげるなら、いくつ必要ですか?」
  • カードの問題:「3種類のカードがたくさんあります。この3種類のカードを1枚ずつ5人の子供たちに配ると、子供たちに配られるカードは全部で何枚でしょう?」

 出題意図や出典を,ツイートした方々は明示していませんが,お弁当の問題とカードの問題は,複比例の関係であり,「積」の乗法が背景にあります。「3×5」または「5×3」の式を立てたとき,それらのかけ算の答えが,どんな数量になるかについての見通しを,読者に委ねた形となります。
 3つの問題のうち,「ひとつ分」が明示されているのは,カードの問題です。「1枚ずつ」とありますが,「1人に1種類,1枚ずつ(カードを配る)」ということですから,1[枚/種類・人]という複内包量*1を見いだすことができ,そこで「1[枚/種類・人]×3[種類]×5[人]=15[枚]」という式に表せます。「1[枚/人・種類]×5[人]×3[種類]=15[枚]」としても,差し支えありません。メインブログの記事(3口のかけ算,かけ算の順序 - わさっき)の《2つに比例》の出題例,「5人家族があります。それぞれ,1日に3個ずつ,ミニトマトを食べます。7日間で,この家族は全部で何個のミニトマトを食べるでしょうか? 式と答えを書いてください。」について,「1日に1個ずつ」に置き換えたものと同型と言えます。
 お弁当の問題では,1日に1人が1個のお弁当を食べることを踏まえて,1[個/人・日]×3[日]×5[人]=15[個]と表すことができ,3[日]と5[人]は入れ換え可能です。
 参加賞の問題は,様相が異なります。というのも,1[個/クラス・人]という量を,考えるわけにいかないからです。参加賞は1人に1つを想定すると,これを表す内包量は1[個/人]です。各クラスから4人ずつ,リレー走者が選出されることと合わせると,式は「1[個/人]×4[人/クラス]×3[クラス]=12[個]」となります。この式において,「1[個/人]×4[人/クラス]=4[個/クラス]」は,「1つのクラスで4つ(ずつ)参加賞を受け取る」と解釈でき,「4[人/クラス]×3[クラス]=12[人]」は,「クラス対抗リレーの参加者数は全部で12人」というのに対応づけられますが,「「1[個/人]×3[クラス]」という式や,かけて得られる「3[個・クラス/人]」について,意味づけを与えるのは困難です。3口のかけ算のうち《箱売り》と関連し,2つの「倍」のかけ算を注意して並べた数量の関係が,背景にあると言えます。
 さて小学校の算数で,お弁当の問題,参加賞の問題,カードの問題について,式を立てて答えを出すとすると,どうなるでしょうか。次元を取り除くと,「1×3×5」あるいは「1×5×3」,「1×4×3」となりますが,いずれも1が不格好です。そこで「3×5」「5×3」「4×3」としてみると,今度は「ひとつ分」が何であるかが不明確になります。高校の数学のように(カードの問題を用いますが他の文章題も同様です),「3枚ずつ5人の子供に配ると考えると,3×5=15(枚)」と,「3種類のカードを1枚ずつ」を「3枚ずつ」に読み替えることを,筋道立てて答えを書くにあたり,要請すべきでしょうか。
 ところでカードの問題には類題があります。デカルト積のピクトリアル - わさっきで紹介した「ふしぎな花のさく木」「お菓子」「風船」です。風船の件はhttp://www.nier.go.jp/seika_kaihatsu_2/risu-2-ikkatu.pdf#page=191より画像のほか,本文中には「この処理は数計算の場合大きな差支えがないかもしれないが,量の扱いではやはり不具合があって,教師たちの丁寧な対応によって乗り越えているところである。」と,そのとらえ方(乗法の意味づけ,と言ってもいいでしょう)に基づく指導で現れる困難な点が記されています。これをもとに,http://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/51では「中国の追随になるかも」,http://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/70では「日本の算数教育で「どっちでもいい」を採用するのは性急」と,書いてきたのでした。
 「1つの場面に対し,複数のかけ算の式を立ることができる」という場面の提示を目指すとすると,お弁当の問題,参加賞の問題,カードの問題のいずれも,算数教育において十分に洗練されているとは言いがたく,例えばL字型アレイ*2に取って代わるものではないようにも思います。

*1:この用語は,asin:B000JA2798によります。古い文献や洋書をもとにした,複比例の状況は,当ブログを始めて間もないころのメインブログで,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120418/1334700739にて整理しています。

*2:http://tosanken.main.jp/data/H22/jittaityousa.pdf#page=5, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20151229/1451314800

定数関数は,関数

 xとyの関係として,xがどのような値であってもy=2となるというのは,定数関数です。yがどのような値であってもx=3となるというのも,定数関数です。前者は「yはxの定数関数」,後者は「xはyの定数関数」です。


 中学の数学で学ぶ関数について,一階述語論理の枠組みで,少し考えてみます。
 発端はhttps://twitter.com/esumii/status/1055780029441892352のツイートなのですが,https://twitter.com/esumii/status/1055785005941645313のツイートを少し書き換え,
F1={f|[∀x∈D1 ∃y∈D2 (x,y)∈f] ∧ [∀x∈D1 ∀y1∈D2 ∀y2∈D2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2]}
として,集合F1を定めます。「(x,y)∈f」を「y=f(x)」に読み替えると,F1は,「yはxの関数である」と言えるようなもの全体の集合となります。
 「∧」の左の部分,「∀x∈D1 ∃y∈D2 (x,y)∈f」については,「変数xのそれぞれの値に対し,変数yの値が(少なくとも1つ)存在する」を意味します。右の「∀x∈D1 ∀y1∈D2 ∀y2∈D2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2」は,「変数xのそれぞれの値に対し,対応する変数yの値は,2つ以上ない(たかだか1つ)」と解釈できます。これらを合わせると,「変数xの値を決めると,変数yの値がただ1つ決まる」ということです。
 なおD1およびD2のDは,domainの頭文字で,訳すなら「定義域」ですが,中学数学の用語では「変域」であり,グラフをかくなどの際にはD1,D2とも実数全体の集合が想定されます*1。以下も実数を対象としますので,「∈D1」「∈D2」を取り除くと,
F1={f|[∀x ∃y (x,y)∈f] ∧ [∀x ∀y1 ∀y2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2]}
と表せます。
 同様にして,「yはxに比例する」という関数全体の集合F2を,以下のとおり表すことができます。
F2={f|[∀x ∃y (x,y)∈f] ∧ [∃a ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax]}
 比例といったらy=ax,なのですが,「∀x ∃y (x,y)∈f」がないと,例えばy=ax(aは任意の定数)だけれどもx=2のときだけyの値が定められていないような,xとyの関係について,比例と言えなくなってしまいます*2。「∃a ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax」は「∀x ∀y1 ∀y2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2」を含む([∃a ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax] ⇒ [∀x ∀y1 ∀y2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2]を示せる)ので,F1でfに要請されている2番目の条件は,F2では明示していません。なお簡単のため,a=0の場合(y=0という定数関数)も,F2に属するものとしています。
 一次関数,より正確には「yはxの一次関数である」という関数全体の集合F3は,次のようになります。
F3={f|[∀x ∃y (x,y)∈f] ∧ [∃a ∃b ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax+b]}
 同様にして,2次元平面上でグラフが直線になるような,xとyの対応付けを記述してみます。
F4={f|[∀x ∃y (x,y)∈f] ∧ [∃a ∃b ∃c ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ ax+by+c=0 ]}
 このように書いてみましたが,これでは,y軸に平行な直線を表す,x=h(hは任意の定数)が対象外となります。少し考えてみると,「∀x ∃y (x,y)∈f」を仮定したとき,「∃a ∃b ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax+b」と「∃a ∃b ∃c ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ ax+by+c=0」は同値と分かります*3。ですのでF3=F4です。
 ここまでの集合F1からF4までは,「∀x ∃y (x,y)∈f」とあるとおり,任意の実数xに対し,xにfを適用したときの値が存在することを,要請しています。これを入れている限り,x=hで表される,「xはyの定数関数」には対応できないということです。
 https://twitter.com/takehikom/status/1056007347787620352では「定数関数を中学数学で教える必要はなさそう」と書きましたが,『中学総合的研究 数学 三訂版』*4ではp.243に,「x = h,y = kのグラフをかく」というのが入っていました。

*1:反比例を関数として考える場合,変域は,実数全体から0を除いた集合となります。

*2:x=1のときy=aです。しかしx=2のときy=2aではありません。これは,「xの値を2倍すると,yの値も2倍になる」という,比例の性質を満たしません。

*3:「[∃a ∃b ∃c ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ ax+by+c=0 ] ⇒ [∃a ∃b ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax+b]」を示すには,異なるx1,x2において,ax1+by1+c=0,ax2+by2+c=0を満たすy1,y2が存在することを用います。x1≠x2で,2点(x1,y1),(x2,y2)を通る直線の式は,y=a'x+b'の形で表せます。

*4:isbn:9784010220573

ゆえにアレイ

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 画像はコマ番号17 (p.29)の一部です。「∴(ゆえに)」を,「点が3つある形」と認識すると,これを横に5つ,縦に4つ,長方形状に並べたとき,点の総数は3×5×4で求めることができます。
 読み進めて見ることのできる,総数を求める式には,「3×(5×4)」「(3×5)×4」「「3×(4×5)」があります。どの式も,最初に出現する数は「3」であり,「4」や「5」が先頭に出ることはありません。
 それに対し,5と4については,順序を反対にした式も見られます。なお,コマ番号17 (p.28)には,「ヽ(片仮名繰返し記号)」を横に5つ,縦に4つ,長方形状に並べた配置をもとに,「例へば4に5を掛けて得る所の積は5に4を掛けて得る所の積に等しきなり」と記しています。同じコマ番号の右側(p.29)で「5×4=4×5」の式もあります。
 とはいえ同様の並びで,何種類か,かけ算の式が立てられるのは,この2年前に刊行されたものにも出現しており,今回見てきた事例が最古というわけでは,ありませんでした。

 書き下ろしで2014年に刊行された志村五郎『数学をいかに教えるか』*1では,批判的な立場から取り上げています.メインブログにて,該当箇所の引用のほか,類似する場面について検討をしてきました。

 志村氏の批判の結語は,「順序を気にする連中はこのうちどれが正しい書き方でほかのはすべて誤まりであるとしたいのだろう.」となっていますが,これはミスリーディングと言わざるを得ません。アレイ(長方形的配置)を中心として,ものの並びに対しては,かけ算を含むいくつもの式を立てるのを,外在的評価を通じて容易に見つけることができます。例えば都算研の学力実態調査のうちhttp://tosanken.main.jp/data/H26/gakuryokujittaichousa/H26jittaichousa.pdf#page=3(大問5)では,おはじきのL字型配置に対してかけ算を使った式(求め方)を2つ書かせています。ダイヤモンド的配置で,平成元年に日米の小学校4年生に出題したというのもあります*2
 とはいえ志村氏が挙げた,3トン積のトラックの場面も,今回見てきた「∴のアレイ」にしても,小学校の算数でほとんど見かけません。3口のかけ算で,いくつかの式を立てられる(いずれも,その場面を説明した式である)ことの学習に関しては,よりよい場面そして指導の事例が確立されていると想像できます。以下の記事に書いたうち,《倍の合成》と《箱売り》が該当します。

 「∴のアレイ」は,《2つに比例》に密接に関係しますが,異なる点もあります。《2つに比例》の中心となる式は,n1[d1/d2・d3]×n2[d2]×n3[d3]=n1n2n3[d1]なのに対し,今回の件はn1[d1]×n2×n3=n1n2n3[d1]です。《倍の合成》とも異なり,n1[d1]×n3にも意味を与えることができます。


関連:

整除と類別,2の倍数と偶数

 「小学校の算数において,0は偶数だけれど,2の倍数には入れない」件を見直します。はじめにこれまでの情報の整理です。自分が手がけたものではないのですが,以下のページがもっとも分かりやすいと思います。

 当ブログでは2017年の7月から8月にかけて,いくつか記事を書きました。

 一連のツイートを行ったのは,2017年6月,新しい『小学校学習指導要領解説算数編』の最初のバージョンが出て数日後のことでした。

 2018年の出版物として,『算数教育指導用語辞典』の第五版は,第四版と同じ内容でした。算数教育指導用語辞典 第五版を読んだより,該当箇所を書いておきます。

 [2] 倍数・約数
 整数の集合を考察する立場としては,ある整数でわったあまりに着目して類別して考察する場合と,整除性に着目して考察するする場合との二つがある。整数を倍数,約数といった観点から考察するのは,後者の立場である。
 倍数・約数は,分数の約分や通分の際に用いられる大切な内容である。
 (1) 倍数
 ある整数の倍数は,次々に幾つでも作られるという性質がある。例えば,3の倍数は3,6,9,12,15,18,21……というように無限に続くことになる。
 なお,小学校では0を偶数としては扱うが,発達段階からみて指導上に困難点があるので,0をある整数の倍数として扱うことはしていない。0を整数nの倍数としてみるのは中学校である。

 倍数を考える際には0を対象としないと読み取れる情報が,昭和33年改訂の小学校学習指導要領に入っていました。http://www.nier.go.jp/guideline/s33e/chap2-3.htmの第5学年の指導上の留意事項,「倍数,約数の指導は,分数の計算に必要な程度にとどめること。」です。数学的に0は2の倍数かつ3の倍数だからといって,3分の2は,0分の0だとするわけにはいきません。
 なお,昭和43年改訂(昭和46年施行)の小学校学習指導要領では,http://www.nier.go.jp/guideline/s43e/chap2-3.htmによると,留意事項(いわば補足)ではなく内容(メインで指導すること)に入り,表現が「簡単な場合について,倍数,約数などについて知ること。」に変わっています。この「簡単な場合について」というのは,桁数の多い数に関する倍数や約数を学習する(公倍数・公約数を計算できる)のを除外すると解釈もできますが,昭和33年の内容と比較すると,表現を変えたとはいえそこでも,倍数・約数を考えるにあたって0を対象としないことを,暗に含んでいるように思えます。


 出版物やWebの情報発信から少し離れ,整除,偶数そして倍数に関して,2項演算および単項演算との関連性を考えてみます。
 2項演算と単項演算の違いは,たし算やかけ算にも現れます。かけ算なら,「5と3をかけると15(5×3=15)」のように,2つの因数について自由に(小学校算数の場合は0を含む整数の範囲で)値を変えることができます。これが2項演算です。それに対し,「1に3をかけると3(1×3=3),2に3をかけると6(2×3=6),…,5に3をかけると15(5×3=15)」という見方もできます。この場合,「に3をかける(×3)」が固定され,かけられる数を3倍して,かけ算の答えを得るということになります。かける数のほうは固定し,かけられる数だけが可変なので,単項演算となります。かけられる数のほうを固定し,かける数を変えることもできます。被乗数固定は,2年で何の段として学習する際に活用されます。
 かけ算を2項演算と見る場合,「5と3をかけると15(5×3=15)」と「3と5をかけると15(3×5=15)」とは同等となります。それに対し単項演算においては「5に3をかけると15(5×3=15)」と「3に5をかけると15(3×5=15)」とは概念的に異なる*1ものになります。
 わり算について,5÷3と3÷5を同一視するわけにはいきません。ですが「比」は,2項演算と単項演算を考えることができます。「酢とサラダ油の量は3:5」*2と書くのが,2項演算の見方です。2つの値を自由に変えられるほか,「サラダ油と酢の量は3:5」と書くこともできます。
 この酢とサラダ油の体積比に関して,サラダ油を基準として,酢はどのくらいの割合になるかを考えることもできます。3÷5=0.6と計算したとき,サラダ油1に対して,酢をその0.6倍の量にすれば,同じ配合になるというわけです。3÷5=0.6は3:5の比の値と呼ばれます。酢を基準としたときの,サラダ油の割合は,異なる数(逆数)になります。
 整除は,素朴には「aがbで割り切れる」と定義されます。これについて,2つの数をとりますが,加減乗除と異なり,整除の結果は「割り切れる」または「割り切れない」,ですので真偽値です.整除は2項演算というよりは2項関係と捉えるのが自然ですが,wikipedia:二項演算ではベクトルの内積を例に,「2変数の写像f:A×B→Cを形式にこだわらずに二項演算とか積などと呼ぶ場合もある」と述べられており,整除も同様に扱うことにします(AとBは整数全体の集合,Cは例えば{T, F})。「割り切れる」ための十分条件として,bが0のときにも扱えるよう,「a=kbを満たす整数kが存在する」と書くこともできます。小学校の算数なら,a,b,kには具体的な数を入れた上で,「a=b×kと表される」となります。
 整除をもとに偶数を定義するには,b=2に限定します。1は2で割り切れないので,偶数ではありません。2は2で割り切れるので,偶数です。3は2で割り切れないので,偶数ではありません。4は2で割り切れるので,偶数です…として,まずはすべての正整数について,偶数かそうでない(奇数)かを判別できます。0に関しても,0は2で割り切れるので,偶数とです。負の数も同様に奇偶判定ができます。一つの値を固定して,他方の値を任意に変えるというのは,単項演算の見方となるわけです。
 ところでbは,他の定数にもできます。実際,b=3とすると,整数全体を,3で割り切れるか,1余るか,2余るか,という3種類に分割することができます*3。このことに関連する用語は「剰余類」です。この語は,小学校の算数では学習しませんが,かわりに『算数教育指導用語辞典』や『小学校学習指導要領解説算数』に出現するのは「類別」です*4
 かけ算では,2項演算の一つの因数を固定することで,単項演算を考えました。整除から偶数(や剰余類)を考えるのも同様でした。それらは,2年で学習するかけ算や,5年で学習する偶数・奇数について,(数学的背景のもとで)定義する方法の一つであり,それに従う必要がない点にも注意したいところです。2+2+2=6というたし算(累加)の考え方は,かけ算にも,偶数かどうかの判定にも,活用できます。

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140924/1411511070より:「手続きbとcの間には強い非対称性がある.それらは,乗法の交換法則によって数学的には等しいかもしれないが,概念的には同一ではない.」

*2:関連:http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/06/page6_08.html

*3:関連:https://twitter.com/flute23432/status/1051811919080783872

*4:ただし「類別」は,「ある整数でわったあまりに着目」以外にも考えることができ,例えば(0以上の)整数を,「素数」と「合成数」と「素数でも合成数でもない数」に類別することもできます。数直線を使うと,奇数・偶数や剰余類は,規則正しく表現できますが,素数についてはそうはいきません。