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かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

3÷1.5は1×2

 https://twitter.com/takehikom/status/857369826242605056から始まる一連のツイートを参照され,記事に修正がなされています。修正前の内容は,魚拓より読むことができます。
 選ぶ図と式を正しいものに変更しているほか,「演算決定論」のうち「演算決定」にカギカッコをつけています。また「この問題に対して,教科書は二重数直線を書かせて」だったところは,「大日本図書の教科書は二重数直線の形から」に変わっています。
 とはいえ以下のツイートについて,教師経験者・指導者としての知見やアドバイスが見当たらないのは,残念なところです。

 ところで,https://twitter.com/takehikom/status/857370189939097600とその次のツイートの「1.5×2」は間違いでした。もとの記事にもあるとおり,「1×2=2」であり,その考え方は「3kgは1.5kgの2倍」です。そのことが分かるよう,図にかき加えると,次のようになります。
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 二重数直線を使わせてもらいましたが,これらの数の関係は,2行2列の表であらわすこともできます。関係表に「何倍」「何でわる」といった関係を添え,複数の式の立て方が可能となるのは,『田中博史の算数授業のつくり方』やVerguand (1983, 1988)でも見ることができます。
 二重数直線に関して,以前に作ったまとめは,「×」から学んだこと 14.02 - わさっきです。そこでもリンクしている,二重数直線といえば必読の白井ら(1997)を読み直したところ,「ある種のかけ算が,わり算に置き換えられる」事例を見つけました。
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 二重数直線があり,上の数直線には「(kg)」,下の数直線には「(倍)」が,右方に書かれています。「倍を表す数直線が□倍になると重さも□倍になるという関係を見いだす。」という文から,30×□=90という式にし,そこから,□=90÷30としています。ここでは,両辺を30でわったのではなく,3年で学習する,乗法と除法の相互関係をもとにしたと考えられます。
 なお,⑧の番号が見られますが,該当のページは全体が1つの表になっていて,丸囲みの番号は1から12まであります。二重数直線は②から⑧までに使用されており,⑥の式は「20×5=□」でいわゆる第2用法*1,⑦は「□×4=24」と「□=24÷4」で第3用法(等分除),⑧は上記のとおりで第1用法(包含除,割合を求める演算)です。
 大日本図書の丸たの図から,見いだすことのできる「×2」も,割合に対応します。
 2017年になんだかんだ言っていることは,20年前にきちんと考慮されていた,というわけです*2
 ところで,二重数直線は現行の小学校学習指導要領解説算数編(2008年)に掲載されており,前のものにはありません*3。近年の教科書で採用されているのも,その記述が反映されたと考えることができます。良性か悪性かは分かりませんが,腫瘍と診断されて取り除かれるべきなのは,教科書よりも,信頼性に欠けたブログの記述ではないか,とも思います。

*1:「『3用法』は時代遅れ」と思った方は,教育工学の分野ですが今年論文になったhttp://search.ieice.org/bin/summary.php?id=j100-d_1_60&category=-D&year=2017&lang=J&abst=をご覧ください。http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20170105/1483561059にて紹介しています。

*2:二重数直線の背景にあるのは「比例関係」です。これについて白井らは,演算決定の根拠として,(a)から(f)までを挙げてからそのいくつかに課題を指摘したのち,「しかし,(f)の数直線をもとにする方法は,数が拡張されても,問題文が複雑になっても,数量関係を明確にとらえることが容易である上に,比例的な関係をもとに,演算決定も簡単にできる.」と述べています。

*3:新しい学習指導要領に基づく「解説」では,「二次元表」が掲載されるかが,気になっています。全国学力テストの今年の出題や,日本学術会議の分科会による昨年の提言とともに,主要なところをhttp://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/04/21/062705に書きましたのでご覧ください。

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展開と因数分解が,平方根よりも先なのはどうして?

 記憶でいうと,自分も,中3の数学の教科書は,展開・因数分解が先で,平方根二次方程式へと進んでいました。きちんと検証するには,教科書の読み比べが必要となりそうです。
 なのですがそもそも,学習指導要領は何を学習すべきかを記述したものであり,とくに同学年において,どのような順序で学習すべきかまでは規定していないはずです。一例として,小学校学習指導要領の算数の第2学年では,「一つの数をほかの数の積としてみるなど,ほかの数と関係付けてみること。」が,「乗法の意味について理解し,それを用いることができるようにする。」より先に出現します。ですが,積の概念やアレイのような並べ方を,かけ算の導入に先立って取り上げている教科書は,思い浮かびません。
 中学校学習指導要領の数学,そして中学校学習指導要領数学編のPDFにアクセスしてみると,PDF文書の中に,気になる記述を見つけました(p.135)。

文字を用いた式でとらえ説明すること
 乗法公式や因数分解の公式は,数や図形の性質などが成り立つことを,文字式を用いて説明したり,二次方程式を解いたりする場合にしばしば活用される。したがって,これらの公式を能率的に活用し,目的に応じて式を変形したり式の意味を読み取ったりできるようになることは重要である。第2学年における指導を踏まえ,文字を用いた式で数量及び数量の関係をとらえ説明することができるようにし,文字式を用いることのよさや必要性についての理解を一層深める。例えば,「連続する二つの偶数の積に1をたすと奇数の2乗になる」ことを説明する場合,その過程はおよそ次のようになる。
① 小さい方の偶数を自然数を表す文字nを用いて2nとすると,大きい方の偶数は2n+2と表すことができる。
② 「二つの偶数の積に1をたす」ことは,2n(2n+2)+1を計算することを意味する。
③ その計算結果が「奇数の2乗になる」ことを示したいのだから,2n(2n+2)+1を(奇数){}^2という形の式に変形することを目指す。
 こうした方針を明らかにした上で具体的な式変形の過程を示し説明することで,「連続する二つの偶数の積に1をたすと奇数の2乗になる」ことが伝わりやすくなる。ここで説明とは,単に説明が書けることだけを意味するものではなく,その内容を,相手に分かりやすく伝えることも意味する。

 また,この学習では,[tex:2n(2n+2)+1]=[tex:(2n+1)^2] という式の変形を振り返り,2n+1が,連続する偶数2nと2n+2の間の奇数であることから,「連続する二つの偶数の積に1をたすと二つの偶数の間にある奇数の2乗になる」とその意味を読み取ることもできる。これは,第2学年の「B図形」の領域における「証明を読んで新たな性質を見いだすこと」とかかわる内容である。

 2n(2n+2)+1をもとに(2n+1)^2を得る(因数分解する)のは,2n(2n+2)+14n^2+4n+1としてから,a=2n,b=1とおいて,a^2+2ab+b(a+b)^2を適用するのが一つの手です。
 面積を用いた説明も可能です。
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 縦が2n,横が2n+2の長方形について,その中の右端にあたる,縦が2n,横が1の部分長方形を切り出し,90°回転させて,この図形の下に貼り付けると,縦が2n+1,横も2n+1の正方形から,右下隅の1×1だけがない形状ができます。そこで「+1」をすることで,正方形が出来上がるのです。
 さかのぼって平方根について,中学校学習指導要領解説数学編では次のように書かれています(p.130)。

平方根の必要性と意味
 第1学年では,数の範囲を拡張し,正の数と負の数の必要性と意味を理解できるようにしている。数の範囲を拡張することは,新しい数が導入され,これまで数で表すことができなかったものが思考の対象になることを意味する。日常生活には,例えば,1辺の長さが1mである正方形の対角線の長さのように,これまでの有理数では表すことのできない量が存在している。このような量を表すためには新しい数が必要になる。また,数を2乗することの逆演算を考える場面で,有理数では表すことのできない数が存在することの理解が必要となる。このような学習を通して,正の数の平方根の必要性を理解できるようにする。

 そうしたとき(そして学習指導要領の記載順に学習する必要はないのを前提に加え),正方形・長方形の面積や,2乗の概念をしっかり復習しておき,次に2乗の反対となる操作として,平方根を,上記のとおり「1辺の長さが1mである正方形の対角線の長さ」を一例として導入することには,合理性があるようにも思えます。
 「展開と因数分解が,平方根よりも先なのはどうして?」の答えとしては,展開・因数分解と,平方根を学習する間に,図形による解釈が入れられるからでは,となります。
 あとは余談です。「因数」の用語は中学3年で学習するのを,本記事を作りながら知って軽く驚きました。また自分が学んだときは,自然数素因数分解は中学1年でしたが,現在では3年に入っています。学習指導要領データベースインデックスより,昭和52年度の「小学校学習指導要領(昭和55年4月施行)」と「中学校学習指導要領(昭和56年4月施行)」を読み比べると,当時は「公約数」「公倍数」は小学校,「最大公約数」「最小公倍数」は中学校だったのですか。

省略棒グラフの使いどころ

 先に結論を書いておくと,算数教育における省略棒グラフの使いどころとして,「批判的に吟味する対象」と「仮の平均の視覚化」が挙げられます。今年出た2つの情報から,そのことを見ていきますが,まずはネットの情報からです。
 棒グラフで縦軸を省略するものについて,検索すると,途中を波線で省略したグラフを作成 - 棒グラフ - Excelグラフの使い方が上位に出てきました。作るのに手間がかかるなあ,と感じました。
 ただしこの例は,縦軸になる値が複数の範囲に分かれる状況で,範囲の間に波形オブジェクトを入れ,1つの棒グラフにしようとしています。そうではなく,値の範囲が比較的近い(例えば,7.2mから7.6mまでの範囲に収まっているような)とき,棒グラフ上のすべて棒に適用するのも,よく見かけます。Excelでも,軸の最小値を変更することで,容易に実現できます。
 その種のグラフへの批判について,探してみると,https://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/blog/node/2304を見つけました。この中で,「まだまだある省略棒グラフ」と題して,平成19年度全国学力・学習状況調査の予備調査の問題例の算数問題の棒グラフが二つとも省略線入りだったと指摘しています。またPISA国際学力調査の問題例については,「省略棒グラフに騙されないようにという問題」と書いています。
 全国学力・学習状況調査の予備調査もまた,「騙されないように」だったのではと思いながら,方向を変えて探していくと,平成19年度の調査実施:文部科学省平成19年度全国学力・学習状況調査の予備調査について(※国会図書館アーカイブページへリンク)があり,その別添資料1より,具体的な問題を見ることができました。
 「騙されないように」が入っていました。該当箇所を抜き出します。

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 ただし,他の小問では,別の省略棒グラフが「どの表やグラフを使えばよいか」の正解になっているところもあり,省略棒グラフそのものについて否定的ではなさそうです。
 2017年の本にも,算数教育における省略棒グラフの使われ方が書かれていました。

平成29年版 学習指導要領改訂のポイント 小学校 算数 (『授業力&学級経営力』PLUS)

平成29年版 学習指導要領改訂のポイント 小学校 算数 (『授業力&学級経営力』PLUS)

 以下の箇所です(p.23)。

❶ある目的に応じて示されたグラフを多面的・批判的に吟味する活動を取り入れる
 これは,他者が作成したグラフの妥当性を多面的じゃつ批判的に検討する活動である。棒グラフや折れ線グラフでは,波線を用いて縦軸を省略すると数量の違いや変化が誇張される場合がある。例えば,教師の方から誇張して表されたグラフとそこから導いた結論を提示し,子供がグラフや結論の妥当性について個人で考えたり,クラスで話し合ったりすることを通して,よりよいグラフにつくり替え,結論を再び導く活動などが考えられる。(略)

 これも,「騙されないように」を培う活動と言ってよく,前述の予備調査に見られる「金曜日におにぎりを買った人の数は,火曜日におにぎりを買った人の数の4倍だね」に対しては,そうではないと言えるようになることを目指しています。なお,❷は「目的に応じてグラフをつくり替えていく活動を取り入れる」,❸は「集団を比較する活動を取り入れる」となっていました。
 今年の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の解説に,「仮の平均の解説で棒グラフの一部省略が使われていること」は,4月21日付けの当ブログで書いていましたが,詳しく見ていきます。算数B大問3です。ゴムの力で動く車を作り,輪ゴムを伸ばして離して,車が進んだ距離を5回調べて表にし,平均を求めます。小問の(2)は,「7m20cmをこえた部分に着目した平均の求め方を,言葉や式を使って書きましょう」となっています。
 解説資料のp.70には以下のとおり,先に省略なしの棒グラフ,そして矢印を置いて次に省略棒グラフが,提示されています。

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 いずれの棒グラフも,そこからそれぞれの値を読み取ったり,割合を求めたりするのではありません。仮の平均を使いながら効率良く実際の平均を算出した上で,なぜ7m20cmを仮の平均にしたかを,可視化したものとなっています。出題意図としてはそのほか,小問(1)では平均を求める際に,除外値はわる数に入れない(4でわる)のに対し,小問(2)の実測値7m20cm,仮の平均のもとでは0cmになった値も,勘定に入れる必要がある(5でわる)点も,指摘することができます。
 ここまで,省略棒グラフの使いどころとして,「批判的に吟味する対象」と「仮の平均の視覚化」を見てきました。「量の違いの視覚化」として,省略棒グラフの使おうとするのは,算数教育では否定的と理解してよさそうです。またいずれの省略棒グラフも,先生や,テスト出題の側が用意しています。算数では,子どもたちによる作成は不要と見ることもできますが,社会や,総合(総合的な学習の時間)では,どうでしょうか。

全国学力テストの算数ABに二次元表

 4月18日に全国学力・学習状況調査が実施され,調査問題や解説資料が公表されています。

 算数A・算数Bをざっと読みまして,その両方で,二次元の表が出題されているのに,驚きました。
 算数A大問9(最後の大問)は,家でイヌやネコを飼っているかどうかを聞き,出席番号・イヌ・ネコの3列からなる表にしています。次のページで,次の表に対し,2つの小問を与えています。

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 算数B大問4では,5年生のハンカチとティッシュペーパーを持ってきた人数に関して,一部数値が書かれている表があります。
 解説ではこれらの表は「二次元表」と表記しています。また平成21年度【小学校】算数A大問8で出題されているとあるので,アクセスしてみると,http://www.nier.go.jp/09chousa/09kaisetsu_shou_sansuu.pdf#page=44に表記されていました。この1つ前のページで問題文を読むことができ,聞いた人数も,飼っているかどうか(○×)も,今年のと同一でした。
 小学校学習指導要領解説算数編には「二次元表」の名称はありません。ただ,この種の表をつくることについては,第4学年D(数量関係)で記されていました。PDF版ではpp.160-161です。

(4) 目的に応じて資料を集めて分類整理し,表やグラフを用いて分かりやすく表したり,特徴を調べたりすることができるようにする。
ア 資料を二つの観点から分類整理して特徴を調べること。
イ (略)

(略)
 ア 二つの観点から分類整理すること
 第4学年では,資料を二つの観点から分類整理して表を用いて表すことができるようにする。
 資料を集めて分類整理するに当たって,目的に応じ,ある観点から起こり得る場合を分類して,項目を決めることが必要である。例えば,A,Bの二つの観点から資料を調べるとき,Aから見て資料は「性質aをもっている」と「性質aをもっていない」の場合が考えられ,またBから見て資料は「性質bをもっている」と「性質bをもっていない」の場合が考えられる。そのとき,これらを組み合わせると,資料についてA,B二つの観点から見て,四つの場合が考えられる。
 このように,二つの観点から,物事を分類整理したり,論理的に起こり得る場合を調べたり,落ちや重なりがないように考えたりすることが大切である。

 この表は,昨年,日本学術会議数理科学委員会数学教育分科会が出した「初等中等教育における算数・数学教育の改善についての提言」でも見かけました。http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-t228-4.pdf#page=14に載っており,本文は「例えば,第1学年の「資料の活用」領域に,二次元表の行比率や列比率に関する学習14を位置づけることが考えられる。」で,14について,同じページに脚注が記されています。

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 この提言を受けて,全国学力テストでの二次元表を出題した,という推測もできます。とはいえ「二次元表」の用語は以前からあったわけですし,今年3月に告示された新しい学習指導要領には用語としては見当たらず,また「二次元表の行比率や列比率に関する学習」は小中いずれの指導要領にも,また今回の出題にも,見当たりませんでした。方向性はよく分からない,といったところです。
 他の出題で気になったこととして,最小公倍数を答える問題の解説で,倍数を小さい数から列挙する際に0が入っていないこと,仮の平均の解説で棒グラフの一部省略が使われていること,問題文の月のイメージについて,国立教育政策研究所公開のものは画像なし,毎日新聞https://mainichi.jp/scholartest2017/)では画像ありとなっていること,をあげておきます。

アレイだとa×b=b×a,を超えて

 先日Amazonより取り寄せた,B5判の2冊の本で,「アレイ図」が活用されていました。

平成29年版 学習指導要領改訂のポイント 小学校 算数 (『授業力&学級経営力』PLUS)

平成29年版 学習指導要領改訂のポイント 小学校 算数 (『授業力&学級経営力』PLUS)

 第2章(事例で見る学習指導要領改訂のポイント)の中のp.54に,「24個のおだんごがあります。そのおだんごを並べます。ひと目でいくつあるかがパッと分かるように,並べてみよう。」という問題文が,角丸四角形で囲まれています。
 このページには4つのアレイ図が見られます。上から順に,次のとおりです。

○○○
○○○
○○○
○○○
○○○
○○○
○○○
○○○
○○○○○○○○
○○○○○○○○
○○○○○○○○
 ○○○○
○○○○○
○○○○○
○○○○○
○○○○○
○○ ○○ ○○
○○ ○○ ○○
○○ ○○ ○○
○○ ○○ ○○

 本文では,それぞれの図に対して「8×3」「3×8」「5×5=2,25-1=24」「4×2×3」という式を対応付けています。前二者については「8×3=3×8とまとめていく展開が通常よく見られる」ともあります。
 明示されていませんが,最後の式*1の2番目の乗算記号を除き,かけ算の式は「縦の個数×横の個数」で共通しているのは,興味深いところです。
 もう一つの本に移ります。

知的にたくましい子を育てる算数の授業づくり (算数授業研究特別号19)

知的にたくましい子を育てる算数の授業づくり (算数授業研究特別号19)

 この本では,2年生の研究授業の3番目(p.45)に,スイカのアレイを黒板に貼り付けた写真が載っています。
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 「スイカはいくつ?」の問題文と,「しきとこたえ」「6×5=30」も,書かれています。おおそらくいずれも先生が書いたのでしょう。そして子どもが指をさし,マイク*2を持って,なぜ6×5の式になるかを説明しているような構図です。
 ここのかけ算の式は,「横の個数×縦の個数」です。
 写真の前後では,5×6の式も出現します。そして「5×横の個数」のほうが計算しやすいこと,もっと言うと,a×5と5×aとで,意味が異なることを示しています。

 子どもたちはかけ算の式に表す学習をしており、九九の暗唱はまだしていない状態での授業である。
(上の写真)
 そんな子どもたちに教師から「スイカ畑にスイカがいくつあるのか」が問題として提示された。スイカの並びは6×5にも5×6にも見える。
 まだかけ算九九の暗唱はしていないので、6×5よりも5のまとまりで数えていく5×6の方が数の確認がしやすい。
 このスイカ畑にはさらに奥にもスイカが並んでいた。8×5と5×8のかけ算を考えることになった。
 8×5は8+8+8+8+8
 5×8は5+5+5+5+5+5+5+5
(写真:省略)
 5×8は5とび、あるいは2つの5で10とびにして数えていった。
(写真:省略)
 さらにスイカ畑は14列まで伸びていった。かけ算の式に表せば5×14である。ただし、5とびの数なのでかける数が12を超えても、10のまとまりをつくって答えを出すことができた。

 「5とび」「10とび」について,『小学校学習指導要領解説算数編』では「5ずつ,10ずつ」という表記で,第1学年および第2学年に出現します。すでに授業で学習した上で,かけ算の式の表し方,そして累加による計算をしているのが,上の引用から読み取れます。
 そうしたとき,5行6列に並んだスイカの並びを6×5と表現でき,累加で計算が可能だけれど,実はこの場面では,手間を要するのであって,5×6と表すほうが,計算しやすく,「5とび(5ずつ)」から「10とび(10ずつ)」に移行することもできてより良い,ということにもなります。
 黒板で先生が書いたと思われる「6×5=30」の式も,そこへの誘導のためだった,というわけです。
 本日取り上げた2つの事例について,ゴールは異なっていますが,「1つのアレイでa×bにもb×aにも表せる」ことを超えた学習を目指している,という共通点があります。当ブログでは引き続き,こういった知見を得ることを目指し,文章にしていきたいと考えています。

*1:考え方としては「4×2が3つ」でしょう。本文中には「結合法則に発展させることもできる」とあります。乗法の結合法則といえば3年ですが,p.54の上部には,「「数学的な見方・考え方」を働かせる学習課題の工夫例 3年」の見出しがつけられています。

*2:「2015年7月19日 オール筑波算数サマーフェスティバル」ともあるので,公開授業のワンシーンと思われます。

「2×3? 3×2? どっちでもいい?」第3版

 スライドを「第3版」にアップデートしました。Q&Aについて,以下のとおり,変更しました。
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 「「タコが2匹で足は何本ですか」に2×8と式を書く子どもは,タコが2本足だと考えている?」のほうは,「[坪田2010]にあるブラジルの子の話も同様です」を追加しただけです。[坪田2010]とは,以下の本です。

坪田耕三の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

坪田耕三の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

 「ブラジルの子の話」は,p.138に載っています。

ブラジルに行ったときに6の目のサイコロを見せて,「サイコロの目の数はいくつですか」と言うと,みんな「6」と言った。「どうして6と考えたの」と尋ねるとある子が出てきて,「3×2」と書いたんです。これを3×2と見たわけを聞きました。私がどうしてそんなことを聞いたかというと,式の後ろに潜んでいる感覚は,日本語圏以外では普通意味が逆です。3×2と言えば,日本では「3個のかたまりが2個ある」という意味ですが,英語圏も中国語圏もみんな「3個ありますよ,2つのものが」という意味です。
一番わかりやすい例は,陸上競技で4×100mリレーという表示がありますね。日本で正しく勉強している子なら,4mを100人で走ると言うことになる。でも,誰もそう解釈しませんね。これは世界共通で4人で走りますよ,100mずつを,という意味の表示です。日本とは式の意味が逆なんです。だから,3×2とブラジルの子が書いたから,あえてちゃんと聞いてみたいと思ったんですね。そうしたら,はじめに出てきて説明した子は3個ずつのかたまりを作ってそれが2つ分と言いました。おやっ,これは日本と同じだぞと思っていると,他の仲間みんなが違う違うと言うのです。要するに間違っていたのです。どこの国も同じですね,間違える子がいるのは。本当は2個のかたまりが3個分だと別の子が説明してくれました。

 最後の文の,別の子の説明は,「3×2と書いたら,2個のかたまりが3個分になるんだよ」なのだと理解すれば,納得がいきます。
 Q&Aの「算数と数学は違うの?」について,回答の最初の項目を完全に書き換えました。「数学的活動」という言葉は,現行より前の学習指導要領でも見かけますが,今年,文部科学省が公開した学習指導要領では,算数の最初(第1 目標)のところでも,「算数的活動」が消えて「数学的活動」が使用されています。このことは例えば,https://www.kyobun.co.jp/wp-content/uploads/2017/02/c33e44592b6634beaefde66e279aa70a.pdf#page=66の新旧対照表より確認ができます。
 回答の2番目の項目は,「[蟹江2009]」と「[中島1968]」を交換しました。それぞれより感銘を受けた記述を,書き出しておきます。

数学教育は, 数学ではない. 数学教育は, 高度に専門的な数学の知識を基本的に使用する, 専門分野のひとつである. この意味において, 私の思うに, 数学教育応用数学の一種と見なすことが有用となる. そして, 数学者が「応用数学としての数学教育」への貢献を望むのなら, 最初の課題は, 他の応用数学の場合と同様, 応用の対象領域における数学的な問題の性質, そして, この領域で有用ないし利用可能な数学的知識の形式を, 感覚的(sensitively)に理解することである.
(p.30)

こどもには,アレイも集合の直積も学習させてよいが,だいじなことは,こどもに学問のしかたを教えることであって,学問からはじめることを主張すべきではない.
(p.75)

かけ算の意味,式の意味

「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント)

「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント)

 この本で,「かけ算」(実施学年2年)の授業例がpp.36-39に載っていました。はじめの2ページにまたがって,単元計画が箇条書きになっていたので,書き出します。

(3)単元計画
かけ算(1)
 第1次 かけ算の意味
 ・「1つ分の数」×「いくつ分」のかけ算の式の意味と答えの求め方(累加)を知る
 第2次 5の段までの九九の構成
 ・かけ算の意味を基に九九の構成の仕方を知る
 ・積と乗数の関係(かける数が1増えるとかけられる数の分だけ積が増える)、交換法則、分配法則を発見的に学ぶ
かけ算(2)
 第1次 6の段~9の段の九九の構成
 ・5の段までの学習で見出したきまりを活用して、自分で九九を構成する
 第2次 かけ算の問題解決
 ・九九の構成で見出したきまりなどを活用して問題解決する(略)

 「かけ算の意味」と「かけ算の式の意味」が,書かれています。それらの違いは,明示されていませんが,語感としては,こうでしょうか。まず「かけ算の意味」に「を理解する」をつけ加えれば,文章題や絵で提示された場面に対し,子どもが「あ,これはかけ算で答えが出せる」と判断し,式で表してから,累加や九九などを使って答えを求めることと,結びつけられます。
 それに対し,「かけ算の式の意味」を「理解する」というと,式の表現と式の読みになってきます。「1つ分の数」を乗算記号の左に,「いくつ分」を右に置いて,かけ算の式で表すのが,式の表現なのに対し,式の読みとなると,4×3のような式から,それに合うようおはじきを並べるような活動が含まれます。「えんぴつを 2人に 5ほんずつ くばります。えんぴつは,ぜんぶで 何本 いりますか。」*1に対して,かけ算の式は2×5か5×2かというのは,式の表現と式の読みの両方を扱った討議として,授業で活用できます。
 「意味」の語が見当たらないものの,「かけ算の意味」と「かけ算の式の意味」の違いに注意した,学習指導案のPDFファイルが,以下よりアクセスできます。

 終盤に,「かけ算が使えるようにする考え方をルーブリックにより評価する。」を2重線で囲んで,1つの文章題を提示し,子どもの自由な表現を引き出す試みを行っています。文章題は以下のとおりです。

2年生は「みどり組」「白組」「赤組」の3クラスあります。
では,ふぞく小学校ぜんぶでは,何クラスあるでしょう。なるべくかんたんにもとめる
方ほうを考えて,図やしきやことばをつかってせつめいしましょう。
(ヒント 1年生は「月」「空」「にじ」「ほし」の4クラスあるよ)

 注意したいことが1つあります。3×6+1=19も6×3+1=19も,正解となっています。というのもこの学校では,1階・2階・3階に6クラスずつ*2,そして4階に4年緑組があるからです。
 どんな解答または反応をとったら,どんな評価にするかが,ルーブリック(評価指標)としてあらかじめ作成され,授業後に,どこに位置するのが何人と,集計されています。
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 ここで興味深いのは,「2」の右側に,「被除数と,除数のまちがい。」が入っていることです。文書全体で,わり算のことは書かれていませんので,これは「被乗数と,乗数のまちがい。」に読み替える必要があります。
 そうしたとき,「3クラスずつ6学年,だけど1年生だけ1クラス多い,だからしきは6×3+1=19」のような答案に対しては,2の評価になりそうだな,と読むことができます。授業後の評価の結果の「2…4名」について,実際にはどのような解答だったのかは,文書に載っていませんが。
 また7×3+1=22は,2の評価となるのが想像できるのに対し,5+5+5+4=19は,場面はイメージできているけれどもこの基準では1の評価となっています。このルーブリックにおける0から3までの値は,「順序尺度」であることにも,留意したいものです。3と2とを分断するのは「かけ算の式の意味」なのに対して,「かけ算の意味」の理解は,2と1の境界(より正確には,「0・1」と「2・3」の分割)を定めています。

*1:東京書籍の算数教科書より。以下にて読むことができます。https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text/shou/sansu/files/web_s_sansu_gakuryoku1.pdf#page=2

*2:ある子どもの吹き出しには「1階に7クラス(以下略)」とありますが,誤記というよりは,ルーブリックにおける「学年,クラスの数をまちがって考えている」に該当する例として,記載したものと思われます。