かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

東京新聞「掛け算の順序論争再燃」から,「順序」の出現箇所を求める

 「2020年度の新指導要領きっかけで 「掛け算の順序」問題再燃」(東京新聞 2017年7月10日朝刊 11版 22・23面)について,独自にテキスト化したものを対象に,「順序」の語が,前後にどのような表現を伴って出現するかを,取り出してみました。KWIC (keyword in context)形式にしています。

 掛け算の 順序 論争 再燃
ては「式に 順序 がある」と
、掛け算の 順序 を肯定する
たためだ。 順序 否定派から
成り立ち、 順序 は関係ない
が掛け算の 順序 を公式に認
せ、『この 順序 で式を書い
×幾つ分の 順序 でも、5×
、掛け算の 順序 も意味がな
西沢氏は「 順序 にこだわる
。掛け算で 順序 を求められ
「掛け算の 順序 を固定化す
 掛け算の 順序 をめぐる論
かけ算には 順序 があるのか
幾つ分」の 順序 と同じだ。
の子には、 順序 を守るよう
、掛け算の 順序 が明記され
幾つ分」の 順序 を容認した
、掛け算の 順序 について直
掛け算には 順序 がある』と
ため」と、 順序 肯定派と同
ると、式の 順序 で「×」と
。掛け算の 順序 を勧める意
向がある。 順序 を強調した
、掛け算の 順序 にこだわる
のどちらの 順序 が正しいと
本質には、 順序 を入れ替え
師の求める 順序 と違うから

 「順序」の左には「掛け算」がよく出現します。なお,上記に「かけ算には 順序 があるのか」というのも見えますが,これは書籍名だからでして,本文では前後にカギカッコがついています。他にもう1箇所,「かけ算」の表記が見られ,これはコメント(カギカッコ内)でした。それ以外は「掛け算」です。
 「掛け算」の前後は,以下のとおりです。

きっかけ  掛け算 の順序論争
で教わる「 掛け算 」。5×4
解説書に、 掛け算 の順序を肯
この問題を 掛け算 の式で表す
 しかし、 掛け算 には「交換
「文科省が 掛け算 の順序を公
は「初めて 掛け算 を習う子ど
の区別も、 掛け算 の順序も意
について「 掛け算 でなく、足
てもいい。 掛け算 で順序を求
尋ねると「 掛け算 の順序を固
本文)   掛け算 の順序をめ
年代には、 掛け算 を学び始め
導Ⅱ」で、 掛け算 の順序が明
解説では、 掛け算 の順序につ
あくまで『 掛け算 には順序が
、子どもに 掛け算 の意味を理
学二年生が 掛け算 を教わる毎
分もある。 掛け算 の順序を勧
を示して、 掛け算 の順序にこ
摘する。「 掛け算 学習の本質
なければ、 掛け算 を教えたこ
メモ)   掛け算 教育の舞台

 「掛け算の順序」の前後は,以下のとおりです。右側の動詞が,この記事の特徴を表していると言ってもいいでしょう。

きっかけ  掛け算の順序 論争 再燃
解説書に、 掛け算の順序 を肯定する
「文科省が 掛け算の順序 を公式に認
の区別も、 掛け算の順序 も意味がな
尋ねると「 掛け算の順序 を固定化す
本文)   掛け算の順序 をめぐる論
導Ⅱ」で、 掛け算の順序 が明記され
解説では、 掛け算の順序 について直
分もある。 掛け算の順序 を勧める意
を示して、 掛け算の順序 にこだわる

 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1についても,「順序」の出現箇所を取り出してみました。各行の後ろに,ページ番号を添えています。「(p.114)」の行の左側で,「数と乗数の」が3つあるのは,いずれも「被乗数と乗数の順序」の一部です。

数の大小, 順序 と数直線/ (p.12)
する手順を 順序 よく的確に (p.26)
併,増加, 順序 数を含む加 (p.45)
表したり, 順序 を表したり (p.48)
単に指導の 順序 として取り (p.57)
数の大小や 順序 を考えるこ (p.77)
数の大小や 順序 を知り,次 (p.77)
数の大小, 順序 と数直線  (p.78)
数の大小や 順序 ,系列など (p.79)
める場合( 順序 数を含む加 (p.83)
める場合( 順序 数を含む減 (p.83)
を通して, 順序 数を含む場 (p.85)
数の大小や 順序 について理 (p.03)
数の大小, 順序 などについ (p.04)
加法では, 順序 を変えて計 (p.111)
とめたり, 順序 を変えたり (p.112)
うに,表す 順序 を日本と逆 (p.114)
数と乗数の 順序 は,「一つ (p.114)
数と乗数の 順序 が,この場 (p.114)
数と乗数の 順序 に関する約 (p.114)
とめたり, 順序 を変えたり (p.139)
し,大小や 順序 についての (p.149)
に,計算の 順序 についての (p.193)
番目という 順序 数を長さへ (p.205)
つか求め, 順序 よく並べて (p.211)
る値の組を 順序 よく表など (p.212)
ないように 順序 よく数える (p.218)
に着目し, 順序 よく整理す (p.281)
た,文字に 順序 よく数を当 (p.284)
り,文字に 順序 よく数を当 (p.285)
り,文字に 順序 よく数を当 (p.285)
その指導の 順序 や取扱いに (p.300)
得る場合を 順序 よく整理す (p.307)
に着目し, 順序 よく整理す (p.307)
整理して, 順序 よく列挙で (p.307)
得る場合を 順序 よく整理し (p.307)
得る場合を 順序 よく整理し (p.307)
じるような 順序 や組み合わ (p.307)
に着目し, 順序 よく整理す (p.308)
      順序 よく整理す (p.308)
効に働く。 順序 よく調べて (p.308)

 「掛け算の順序」と書いて,その問題(issue)や課題(problem)が分かったつもりにならないよう,引き続き情報収集と整備にあたることにします。

東京新聞「掛け算の順序論争再燃」を読んで思ったこと

  • http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2017071002000116.html東京新聞:2020年度の新指導要領きっかけで 「掛け算の順序」問題再演:特報(TOKYO Web),デッドリンク

 この記事について,紙面の複写を得ることができました。東京新聞 2017年7月10日朝刊 11版 22・23面です。Web上で見かける,中日新聞2017年7月13日朝刊記事の撮影画像と異なり,タイトルに「学び始めに必要?」がなく,リードが縦書きになっているなど,見た目の違いもありますが,本文は同じと思われます。Webでは「再演」となっていますが紙面は「再燃」です。「順序」は28回出現します。
 書き方で,気になったところがあります。いずれも後半,芳沢氏のコメントがカギカッコになった箇所です。
 まず「この場合、5×3、3×5のどちらの順序が正しいとも言えない」を目にして,2つの式がともに,正解か不正解か判定できず,にっちもさっちもいかない状況が思い浮かびました。代わりに「この場合、5×3、3×5のどちらの順序のみが正しいとも言えない」と書いてあれば,戸惑いませんでした*1
 もう一つ,「『三つの角が違う二等辺三角形がある』などと授業中に公言する教師までいる」について,三角形を考えるなら,違うところに3つの角がないと困ります。ここは「三つの角の大きさが違う…」としたいところです。なお,「角」と「角の大きさ」の違いについては,新しい解説のPDFのp.158に書かれています。
 書き方から中身に移っていくことにします。芳沢氏のコメントのうち「掛け算学習の本質には、順序を入れ替えても答えは同じという交換法則を理解することがある」に,違和感を覚えました。算数・数学教育で,そんな「本質」を聞いたことがなく,むしろ,演算の対象を整数,有理数(小数,分数),実数,複素数へと拡張していっても,交換法則などが成り立つことを確かめる活動が期待されています。小学校算数の範囲では,(0以上の)整数および有理数に限られ,新しい解説のPDFで関連する記述を,第4学年のp.196,第5学年のp.238,第6学年のp.283より読むことができます。
 まったく異なる情報源で,「かけ算の本質」という言葉が,2015年に復刊された以下の本に出現します。

復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方

復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方

  • 作者:中島健三
  • 発売日: 2015/07/06
  • メディア: 単行本

 主要な箇所(pp.77-78)を,かけ算の本質(構造)とは~『復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方』を読む - わさっきより孫引きします。

上の図式は,A×p(=B)という「かけ算の本質(構造)」を,「Aを1としたときpに相当する大きさを表すこと」,すなわち,「pに比例する」という考えでとらえ,それを「関数尺」として表わしているものである。乗数pが小数,分数の場合は,下側の目盛りで,整数点以外のところをよめばよいということで,その一般化が比較的容易とみられるところに一つのポイントがある。(30×2のようなかけ算を「30の2ばい」といって,いわゆる「ばい」で規定していこうというのは,上の考えにのせていこうということを指していると解してよい。)

 この「かけ算の本質」や,A×pと,かけられる数を大文字のA,かける数を小文字のpと書き分けていることなどは,新しい解説にも取り入れられていますし,昨年の5月,日本学術会議数理科学委員会数学教育分科会が出した提言に見られる「乗法の拡張における割合の意味付けを学習指導要領に明記する」とも関連します(日本学術会議も掛算順序固定派 - わさっき)。
 「順序を強調した教材ばかりになりかねない」で終わる,高橋氏のコメントを見ると,今後(批判者からすると)悪化していくような印象を,読者に与えていますが,これまでの教科書や授業事例を通した,「順序」の使われ方や,理解のされ方について,記事に言及がないのが残念です.
 平成27年度から30年度まで使用される,算数の教科書について,開始の前年度の教科書展示会で見た状況を,平成27年度算数教科書読み比べ - わさっきにて取りまとめています。新しい解説に見られる「4皿に3個ずつみかんが乗っている」と同様の問題設定(基準量が後に示された問題)が,6社どの教科書にも載っていることや,「かけ算では,じゅんじょをかえてかけても,答えは同じになります。」は交換法則ではなく結合法則に関するまとめであることなどを,確認してきました。
 ところで算数教科書は,今年度に検定がなされます。これまでと同じスケジュール*2を想定すると,来年度に我々も検定済の教科書を見ることができ,その次の年度(2019年度)から使用開始となります。新しい学習指導要領の適用年度は,それより後となりますが,とくに低学年の「かけ算」の学習に関しては,現行の教科書などに見られる内容を,新しい指導要領が追認した,と考えることもできます。

 上の段落について,算数を含む小学校教科書の検定年度が間違っていました。新しい学習指導要領に基づく教科書検定は2018年度,採択は2019年度,使用開始は2020年度からです。詳細は小学校の教科書検定は2017年度と2018年度に - わさっきをご覧ください。

 批判の立場にある人々が実名である一方*3で,肯定派は氏名なしというアンバランスさも,読んで残念に思います。また西沢氏のコメントのうち「この例題は4個が5回分と捉えることができ、一つ分×幾つ分の順序でも、5×4、4×5のどちらも正しい。」のところや,「この場合、5×3、3×5のどちらの順序が正しいとも言えない」と書かれた,芳沢氏による問いについて,いずれも「どのような式が考えられるか」にとどまっており,授業で子どもたちに出題し,「どのような式を作ったか」に至っていないのは,批判や,それをもとにした東京新聞中日新聞掲載記事が,学校現場からかけ離れた認識であるように思えてなりません。一つの出題に対して,かけられる数とかける数とが反対になる,2つのかけ算の式を比較している授業の例として,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130219/1361220251#2にリンクしておきます。


(2020年7月追記)
 東京新聞の算数教育批判記事は,2018年4月にも出ています。複写を取り寄せ,思ったことを書きました。

 またhttps://twitter.com/tokyobunkabu/status/1278558301005860865によると,2020年7月2日付の東京新聞夕刊文化面に,西沢宏明氏の寄稿が掲載されたとのことです。記事全文をtwitterで見ましたので,思ったことを書きました。

*1:ただし、「A地点にたどりつくと、道は5つに分かれる。そのどの道を進んでも、途中からは道は3つに分かれ、どの道に進んでも『行き止まり』になる。A地点から『行き止まり』まで、全部で何通りの道があるか」という問いを,小学校低学年の子どもたちに与えて取り組んでもらうことの是非については要検討です。

*2:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/010301.htm(Q4の回答に,検定・採択の周期の表があります),http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/kentei/1369049.htm

*3:記事本文に「一方」が3回,「指摘」が3回出現し,いずれも否定派を利する使われ方です。

3行4列のアレイと,かけ算の式について―3×4か,4×3か,両方か―

 はじめに,作成した図を:
f:id:takehikoMultiply:20170713062143j:plain
 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1には,第2学年の数学的活動の中に,「ものの個数を数える際に,数のまとまりに関心をもつ活動~乗法との出合い~」という小見出しで,学習例が示されています(pp.126-127)。

ものの個数を数える際に,数のまとまりに関心をもつ活動~乗法との出合い~
 この活動は,「A数と計算」の(3)の指導における数学的活動であり,同数累加の簡潔な表現として,かけ算の式と出合う活動である。第1学年では,10のまとまりが幾つあるかを数えたり,2とびや5とびでものの数を数えたりするなどして,数のまとまりに着目する経験をしてきている。ここではこれらの経験を踏まえて,ものの数をまとまりとして捉えることで構成を再現しやすくなることに気付き,乗法的にみることへとつなげていくことをねらいとしている。
 例えば,映像を見て,そこに表されたものの数をブロックで並べる活動を行う。左のような映像を見て全部で幾つあるかを考える際,「同じ数ずつ」あることに気付くことができれば,それが幾つあるのか,まとまりの個数を数える必要性が生まれる。串が3本あること,団子が4個ずつ並んでいることを見いだせば,同じようにブロックで並べることができる。全部の数も,並べた後で数えることができる。
 この団子の数は,数えると12個である。式で表現すれば,4+4+4と表現できる。しかし,その式では3本と見いだした数を直接表現できていない。そのことを表すためにかけ算を使って4×3という式に表すことを知る。
 また,右のような場面では,「同じ数ずつ」縦横に並んでいることが共有できれば,何をみればよいかが焦点化できる。「縦は何段かな。」「横は何列あったかな。」などである。それらが分かれば,ブロックを並べることができる。縦に3段あること,横に4列あることが見いだせれば,3×4,又は4×3と式で表すことができる。答えは,3+3+3+3として求めることもできるし,並べたブロックを数えて求めることもできる。

 「映像」と「右のような場面」について,それぞれ写真があるのですが引用では省略しています。右のような場面というのは,壁の掲示物で,3段・4列に並んでいます。こちらについて,冒頭で示した画像の左列のように,「●」を用いて構成することができます。それを列ごとに見れば,1つの列に3個,それが4列あるという分け方ができ,このとき,式は4×3=12となります。また,段ごとに見れば,1つの段に4個,それが3列あるという分け方になり,式は3×4=12です。
 団子を含む映像のほうは,クォータービューによる団子のアレイと見ることもできますが,掲示物と異なる点があります。串にささっているのです。「串が3本あること,団子が4個ずつ並んでいることを見いだせば」,1つ分の数は4,いくつ分は3がそれぞれ対応し,式は4×3=12です。
 この団子の並びでは,3×4=12と式に表すことが期待されていません。これは冒頭の画像からいくつかを隠した(使用しないようにした),次の画像で説明ができます。
f:id:takehikoMultiply:20170713062154j:plain
 「1つ分の数は3,いくつ分は4」と認識したときに,そこから,囲い込みのないアレイや,「1つ分の数は4,いくつ分は3」の場面に移動することは,『小学校学習指導要領解説算数編』や,小学校算数の教科書・書籍・学習指導案などから読み取れる状況をもとにすると,期待されていないのです。
 本日の記事を作るきっかけとなったのは,以下の2つのツイートです。個人的には後者に賛同します。

 アレイについては,米国Core Standardsの数学のTable 2も見ておきたいところです。表中の"There are 3 rows of apples with 6 apples in each row. How many apples are there?"は,団子の映像と関連し,脚注の"A harder form is to use the terms rows and columns: The apples in the grocery window are in 3 rows and 6 columns. How many apples are in there?"は,掲示物の並びと同じ構成です。
 アレイという用語は,『小学校学習指導要領解説算数編』で使用されていませんが,中島健三が1968年の論説で紹介しています。遠山啓が1971年に書いた中に「「教室の机は1列に6つずつ4列ならんでいます.机はみんなでいくつありますか」という問題では,4×6でも,6×4でもいいとせざるをえないだろう」と述べていることや,ある問題集には「こしかけを ならべています。1れつに4こずつ 5れつ ならべると,ぜんぶでなんこになりますか」が絵入りで出題され正解は「4×5=20」のみであることなどにも,注意したいところです。

小学校学習指導要領解説算数編と合わせて読みたい,2010年・2011年の文献

 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1では,「1皿に5個ずつ入ったみかんの4皿分の個数」を式で表す際に「一つ分の大きさである5を先に書き5×4と記す」と明記しているほか,数ページ進めた先では,「4皿に3個ずつみかんが乗っている」場面に対する式は3×4となると書かれています。交換法則は,式で表現するときではなく,計算の結果を求める場合に活用してよいとしています。「プリンが3個ずつ入ったパックが5パックあります。プリンは全部で何個ありますか。」と「プリンが5個ずつ入ったパックが3パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」の対置や,「4×100mリレー」という書き方にも,言及がなされています。串にささった団子と,アレイ(長方形的配置)の掲示物の写真について,前者はかけ算の式が1通り,後者は2通りあるのが読めます。これらは現行の解説*2にはなく,新しい解説は,踏み込んだ記述をしていると見ることもできます。
 上記の特徴的な記述が,2010年から2011年の出版物(書籍・論文)にも現れているのに気づきまして,この記事にて紹介していくことにします.

書誌情報および抜粋

 ブラジルに行ったときに6の目のサイコロを見せて,「サイコロの目の数はいくつですか」と言うと,みんな「6」と言った。「どうして6と考えたの」と尋ねるとある子が出てきて,「3×2」と書いたんです。これを3×2と見たわけを聞きました。私がどうしてそんなことを聞いたかというと,式の後ろに潜んでいる感覚は,日本語圏以外では普通意味が逆です。3×2と言えば,日本では「3個のかたまりが2個ある」という意味ですが,英語圏も中国語圏もみんな「3個ありますよ,2つのものが」という意味です。
 一番わかりやすい例は,陸上競技で4×100mリレーという表示がありますね。日本で正しく勉強している子なら,4mを100人で走ると言うことになる。でも,誰もそう解釈しませんね。これは世界共通で4人で走りますよ,100mずつを,という意味の表示です。日本とは式の意味が逆なんです。だから,3×2とブラジルの子が書いたから,あえてちゃんと聞いてみたいと思ったんですね。そうしたら,はじめに出てきて説明した子は3個ずつのかたまりを作ってそれが2つ分と言いました。おやっ,これは日本と同じだぞと思っていると,他の仲間みんなが違う違うと言うのです。要するに間違っていたのです。どこの国も同じですね,間違える子がいるのは。本当は2個のかたまりが3個分だと別の子が説明してくれました。(p.138)

算数の基礎基本とは何か
 ここ数年は、基礎基本の徹底が声高に叫ばれ、九九の暗記に力を入れている学校や家庭が増えています。でも私の目には、単なる計算のトレーニングになってしまっているように見えるのです。どういうことかというと、「8×4は?」と聞くと「32!」と即答できるけれども、「8×4」と「4×8」の違いがわからない。この違い、あなたは説明できますか?
 ではここで問題を出してみましょう。「ガラス戸が8枚あります。1枚のガラス戸につき、4枚のガラスが入っています。ガラスは全部で何枚あるでしょうか。式を立てて、答えをもとめなさい」。今の子どもは、32という答えはすぐ出せます。しかし、式を「8×4」と間違える子どもがとても多いのです。
 かけ算とは、(1あたり量)×(いくつ分)=(全体の量)です。よって、この問題なら、式は「4×8」が正解。今の教育は、九九の暗記には力を入れているけれども、こういう本当の基礎基本を省く傾向にあります。かけ算が(1あたり量)×(いくつ分)=(全体の量)である、という基礎基本をしっかり理解していれば、その後の学びも楽になります。子どもがつまずきやすい割り算や小数、最大の難関である分数だって、へっちゃらなのです。「割り算とは、1あたり量を求めるのか、いくつ分を求めるのかの二通りしかない」と気づけます。しかし、この基礎基本を理解せずに九九の計算能力だけを鍛えて通過してしまうと、割り算や小数、割合、分数などが登場したときにつまずきます。つまずくと、今度は公式や計算方法を暗記させて乗り越えさせようとする。そのときはわかった気になるかもしれませんが、また別の問題が出たときにつまずくという悪循環になってしまいます。
 本当の基礎基本とは何かを見抜き、しっかり身につけることが大事なのです。(pp.123-125)

 昭和40年(1965年)ころ,「5円の品3個の代金の立式は,3×5ではダメなのか」の論争が大阪や神戸から湧き起こった。それは海外で教育を受けた子どもが日本に帰国して授業に臨むと,上記問題の正答は,5×3のみで,3×5はダメという指導に遭遇した。そこで,帰国した子どもの親たちから担任教師に対する反発が起こり,問題化していった。
 さて,教育現場ではこれらの指導は文部省発行の学習指導要領に基づくので,もし上記の問題が設定されたとしたら,学習指導要領の立場からすれば,正答はこうなるのだということをみていこう。(p.46; 執筆者は佐藤俊太郎,以下同じ)

0 『昭和22年学習指導要領 算数科 数学科 編』文部省 昭和22年5月1日 日本書籍 正答 3×5
1 『算数数学科学習指導要領改訂』文部省 昭和23年9月30日 日本書籍 正答 書いてない
2 『小学校学習指導要領算数科編(試案)』昭和26年改訂版文部省 昭和26年12月5日 大日本図書 正答 書いてない
3 『小学校算数指導書』昭和35年3月25日 大日本図書 正答 5×3
4 『小学校指導書 算数編』文部省 昭和44年5月30日 大阪書籍 正答 5×3
5 『小学校指導書 算数編』文部省 昭和53年5月10日 大阪書籍 正答 5×3,3×5
6 『小学校指導書 算数編』文部省 平成元年6月15日 東洋館出版社 正答 5×3,3×5
7 『小学校学習指導要領解説 算数編』文部省 平成11年5月31日 東洋館出版社 正答 5×3,3×5
8 『小学校学習指導要領解説 算数編』文部科学省 平成20年8月31日 東洋館出版社 正答 5×3,3×5 (pp.46-47; 番号間の説明は省略した)

乗法とは
(1つ分の大きさ)≡a,(いくつ分)≡bが認知できたあとで,(全体の大きさ)≡cを求めること であって,a×b=cまたはb×a=cと書く。(p.47)

 2年生の導入時では,被乗数と乗数を明確に区別して扱っているが,これもかけ算の意味の理解を確かにするためと考えられる.図1のみかん全部の個数を4×6=24と表すときに,被乗数4が一つ分の大きさ,乗数6が幾つ分を表していることを大切に扱う必要がある.ただしこの意味は世界共通でなく,例えば英語ではこれを6×4=24とするので,被乗数,乗数の意味は逆になる.なお昭和44年の「小学校指導書算数編」では,基準にする大きさのいくつ文かにあたる大きさを「表わす」ことに触れているが,表現という側面からは被乗数と乗数の意味が特に重要となる.またかけ算の学習は,例えば2の段では被乗数が2の場合に乗数を1から9まで系統的に変化させ(図2),8×2などはここで扱わないが,これもかけ算の意味を大切にしていることの一つの現れであろう.(p.50)

Students are required to clearly distinguish between multiplicands and multipliers at this stage because this distinction helps them understand the meaning of multiplication. Teachers pay attention to whether their students understand that multiplicands express sizes of units and multipliers express numbers of groups. These meanings are reversed from the viewpoint of some educators elsewhere in the world. The amount of oranges in Figure 1 is expressed as 4×6=24 in Japan. The expression 6×4 is not usually allowed at the introductory stage. (p.122)

  • 新算数教育研究会: 整数の計算 (リーディングス 新しい算数研究), 東洋館出版社 (2011). [isbn:9784491026343]
  • 内海庄三: 「整数の乗除」の意味と計算指導のキーポイント, 新しい算数研究1980年7月号, No.112 (1980). 『整数の計算』pp.121-125.

(2) 算数指導の立場から
① 同数累加の短縮形
(略)
② 同数群の同時的存在(併存)
(略)
 しかし,①の場合でも,②の場合でも乗数と被乗数のもつ意味や働きは異質的であるから,これらの意味から,乗法の重要な法則である「交換法則」を理解させることは困難であり,それには次の③の意味がどうしても必要である.
③ 同数列の長方形的配列(array)
 例えば,右のような図では,縦に3個ずつ並んだ列が4列あるとみれば,○の数は3×4であり,横に4個ずつ並んだ列が3列あるとみれば,○の数は4×3と表されるから,交換法則は容易に理解されよう.
 また,このようなarrayの考えを指導しておくことは,後に長方形の面積公式を指導する下地ともなるので,2年のときに是非とも指導しておきたい内容である.(『整数の計算』pp.121-122)

  • 新算数教育研究会: 小数・分数の計算 (リーディングス 新しい算数研究), 東洋館出版 社 (2011). [isbn:9784491026350]
  • 中島健三: 小数のかけ算(導入)(5年), 新しい算数研究1979年7月号, No.100 (1979). 『小数・分数の計算』pp.84-93.

T 今日の勉強は小数のかけ算です.

連休にお父さんやお母さんと遠くにドライブに行きました.満タンにするのに車にガソリンを入れたら,3.4Lでいっぱいになりました.ガソリンの値段は,1L120円です.ガソリン3.4Lでいくらになりますか.(会話を通して)

(略)
T どんな式で考えられますか.
C 120円×3.4
T ほかに違う式の人はいませんか.(声なし)
T この式でいいですか.
C ハイ.(『小数・分数の計算』p.85)

山田 私も,帯小数から入ることには賛成なんですが,子どもたちが答えを出す時に,4年生の時に習ったことを使って,3.4×120と逆にしたらどうか.もし,そういう答えを取り上げた時に,後でご指導いただきましたテープ図のメリットが消えてしまうような感じを与えるのですが.
授 そのことは,出るのではないかと予想されたんです.そこでは,いちいちひっくり返したやらなければならないのは不便だから,そうでなくてもできないかという問題と,120×3.4と3.4×120とが答えが本当に同じかということで,いわゆる交換法則が成り立つかということを確認させる必要があるわけですね.(『小数・分数の計算』p.92)

 乗法の場面、「1ふくろにミカンが3こずつ入っています。5ふくろでは、ミカンは何こでしょう。」は、3×5と立式される。立式は、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」とまとめられ、それぞれを被乗数、乗数という。ところで、「オリンピックの400メートルリレー」や「このDVDは16倍速で記録できる」、「xk倍は」の式は、どのように表されるであろうか。それぞれ、一般的には「4×100mリレー」、「16×」、「kx」と表される。被乗数と乗数の位置が教科書の書き方と逆になっていることに気付くであろう。この例から分かるように、乗法では、数の位置ではなく、数が意味する内容に注目して、どの数が1つ分の数であるか、いくつ分はどの数かをしっかりと読み取ることが大切である。第2学年や第3学年では、読み取った数を、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」と表現できることが重要であり、逆に、この立式ができているかで、数の読み取りができているかを判断できる。しかし、高学年になり、乗法では交換法則が成り立つことや外国での立式を知り、数の意味をしっかり理解できていれば、必ずしも第2学年で学んだ順序で立式することを強制しなくてもよい。(pp.91-92)

2. 「子どもが7人います。1人に4個ずつアメをくばります。アメはみんなで何こいりますか」という問題に対して、7×4=28答え28こ、と解答した小学校2年生の子がいました。この解答をどのように解釈して、どのような対応をしたらよいか、乗法の意味と関連させてまとめてみましょう。(p.96)

 Yが立式を躊躇した理由を考えるうえで,Yの保護者の見立てが参考になった。支援教室終了後に保護者からスタッフに,Yがかけ算の「かけられる数とかける数」についてよく分かっていないらしいとの話があった。かけ算の「かけられる数とかける数」とは,「一あたり量がいくつ分」というかけ算の意味を指す。これに関連して,小学校ではしばしば,かけ算の式を「一あたり量×いくつ分」のように,「一あたり量」を先に書くように指示する場合がある(e.g.,遠山,1978)。保護者の話を受けて,Yの取り組んだ問題を後日スタッフが確認すると,Yは問題文中に出てくる順に数値を並べて立式しており,必ずしも「一あたり量×いくつ分」の順で立式しているわけではないことがわかった。このことからYは,かけ算の意味と式の順序との対応がついておらず,「一あたり量×いくつ分」という順序で書かれた式に「一あたり量がいくつ分ある」との意味があることを理解せずに立式していると考えられた。また,支援教室でYが式を書くのを躊躇したのは,かけ算の意味理解が不十分な状態で,式の順序だけを守ろうとしたためではないかと推察された。(pp.54-55)

 それでは,本稿の学習支援プランには,文章題解決におけるどのような困難を克服する効果があったのだろうか。Mayer (1992)は,算数文章題を解決する際の心的過程を4段階―解釈段階,統合段階,プランニングとモニタリング段階,実行段階―に分けた。このうち,Yが困難とした,式の順序とかけ算の意味との対応づけは,統合過程におけるつまずきである。統合過程では,問題タイプについての知識(スキーマ的知識)に基づいて,文章題から読み取った情報のうちの適切なものが選択・統合されて,文章題全体についての心的表象が構成される。Mayer (1992)によれば,スキーマ的知識には,例えば「面積の問題は,面積=縦×横という公式に基づく」のように,式についての知識が含まれる。「一あたり量がいくつ分」というかけ算の文章題で言えば,スキーマ的知識は「一あたり量がいくつ分というかけ算の問題は,全体量=一あたり量×いくつ分という式に基づく」のように表現できる。一方,Yは式の順序とかけ算の意味との対応づけが不十分であったことから,Yが有していたスキーマ的知識は「かけ算の問題は,全体量=ある数×他の数という式に基づく」のような不十分な状態であったと考えられる。そこで,問題の状況を表す絵を取り入れた教材に即して学習することにより,式の順序とかけ算の意味とが正しく対応づけられ,スキーマ的知識がより精緻なものになったと考えられる。以上のことから,問題の状況を表す絵に即して,式の順序とかけ算の意味とを対応づける学習支援プランは,算数文章題解決の統合過程における困難を克服する効果があったと考えられる。(p.59)

 もうひとつ大切なことは、かけ算の式は、
  1あたりの数×いくつ分=ぜん体の数
というようにしなきゃいけないことだ。たとえば「1人に3こずつ、4人にくばるときのぜんぶの数は?」というとき、
  3(こ)×4(人)=12(こ)
とするんだ。3×4も4×3も答えは同じだけど、式をたてるときはかならずこのじゅん番でたてようね! 4(人)×3(こ)=12(人)は、まちがいだよ。(p.45)

ジャイアン)いいこと聞いたぞ。オレは7のだんが苦手だから、7×6が思い出せないときは、6×7の九九を思い出せばいいんだ。
ドラえもん)そういうこと。でも、文章題で式をたてるときは、ちゃんと「1あたりの数×いくつ分=全体の数」としなきゃ、まちがいだよ。(p.52)


(p.16)

 乗法の数学的定義についても,集合の要素の数という観点からの定義と,順序という観点からの定義がある。
 算数科では,整数の乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かにあたる当たる大きさを求めるという場面で導入される。整数の世界では,その値を求めるためには,同数累加を行うことになる。つまり,乗法は同数累加の簡潔な表現として用いられることになる。この定義では,3×4=3+3+3+3,4×3=4+4+4となる。つまり,被乗数と乗数の順序に意味がある。また,交換法則(a×b=b×a)やa×(b+1)=a×b+aが成り立つことにも気づかせたい。例えば3×5の場合,3を5個足す代わりに,3を4個足したもの(3×4)に3を1個加えればよい。つまり,3×5=3×4+3となる。この性質を活用して1位数同士の乗法を考えていく(乗法九九の構成)。なお,平成20年改訂の学習指導要領においては,これらの乗法九九の構成の延長として,被乗数や乗数が12程度までの乗法を扱うこととなっている。(p.113; 執筆者は清水紀宏)

  • 清水静海: 小学校算数 これでバッチリ! 計算指導, 文溪堂 (2011). [isbn:9784894237292]

1mの重さが3kgの鉄のぼうがあります。この鉄のぼう12mの重さは何kgでしょう。(p.127)

6つのはこに、ケーキが8こずつはいっています。ケーキはぜんぶでなんこあるでしょう。
(正解)8×6 (p.72)

多い誤答
かける数とかけられる数を逆に立式してしまう。
問題文に出てきた数の順に立式してしまった子どもが、34.7%みられました(p.72)

(表)5×8
(裏)
1はこに5こ入りの
チョコレートが
8はこあります。

(表)8×5
(裏)
チョコレートが
5はこあります。
1はこは8こ入りです。

(九九カルタ 文溪堂より)(p.48)

第2次 第10時 基準量が後に示された適用問題
1 問題を知り,めあてをつかむ。

おかしのはこが4つあります。
1つのはこには,おかしが5こずつはいっています。
みんなで何こになりますか。

5×4か4×5のどちらになるか考えよう。

5 学習のまとめをする。

「何のいくつ分」に気をつけてもんだいをとくとよい。
5この4つ分。
5×4=20 20こ

(p.104)

次の①問題は,ほとんどの子どもが正解します。ところが,②の問題では逆に多くの子どもが間違います。

問題① 1はこに6こずつ入ったせっけんが4はこあります。せっけんはぜんぶで何こありますか。 問題② せっけんの入ったはこが6はこあります。1はこに4こずつ入っています。ぜんぶで何こありますか。
正答 6×4=24 答え24こ 誤答 6×4=24 答え24こ

②の誤答には,「かけ算の意味が理解できていないため,数値の出てきた順にかけた。」「①のような文章題の経験しかなく,数値の出てきた順にかけた。」の2つの原因が考えられます。
問題の様子を図に表してみる,数量の関係をかけられる数(基にする数,1つ分)やかける数(いくつ分,何ばい)で捉えてみることなどかけ算の意味の理解を深める学習をさせます。また問題①と②を比べさせ,図で表した場面と式を対応させて違いを理解させることも有効です。問題の理解,立式,計算,答えを総合的に練習させる必要があります。(p.40)

他の文献・情報源

 以下は,今回の趣旨(新しい解説との関連)からやや離れますが,2010年~2011年に出版・公開されたものであり,「かけ算の順序論争」を知る一助にもなります。

学習指導要領解説における「弁別」の使用について

 「正方形は長方形」関連で,『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1を読んでみたところ,指導方針は現行の解説を踏襲する一方で,「弁別」の語が多数,使用されているのに気づきました。


 「弁別」の着目に至る背景から。
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 この表をきっかけとして,いくつかコメントや,詳細な分析ツイートを読むことができました。
 「正方形は長方形」というのは,小学校の算数では「正方形は長方形ではない」という方針で指導されていることへの批判です。メインブログで,テスト問題を取り上げていました。

例えば,東京都算数教育研究会が平成23年度に実施した学力調査には,第2学年を対象として,以下のような出題があります.

http://tosanken.main.jp/data/H24/happyou/20121019-7.pdf#page=7で,正解率や誤答の状況,そして分析も読むことができます.小問(1)の正解率(完答のみ.以下同じ)は78%,小問(2)は75%となっています.
小問(2)について,正方形の(え),(か)は正解に入っていません.そこでこの出題も,正方形を長方形としないという方針を採用していると見ることができます.


 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイルを対象として,正方形・長方形に限らず,「弁別」を機械的に検索してみました。算数(1)(第1章~第2章)では,以下の箇所に出現しました。

  • p.34: そのために,身の回りにあるものの形に目を向けて,次第に図形を捉え,その構成要素に着目しながら基本図形についての概念を形成するとともに,図形を弁別したり,図形を構成(作図)したり,図形の性質を明らかにしたりする。図形の頂点や辺,角等の構成要素を対象とする考察から,平行や垂直のような構成要素間の関係を理解し,さらに合同や拡大図・縮図のような図形間の関係についても学習する。
  • p.50: ものを弁別する際には多様な観点があり,その中の一つに形があるのだという意識がもてるように指導することが大切である。
  • p.51: 第5学年では,辺の数や長さなどに着目して多角形や正多角形を,また,底面,側面に着目して,角柱,円柱を指導する。各々の図形指導では,それを構成したり弁別したりする活動を取り入れ,その性質が発見できるように指導するとともに,図形の性質を筋道を立てて説明できるようにする。

 次は算数(2)(第3章~第4章,各学年の内容を含む)です。ページ番号の後ろに,対象学年をカッコ書きにしました。

  • p.118 (2年): 第2学年では,三角形や四角形,正方形,長方形,直角三角形について,図形を構成する辺や頂点の数に着目し,図形を弁別することを指導する。また,身の回りにある箱の形をしたものを取り上げ,立体図形について理解する上で素地となる学習を行う。基礎となる図形を構成する要素に着目し,それを基に考えていく態度を養う。
  • p.118 (2年): 第1学年では「さんかく」,「しかく」などと呼び図形を捉えていたが,第2学年では,3本の直線で囲まれている形を三角形といい,4本の直線で囲まれている形を四角形ということを約束する。これは,図形を構成する要素である辺の数に着目して,いろいろな図形から三角形,四角形を弁別しているのである。
  • p.119 (2年): 第1学年で,児童は身の回りのものの形について,形を全体的に捉える見方を学習してきた。第2学年では,辺の長さや直角の有無といった約束に基づいて図形を弁別できるようにする。
  • p.120 (2年): 身の回りのものを図形として捉えるとは,第1学年で全体的に捉えてきたものの形の見方から,図形を構成する要素に着目した約束に基づき三角形や四角形等を見いだすことを通して身の回りのものの形から四角形や三角形,正方形や長方形を弁別できるようにすることである。
  • p.156 (3年): 第2学年では四角形や三角形,正方形や長方形などについて,これらを構成する直線や直角などに着目することで,図形を弁別することを指導してきた。
  • p.170 (3年): このように身の回りにあるまるいものを観察し,どのように弁別できるかについて考える活動を行うことで,円や球に興味をもち,図形に関わろうとする態度を育てていく。
  • p.245 (5年): 多角形については,図形を構成する辺や角などの要素に着目して図形を弁別する。
  • p.288 (6年): このような線対称,点対称の意味について,観察や構成,作図などの活動を通して理解できるようにし,線対称な図形,点対称な図形,線対称でかつ点対称でもある図形を弁別するなどの活動を通して,図形の見方を深めることが大切である。
  • p.289 (6年): 対称性については,既習の三角形,四角形,さらには,正多角形について,線対称な図形,点対称な図形,線対称でかつ点対称でもある図形を弁別し,既習の図形を対称性といった観点から捉え直すことが大切である。

 この中で注目すべきなのは,p.120の「四角形や三角形,正方形や長方形を弁別できるようにすることである」のところでしょう。ここから,「これは四角形です」と言えば,三角形でないことを意味するのと同様に,「これは正方形です」が「これは長方形ではありません」を意味するように読めます。
 『算数教育指導用語辞典第四版』に書かれた「各図形の名称については,次のように決められている。すなわち,一般の図形の集合から,条件が付加されて特殊な図形の集合が作られたとき,その特殊な図形の集合に名づけられた名称が,その図形の名称となるということである。例えば,長方形も正方形も平行四辺形の条件はもつが,平行四辺形とよばず,付加された条件でできた集合の名称を用いるのである。」も,「正方形は,長方形ではない」の考え方をサポートするものとなっています。
 より新しいところでは,「算数授業研究」Vol.106*2で,「正方形と長方形とは別物である」とみる背反的な定義と,「正方形も長方形である」という包摂的な定義を挙げ,解説されています。主要部を,正方形でない長方形を持ってきてください - わさっきで引用しています。「長方形をもってきてください」と指示すれば,(正方形でない)長方形をもってくる,というのは,前掲の表に記載した「長方形の紙を折って正方形を作る」にも関わる話です。
 ともあれ,2年での「弁別」の出現頻度が高いのに驚きました。現行(平成20年6月)の小学校学習指導要領解説と比較しておきます。これも文科省サイトより,PDFがダウンロードできるようになっており,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syokaisetsu/index.htmに,算数(1)と(2)へのリンクがあります。
 算数(1)には,「弁別」は出現しませんでした。算数(2)では,次の2箇所です。

  • p.152 (4年): こうした四角形の名称を知り,使えるようにする。そして,平行四辺形,ひし形,台形について理解するためには,いろいろな四角形を構成し,それらを観察することを通して共通の性質をもつ図形に分類したり,それぞれの図形の性質について調べたり,図形の約束や性質に基づいて作図したり,弁別したりする活動に取り組むことが大切である。また,身の回りから,平行四辺形,ひし形,台形の形をした具体物を見付ける指導をする。*3
  • p.204 (6年): このような線対称,点対称の意味について,観察や構成,作図などの活動を通して理解できるようにし,線対称な図形,点対称な図形,線対称でかつ点対称でもある図形を弁別するなどの活動を通して,図形の見方を深めることが大切である。

 2年では言及なしです。長方形・正方形の定義は,p.93の「四つの辺の長さが等しく,四つの角が直角である四角形を正方形という。」と「また,四つの角が直角である四角形を長方形という。」のところですが,2文の間やそのあとの記述から,正方形と長方形の違い,結局のところ「正方形は長方形ではない」に基づく指導が念頭に置かれています。
 まだまだ,新旧の解説や,関連情報との読み比べをしていかないといけません。なお,算数用語の出現という観点では,和が10以上になる加法(1年)のところで「加数分解」「被加数分解」が,新たな解説に記載されています(「減加法」「減々法」,新旧どちらの解説でも,そして1つ前(平成11年5月)の解説でも,使われています)。

*1:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm

*2:isbn:9784491032610

*3:新しい解説では,第4学年の内容で「弁別」が使われていません。平行四辺形ほかの図形に関して,最も関係しそうな記述はp.199のところで,「直線の位置関係や辺の長さに着目することで,平行四辺形,ひし形,台形について知る。すなわち,向かい合った二組の辺が平行な四角形を平行四辺形といい,四つの辺の長さが等しい四角形をひし形といい,向かい合った一組の辺が平行な四角形を台形という。こうした四角形の名称を知り,図形の置き方をいろいろと変えても,その図形の名称が判断できるようにする。」とあります。

ファンタジーの法則 × 被乗数と乗数の順序

 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1を見ますと,p.114に、次のような記述があります。

 ここで述べた被乗数と乗数の順序は,「一つ分の大きさの幾つ分かに当たる大きさを求める」という日常生活などの問題の場面を式で表現する場合に大切にすべきことである。一方,乗法の計算の結果を求める場合には,交換法則を必要に応じて活用し,被乗数と乗数を逆にして計算してもよい。

 このことを,1枚の図にしてみました。
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 「4皿に3個ずつみかんが乗っている」は,同じPDFファイルの次のページで例示されています。これを「実際の場面」の出発点とし,算数教科書で広く採用されている「1つ分の数×いくつ分」*2の形で表すと,「1つ分の数」になるのは「3」,「いくつ分」は「4」なので,「3×4」の式を得ます。
 3×4=12を求めるのは,「さんしじゅうに」の九九でもいいし,「3×4=3+3+3+3=12」の(同数)累加でもかまいません。この問題には適用しにくいですが,かけられる数とかける数の組み合わせによっては,「ひっくり返してかけても答えは同じ」の交換法則を使うことがあっても,かまわないのです。
 さて,「4皿に3個ずつみかんが乗っている。みかんは全部でいくつ?」に対して「12」と答えるのでは,数量の認識がきちんとできているとは言えません。この12は,みかんの総数ですから,「12個」となります。これが,「実際の場面」における解答であり,求めたいことであり,ゴールなのです。
 与えられた問題を,ダイレクトに(例えば暗算で答えのみを)得るのではなく,コの字のように迂回しながら,ゴールに到達しようという試みについては,出典があります。
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プログラマの数学

プログラマの数学

 この図において,「別世界の問題へ変換する」段階と,「別世界で解く」段階とで,利用できるものが異なると考えられます。かけ算の文章題を解く際にも,同じことが言えます。すなわち,実際の場面から算数の式に変換する段階では,3×4=4×3などの交換法則や,「1つ分の数×いくつ分」という言葉の式に交換法則を適用した「いくつ分×1つ分の数」は,知る限り小学校の算数において,認められていません。
 なぜ認められないのかについては,『小学校学習指導要領解説算数編』p.114にある,以下の記述が参考になりそうです。

 式に表す指導に際しては,「1皿に5個ずつ入ったみかん4皿分の個数」というような文章による表現,○やテープなどの図を用いた表現,具体物を用いた表現などと関連付けながら,式の意味の理解を深めるとともに,記号×を用いた式の簡潔さや明瞭さを味わうことができるようにする。
 式を読み取る指導に際しては,例えば,3×5の式から,「プリンが3個ずつ入ったパックが5パックあります。プリンは全部で何個ありますか。」という問題をつくることができる。このとき,上で述べた被乗数と乗数の順序が,この場面の表現において本質的な役割を果たしていることに注意が必要である。「プリンが5個ずつ入ったパックが3パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」という場面との対置によって,被乗数と乗数の順序に関する約束が必要であることやそのよさを児童に気付かせたい。

 あとの段落には,「プリンが3個ずつ入ったパックが5パックあります。プリンは全部で何個ありますか。」と「プリンが5個ずつ入ったパックが3パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」という,「1つ分の数」と「いくつ分」を交換した2つの文章題が書かれています。これらを出発点としたとき,冒頭の図に基づくなら,前者は「3×5」,後者は「5×3」という式で表せます。そして,かけ算の結果はともに「15」であり,プリンは全部で「15個」です。
 それに対し,交換法則を認めろ,「1つ分の数×いくつ分」という式の立て方だっていいじゃないか,という立場では,どちらの式も「3×5でも5×3でもよい」となります。
 2つの場面を式で区別できないのは,「記号×を用いた式の簡潔さや明瞭さを味わうこと」を損なうことを意味し*3,算数教育において受け入れられていない,というわけです。
 メインブログ(わさっき)では、ファンタジーの法則をいろいろな形で紹介・活用してきました。合わせてご覧ください。

 Twitter上で,「掛算順序固定」だとか「強制」だとか,こんな教え方では「ずつ」の書かれていない文章題では答えが出せないだとかいった主張を,見かけますが,『小学校学習指導要領解説算数編』の他のページも,しっかり読んでおきたいところです。例えばp.126では,串にささった団子の写真が出発点となっています。「同じ数ずつ」は問題文にはなく,それに気付くことが,かけ算で表すための勘所となっています。文章題だと,3年になりますが,「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」や「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」といった,「ずつ」の出現しないものが,p.140に見られます。

*1:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm

*2:『小学校学習指導要領解説算数編』では「一つ分の大きさ」「幾つ分」という表記が用いられています。「大きさ」であって「数」なのは,被乗数に当たる数量は,2mや0.1Lといった連続量でも可能であるからと推測できます。幾つ分のほうは分離量に限られ,5年の小数の乗法で,意味の拡張がなされます。

*3:「3個×5パック」でも「5パック×3個」でもいいじゃないか,などといった主張にも,当てはまります。

「被乗数と乗数の順序」について

 「被乗数と乗数の順序」を,算数教育(ネットの風評ではなく)の流れの中で理解するには,現行(2008年公開)およびこれから(2017年公開)の『小学校学習指導要領解説算数編』のあいだ,2011年に出版された『新しい学びを拓く算数科授業の理論と実践』を読んでおきたいところです。


 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1を見ると,p.114に3回,「被乗数と乗数の順序」が出現します。段落は次のとおりです。

 ここで述べた被乗数と乗数の順序は,「一つ分の大きさの幾つ分かに当たる大きさを求める」という日常生活などの問題の場面を式で表現する場合に大切にすべきことである。一方,乗法の計算の結果を求める場合には,交換法則を必要に応じて活用し,被乗数と乗数を逆にして計算してもよい。*2

 式を読み取る指導に際しては,例えば,3×5の式から,「プリンが3個ずつ入ったパックが5パックあります。プリンは全部で何個ありますか。」という問題をつくることができる。このとき,上で述べた被乗数と乗数の順序が,この場面の表現において本質的な役割を果たしていることに注意が必要である。「プリンが5個ずつ入ったパックが3パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」という場面との対置によって,被乗数と乗数の順序に関する約束が必要であることやそのよさを児童に気付かせたい。

 Googleで"被乗数と乗数の順序"を検索したところ,2014年に,別々の3つのところで,使われているのが確認できました。

その2. 《被乗数と乗数の順序
次に見ておきたいのは,かけ算の式を「かけられる数×かける数」で表すか,「かける数×かけられる数」で表すかです.
この場合,かけ算の答えと同じ種類の量になるほうを「かけられる数(被乗数)」,他方を「かける数(乗数)」とします.なお,面積を含む「量の積」や,アレイの計数は,対象外となります.
メールで「3コマ×5人=15コマ」と書いて送れば,「3(コマ)」がかけられる数,「5(人)」がかける数です.あるレシートに「17個 X 単105」と打たれていれば,「17(個)」はかける数,「単105」は単価が105円とみなし,これがかけられる数となります.
これに由来する順序を,《被乗数と乗数の順序》と呼ぶことにします.

Description 日本語: かけ算の順序に関して、,乗数と被乗数の順序が加算減算と異なることの説明

(3)被乗数4×乗数3=被乗数3×乗数4
これが、文科省の理解であった。
 被乗数と乗数の区別について、×の左を被乗数、右を乗数とするのは、明治時代に西洋から教わったときの西洋の主流の理解がそうだったからであり、現在の西洋の主流は逆になっても、日本では教わったときの順序を守っているわけである。
 つまり、数字4と3の順序は入れ替わっても、被乗数と乗数の順序は入れ替わらないのである。

 2014年の上記の3件は,依拠するものが異なっています。最初と最後のブログ記事は,それぞれ本文中に書かれています。2番目のgifですが,状況としてはwikipedia:かけ算の順序問題に追加するための画像を試作し,日の目を見なかったと思われます。
 もう少し補足すると,英文的演算では「2×」が左に来ることについては,古くから指摘があり,1968年のhttp://ci.nii.ac.jp/naid/110003849391の文献のほか,『算数・数学教育つれづれ草』*3p.46に書かれている,「5円の品3個の代金の立式は,3×5ではダメなのか」の論争が,昭和40年(1965年)ごろに湧き起こったこととも関連します。
 ここまで『小学校学習指導要領解説算数編』を含め,ネットで読める情報ばかりでした。ですが,2011年に出版された中にも,「被乗数と乗数の順序」を明記しているものがありました。

 出現するのはp.113です。

 乗法の数学的定義についても,集合の要素の数という観点からの定義と,順序という観点からの定義がある。
 算数科では,整数の乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かにあたる当たる大きさを求めるという場面で導入される。整数の世界では,その値を求めるためには,同数累加を行うことになる。つまり,乗法は同数累加の簡潔な表現として用いられることになる。この定義では,3×4=3+3+3+3,4×3=4+4+4となる。つまり,被乗数と乗数の順序に意味がある。また,交換法則(a×b=b×a)やa×(b+1)=a×b+aが成り立つことにも気づかせたい。例えば3×5の場合,3を5個足す代わりに,3を4個足したもの(3×4)に3を1個加えればよい。つまり,3×5=3×4+3となる。この性質を活用して1位数同士の乗法を考えていく(乗法九九の構成)。なお,平成20年改訂の学習指導要領においては,これらの乗法九九の構成の延長として,被乗数や乗数が12程度までの乗法を扱うこととなっている。

 ここの「被乗数と乗数の順序に意味がある」について,2種類の解釈ができます。一つは,「3×4=3+3+3+3であり,4×3=4+4+4なのだ」と,被乗数と乗数の順序に,意味が定められている,というものです。
 もう一つの解釈では,「に意味がある」を「は重要だ」と置き換えます.英語でぴったりの単語があり,自動詞のmatterです。http://books.google.co.jp/books?id=2NX4I6mekq8C&pg=PA3より読める授業で,先生が"Eddie says that order does matter"と言うシーンがあります*4
 「意味」はともあれ,上記の「算数科では」から始まる段落は,新しい学習指導要領および解説の記述にも適合します。時系列としては,2008年に現行の『小学校学習指導要領解説算数編』が公開・発行され,それをもとに『新しい学びを拓く算数科授業の理論と実践』で解説がなされ,「意味がある」が「本質的な役割を果たしている」や「約束が必要である」に置き換えられて,2017年6月,新しい学習指導要領に基づく『小学校学習指導要領解説算数編』に記載された,という流れを見ることができます。
 なお,上記引用を含む第6章第1節の執筆者は清水紀宏氏です。福岡教育大学教授で,日本文教出版平成27年度版『小学算数』の著作者にも,名前が載っています。
 「順序」の言葉は出現しませんが,次の本も見ておきます。

「小学算術」の研究

「小学算術」の研究

 著者の高木佐加枝は,昭和10年からの「緑表紙教科書」の編纂に携わった人です.「緑表紙教科書」では,九九の学習をそれまでの乗数先唱(3×4=12は「しさんじゅうに」)から被乗数先唱(3×4=12は「さんしじゅうに」)に改めました。その根拠が,『「小学算術」の研究』pp.246-247に記されていました。

a. 各段の九九を被乗数を一定にして纏めることにすると,この一定な数を冒頭に呼ぶ方が都合がよい。筆算の掛算では,乗数先唱を本体とするが,これは後に指導することで,九九構成の最初においては,被乗数先唱で九九を覚えさせることが,児童心理に叶っている。
b. 国語は,「5円の色紙を8枚」「3を4倍する」というように,被乗数を先にする言い方である.
c. 式に表す場合も 5円×8 というように,被乗数を先に書くのを常とするから,被乗数先唱の方が都合がよい。

 最後の項目の「5円×8」も興味深いところです。「5円×8枚」ではありませんし,積は40円です。とはいえ今の算数では,式に単位を付けず,「5円の切手を8まい買いました。ぜんぶでいくらですか」という文章題には,式は5×8=40,答えは40円と書くことが期待されます。

 お知らせ:本記事の内容を手直しし,かけ算の「順序」について(2017.12)に取り入れました。合わせてご覧ください。

*1:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm

*2:第1文は,結城浩プログラマの数学』でかかれた図(http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150128/1422391025)を使うと,「別世界の問題へ変換する」に関するもので,第2文は「別世界で解く」です。交換法則が立式の段階で適用できないのは,それぞれのステップで使えるものが異なるからと言えます。

*3:isbn:9784491026183

*4:ただし乗法の交換法則の学習ということもあり,"the answer is the same no matter which number goes first."や"I don't think it matters what order the numbers are in."のように,否定語を含む文の中にも出現します。私訳はhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150822/1440184614をご覧ください。