かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

東京新聞「日本の算数・数学 大丈夫?」のうち二重数直線を目にして思ったこと

  • 東京新聞:日本の算数・数学大丈夫?:特報(TOKYO Web)http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2018040602000161.html(現在はデッドリンク

 この記事について,紙面の複写を得ることができました。東京新聞 2018年4月6日朝刊 11版 26・27面です。
 「はじき」「くもわ」の図の使い方を詳しく紹介した上で,では実際に小学校で,それを使って(あるいは使うことなく)どのような授業がなされているのかは,書かれていませんでした。速さに関する出来はというと,東京都算数教育研究会が実施している調査の中で,「はじき」で解くことのできない問題に対し75~77%の正答率が報告されています(アンチはじき)。その出題を,新聞記事に載せるべきだったとまでは主張しませんが,この団体に問い合わせた形跡がないのは,記事の信頼性を大いに損なわせていると感じました。
 東京新聞は昨年も,算数教育について記事を「特報」しています。西沢宏明氏・芳沢光雄教授の名前は,どちらの記事にも出現します。
 4月6日の記事では,西沢宏明氏のコメントの中に,「二重数直線」が出現します。

 ツイッター上で算数の奇妙な教え方を批判してきた静岡県三島市の学習塾「大場数理学院」の西沢宏明代表も問題視している一人。塾で「15分間で30キロメートル進んだときの時速は」との問題に「30÷15=時速2キロメートル」と答えた子がいたという。
 「そもそも速さの意味や理屈を分かっていないので、自分が出した答えが直感的におかしいと思えない」と西沢氏。比例の問題を解く際に使われる「二重数直線」や「かけわり図」も、同じ弊害があるという。

 「はじき」「くもわ」「二重数直線」「かけわり図」と並べてみると,二重数直線には違和感があります。質問文にしてみます。

  • 「はじき」を使った,テスト問題の実例はありますか?
  • 「くもわ」を使った,テスト問題の実例はありますか?
  • 「二重数直線」を使った,テスト問題の実例はありますか?
  • 「かけわり図」を使った,テスト問題の実例はありますか?

 このうち真っ先に思い浮かぶのは,「二重数直線」です。昨年(平成29年度)実施の全国学力・学習状況調査では,算数Aの最初の大問に,二重数直線が出現します。

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 調査結果資料から正答率を見ると,(1)は97.0%,(2)は70.0%です。算数Aでは60%台が何問かあるので,60と0.4と□の該当箇所を選ぶ大問1の(2)は,ほどほどの難易度だった,といったところでしょうか。
 平成28年度にも,見つかりました。算数Aの大問4で,シート1㎡あたりの人数を求める式を書くという問題ですが,そのすぐ上に,人数と面積に関する二重数直線が記載されています。
 二重数直線について,東京新聞の記事では「比例の問題を解く際に使われる」と書いていますが,これもまた記者が算数教育の動向について,未消化のまま,記事にしてしまったものと認識しています。『小学校学習指導要領解説算数編』でも,算数の教科書でも,二重数直線が使われるのは5年なのに対し,比例は6年で学習します。*1
 「比例の問題を解く際に使われる」を「割合の問題を解く際に使われる」に置き換えてみると,実際に使う児童もきっといるだろうけれど,「数量の関係を表す」というもう一つの大事な視点が,抜け落ちています。全国学力テストで使われていた2問は,二重数直線をかきなさいというのではありません。二重数直線*2を提供するのは出題者側であって,それをもとに数量の関係を把握したり,関係を式で表したりするのが解答者側(児童)となっています。
 二重数直線に関しては,重要な文献があります。著者はみな,東京の公立小学校の教師です。

 20年以上が経過した今なお,著者の全員が算数教育に携わっていることは,期待できないにせよ,どなたかにインタビューを試み,全国学力テストや次期の『小学校学習指導要領解説算数編』に,この数直線が採用されていることの感想を得ながら,東京における小学校教育・算数教育の実情を,次回の記事で「特報」することを,希望します。
 なお,上で4問並べましたが,「はじき」「くもわ」「かけわり図」については答え(テスト問題の実例)を持ち合わせていません。それから,東京新聞の記事の後半では,大学入試センターの施行調査のことが書かれていますが,入試ではなく高校生の学力を把握するために実施された,選択式と記述式を組み合わせた調査については『高校生の数学力NOW 9―2013年基礎学力調査報告』という本から読むことができ,理系数学の5択問題 - わさっきにて紹介しています。

*1:「比例」の用語と,「簡単な場合の比例の関係」は,5年で学習します。

*2:類似の図式として,テープ図を揃えて上下に並べたものも,よく見かけます。全国学力テストからだと平成26年度の算数A大問2,教科書からだとhttp://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/05/page5_21.htmlです。これらもまた,問題文をもとに子どもたちがかくわけではありません。

速さは割合,でもかけられる数?

 東京新聞が4月6日付けで,算数・数学教育に一石を投じる記事を掲載しています。以下ではリード文と,「はじき」「くもわ」の絵を見ることができます。

 まだ当該記事は取得できていません。https://twitter.com/flute23432/status/982244902556741632から始まるツイートで,算数教科書にはその種の図が載っていない点とともに,記事に対する批判が書かれています。
 ところで,「はじき」の図では,速さの「は」は,左下に配置されます。その一方,「はじき」の図によることなく,速さを「単位時間あたりに移動する距離」ととらえたとき,速さ=距離÷時間と表すことができ,算数においては「異種の二つの量の割合」となります。
 単純化すると,「速さ」は「割合」です。しかし「はじき」の図にせよ,速さ×時間=距離という,言葉の式にせ,乗算記号の左側,「かけられる数」として書くことになります*1
 「くもわ」の図では,割合は右側,「かける数」のほうに配置されます。
 なぜ「速さ」は「割合」なのに,「かける数」とならないのかを考えてみると,単純化した中で切り捨てた「異種の二つの量の」が,重要な役割を果たしているように思えてなりません。
 すなわちこうです。同種の二つの量の割合,例えば白いテープの長さの3倍が赤いテープの長さになる,全体の人数のうち70%が女子である,といった場面においては,「3」や「0.7」が割合として,「くらべる量」「もとにする量」「割合」の3つで構成される「くもわ」の図の中では「わ」となります。
 それに対し,異種の二つの量の割合である速さを含め,パー書きの量は,「はじき」の図式の「は」に該当し,かけられる数に来ます*2。距離÷時間で求められる(平均の)速さや,金額÷分量で求められる単価などが,比例の関係における比例定数となるためです。
 単価の扱いについて,Vergnaud (1983)をもとに具体化を試みます*3。「1個15セントのケーキを4個買います。いくらになりますか」を出発点としたとき,日本の算数*4では,「15×4=60」と式を書き,「答え 60セント」とすることが期待されます。
 ここから小学校の算数を離れた議論となります。「15×4=60」に単位を添えて,「15セント×4個=60セント」と書いてみたとき,数量の扱いとして適切だろうかと考えてみます。次元解析の観点で,合っていません。左辺に合う,右辺の単位は,「セント・個」です(がこんな単位は日常見かけません)。
 そこで,かける数の単位の「個」を取り除いて,「15セント×4=60セント」とすれば,両辺の次元は合います。形式的に取り除いたのではなく,「1個だと15セント。4個買うのなら,金額は15セントの4倍必要だ。だから『×4』と書く」と考えます。かける数の数量を「~倍」と解釈することは,「7個15円の駄菓子を28個買います。いくらになりますか」のような,「1つ分の大きさ」が明示されていない場面のほか,5年でかける数が小数となる場合の「乗法の意味の拡張」でも活用できます。
 「15セント×4個=60セント」に対する,もう一つの修正の仕方は,「15セント/個×4個=60セント」です。これについて,左辺の次元を調整したという見方もできますが,算数教育に歩み寄ってみるなら,「個数と支払額との関係」となります。個数と支払額との関係を表にし,支払額÷個数*5を求めてみると,いずれにおいても一定です。その値は,個数が1のときの支払額であることから,「単価」と見なすことができ,小学2年で学習する「一つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」に割り当てると*6,単価が「一つ分の数」に,個数が「いくつ分」に対応する,という次第です。
 式を整理すると,次のようになります。

  • 「15セント×4個=60セント」は,おかしい(両辺の次元が合っていない)。
  • 「15セント×4=60セント」は,OK。
  • 「15セント/個×4個=60セント」も,OK。

 速さも同様です。「1時間で15km走ります。4時間走ったら,何kmですか」という問題について,単位を添えた式を並べると,次のようになります。

  • 「15km×4h=60km」は,おかしい(両辺の次元が合っていない)。
  • 「15km×4=60km」は,OK。
  • 「15km/h×4h=60km」も,OK。

 2番目の式では,「はじき」も,速さの式(速さ=距離÷時間,または,速さ×時間=距離)も使用しません。場面の関係をもとにします。例えばテープ図を使用して,15kmに対応するテープを4つ,つなげます。そうすれば2~3年生でも数量の関係が理解・表現でき,「15×4」の式を立てることができます。

(最終更新:2018-04-09 朝)

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160304/1457038746の前半に,関連する書籍などを報告しています。最初のツイートについては,「このページは存在しません。」と出ます。

*2:洋書を含む図の事例は,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150805/1438722422よりご覧ください。

*3:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140924/1411511070

*4:とはいえ,日本の算数で「セント」を用いた出題事例は思い浮かびません。1個15円のお菓子にすべきでしょうか。

*5:上記の「金額÷分量」も同等です。ただし分量と書いた場合には,「0.3m」など,小数で表される量(連続量)も対象となりますが,「個数」だと,分離量に限られます。

*6:表をもとに「個数×単価」や「時間×速さ」といった式を得ることも可能ですが,算数教育において実用性が乏しいようにも思えます。「時間×速さ」と言う子どもがいても,公式(言葉の式)としてクラス全員で理解し,思い出せるようにするには,「速さ×時間=道のり」とするわけです。ここに交換法則(時間×速さ=速さ×時間」)が暗黙のうちに使われています(関連:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20170124/1485210845)。どこかで教わった乗数先唱を根拠に,2×3=6を「さんにがろく」という子どもがいても,先生は面白いねと対応したのち,九九を唱える際には「にさんがろく」と言いましょう,となるのが予想されます。

「いちご」のかけ算

 ブラウザで上記URLにアクセスすると,uekusaを含むドメインに変わります。紀要のPDFは,無料でダウンロードできます。
 副題の「ユニバーサルデザイン」のほか,本文で「特別支援教育」の言葉も見かけますが,特別支援教育としての実施ではなく,「通常学級における授業に視覚化,動作化を意図的に取り入れること」がなされています。2年生の学習ということもあり,「基準量」の「いくつ分」を指導し定着させることが試みられています*1
 かけ算(2)の11(p.61)には,「ケーキが5つあります。1こずつのせると,いちごは何こいりますか。」という問題を使用しています。表の右の列を見ると,T(教師)は「A 5×1=5」「B 1×5=5」と板書し,そこから子どもたちの発言を促します。C1からC4までのうち,理由を説明している3人の発言を取り出します。

C1:わたしはBだと思います。どうしてかというと、5の方が先に書いてあるけど、1個の方にはずつと書いてあるからです。

C2:私もBだと思います。Aだとケーキの上にいちごを5このせて1つ作ることになるからです。

C4:私もBだと思います。ケーキが5こあって、それに1こずついちごをのせるってことだからです。

 このうちC1は,C2やC4と比べて,「ケーキが5つあります。1こずつのせると,いちごは何こいりますか。」という問題の場面をきちんととらえておらず,「ずつ」のあるほうがかけられる数になるという方略を採っているように思えます。その一方で,C1の発言を肯定的に捉えるなら,既習の「基準量が後に示された問題」を思い出しながら,どちらがかけられる数か,かける数かを,適切に認識していると見ることもできます。
 評価テスト問題(p.64)は以下の通りです。いずれの問題文にも,「ずつ」が出現しません。

1 1はこ 3こ入りの ドーナツ 5はこ分では、何こに なりますか。
2 1まい9円の 画用紙を 6まい 買います。何円に なりますか。
3 8チームで やきゅうの しあいをします。1チームは 9人です。みんなで 何人 いますか。
4 長いすが 6つあります。1つのいすに 4人 すわります。みんなで 何人 すわれますか。
5 三りん車が 5台 あります。1台の タイヤの数は 3つです。タイヤの数は ぜんぶで いくつですか。
6 かぶと虫が 8ぴき います。1ぴきの 足の数は 6本です。足の数はぜんぶで何本ですか。

 各出題の意図は,同じページに「1,2は出てくる順番通りに立式すればよいが,3,4は逆になるので難易度が高くなる。5,6も逆になる問題であるが,キャラクターを使うことで問題場面がイメージし易くなれば正答率が上がることが予想される」と書かれています。得意なA児は全問正解,苦手なB児は1,2,5,6に正解しており,全体の正答率*2においても3,4が低く,キャラクターを使った5,6が高くなっています。
 かけ算(2)の11,「ケーキが5つあります。1こずつのせると,いちごは何こいりますか。」に話を戻します。支援について,〈確認するための視覚化〉と〈思考を促すための動作化〉が書かれていますが,「1×5」で「いちご」という語呂合わせ,あるいは聴覚的支援もまた,意図されていたのではなかったでしょうか。

*1:この観点でも,アレイに基づく場面では,かけられる数とかける数とを交換した2つのかけ算の式が正解(その場面を表す式)となり得ますが,かけ算(1)の7(p.58)の,牛乳瓶が5×4に入った場面について,「4×5はだめだよ。だって問題に5本ずつ4れつって書いてあるから。」という子どもの発言を,反応に入れています。

*2:図17 (p.65)に見られるパーセント表記の正答率について,「対象児童28名」という実態に,少々合っていません。小数第2位がいずれも「0」ですがこれは記載ミスと思われます。「基準量が先に示された問題」となる1と2では,2問合わせた正答数が53であれば,正答率は53/(28×2)×100=94.64…と求められます。3と4の合計正答数は38,5と6については合計50で,紀要に記載の値と最も近くなります。

シュスター先生の授業~"Classroom Discussions" 初版本より

  • Chapin, S. H., O'Connor, C., and Anderson, N. C.: Classroom Discussions (Using Math Talk to Help Students Learn, Grades 1-6), Math Solutions (2003).

Classroom Discussions: Using Math Talk to Help Students Learn : Grades 1-6

Classroom Discussions: Using Math Talk to Help Students Learn : Grades 1-6

 Amazonで安値だったので注文しました。第1章(An Overview)の出だしは,シュスター先生の授業~かけ算の順序と交換法則でSECOND EDITIONに基づく記載を取り上げた*1のと同じく,かけ算の交換法則の授業でしたが,読んでみると,いくつか数量が異なっているのに気づきました。
 以下は冒頭の書籍における記載と和訳です。SECOND EDITIONと異なる箇所は色を替えています。また「」は,SECOND EDITIONにある記載がないことを意味します。

The students in Mrs. Schuster's third grade are discussing a question she has set out for them to consider: "Does the order of the numbers in a multiplication sentence affect the answer? Explain why or why not." In order to explore this question, they are generating examples of multiplication sentences and testing what happens when they change the order of the factors. Students know many of the basic multiplication facts but have not yet learned an algorithm for multidigit multiplication.
〔シュスター先生が担任する3年の児童たちは,先生が提示した次の問題について議論をしている:「かけ算の式で,数の順序によって答えが変わるか? なぜそうなるか(またはそうでないか)を説明しなさい」。この問いを詳しく検討するため,児童たちはかけ算の式の例を作って,かける数とかけられる数の順序を変えると答えがどうなるかを調べている。彼らは,基本的なかけ算の九九はよく知っているが,複数桁のかけ算の計算方法はまだ学習していない。〕
One student has made a conjecture that the order of the factors does not make a difference—"the answer is the same no matter which number goes first." Students are agreeing with this conjecture by bringing up other examples that work, such as 3 x 4 = 12 and 4 x 3 = 12. Mrs. Schuster then asks if this conjecture works with larger numbers and suggests that they use calculators to check. Students are able to generate many examples to verify the conjecture, but explaining why the products are the same is not as straightforward as carrying out the multiplication.
〔ある児童が,かける数とかけられる数の順序は変化をもたらさない,すなわち「どちらの数が先に来ても,答えは同じ」と予想した。児童たちは,3×4=12と4×3=12といった式の例を見ていきながら,この予想に同意している。そこでシュスター先生が,この予想は大きな数でも成り立つかどうかを,電卓を使って確かめなさいと指示した。児童たちは,この予想が正しいことを確かめるため多数の例を作れるものの,なぜその答えが同じになるかを説明するのは,かけ算の答えを求めることほど容易ではない。〕
1. Eddie: Well, I don't think it matters what order the numbers are in. You still get the same answer. But three times four and four times three seem like they could be talking about different things.
〔1. エディ:えっと,私は数の順序で違いがあるようには思いません。たしかに,同じ答えになります。だけど,「3倍の4」と「4倍の3」は,異なることを言っているように見えます。〕
2. Mrs. S: Rebecca, do you agree or disagree with what Eddie is saying?
〔2. 先生:レベッカさん,あなたはエディさんの意見に,賛成ですか反対ですか。〕
3. Rebecca: Well, I agree that it doesn't matter which number is first, because three times four equals twelve and that's the same thing as four times three. But I don't get what Eddie means about them saying different things.
〔3. レベッカ:はい,私はどちらの数が先に来ても問題にならないと思います。なぜなら,3倍の4は12で,4倍の3も同じことだからです。ですが,エディの,異なることを言っているというのが,何を意味するのか分かりません。〕
4. Mrs. S: Eddie, would you explain what you mean?
〔4. 先生:エディさん,どういうことか説明してくれますか?〕
5. Eddie: Well, I just think that like three times four can mean three groups of four things, like three bags of four apples. And four times three means four bags of three apples, and those don't seem like the same thing.
〔5. エディ:はい,「3倍の4」というのは,4つのものが3グループという意味になります。そして,「4倍の3」は,3つのリンゴが4袋で,それらは同じものではないように思うのです。〕
6. Tiffany: But you still have the same number of apples! So they do mean the same!
〔6. ティファニー:だけどリンゴの数は同じでしょ! だから同じってこと!〕
7. Mrs. S: OK, so we have two different ideas here to talk about. Eddie says that order does matter, because three times four and four times three can each be used to describe a different situation, like four bags of three apples or three bags of four apples. So the two number sentences mean different things. And Tiffany, are you saying that those two number sentences can't be used to describe two different situations?
〔7. 先生:分かりました。ここまでの発表で,2つの違った考えが出てきましたね。エディさんは,順序は重要だと言いました。なぜなら3倍の4と4倍の3は,「3個入りのリンゴが4袋」と「4個入りのリンゴが3袋」のように,それぞれ違った場面を表すのに使えるからです。それで(かける数とかけられる数を入れかえた)2つの式は異なるものを表すのですね。さてティファニーさん,あなたは,そんな2つの式が違った場面を表すのに使えないって言うのですか?〕
8. Tiffany: No, I mean that even though the number of bags is different, the answer is the same.
〔8. ティファニー:いいえ,私が言いたいのは,袋の数が違っていても,答えは同じになるってことです。〕
9. Mrs. S: OK, so you're saying that order doesn't matter because the answer is the same?
〔9. 先生:分かりました。じゃあ,答えが同じになるから,順番は重要じゃないと言いたいわけ?〕
10. Tiffany: Right.
〔10. ティファニー:そうです。〕
11. Mrs. S: OK. We need to think about this. In Eddie's statement, order makes a difference in the situation you're describing. In Tiffany's statement, order doesn't make a difference in the answer we get. So when does order make a difference in multiplying two numbers together?
〔11. 先生:分かりました。このことについてみんなで考える必要がありますね。エディさんの意見では,順序は,場面を表す際の違いをもたらします。ティファニーさんの意見だと,同じ答えになるのだから違いはありません。では,2つの数をかけ合わせて,順序が違いをもたらすのは,どんなときでしょうか?〕

 上記のやりとりは,一貫しているように見えます。使用するかけ算の式は「3×4」と「4×3」です。それに対しSECOND EDITIONでのやりとりでは,3. Rebeccaの発言中に"two times five equals ten"が出現し,それに影響する形で,5. Eddieの説明も7. Mrs. Sの整理も,「2×5」と「5×2」の比較となっています。
 この違いについて,謎を解く手がかりが,直後の段落の最後の文に記されていました。以下は,初版本およびSECOND EDITIONで同一内容でした。

Mrs. Schuster is using classroom talk to deepen students' understandin of the commutative property. She knows that this mathematical idea maybe clear enough for the operation of addition, but that it gets complicated when we introduce multiplication. She knows that in the case of addition, students can easily see that the number sentence 2 + 3 and the number sentence 3 + 2 can be used to describe the same situation. It doesn't really matter whether we mention the three pears or the two apples first. In the case of multiplication, however, if we focus on the particulars of the problem situation, the order of elements in the number sentences suddenly matters. As Eddie points out, two bags of five apples and five bags of two apples are very different.

 ここから推測できる経緯は次のとおりです。Mrs. Schusterをはじめ,人物名は別かもしれません*2が,SECOND EDITIONと同様に,ある児童が途中で"two times five equals ten"を持ち出した授業がなされ,テープまたは筆記で記録されていました。それを“Clasroom Discussions”の本の第1章で取り上げようと,著者らが編集する中で,3×4と4×3で一貫するのがよいと考え,授業のやりとりも,これらの式に基づく関係に書き換えました。しかし,授業シーンが終わったあとの,"As Eddie points out, two bags of five apples and five bags of two apples are very different."には見直しがなされず,そのまま2003年に出版されてしまい,SECOND EDITIONにおいては,授業のやりとりが修正されたというわけです。
 「3×4と4×3,答えは同じでも意味が違う」を言うには,Luckier! - わさっきで紹介した"three children each having four candies are luckier than four children each having three candies"(4つずつキャンディを持っている3人の子どもは,3つずつキャンディを持っている4人の子どもよりも,運がいい)が明快であり,授業でも実演しやすいと思います。「3×4と4×3,答えは同じ」を活用するなら,「みんなが描いた絵を3段・4列で掲示しようとしたら,掲示板の横幅が足りなかったので,4段・3列にするよ」でしょうか。

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20141002/1412193761https://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/49https://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/71でも紹介しています。

*2:Acknowledgmentsには,Schusterの語は見当たりませんでした。

算数教育への批判と『小学校学習指導要領解説算数編』の記載,Ver.3をリリース

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 Googleドキュメントにて,https://docs.google.com/spreadsheets/d/1IhdzSy28FW1xdYCBilWNRR_vXo183M11ex-hcjByqwg/edit?usp=sharingよりスプレッドシートの参照と,Excel形式によるダウンロードができます。
 「新しい解説」の参照元を,以下の書籍に変更しました。なお,Amazonでは出版日が2018/3/1と出ていますが,書籍の奥付には「平成30年2月28日 初版発行」とあり,表では「新しい解説(2018年2月)」としました。

 右端の列は「学年」から「ページ」に置き換えました。
 今回参照した書籍には,「学習指導要領改善に係る検討に必要な專門的作業等協力者(職名は平成29年6月現在)」のページがありました.「被乗数と乗数の順序」を2011年の本の中で記載*1した,清水紀宏氏の名前も見つかりました。ほかに,筑波大学附属小学校教諭として,盛山隆雄氏が,またベネッセコーポレーションの主任研究員として,星千枝氏が,入っていました。

比例の表から2πrへ

 「数学の公式では円周の長さは2πrである。賢い子供なら、すでに公式を知っていて、それに従い「2×3.14×3」と書いてもおかしくない」(円の円周を,円周率を使った式で表す)から,話を始めます。小学5年の算数で,「半径3cmの円の円周の長さを求めなさい」という問題に対し,「2×3.14×3=18.84 答え18.84cm」と,式と答えを書く子がいたとします。どうしてその式になるのと先生が尋ねたときに,l=2πrだからと言う説明で,先生が,またはクラスの子どもたちが,納得してくれるのかは,分かりません。
 なぜ2πrであるのか,言い換えると,なぜ2πrと表せるのかというと,中学1年で学習する,「文字を用いた式」を使うことになります。現行の『中学校学習指導要領解説数学編』では「文字を用いて数量の関係や法則などを式に表現するとき,乗法の記号×は,文字と文字の間や,数と文字の間では普通は省略し,除法の記号÷は,特に必要な場合のほかは*1,それを用いないで分数の形で表すことを学習する。」と書かれています。このルールにより,円周=半径×2×円周率という言葉の式(小学校で期待される式)について,円周をl,半径をr,円周率をπの文字で表したとき,l=2πr(中学校で期待される式)が得られるという次第です。なお,かけ算の式の小中連携に関しては,4a+3bの3例で事例を紹介しています。
 「円周=半径×2×円周率」を直接用いることなく,l=2πr,または「円周=2×円周率×半径」を得ることも可能です。対応表を作ります*2。2行で構成し,上の行は半径,下の行は円周です。具体的に半径1cm,2cm,…,の円を描いて,それぞれの周の長さを測定し,次の表を得たとします。

半径(cm) 1 2 3 4 10
円周(cm) 6.28 12.57 18.85 25.13 62.83

 どの列も,円周÷半径が6.28に近い値となります。商一定ならば,これらの量は比例の関係にあることを意味し,この商が比例定数となって,円周=6.28×半径となります。半径をx,円周をyとすれば,y=6.28×xです。
 もちろんこの6.28は,円周率の2倍のことです。ともあれ,関係を表す式としては「y=6.28×x」にとどめておき,この6.28は中学校では2πと書くんだ,かけ算の記号も書かないんだとまで言えば,最終的に「y=2πx」という等式に至ります。
 小学校の算数の考え方で*3,2πrと同等の式を導けるわけですが,実際に小学校でこのような学習をしているわけではありません。学習に使用されているのは,「半径と円周」ではなく「直径と円周」の関係です。その場合でも2行の表にすれば,商一定なのが分かりますが,これは「円周の直径に対する割合(がどの円でも同じ値になること)」を意味し,「円周率」の導入へとつながるわけです。
 また別の観点で,小学校ではなぜ「円周=半径×2×円周率」であって「円周=2×円周率×半径」は採用されないのかを,書いておきます。上に示した,2行の対応表について,上下どちらも単位がcmで,同種の量となっています。この場合,「もとにする量×割合=比べる量」の関係式で表現できます*4。円周÷半径=(円周率の2倍)であり,(円周率の2倍)が割合に対応します。半径を「もとにする量」,円周を「比べる量」にそれぞれ,対応づければ,「半径×(円周率の2倍)=円周」になるという次第です。
 それに対し,「円周=2×円周率×半径」と書いてみたとき,「×半径」が何をするかけ算なのか,(比例の式を学習していない)小学生向けの解釈は思いつきません。
 これは8×3を,表から見つけるで紹介した事例と,対比をなしています。図3は以下の通りでした。

はんの数 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
人数 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30

 この場合,「3×はんの数=人数」という式が期待されます。3は,1つの班の人数を表します。5年の「乗法の意味の拡張」(子どもたちがこの用語を学習するかどうかはさておき)にもとづくと,「×はんの数」は,人数そのものをかけるのではなく,3人の班が1つだけなら3人,n班なら3人のn倍,と解釈することになります。
 この「はんの数」と「人数」の関係では,「はんの数×3=人数」と表現することに難点があります。2年では指導されておらず,4年の「伴って変わる二つの数量」が必要となります。2つの量が異なる種類の量であり,半径または直径と円周との対応表との相違点となっています。

*1:次期の解説では,「のほかは」は「を除き」に変更されています。

*2:現行の『中学校学習指導要領解説数学編』のPDFで「π」を検索すると,「例えば,比例に関して,半径がrで周の長さがlの円について,「半径を2倍,3倍,…にすると,周の長さはどのように変化するか」を考えるためには,具体的な数で計算して調べることをしなくても,l=2πrという式の意味を読み取って簡単に説明すことができる。」が見つかります。次期の解説にも同趣旨の文があります。

*3:ただし「比例」は6年で学習します。円周率や円周は5年です。

*4:「もとにする量」「比べる量」の用語はhttp://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/05/page5_23.htmlによります。『小学校学習指導要領解説算数編』ではそれぞれ「基準にする大きさ」「割合に当たる大きさ」と書かれています。B×p=Aと表した場合には,Bはbase,pはproportion,Aはamountの頭文字となります。

小数・分数のかけ算を何年で学習するか

 現行および次期の学習指導要領では,「小数×整数」は第4学年,「小数×小数」は第5学年の学習内容となっています。分数のかけ算や,速さ,円(円周率,面積)とともに,これまでの学習指導要領ではどの学年に配当されているかを,整理してみました。


 これまでの分については,学習指導要領データベースインデックスを参照しました。戦後まもなくのものもありますが,現行と同形式となっている,1958年(昭和33年)以降を,今回の調査対象としています。それぞれの算数の節について,リンクのあと,学年ごとに(今回の調査で関心のある)学習事項を並べました。なお,同一学年の列挙について,必ずしも各情報源の記載順ではありません。

  • 1958年(昭和33年)告示,1961年(昭和36年)施行*1
    • 第3節 算数
    • 4年:小数×整数
    • 5年:小数×小数,分数×整数,速さ,円周率,円の面積
    • 6年:分数×分数
  • 1968年(昭和43年)告示,1971年(昭和46年)施行
    • 第3節 算数
    • 4年:小数×整数
    • 5年:小数×小数,分数×整数,速さ,円周率,円の面積
    • 6年:分数×分数
  • 1977年(昭和52年)告示,1980年(昭和55年)施行
    • 第3節 算数
    • 4年:小数×整数
    • 5年:小数×小数,分数×整数,速さ,円周率,円の面積
    • 6年:分数×分数
  • 1989年(平成元年)告示,1992年(平成4年)施行
    • 第3節 算数
    • 4年:小数×整数
    • 5年:小数×小数,速さ,円周率,円の面積
    • 6年:分数×分数
  • 1998年(平成10年)告示,2002年(平成14年)施行
    • 第3節 算数
    • 5年:小数×小数,円周率,円の面積
    • 6年:分数×分数,速さ
  • 2008年(平成20年)告示,2011年(平成23年)施行【現行】
    • 第3節 算数
    • 4年:小数×整数
    • 5年:小数×小数,分数×整数,円周率
    • 6年:分数×分数,速さ,円の面積

 次期については,文科省サイトよりダウンロードできるPDFファイルを参照しました。上記と同じ形式にしておきます。

  • 2017年(平成29年)告示,2020年施行【次期】
    • 第3節 算数
    • 4年:小数×整数
    • 5年:小数×小数,速さ,円周率
    • 6年:分数×分数,円の面積

 いくつか,補足します。「分数×分数」と書いたときの「分数」は整数を含みます*2。「分数×分数」があり,それより下の学年に「分数×整数」がないものは,「分数×分数」を学習する学年で,「分数×整数」も学習することが想定されます。「小数」についても同様です。わり算は今回,とくに取り上げませんでしたが,「小数×整数」と同じ学年で,「小数÷整数」や,「整数÷整数で商が小数になる場合(割り進み)」も学びます。「円周率」に関しては,「円周」の意味や求め方も合わせて学習します.
 箇条書きにしてみると,昭和では変化がなく,平成に入って,“いじっている”のが見てとれます。昭和のころおよび現行では,「小数×小数」および「分数×分数」をそれぞれ学習する際,一つ下の学年で,かける数が整数の場合を学習することとなっています。平成に入ってからは,現行を除き,「分数×整数」と「分数×分数」は同学年です。また,「ゆとり教育」と揶揄されることもある,現行の一つ前の学習指導要領では,「小数×整数」と「小数×整数」も同学年となっています。
 なお,同じ学年であっても,「かけ算の順序はどっちでもいい」ことを意味しません。実際,1998年(平成10年)告示の第3節 算数について,小数の乗法の記載は以下の通りとなっており(主要部のみ抜粋),「乗数や除数が整数である場合の乗法及び除法」と「乗数や除数が小数である場合の乗法及び除法」が異なる項目となっています。

〔第5学年〕
2 内  容
A 数と計算
(3) 小数の乗法及び除法の意味について理解し,それらを適切に用いることができるようにする。
ア 乗数や除数が整数である場合の乗法及び除法の意味について理解すること。
イ 乗数や除数が整数の場合の計算の考え方を基にして,乗数や除数が小数である場合の乗法及び除法の意味について理解すること。

 当時の『小学校学習指導要領解説算数編』*3では,アとイは次のように具体化されていました(pp.131-132)。

 a. 乗数, 除数が整数の場合の乗法, 除法の意味(ア)
 乗数,除数が整数である場合についての小数の乗法,除法の計算の指導では,その計算の意味を,整数の乗法「(整数)×(整数)」や,整数の除法「(整数)÷(整数)」を基にして考えることができるようにする。そのためには,乗法における積の小数点の位置や除法における商の小数点の位置などについて,整数の場合と比べながら学習できるよう配慮する。
 整数に小数を乗除する計算の仕方を考える上で,数の相対的な大きさの見方が有効に働く。例えば,1.2×3の計算では,1.2を0.1が12個あるとみて,0.1×(12×3)のように考えることができる。
 b. 乗数が小数の場合の乗法の意味(イ)
 整数の乗法は,様々な場面を利用しながら,次第に,一つ分の大きさを知ってその幾つ分かの大きさを求めたり,何倍かの大きさを求めたりする計算として意味付けがされてきている。
 この学年では,乗数が小数の場合にも,乗法を用いることができるようにしたり,除法との関係も考えて,より広い場面や意味に用いることができるように一般化していく。その際,数量の関係が同じ場面では,整数の場合に成り立つ式の形は,小数の場合にも同じように用いていくという考えにより,小数の場合の式をつくっていく。
 例えば,1メートルの長さが80円の布を2メートル買ったときの代金は,80×2という式で表せる。同じように,この布を2.5メートル買ったときの代金は,80×2.5という式で表せる。
 こうしたことから,整数や小数の乗法の意味は,(基準にする大きさ)×(割合)=(割合に当たる大きさ)とまとめることができる。

 なぜ「×整数」を,「×小数」や「×分数」と分けて(あるいはより下の学年で)学ぶようにしているのかというと,思いつくのは「累加」です。「0.1×3」と「\frac23×6」は,それぞれ「0.1が3つ」「\frac23が6個」と考えれば,「0.1+0.1+0.1」「\frac23+\frac23+\frac23+\frac23+\frac23+\frac23」と表すことができ,たし算で(手間はさておき)計算ができます。かける数が乗数になると,累加で表せなくなり,そこで乗法の意味の拡張*4が意図されているわけです。
 「3×0.1」や「6×\frac23」といった式に表したり,計算して0.3や4を得たりするのは,今回の調査範囲ではいずれも,それぞれ第5学年と第6学年での学習です。ここで,3×0.1=0.1×3=0.3のような計算の仕方については,小数の乗法において交換法則が成立することを確認してからとなります。次期の『小学校学習指導要領解説算数編』で「そこで実際に120×2.5を今までに学習した乗法の性質を用いて答えを出してみて,実際の値段と一致するか確かめてみることが大切である。例えば乗法の交換法則を用いて答えを出すと,120×2.5=2.5×120=300となる。」と書かれた箇所について,小数の乗法の交換法則を先取りしているように読めます。

*1:http://www.nier.go.jp/guideline/s33e/chap3-3.htmの施行期日(但し書き),およびwikipedia:学習指導要領より,実質的に「1961年度(昭和36年度)」からの施行と判断しました。

*2:小数と分数を含んだ式の計算については,今回参照したいずれにも記載がありませんでした。

*3:isbn:9784491015507

*4:メインブログより:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120301/1330547942http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20151210/1449694799http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20161122/1479743916