かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

平成30年度全国学力・学習状況調査の【かけられる数】

 ツイッターのタイムラインを通じて,批判的な立場からの掲示板でのやりとりを,http://8254.teacup.com/kakezannojunjo/bbs/t21/2917-2919*1で知ることができました。
 3つの投稿のうち最も古い,2917では,小算B-14というページ数を示して,「九九の表の横に【かけられる数】とか書いてありますね。学習指導要領解説にすら出てこない言葉なんですが、生徒は知ってないといけないのですかね?」と疑問を投げかけています。ですがそこには,教科書をはじめ,既存の情報をチェックしようとする態度がうかがえません。
 Webで読めるところでは,啓林館の九九表|算数用語集に,今回の出題と同じく,「かけられる数」が表の左に,「かける数」が上に記された九九の表を見ることができます。また,Googleで検索し,画像をざっと見た限りでは,かけられる数・かける数を書く場合にはどれも同じで,「かけられる数」が左*2,「かける数」が上です。ただしそれらを書かない九九の表も,多くヒットします。
 さらに驚かされるのは「かけられる数が,学習指導要領解説にすら出てこない言葉」だという指摘です。
 パターンマッチングに,失敗しています。小学校学習指導要領や,小学校学習指導要領解説算数編を読む際には,かけられる数は「被乗数」,かける数は「乗数」に切り替えるだけの話です。
 現行の指導要領(解説のつかないほう)の算数を,見ていきます。http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/san.htmにアクセスし,ページ内を検索すると,「被乗数」は1回,「乗数」は(「被乗数」を含め)9回出現するのが分かります。
 第2学年の「内容の「A数と計算」の(3)のイについては,乗数が1ずつ増えるときの積の増え方や交換法則を取り扱うものとする。」では,「被乗数」が明記されていませんが,ここから「乗数が1増えれば積は被乗数分だけ増える」と推論すること,2年生向けには「かける数が1ふえれば,かけ算の答えはかけられる数だけふえます」と表現することは,きわめて容易なことです。そしてこの性質は,九九で例えば「6×6=36」の次が「6×7=42」であるのはなぜなのかを,九九の表以外を根拠として答えることに使えますし,学年が上がって「乗数が1減れば積は被乗数分だけ減る」を学ぶことで,乗数が0のとき,積が0になるのがなぜかを説明するのにも活用できます。
 学習指導要領で,被乗数(かけられる数)が明示されていないものの考慮されている事項は,高学年にも見られます。第4学年の「乗数や除数が整数である場合の小数の乗法及び除法の計算の仕方を考え,それらの計算ができること。」です*3。被乗数を入れて同じ趣旨にするなら,「被乗数や被除数が小数であり,乗数や除数が整数である場合の乗法及び除法(以下略)」となります。これも累加で考えることができ*4,累加が利用できない,第5学年の「乗数が小数である場合の乗法」より前に,式で表したり計算したりできるわけです。
 掲示板の他の投稿にも,出題意図が読めているのか疑わしいものが見られます。2918の「二重数直線を書かせる問題」や「ナントカ図」について,児童らに書かせていませんし,その図の名称を知らなくても,図より前に文章で書かれた数量の関係を,きちんと認識していれば,正解を選択することができます。
 「式を答えさせるのが気になる」は,当方も気になったところで,過去の全国学力・学習状況調査の算数Aより,式を答えて,解答となる数量は不要という出題を,調査してみました。実施の初年度からあったわけではなく,調べた限り最も古いのは,平成24年度(2012年度)実施の大問3でした。「赤いテープの長さは120cmです。赤いテープの長さは,白いテープの長さの0.6倍です。」を箱で囲み,小問(1)で,赤いテープと白いテープの長さの関係を正しく表している図を,4つの中から選ばせてから,小問(2)で「白いテープの長さを求める式を書きましょう。ただし,計算の答えを書く必要はありません。」と指示しています。
 自分が小学生のときは,文章題といえば式を書いて,それから答えを単位付きで書くのが当たり前だったように思います。それに対し全国学力テストでは,図が用意され,解答欄には単位などが印刷済みで,子どもたちは記号・番号や数だけを書けばよいようになっていたりします。どちらがよいというのではなく,約百万人*5の6年生が解答する,この学力調査において,何を調査したいのかがそこに現れていると,個人的には理解しています。単位に関しては,テスト設計に際して子どもたちの反応を適切に分類・分析できるよう検討する段階で,「数は合っているが単位が間違っている」という類型を必要としていない,ということです。


 かけ算の「~の段」について,メインブログで2016年に記事を書き,いくつか文献を挙げていました。

*1:本記事投稿後も増えると思われます。http://8254.teacup.com/kakezannojunjo/bbs/t21/l50で,最新50件を読むことができます。

*2:「かけられる数」を,「基準量」に置き換えると,リーグ表(対戦表)はそれぞれの行を基準として,他のチーム(列)との勝敗を記載するのが一般的であることと関連します。

*3:第5学年では「小数」が「分数」に置き換わった項目もありますが,次期の指導要領ではこれは第6学年での学習となります。

*4:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20111205/1323022926より,ある海外文献の私訳を抜粋:3人の子どもが4.2リットルずつのオレンジジュースを持っているという場面にも適用できる.式は4.2+4.2+4.2と表せる.このモデル(累加モデル)に属する場面の,重要な特徴は,乗数が整数でなければならないことである.被乗数に制約はない.さらに,このモデルでは,結果が常に被乗数よりも大きくなることを含んでいる.

*5:平成29年度は,当日の児童数が1,012,581人,平成28年度は1,034,957人と報告されています。

東京新聞「日本の算数・数学 大丈夫?」を取り上げたブログ記事

 いくつか検索語を与えて,上位に出てきた記事です。いずれも,小学校教師ではなさそうです。自分の教えている範囲で,あるいは地域や日本全体で,小学校算数で「割合」「速さ」を学んだり,問題を解いたりする中で,「はじき」「くもわ」がどのくらい使われているかを,知ることもできません。筑波の算数の「算数授業研究」あたりでそのうち,「『はじき』『くもわ』が新聞記事になったが…」とマクラに使われながら,小学校であるべき/なされてきた,「割合」「速さ」の指導が文章になるのかなとも思います。
 ところで,上に並べたうち最後の記事には,「弟は、家から学校に毎分120mの速さで出発し、兄は忘れ物を届けるために10分後に家を出発し、毎分200mの速さで追いかけた。兄が弟に追いつくのは兄が出発して何分後か、求めなさい。」という問題をもとに,はじき図をそのまま使えますかと疑問を投げかけています。
 なのですがこの問題は,「速さ×時間=距離」と,中学1年の「文字を用いた式」「一元一次方程式」を用いれば答えが求められます。具体的には,兄が出発してx分後に追いつくとしたとき,120(10+x)=200xと表せます。わり算も,「はじき」も不要なのが,意図*2されています。
 それと,この「弟は…」の問題は「旅人算」として中学受験で知られており,例題や解き方などを,wikipedia:旅人算より見ることができます。小学校の算数の解き方と,中学校の数学の解き方との違いを知る機会*3ともなりまして,結局のところ,「はじき」で解けない(解くことが困難)という主張に旅人算を持ち出すのはミスリードということです.
 この問題にせよ,東京新聞記事中の「15分間で30キロメートル進んだ時の時速は」「2億円は50億円の何%にあたるか」にせよ,間違えやすい問題であり,特定の解き方しか知らない子には手も足も出ないと言うための例示である一方,では実際にどのくらいの児童・生徒が正解にたどり着いているのかについては,情報を得られそうにありません。
 速さに関しては,東京都算数教育研究会の学力調査で,問題文と正答率,指導にあたっての注意などが公開されています。問題文は以下のとおりです。

2時間で240km進むA列車と、3時間で420km進むB列車があります。
(1) A列車の時速を求めましょう。
(2) この2つの列車が同時に同じ方向に走り出したとすると、5時間後に進んだ道のりのちがいは、何kmになりますか。

 http://tosanken.main.jp/data/H28/gakuryokuzittaityousa/h27jittaityousa_kousatu_6nen.pdf#page=2より読むことができます。平成27年度の調査人員(解答者数)は64,398人で,「はじき」の適用で解くことのできる(1)の正答率は91%,「はじき」では困難で,旅人算と同様の数量関係の把握を必要とする,(2)の正答率は77%となっています。他の出題と比較して,まずまずの出来ではないでしょうか。


 東京新聞の記事の末尾,「デスクメモ」の中に「足し算の文章題」のことが書かれています。メインブログから,過去のやりとりを見直すと,2012年に盛り上がっていました。

 次に盛り上がったのは2015年です。

 書籍や論文を通じて知ることのできる,海外の算数教育や授業でも,a+bとb+a,a×bとb×aの対比が試みられており,答えは同じでも意味は違うことを重視しているのを,以下にて整理しました。

*1:東京新聞記事の本文も書かれていますが,デスクメモにいくつか誤記が見られ,手打ちではないかと思われます。

*2:「速さ×時間」に基づく,小学算数のかけ算の式を,中学数学の文字式にする際には,「×」を取り除くだけでよく,左右をひっくり返すことをしていません。これも,混乱を生じさせないことに寄与します。左右をひっくり返す事例については,http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/06/25/050555をご覧ください。

*3:鶴亀算の,小学算数・中学数学の比較は,中山理『算数再入門』isbn:9784121019424より読むことができます。

東京新聞「日本の算数・数学 大丈夫?」のうち二重数直線を目にして思ったこと

  • 東京新聞:日本の算数・数学大丈夫?:特報(TOKYO Web)http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2018040602000161.html(現在はデッドリンク

 この記事について,紙面の複写を得ることができました。東京新聞 2018年4月6日朝刊 11版 26・27面です。
 「はじき」「くもわ」の図の使い方を詳しく紹介した上で,では実際に小学校で,それを使って(あるいは使うことなく)どのような授業がなされているのかは,書かれていませんでした。速さに関する出来はというと,東京都算数教育研究会が実施している調査の中で,「はじき」で解くことのできない問題に対し75~77%の正答率が報告されています(アンチはじき)。その出題を,新聞記事に載せるべきだったとまでは主張しませんが,この団体に問い合わせた形跡がないのは,記事の信頼性を大いに損なわせていると感じました。
 東京新聞は昨年も,算数教育について記事を「特報」しています。西沢宏明氏・芳沢光雄教授の名前は,どちらの記事にも出現します。
 4月6日の記事では,西沢宏明氏のコメントの中に,「二重数直線」が出現します。

 ツイッター上で算数の奇妙な教え方を批判してきた静岡県三島市の学習塾「大場数理学院」の西沢宏明代表も問題視している一人。塾で「15分間で30キロメートル進んだときの時速は」との問題に「30÷15=時速2キロメートル」と答えた子がいたという。
 「そもそも速さの意味や理屈を分かっていないので、自分が出した答えが直感的におかしいと思えない」と西沢氏。比例の問題を解く際に使われる「二重数直線」や「かけわり図」も、同じ弊害があるという。

 「はじき」「くもわ」「二重数直線」「かけわり図」と並べてみると,二重数直線には違和感があります。質問文にしてみます。

  • 「はじき」を使った,テスト問題の実例はありますか?
  • 「くもわ」を使った,テスト問題の実例はありますか?
  • 「二重数直線」を使った,テスト問題の実例はありますか?
  • 「かけわり図」を使った,テスト問題の実例はありますか?

 このうち真っ先に思い浮かぶのは,「二重数直線」です。昨年(平成29年度)実施の全国学力・学習状況調査では,算数Aの最初の大問に,二重数直線が出現します。

f:id:takehikoMultiply:20180411212418j:plain

 調査結果資料から正答率を見ると,(1)は97.0%,(2)は70.0%です。算数Aでは60%台が何問かあるので,60と0.4と□の該当箇所を選ぶ大問1の(2)は,ほどほどの難易度だった,といったところでしょうか。
 平成28年度にも,見つかりました。算数Aの大問4で,シート1㎡あたりの人数を求める式を書くという問題ですが,そのすぐ上に,人数と面積に関する二重数直線が記載されています。
 二重数直線について,東京新聞の記事では「比例の問題を解く際に使われる」と書いていますが,これもまた記者が算数教育の動向について,未消化のまま,記事にしてしまったものと認識しています。『小学校学習指導要領解説算数編』でも,算数の教科書でも,二重数直線が使われるのは5年なのに対し,比例は6年で学習します。*1
 「比例の問題を解く際に使われる」を「割合の問題を解く際に使われる」に置き換えてみると,実際に使う児童もきっといるだろうけれど,「数量の関係を表す」というもう一つの大事な視点が,抜け落ちています。全国学力テストで使われていた2問は,二重数直線をかきなさいというのではありません。二重数直線*2を提供するのは出題者側であって,それをもとに数量の関係を把握したり,関係を式で表したりするのが解答者側(児童)となっています。
 二重数直線に関しては,重要な文献があります。著者はみな,東京の公立小学校の教師です。

 20年以上が経過した今なお,著者の全員が算数教育に携わっていることは,期待できないにせよ,どなたかにインタビューを試み,全国学力テストや次期の『小学校学習指導要領解説算数編』に,この数直線が採用されていることの感想を得ながら,東京における小学校教育・算数教育の実情を,次回の記事で「特報」することを,希望します。
 なお,上で4問並べましたが,「はじき」「くもわ」「かけわり図」については答え(テスト問題の実例)を持ち合わせていません。それから,東京新聞の記事の後半では,大学入試センターの施行調査のことが書かれていますが,入試ではなく高校生の学力を把握するために実施された,選択式と記述式を組み合わせた調査については『高校生の数学力NOW 9―2013年基礎学力調査報告』という本から読むことができ,理系数学の5択問題 - わさっきにて紹介しています。

*1:「比例」の用語と,「簡単な場合の比例の関係」は,5年で学習します。

*2:類似の図式として,テープ図を揃えて上下に並べたものも,よく見かけます。全国学力テストからだと平成26年度の算数A大問2,教科書からだとhttp://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/05/page5_21.htmlです。これらもまた,問題文をもとに子どもたちがかくわけではありません。

速さは割合,でもかけられる数?

 東京新聞が4月6日付けで,算数・数学教育に一石を投じる記事を掲載しています。以下ではリード文と,「はじき」「くもわ」の絵を見ることができます。

 まだ当該記事は取得できていません。https://twitter.com/flute23432/status/982244902556741632から始まるツイートで,算数教科書にはその種の図が載っていない点とともに,記事に対する批判が書かれています。
 ところで,「はじき」の図では,速さの「は」は,左下に配置されます。その一方,「はじき」の図によることなく,速さを「単位時間あたりに移動する距離」ととらえたとき,速さ=距離÷時間と表すことができ,算数においては「異種の二つの量の割合」となります。
 単純化すると,「速さ」は「割合」です。しかし「はじき」の図にせよ,速さ×時間=距離という,言葉の式にせ,乗算記号の左側,「かけられる数」として書くことになります*1
 「くもわ」の図では,割合は右側,「かける数」のほうに配置されます。
 なぜ「速さ」は「割合」なのに,「かける数」とならないのかを考えてみると,単純化した中で切り捨てた「異種の二つの量の」が,重要な役割を果たしているように思えてなりません。
 すなわちこうです。同種の二つの量の割合,例えば白いテープの長さの3倍が赤いテープの長さになる,全体の人数のうち70%が女子である,といった場面においては,「3」や「0.7」が割合として,「くらべる量」「もとにする量」「割合」の3つで構成される「くもわ」の図の中では「わ」となります。
 それに対し,異種の二つの量の割合である速さを含め,パー書きの量は,「はじき」の図式の「は」に該当し,かけられる数に来ます*2。距離÷時間で求められる(平均の)速さや,金額÷分量で求められる単価などが,比例の関係における比例定数となるためです。
 単価の扱いについて,Vergnaud (1983)をもとに具体化を試みます*3。「1個15セントのケーキを4個買います。いくらになりますか」を出発点としたとき,日本の算数*4では,「15×4=60」と式を書き,「答え 60セント」とすることが期待されます。
 ここから小学校の算数を離れた議論となります。「15×4=60」に単位を添えて,「15セント×4個=60セント」と書いてみたとき,数量の扱いとして適切だろうかと考えてみます。次元解析の観点で,合っていません。左辺に合う,右辺の単位は,「セント・個」です(がこんな単位は日常見かけません)。
 そこで,かける数の単位の「個」を取り除いて,「15セント×4=60セント」とすれば,両辺の次元は合います。形式的に取り除いたのではなく,「1個だと15セント。4個買うのなら,金額は15セントの4倍必要だ。だから『×4』と書く」と考えます。かける数の数量を「~倍」と解釈することは,「7個15円の駄菓子を28個買います。いくらになりますか」のような,「1つ分の大きさ」が明示されていない場面のほか,5年でかける数が小数となる場合の「乗法の意味の拡張」でも活用できます。
 「15セント×4個=60セント」に対する,もう一つの修正の仕方は,「15セント/個×4個=60セント」です。これについて,左辺の次元を調整したという見方もできますが,算数教育に歩み寄ってみるなら,「個数と支払額との関係」となります。個数と支払額との関係を表にし,支払額÷個数*5を求めてみると,いずれにおいても一定です。その値は,個数が1のときの支払額であることから,「単価」と見なすことができ,小学2年で学習する「一つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」に割り当てると*6,単価が「一つ分の数」に,個数が「いくつ分」に対応する,という次第です。
 式を整理すると,次のようになります。

  • 「15セント×4個=60セント」は,おかしい(両辺の次元が合っていない)。
  • 「15セント×4=60セント」は,OK。
  • 「15セント/個×4個=60セント」も,OK。

 速さも同様です。「1時間で15km走ります。4時間走ったら,何kmですか」という問題について,単位を添えた式を並べると,次のようになります。

  • 「15km×4h=60km」は,おかしい(両辺の次元が合っていない)。
  • 「15km×4=60km」は,OK。
  • 「15km/h×4h=60km」も,OK。

 2番目の式では,「はじき」も,速さの式(速さ=距離÷時間,または,速さ×時間=距離)も使用しません。場面の関係をもとにします。例えばテープ図を使用して,15kmに対応するテープを4つ,つなげます。そうすれば2~3年生でも数量の関係が理解・表現でき,「15×4」の式を立てることができます。

(最終更新:2018-04-09 朝)

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20160304/1457038746の前半に,関連する書籍などを報告しています。最初のツイートについては,「このページは存在しません。」と出ます。

*2:洋書を含む図の事例は,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150805/1438722422よりご覧ください。

*3:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140924/1411511070

*4:とはいえ,日本の算数で「セント」を用いた出題事例は思い浮かびません。1個15円のお菓子にすべきでしょうか。

*5:上記の「金額÷分量」も同等です。ただし分量と書いた場合には,「0.3m」など,小数で表される量(連続量)も対象となりますが,「個数」だと,分離量に限られます。

*6:表をもとに「個数×単価」や「時間×速さ」といった式を得ることも可能ですが,算数教育において実用性が乏しいようにも思えます。「時間×速さ」と言う子どもがいても,公式(言葉の式)としてクラス全員で理解し,思い出せるようにするには,「速さ×時間=道のり」とするわけです。ここに交換法則(時間×速さ=速さ×時間」)が暗黙のうちに使われています(関連:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20170124/1485210845)。どこかで教わった乗数先唱を根拠に,2×3=6を「さんにがろく」という子どもがいても,先生は面白いねと対応したのち,九九を唱える際には「にさんがろく」と言いましょう,となるのが予想されます。

「いちご」のかけ算

 ブラウザで上記URLにアクセスすると,uekusaを含むドメインに変わります。紀要のPDFは,無料でダウンロードできます。
 副題の「ユニバーサルデザイン」のほか,本文で「特別支援教育」の言葉も見かけますが,特別支援教育としての実施ではなく,「通常学級における授業に視覚化,動作化を意図的に取り入れること」がなされています。2年生の学習ということもあり,「基準量」の「いくつ分」を指導し定着させることが試みられています*1
 かけ算(2)の11(p.61)には,「ケーキが5つあります。1こずつのせると,いちごは何こいりますか。」という問題を使用しています。表の右の列を見ると,T(教師)は「A 5×1=5」「B 1×5=5」と板書し,そこから子どもたちの発言を促します。C1からC4までのうち,理由を説明している3人の発言を取り出します。

C1:わたしはBだと思います。どうしてかというと、5の方が先に書いてあるけど、1個の方にはずつと書いてあるからです。

C2:私もBだと思います。Aだとケーキの上にいちごを5このせて1つ作ることになるからです。

C4:私もBだと思います。ケーキが5こあって、それに1こずついちごをのせるってことだからです。

 このうちC1は,C2やC4と比べて,「ケーキが5つあります。1こずつのせると,いちごは何こいりますか。」という問題の場面をきちんととらえておらず,「ずつ」のあるほうがかけられる数になるという方略を採っているように思えます。その一方で,C1の発言を肯定的に捉えるなら,既習の「基準量が後に示された問題」を思い出しながら,どちらがかけられる数か,かける数かを,適切に認識していると見ることもできます。
 評価テスト問題(p.64)は以下の通りです。いずれの問題文にも,「ずつ」が出現しません。

1 1はこ 3こ入りの ドーナツ 5はこ分では、何こに なりますか。
2 1まい9円の 画用紙を 6まい 買います。何円に なりますか。
3 8チームで やきゅうの しあいをします。1チームは 9人です。みんなで 何人 いますか。
4 長いすが 6つあります。1つのいすに 4人 すわります。みんなで 何人 すわれますか。
5 三りん車が 5台 あります。1台の タイヤの数は 3つです。タイヤの数は ぜんぶで いくつですか。
6 かぶと虫が 8ぴき います。1ぴきの 足の数は 6本です。足の数はぜんぶで何本ですか。

 各出題の意図は,同じページに「1,2は出てくる順番通りに立式すればよいが,3,4は逆になるので難易度が高くなる。5,6も逆になる問題であるが,キャラクターを使うことで問題場面がイメージし易くなれば正答率が上がることが予想される」と書かれています。得意なA児は全問正解,苦手なB児は1,2,5,6に正解しており,全体の正答率*2においても3,4が低く,キャラクターを使った5,6が高くなっています。
 かけ算(2)の11,「ケーキが5つあります。1こずつのせると,いちごは何こいりますか。」に話を戻します。支援について,〈確認するための視覚化〉と〈思考を促すための動作化〉が書かれていますが,「1×5」で「いちご」という語呂合わせ,あるいは聴覚的支援もまた,意図されていたのではなかったでしょうか。

*1:この観点でも,アレイに基づく場面では,かけられる数とかける数とを交換した2つのかけ算の式が正解(その場面を表す式)となり得ますが,かけ算(1)の7(p.58)の,牛乳瓶が5×4に入った場面について,「4×5はだめだよ。だって問題に5本ずつ4れつって書いてあるから。」という子どもの発言を,反応に入れています。

*2:図17 (p.65)に見られるパーセント表記の正答率について,「対象児童28名」という実態に,少々合っていません。小数第2位がいずれも「0」ですがこれは記載ミスと思われます。「基準量が先に示された問題」となる1と2では,2問合わせた正答数が53であれば,正答率は53/(28×2)×100=94.64…と求められます。3と4の合計正答数は38,5と6については合計50で,紀要に記載の値と最も近くなります。

シュスター先生の授業~"Classroom Discussions" 初版本より

  • Chapin, S. H., O'Connor, C., and Anderson, N. C.: Classroom Discussions (Using Math Talk to Help Students Learn, Grades 1-6), Math Solutions (2003).

Classroom Discussions: Using Math Talk to Help Students Learn : Grades 1-6

Classroom Discussions: Using Math Talk to Help Students Learn : Grades 1-6

 Amazonで安値だったので注文しました。第1章(An Overview)の出だしは,シュスター先生の授業~かけ算の順序と交換法則でSECOND EDITIONに基づく記載を取り上げた*1のと同じく,かけ算の交換法則の授業でしたが,読んでみると,いくつか数量が異なっているのに気づきました。
 以下は冒頭の書籍における記載と和訳です。SECOND EDITIONと異なる箇所は色を替えています。また「」は,SECOND EDITIONにある記載がないことを意味します。

The students in Mrs. Schuster's third grade are discussing a question she has set out for them to consider: "Does the order of the numbers in a multiplication sentence affect the answer? Explain why or why not." In order to explore this question, they are generating examples of multiplication sentences and testing what happens when they change the order of the factors. Students know many of the basic multiplication facts but have not yet learned an algorithm for multidigit multiplication.
〔シュスター先生が担任する3年の児童たちは,先生が提示した次の問題について議論をしている:「かけ算の式で,数の順序によって答えが変わるか? なぜそうなるか(またはそうでないか)を説明しなさい」。この問いを詳しく検討するため,児童たちはかけ算の式の例を作って,かける数とかけられる数の順序を変えると答えがどうなるかを調べている。彼らは,基本的なかけ算の九九はよく知っているが,複数桁のかけ算の計算方法はまだ学習していない。〕
One student has made a conjecture that the order of the factors does not make a difference—"the answer is the same no matter which number goes first." Students are agreeing with this conjecture by bringing up other examples that work, such as 3 x 4 = 12 and 4 x 3 = 12. Mrs. Schuster then asks if this conjecture works with larger numbers and suggests that they use calculators to check. Students are able to generate many examples to verify the conjecture, but explaining why the products are the same is not as straightforward as carrying out the multiplication.
〔ある児童が,かける数とかけられる数の順序は変化をもたらさない,すなわち「どちらの数が先に来ても,答えは同じ」と予想した。児童たちは,3×4=12と4×3=12といった式の例を見ていきながら,この予想に同意している。そこでシュスター先生が,この予想は大きな数でも成り立つかどうかを,電卓を使って確かめなさいと指示した。児童たちは,この予想が正しいことを確かめるため多数の例を作れるものの,なぜその答えが同じになるかを説明するのは,かけ算の答えを求めることほど容易ではない。〕
1. Eddie: Well, I don't think it matters what order the numbers are in. You still get the same answer. But three times four and four times three seem like they could be talking about different things.
〔1. エディ:えっと,私は数の順序で違いがあるようには思いません。たしかに,同じ答えになります。だけど,「3倍の4」と「4倍の3」は,異なることを言っているように見えます。〕
2. Mrs. S: Rebecca, do you agree or disagree with what Eddie is saying?
〔2. 先生:レベッカさん,あなたはエディさんの意見に,賛成ですか反対ですか。〕
3. Rebecca: Well, I agree that it doesn't matter which number is first, because three times four equals twelve and that's the same thing as four times three. But I don't get what Eddie means about them saying different things.
〔3. レベッカ:はい,私はどちらの数が先に来ても問題にならないと思います。なぜなら,3倍の4は12で,4倍の3も同じことだからです。ですが,エディの,異なることを言っているというのが,何を意味するのか分かりません。〕
4. Mrs. S: Eddie, would you explain what you mean?
〔4. 先生:エディさん,どういうことか説明してくれますか?〕
5. Eddie: Well, I just think that like three times four can mean three groups of four things, like three bags of four apples. And four times three means four bags of three apples, and those don't seem like the same thing.
〔5. エディ:はい,「3倍の4」というのは,4つのものが3グループという意味になります。そして,「4倍の3」は,3つのリンゴが4袋で,それらは同じものではないように思うのです。〕
6. Tiffany: But you still have the same number of apples! So they do mean the same!
〔6. ティファニー:だけどリンゴの数は同じでしょ! だから同じってこと!〕
7. Mrs. S: OK, so we have two different ideas here to talk about. Eddie says that order does matter, because three times four and four times three can each be used to describe a different situation, like four bags of three apples or three bags of four apples. So the two number sentences mean different things. And Tiffany, are you saying that those two number sentences can't be used to describe two different situations?
〔7. 先生:分かりました。ここまでの発表で,2つの違った考えが出てきましたね。エディさんは,順序は重要だと言いました。なぜなら3倍の4と4倍の3は,「3個入りのリンゴが4袋」と「4個入りのリンゴが3袋」のように,それぞれ違った場面を表すのに使えるからです。それで(かける数とかけられる数を入れかえた)2つの式は異なるものを表すのですね。さてティファニーさん,あなたは,そんな2つの式が違った場面を表すのに使えないって言うのですか?〕
8. Tiffany: No, I mean that even though the number of bags is different, the answer is the same.
〔8. ティファニー:いいえ,私が言いたいのは,袋の数が違っていても,答えは同じになるってことです。〕
9. Mrs. S: OK, so you're saying that order doesn't matter because the answer is the same?
〔9. 先生:分かりました。じゃあ,答えが同じになるから,順番は重要じゃないと言いたいわけ?〕
10. Tiffany: Right.
〔10. ティファニー:そうです。〕
11. Mrs. S: OK. We need to think about this. In Eddie's statement, order makes a difference in the situation you're describing. In Tiffany's statement, order doesn't make a difference in the answer we get. So when does order make a difference in multiplying two numbers together?
〔11. 先生:分かりました。このことについてみんなで考える必要がありますね。エディさんの意見では,順序は,場面を表す際の違いをもたらします。ティファニーさんの意見だと,同じ答えになるのだから違いはありません。では,2つの数をかけ合わせて,順序が違いをもたらすのは,どんなときでしょうか?〕

 上記のやりとりは,一貫しているように見えます。使用するかけ算の式は「3×4」と「4×3」です。それに対しSECOND EDITIONでのやりとりでは,3. Rebeccaの発言中に"two times five equals ten"が出現し,それに影響する形で,5. Eddieの説明も7. Mrs. Sの整理も,「2×5」と「5×2」の比較となっています。
 この違いについて,謎を解く手がかりが,直後の段落の最後の文に記されていました。以下は,初版本およびSECOND EDITIONで同一内容でした。

Mrs. Schuster is using classroom talk to deepen students' understandin of the commutative property. She knows that this mathematical idea maybe clear enough for the operation of addition, but that it gets complicated when we introduce multiplication. She knows that in the case of addition, students can easily see that the number sentence 2 + 3 and the number sentence 3 + 2 can be used to describe the same situation. It doesn't really matter whether we mention the three pears or the two apples first. In the case of multiplication, however, if we focus on the particulars of the problem situation, the order of elements in the number sentences suddenly matters. As Eddie points out, two bags of five apples and five bags of two apples are very different.

 ここから推測できる経緯は次のとおりです。Mrs. Schusterをはじめ,人物名は別かもしれません*2が,SECOND EDITIONと同様に,ある児童が途中で"two times five equals ten"を持ち出した授業がなされ,テープまたは筆記で記録されていました。それを“Clasroom Discussions”の本の第1章で取り上げようと,著者らが編集する中で,3×4と4×3で一貫するのがよいと考え,授業のやりとりも,これらの式に基づく関係に書き換えました。しかし,授業シーンが終わったあとの,"As Eddie points out, two bags of five apples and five bags of two apples are very different."には見直しがなされず,そのまま2003年に出版されてしまい,SECOND EDITIONにおいては,授業のやりとりが修正されたというわけです。
 「3×4と4×3,答えは同じでも意味が違う」を言うには,Luckier! - わさっきで紹介した"three children each having four candies are luckier than four children each having three candies"(4つずつキャンディを持っている3人の子どもは,3つずつキャンディを持っている4人の子どもよりも,運がいい)が明快であり,授業でも実演しやすいと思います。「3×4と4×3,答えは同じ」を活用するなら,「みんなが描いた絵を3段・4列で掲示しようとしたら,掲示板の横幅が足りなかったので,4段・3列にするよ」でしょうか。

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20141002/1412193761https://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/49https://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/71でも紹介しています。

*2:Acknowledgmentsには,Schusterの語は見当たりませんでした。

算数教育への批判と『小学校学習指導要領解説算数編』の記載,Ver.3をリリース

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 Googleドキュメントにて,https://docs.google.com/spreadsheets/d/1IhdzSy28FW1xdYCBilWNRR_vXo183M11ex-hcjByqwg/edit?usp=sharingよりスプレッドシートの参照と,Excel形式によるダウンロードができます。
 「新しい解説」の参照元を,以下の書籍に変更しました。なお,Amazonでは出版日が2018/3/1と出ていますが,書籍の奥付には「平成30年2月28日 初版発行」とあり,表では「新しい解説(2018年2月)」としました。

 右端の列は「学年」から「ページ」に置き換えました。
 今回参照した書籍には,「学習指導要領改善に係る検討に必要な專門的作業等協力者(職名は平成29年6月現在)」のページがありました.「被乗数と乗数の順序」を2011年の本の中で記載*1した,清水紀宏氏の名前も見つかりました。ほかに,筑波大学附属小学校教諭として,盛山隆雄氏が,またベネッセコーポレーションの主任研究員として,星千枝氏が,入っていました。