かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

テーブルの数に4をかける

パーティー会場で4人用のテーブルがすべて満席となり、さらに7人がまだ座っていないことを想定しよう。このとき参加者の人数を数えるとき、どのようにするだろうか。恐らくテーブルの数を数えて、それに4を掛けて、その結果に7を足すだろう。人数を数えることに関しては、テーブル同士は同じと捉えているのである。(略)
(『いかにして問題をとくか・実践活用編』p.151)

「テーブルの数に4をかけたら,人数じゃなくて,テーブルの数が4倍になるのでは?」というツッコミが可能です.
ともあれ小学校の算数として考えると,上の話は,テーブルの数を△台,参加者数を□人とすると,□=△×4+7という式で表せます.第5学年で,領域としては数量関係でしょう.
算数の範囲を超えて言うと,□=△×4+7という関係式で,テーブル数の集合から人数の集合への写像を定義している,と見なすことができます.ただし□のとり得る値は,あらゆる「人数」というわけではないので,全射ではありません.
ここで,○=△×4という関係式を考えてみます.△は先ほど定義したとおり,テーブルの数ですが,○は,「席についた参加者の数」となります.したがって○=△×4は,テーブルの台数から,人数の集合への,△と□とはまた別の写像を定めたことになります*1
○=△×4の中の「×4」が,台数から人数への変換をする作用素と見なせるのは,Vergnaudの解説*2にもあるとおりです.
引用直後のツッコミについては,こう解釈できます;「写像」という言葉にまで至らなくても,このように2つの数量の関係を式で表せることを学ぶまでは,テーブルの数に4をかけて得られるのは,やっぱりテーブルの数だ,と考えるのは自然なことなのです.

*1:なお,□=○+7という式も書くことができて,これは,人数の集合からそれ自身への写像となります.

*2:Vergnaud, G.: Multiplicative Structures, Acquisition of mathematics concepts and processes, Academic Press, pp.127-174 (1983).