かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

皿分の個

子どもの学力を回復する―算数 自学自習への道 (チャートBOOKS)

子どもの学力を回復する―算数 自学自習への道 (チャートBOOKS)

分数ができない大学生―21世紀の日本が危ない』の著者でもあります.
「分数の概念としての働き―その意味として」と題した文章では,論争になりがちな文章題のあと,いくつかかけ算の式が書かれていました.

問題
1皿につき3個のりんごが載っている皿が2さらあります。りんごは全体で何個でしょう。

答えはもちろん6個です。
しかし、式を立てる段階で、3×2=6なら正解で、2×3=6とするとペケにする方がいるのです。その理由として、私が今まで聞いたものは、唯一「答えの単位(個)と同じ単位が前になければいけない」というものでした。その主張の計算法で単位もつけて計算すると、
3(個)×2(皿)=6(個)
ですが、単位の部分だけ取り出して考えると
個×皿=個
という何とも不思議な式になってしまいます。
この理由は単位の考えがおかしいからです。正確には、
3(個/皿)×2(皿)=6(個)
と書くべきであって、単位の部分だけ取り出しても、
個/皿×皿=個
と、完全に意味のある式になります。この個/皿の単位を小学校の時から学習させることには、意見が分かれると思います。しかし、大学に行く頃には「個×皿=個」が間違いであると知ることは必要なのです。
(pp.38-40)

「個/皿」は,原文では分数の形(「個」が分子,「皿」が分母)で書かれていました.
この本が出されたとき(2005年)の,「個×皿=個」の普及度を知ることは,できませんが,去年の春から調査をしていまして,「3個×2皿」と同様の,物品の数量表記は,量販店でも,また家の中でも,たくさん目にすることができます.
最近からだと,(もう一つのブログですが)1.5kg×4箱で検討を試みました.当ブログで,これまで公開したものを見ていくと,30分×10人=300分が目に留まりました.
ともあれ,上の引用のりんごの問題について,私自身は次のように考えています.

  • 算数として見ると,これは「3×2=6 答え6こ」と書けるようになってほしい.
  • 「3個×2皿=6個」あるいは「3個×2皿」は,日常生活で見かける書き方.ここの「2皿」は「2倍」の意味になり,これが“倍の乗法”(というタイプのかけ算.そして別のタイプのかけ算もある)における,かける数の役割である.
  • 「3個/皿×2皿=6個」あるいは「3個/皿×2皿」という書き方も,知っておいて損はない.これは物理の次元解析を算数に持ってきたもの.
  • 「2×3=6」と書いて,受け手が「2皿×3個=6個」または「2皿×3個/皿=6個」と理解してくれればいいが,「2皿×3個=6皿」もしくは「2個×3皿=6個」「2個/皿×3皿=6個」と受け取られるとまずい.「3×2=6」と書いたら(日本人が学んできた算数の知識により),誤読されることはまずない.
  • いま,算数のかけ算の単元では,a×bとb×aの違い,より具体的には,それらの答えは同じでも,意味が違うことを学習している.複数の教科書 * * で,そのことが意図された文章題が並べられている.海外にも見られる *

分数の形の単位,すなわちパー書きについて,小学校の算数で要注意なことは,以前にも * 示してきました.それと別に,パーセンテージ(例えば,3万人の5%)や順列・組み合わせ(例えば,1位は4通り,それぞれに対して2位は3通り)で使うかけ算は,いずれも,パー書きを使うものとは別のタイプになるわけで,どのようなタイプのかけ算をどのように学習していけばよいかという観点も,必要となってきます.
「分数の概念としての働き―その意味として」全体については,次のことを思いました---“小数では不便,分数だと便利”な事例があるのは確かですが,“分数だと不便,小数だと便利”な事例もあるわけです.例えば外貨の両替について,空港(海外では,町なかも)のディスプレイや,レシートの印字が分数であることを,望まれますか? もしそうだったら,複数のレートを見て比較をするのも困難です.レートや金額の表示では,小数のほうが,コストパフォーマンスに優れています.
なのですが,金額を求める段階では,分数の概念と密接な関わりを持つパー書きは,有用な考え方となります.単位の変換と内包量・逆内包量について,ここに私案を置いています.
どの方法にも得手不得手があるのです.