かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

これでも東京書籍は掛算の順序強制の方針。

ツイート主さんの思惑とは別に,この出題と典拠(東京書籍『あたらしい さんすう 1』のp.137)から,連想できる情報がいくつかあります.
一つは,他社の算数教科書です.配る問題,かけ算の順序りんごのかけ算 - わさっきで整理してきたとおり,啓林館の教科書では,「子どもが 3人 います。みかんを 1人に 2こずつ あげます。みんなで なんこ いりますか。」に対し,2+2+2=6として求めるのを1年で学習します.しかしこのタイプの(1年での)出題は,他社の教科書のほか,各教科書会社準拠の問題集をざっと見た経験から,啓林館のみであることも把握しています.
ツイートでリンクされている画像のいくらかを,文字にしておきます.縦に4枚,横に3枚,並べた色板に対し,「しきに かくと 3+3+3+3=12です」と子どもが言っています.ここで4+4+4の式が出てこないのは,そこでは3+3+3+3=4+4+4を学ぶのが目的でないからなのですが,4+4+4の式を,ビルの建設に当てはめると,こんなツッコミもできそうです:先に左側の1階から4階までをつくり,次に真ん中の列の1階から4階までをつくり,最後に右側の1階から4階までをつくるような建て方があるのでしょうか?
啓林館のも東書のも,1つ分の数が何で,それがいくつある場面なのかを確認できる内容だ,という共通点があります.それを学ぶ手段として,啓林館では「基準量が後に示された問題」,東書はタイルを用いている,という違いも見えます.
もう一つ,関連する内容が,国外にあります.Core Standardsです.

Work with equal groups of objects to gain foundations for multiplication.

  • Determine whether a group of objects (up to 20) has an odd or even number of members, e.g., by pairing objects or counting them by 2s; write an equation to express an even number as a sum of two equal addends.
  • Use addition to find the total number of objects arranged in rectangular arrays with up to 5 rows and up to 5 columns; write an equation to express the total as a sum of equal addends.
Grade 2 » Operations & Algebraic Thinking | Common Core State Standards Initiative

この中で「rectangular arrays」を含む2番目の項目が,東書の教科書の学習とぴったり一致します.
学習する学年には,違いがあります.Core Standardsでは上記は2年で,そしてかけ算そのものは3年で学習します.日本では,「まとめて数える」「3口のたし算」は1年で,かけ算は2年です.学年は違っても,同じ数どうしのたし算が,かけ算の学習の素地(foundations)となるという系統性は,共通しています.
Core Standardsの上記事項と,東書の教科書について,どちらが先につくられたのかは不明ですが,両者をつなぐ人物がいます.
DEPAUL大学の高橋明彦氏です*1.東京書籍の教科書の編集者リストに名前が載っている*2とともに,『算数授業研究 VOL.89』ほかで,Common Core State Standards - Mathematicsを紹介する記事を書いています.
「掛算」「順序」「強制」は,初等教育を外から見る大学教員が繰り広げる,共感を呼ぶ(らしい)フレーズであるのには注意をしつつ,小学校で学習し,日常生活でも見かけるかけ算や「×」の事例,そしてそこから読み取れるメッセージについて,こちらは引き続き関心を持って見ていくとします.
本日の内容は,メインブログの以下とのタイアップ記事です.