かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

アレー図そして面積図

「トンデモな意見」とは,なかなかです.
続くツイートでは,「アレー図とはモノを長方形型に並べた図のこと」とし,あとは毎度の,批判者の道です.
ここでスイッチ*1して,学習者の道を歩んでおくと,もとの文献の「アレー図を使いながら教えるのがよいだろう」を「低学年ではアレー図,高学年になれば面積図を使いながら教えるのがよいだろう」に置き換えれば,書籍やWebの情報と結びつけて,理解が容易となります.
ここで念のため,もとの文献の書誌情報を:

教育心理学と教科教育との関わりについては,ふむふむなるほどと思う一方で,「1あたり」「1あたり量」が目につきました*3.関連して,p.199の「学習指導要領にはなく,教えられていない」については,そもそも学習指導要領とその解説や,算数の教科書には,「1あたり」という用語が出てきませんので,代わりに「小数の乗法・除法」や「異種の二つの量の割合(単位量当たりの大きさ)」と照合することが要請されます.
アレー図の関連情報は都合により省略します.面積図について,知っておくと良さそうなのを並べると:

それぞれの図から,次のことが確認できます.すなわち,面積図をもとに,かけ算の式にする場合,かけられる数(1あたり量)が,長方形の縦の長さに対応します.横の長さはかける数です.
小学校の算数や,受験算数ではそうなっているかもしれないが,数学者はどう認識しているのか,というと,見ておきたいのは1973年に発行された『数学の世界―それは現代人に何を意味するか (中公新書 317)』です.図がp.72にあります.

算数の面積図は,この絵の〈正比例型〉の発展形と見ることができます.幅が1のときの大きさがaとあるのを,長方形の高さの部分に割り当てれば,これが1あたり量です.あるいは,比例関係にあるxとyについて,1つの値の組が分かっているなら,a=y/xにより,比例定数をその次元とともに求めることもできます.
冒頭に挙げたツイート主さんは,アレー図という表記から,〈複比例型〉の離散バージョン*4を連想したのではないかと想像します.しかし『数学の世界』には「複比例型では,そのままでは除法は意味を持ちにくい」と書かれており,ここから,実用への難しさを読み取ることができます.
落ち穂拾いをしておきます.もとの文献に戻りまして,市川氏が報告した中の「分数玉」の話は,『教えて考えさせる算数・数学』では「小数玉」として,小数のイメージをつかむ(0.1玉が10個で1になるなど)ための授業で使用されています.わり算の意味や,等分除と包含除の違いについて,同書の「分数でわる計算」の授業(したがって,6年)に見られますが,そこではアレー図も面積図も使用していません.
1つのかけ算に2つのわり算(1つのわり算になることも)の海外事例は,かけ算・わり算でモデル化される場面 - わさっきをご覧ください.本記事の途中に「次元」と書きましたが,算数のかけ算やわり算への次元解析の適用については,http://books.google.co.jp/books?id=Vyl42R9JV1oC&pg=PA189から始まる文章がおすすめです.

*1:http://kosstyle.blog16.fc2.com/blog-entry-1489.html

*2:https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/51/0/51_198/_article/-char/ja/下部の「本文PDF [327K]」をクリックすれば,全文を読むことができます.

*3:個人的には「1あたり」や「内包量」を用いたかけ算の意味づけは良いものと思っておらず,メインブログのhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20121019/1350588115で整理を行っています.そこで取り上げた文献と,今回の「もとの文献」とで,著者に重なりがあります.

*4:もとの文献について,西林氏の問題提起から読んでいくと,小数や分数のわり算を念頭に置いているのに対し,市川氏の発言は,わり算の導入(3年)に限定しているというミスマッチも,見ることができます.そのギャップを埋めるのが,面積図となります.