かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

アレイだとa×b=b×a,を超えて

 先日Amazonより取り寄せた,B5判の2冊の本で,「アレイ図」が活用されていました。

平成29年版 学習指導要領改訂のポイント 小学校 算数 (『授業力&学級経営力』PLUS)

平成29年版 学習指導要領改訂のポイント 小学校 算数 (『授業力&学級経営力』PLUS)

 第2章(事例で見る学習指導要領改訂のポイント)の中のp.54に,「24個のおだんごがあります。そのおだんごを並べます。ひと目でいくつあるかがパッと分かるように,並べてみよう。」という問題文が,角丸四角形で囲まれています。
 このページには4つのアレイ図が見られます。上から順に,次のとおりです。

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○○ ○○ ○○
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 本文では,それぞれの図に対して「8×3」「3×8」「5×5=2,25-1=24」「4×2×3」という式を対応付けています。前二者については「8×3=3×8とまとめていく展開が通常よく見られる」ともあります。
 明示されていませんが,最後の式*1の2番目の乗算記号を除き,かけ算の式は「縦の個数×横の個数」で共通しているのは,興味深いところです。
 もう一つの本に移ります。

知的にたくましい子を育てる算数の授業づくり (算数授業研究特別号19)

知的にたくましい子を育てる算数の授業づくり (算数授業研究特別号19)

 この本では,2年生の研究授業の3番目(p.45)に,スイカのアレイを黒板に貼り付けた写真が載っています。
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 「スイカはいくつ?」の問題文と,「しきとこたえ」「6×5=30」も,書かれています。おおそらくいずれも先生が書いたのでしょう。そして子どもが指をさし,マイク*2を持って,なぜ6×5の式になるかを説明しているような構図です。
 ここのかけ算の式は,「横の個数×縦の個数」です。
 写真の前後では,5×6の式も出現します。そして「5×横の個数」のほうが計算しやすいこと,もっと言うと,a×5と5×aとで,意味が異なることを示しています。

 子どもたちはかけ算の式に表す学習をしており、九九の暗唱はまだしていない状態での授業である。
(上の写真)
 そんな子どもたちに教師から「スイカ畑にスイカがいくつあるのか」が問題として提示された。スイカの並びは6×5にも5×6にも見える。
 まだかけ算九九の暗唱はしていないので、6×5よりも5のまとまりで数えていく5×6の方が数の確認がしやすい。
 このスイカ畑にはさらに奥にもスイカが並んでいた。8×5と5×8のかけ算を考えることになった。
 8×5は8+8+8+8+8
 5×8は5+5+5+5+5+5+5+5
(写真:省略)
 5×8は5とび、あるいは2つの5で10とびにして数えていった。
(写真:省略)
 さらにスイカ畑は14列まで伸びていった。かけ算の式に表せば5×14である。ただし、5とびの数なのでかける数が12を超えても、10のまとまりをつくって答えを出すことができた。

 「5とび」「10とび」について,『小学校学習指導要領解説算数編』では「5ずつ,10ずつ」という表記で,第1学年および第2学年に出現します。すでに授業で学習した上で,かけ算の式の表し方,そして累加による計算をしているのが,上の引用から読み取れます。
 そうしたとき,5行6列に並んだスイカの並びを6×5と表現でき,累加で計算が可能だけれど,実はこの場面では,手間を要するのであって,5×6と表すほうが,計算しやすく,「5とび(5ずつ)」から「10とび(10ずつ)」に移行することもできてより良い,ということにもなります。
 黒板で先生が書いたと思われる「6×5=30」の式も,そこへの誘導のためだった,というわけです。
 本日取り上げた2つの事例について,ゴールは異なっていますが,「1つのアレイでa×bにもb×aにも表せる」ことを超えた学習を目指している,という共通点があります。当ブログでは引き続き,こういった知見を得ることを目指し,文章にしていきたいと考えています。

*1:考え方としては「4×2が3つ」でしょう。本文中には「結合法則に発展させることもできる」とあります。乗法の結合法則といえば3年ですが,p.54の上部には,「「数学的な見方・考え方」を働かせる学習課題の工夫例 3年」の見出しがつけられています。

*2:「2015年7月19日 オール筑波算数サマーフェスティバル」ともあるので,公開授業のワンシーンと思われます。