かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

省略棒グラフの使いどころ

 先に結論を書いておくと,算数教育における省略棒グラフの使いどころとして,「批判的に吟味する対象」と「仮の平均の視覚化」が挙げられます。今年出た2つの情報から,そのことを見ていきますが,まずはネットの情報からです。
 棒グラフで縦軸を省略するものについて,検索すると,途中を波線で省略したグラフを作成 - 棒グラフ - Excelグラフの使い方が上位に出てきました。作るのに手間がかかるなあ,と感じました。
 ただしこの例は,縦軸になる値が複数の範囲に分かれる状況で,範囲の間に波形オブジェクトを入れ,1つの棒グラフにしようとしています。そうではなく,値の範囲が比較的近い(例えば,7.2mから7.6mまでの範囲に収まっているような)とき,棒グラフ上のすべて棒に適用するのも,よく見かけます。Excelでも,軸の最小値を変更することで,容易に実現できます。
 その種のグラフへの批判について,探してみると,https://oku.edu.mie-u.ac.jp/~okumura/blog/node/2304を見つけました。この中で,「まだまだある省略棒グラフ」と題して,平成19年度全国学力・学習状況調査の予備調査の問題例の算数問題の棒グラフが二つとも省略線入りだったと指摘しています。またPISA国際学力調査の問題例については,「省略棒グラフに騙されないようにという問題」と書いています。
 全国学力・学習状況調査の予備調査もまた,「騙されないように」だったのではと思いながら,方向を変えて探していくと,平成19年度の調査実施:文部科学省平成19年度全国学力・学習状況調査の予備調査について(※国会図書館アーカイブページへリンク)があり,その別添資料1より,具体的な問題を見ることができました。
 「騙されないように」が入っていました。該当箇所を抜き出します。

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 ただし,他の小問では,別の省略棒グラフが「どの表やグラフを使えばよいか」の正解になっているところもあり,省略棒グラフそのものについて否定的ではなさそうです。
 2017年の本にも,算数教育における省略棒グラフの使われ方が書かれていました。

平成29年版 学習指導要領改訂のポイント 小学校 算数 (『授業力&学級経営力』PLUS)

平成29年版 学習指導要領改訂のポイント 小学校 算数 (『授業力&学級経営力』PLUS)

 以下の箇所です(p.23)。

❶ある目的に応じて示されたグラフを多面的・批判的に吟味する活動を取り入れる
 これは,他者が作成したグラフの妥当性を多面的じゃつ批判的に検討する活動である。棒グラフや折れ線グラフでは,波線を用いて縦軸を省略すると数量の違いや変化が誇張される場合がある。例えば,教師の方から誇張して表されたグラフとそこから導いた結論を提示し,子供がグラフや結論の妥当性について個人で考えたり,クラスで話し合ったりすることを通して,よりよいグラフにつくり替え,結論を再び導く活動などが考えられる。(略)

 これも,「騙されないように」を培う活動と言ってよく,前述の予備調査に見られる「金曜日におにぎりを買った人の数は,火曜日におにぎりを買った人の数の4倍だね」に対しては,そうではないと言えるようになることを目指しています。なお,❷は「目的に応じてグラフをつくり替えていく活動を取り入れる」,❸は「集団を比較する活動を取り入れる」となっていました。
 今年の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の解説に,「仮の平均の解説で棒グラフの一部省略が使われていること」は,4月21日付けの当ブログで書いていましたが,詳しく見ていきます。算数B大問3です。ゴムの力で動く車を作り,輪ゴムを伸ばして離して,車が進んだ距離を5回調べて表にし,平均を求めます。小問の(2)は,「7m20cmをこえた部分に着目した平均の求め方を,言葉や式を使って書きましょう」となっています。
 解説資料のp.70には以下のとおり,先に省略なしの棒グラフ,そして矢印を置いて次に省略棒グラフが,提示されています。

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 いずれの棒グラフも,そこからそれぞれの値を読み取ったり,割合を求めたりするのではありません。仮の平均を使いながら効率良く実際の平均を算出した上で,なぜ7m20cmを仮の平均にしたかを,可視化したものとなっています。出題意図としてはそのほか,小問(1)では平均を求める際に,除外値はわる数に入れない(4でわる)のに対し,小問(2)の実測値7m20cm,仮の平均のもとでは0cmになった値も,勘定に入れる必要がある(5でわる)点も,指摘することができます。
 ここまで,省略棒グラフの使いどころとして,「批判的に吟味する対象」と「仮の平均の視覚化」を見てきました。「量の違いの視覚化」として,省略棒グラフの使おうとするのは,算数教育では否定的と理解してよさそうです。またいずれの省略棒グラフも,先生や,テスト出題の側が用意しています。算数では,子どもたちによる作成は不要と見ることもできますが,社会や,総合(総合的な学習の時間)では,どうでしょうか。