- 小谷祐二郎: 図に表現する力は主体的・対話的で深い学びで育つ, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.109, pp.44-45 (2017).
- 作者: 筑波大学附属小学校算数研究部
- 出版社/メーカー: 東洋館出版社
- 発売日: 2017/02/20
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (2件) を見る
5年生「小数のかけ算」では,整数で成立していたかけ算が小数でも成立するのかという意味の拡張を図る。2年生で初めてかけ算に出会って以来,かけ算の問題場面の多くを分離量で考えてきた子どもたちに,数直線や線分図はさほど必要感がなかったかもしれない。しかし,主に連続量を扱う小数のかけ算では問題場面を表す図として必ず身に付けたいツールである。これをどのように身に付けてきたかを実践をもとに振り返ってみたい。
小数のかけ算で以下の課題を提示した。
1mの鉄の棒の重さは1.7kgです。この鉄の棒2.3mの重さは何kgでしょう。
算数が苦手な子どもにとってはこの問題がかけ算であること自体が分からない。「これって何算になるの?」というつぶやきを取り上げ,全体に問い返す。かけ算の立式を始めていた子どもは「かけ算に決まっている」と話そうとする。題意がつかめず悩んでいた子どもは「確かに……,何算になるのだろう?」や「かけ算になるの?」と興味を持ち始める。課題提示では受け身だった子どもたちが主体的に取り組み始める瞬間である。
ペアで取り組ませ,図を見せ合ったり,対話したりすることを促しながら,以下の図に対して,子どもが説明を試みました(p.45)。
子ども:もし2mだったらここ(図3ア)が2でしょ。で,2mの時の重さを求めるっていうのは,ここが1mでここも1mだから(図3イ),ここをバーンとすれば(図3ウ),2倍しているってことでしょ。長さが2倍になっているから重さも2倍しないといけないってこと。で,今は長さが2mではなく2.3mだから,2.3倍されているってことだから……。
子ども:(口々に)だからかけ算なんだ!
問題文の「2.3m」が,鉄の棒の重さは長さに比例するという暗黙の仮定により,「2.3倍」言い換えると「×2.3」になるのを,クラスで共有した瞬間,と言えばいいのでしょうか。
比例関係を見抜いていれば,今回取り上げた問題は,数直線にする必要性はなく,例えば以下のような表をつくることでも,式を立てられそうです。
長さ | 1 | 2 | 2.3 |
---|---|---|---|
重さ | 1.7 | ○ | ◎ |
この表において,○は,1.7+1.7を経て,1.7×2で求められます。累加を経由することなく,◎は,1.7×2.3とすればよい,というわけです。
とはいえ,「小数のかけ算において,ある具体的な量(上記では2.3m)がなぜ,かける数になるか」を学んだり,説明したりしようとすると,表では誰もが分かるものとなっておらず,1つまたは2つの数直線を用いることで,倍の概念(「バーン」)が視覚化できるようになっています。
小数のかけ算から離れ,「こういう図が描けたらOK(数量の関係がきちんと図に入っている)」という事例で,1件,思い出すものがあります。
- 廣井弘敏: 算数の問題解決における図による問題把握の研究―子どもが図をかく過程への着目―, 上越数学教育研究, No.16, pp.167-176 (2001). http://ci.nii.ac.jp/naid/110000087981 http://www.juen.ac.jp/math/journal/files/vol16/hiroi.pdf
図5の下では,「図4のKartika は、差の12cmが見えやすい位置に棒を整列させ、必要な情報を書き付けている。しかし図5のRamzish は、3倍の関係を描写することはできたが、差の概念が不足し必要な情報の記入も十分ではなかった。」と分析してから,「図には、問題文中の重要な情報が取り入れられていることが重要で、さらに、関係の見えやすい描写が図で問題解決をする際の鍵となることを示している。」と指摘しています。