かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

4つの野球チーム

 さらに、学校では、
「4つの野球チームがあり、各チームの人数は9人です。選手は全部で何人いますか」
 という問題に対して
 式 4×9=36 答え 36人
 という解答を書くと、式を×にするかもしれません。
 その理由は、小学校の算数では「一つ分の数×いくつ分」という順序で式を立てることになっているからです。この例で言えば、
 9(かけられる数)×4(かける数)
 これが正しい式ということになります。
 でも、「4×9=36」あるいは「4+4+4+4+4+4+4+4+4=36」という式も、本当は間違いではありません。
 野球のチームを想像してみてください。どのチームにも9つのポジションがあり、9人の選手がいます。「4×9」の式は、4つのチームがある事実と、9つのポジションを守る人間が一つずついる事実を示しています。
 つまり、「4×9=4+4+4+4+4+4+4+4+4」は、ピッチャー9人、キャッチャー4人、一塁手4人…が存在する現実を表現しながら、合計の人数を求める式である、とも言えます。
「4×9」と「9×4」の違いは、目のつけどころの違いであり、どちらが間違っているという話ではありません。

 前と後ろにも、興味深い記述はあるのですが、引用としては上記にとどめます。出典は、以下の書籍のpp.48-50です。

算数と国語を同時に伸ばす方法 (教育単行本)

算数と国語を同時に伸ばす方法 (教育単行本)

 これについて、2014年出版の本に、類題があります(『算数科 授業づくりの基礎・基本』p.60)。

チューリップがたくさんありました。
子どもが7人います。
そこで,このチューリップを3本ずつくばったら,ちょうどなくなりました。
チューリップは何本あったのでしょう。

 すると,必ず文章に登場する数の順に式を書く(ア)のような子が現れる。
 (ア)7×3 (イ)3×7
 こんな二つの式が登場して議論になる。こんなときは,図が生きる。チューリップを●で表す。「3本ずつ配る」というところを□で囲んでいくところがポイントだ(図11-7)。

f:id:takehikoMultiply:20170524062119j:plain*1
図11-7

 このような図を介して,式の約束にそって,「3×7」と書くことを思い出させるのがいいだろう。文章に登場する数のままに式を書いていくのではなく,その意味をしっかり受けとめて書くことを確認したい。
 もしも,「7×3」の式に意味をこじつけようとするならば,まずは7人の人に1本ずつチューリップを配り,次のもう1本ずつを配り,さらに3度目として1本ずつを配ると,都合3回で配り終わるので,1回に配る数をひとかたまりと考えて,「7×3」とできる。このように説明できる子がいれば,それはそれでたいしたものである。だが,素直に問題を読めば,「3本ずつ配る」と書いてあるので,さきのように解釈すべきであろう。

 このチューリップの問題では、「3本ずつくばったら」の3を、一つ分の数として、配った人数の「7」を、いくつ分として、数量の関係を認識することが、主眼となっています。
 野球の人数の問題も、同様で、「各チームの人数は9人」の9が、一つ分の数であり、「4つの野球チーム」の4が、いくつ分に当たります。
 チューリップで「7×3」について、「こじつけようとするならば」や「このように説明できる子がいれば、それはそれでたいしたものである。だが、」といった表現により、この著者(坪田耕三氏)は正解とすべきでないという路線をとっています。学校で、□×△と△×□の比較をしているからこそなのでしょう。
 選手の人数を求めるという、最初の引用について、子どもたちがそれまでどのように学習し、一つ分の数・いくつ分・かけられる数・かける数を理解してきた(と、著者の宮本哲也氏が考えている)かは、前後を読んでも、推測ができません。
 「ピッチャー9人、キャッチャー4人、一塁手4人…」と数量をとらえる*2のは,以下の図の「大きい矢印」の変換をしている,と言うこともできます。
f:id:takehikoMultiply:20170524062102j:plain*3

*1:画像は,以下のコマンドにより自作しました:「F1="rectangle 3,5 97,39"; F2="circle 20 22 30 22 circle 50 22 60 22 circle 80 22 90 22"; F3="translate 0 42"; convert -size 100x297 "xc:white" -fill none -stroke gray80 -strokewidth 2 -draw "$F1 $F3 $F1 $F3 $F1 $F3 $F1 $F3 $F1 $F3 $F1 $F3 $F1" -fill gray80 -stroke none -draw "$F2 $F3 $F2 $F3 $F2 $F3 $F2 $F3 $F2 $F3 $F2 $F3 $F2" -quality 92 3x7.jpg; unset F1; unset F2; unset F3」。

*2:啓林館の算数教科書,『わくわく算数2下』には,「8チームで やきゅうの しあいを します。1チームは 9人です。みんなで 何人 いますか」という出題があり,右にはチームごとに色分けされた8つの列による絵があります。ポジションは描かれていません。

*3:https://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/64