かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

新しい学習指導要領では,割合を4年で学ぶ

 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1を読み,そこでは(すなわち平成32年度からは),割合を4年で学習することになるのを確認しました。
 「算数(1)」のファイル,すなわち各学年の説明より前の文書の中から,主だった箇所を抜き出します。

(p.61)
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(pp.63-64)
二つの数量の関係と別の二つの数量の関係とを割合を用いて比べること
 二つの数量の関係と別の二つの数量の関係を比べるとは,A,Bという二つの数量の関係と,C,Dという二つの数量の関係どうしを比べることである。ここで,比べ方には大きく分けて,差を用いる場合と割合を用いる場合があると考えられる。「A君はBさんより3歳年上である。CさんはD君より5歳年上である。どちらの方が年齢差があるか。」では,AとBの関係とCとDの関係という二つの数量の関係どうしを,差でみて比べている。
 一方,比べる対象や目的によって,割合でみて比べる場合がある。割合でみるとは,二つの数量を,個々の数量ではなく,数量の間の乗法的な関係で見ていくことである。例えば,全体の中で部分が占める大きさについての関係どうしや,部分と部分の大きさの関係どうしを比べる場合は,割合でみていく。「シュートのうまさ」を,「シュートした数」と「入った数」という全体と部分の関係に着目して比べる場合などである。また,速さを比べる場合のように,距離と時間などの異種の量についての関係どうしを比べる場合は,差で比べることには意味がないため,割合でみていくことになる。
 二つの数量の関係どうしを割合でみて比べる際は,二つの数量の間の比例の関係を前提としている。二つの数量の関係と別の二つの数量との関係が同じ割合,あるいは,同じ比であることは,問題にしている二つの数量について,比例の関係が成り立つことが前提となっている。上述の「シュートのうまさ」の例で言うと,0.6の割合で入る「うまさ」というのは,10回中6回入る,20回中12回入る,30回中18回入る…などを,「同じうまさ」という関係としてみていることを表している。また,二つの液体AとBを2:3の比で混ぜ合わせてできる「液体の濃さ」も同様である。そして,この前提に基づいて,数量の関係どうしを比べたり,知りたい数量の大きさを求めたりしている。このように,割合では,個々の数量そのものではなく,比例関係にある異なる数量を全て含めて,同じ関係としてみている点が特徴である。

(p.64)
二つの数量の関係に着目すること
 これは,日常の事象において,割合でみてよいかを判断し,二つの数量の関係に着目することである。
 第4学年では,日常の事象において,比べる対象を明確にし,比べるために必要な二つの数量を,割合でみてよいかを判断する。そして,一方を基準量としたときに,他方の数量である比較量がどれだけに相当するかという数量の関係に着目する。第4学年では特に,基準量を1とみたときに,比較量が,基準量に対する割合として2,3,4などの整数で表される場合について扱う。(略)

(pp.64-65)
数量の関係どうしを比べること
 これは,図や式を用いて数量の関係を表したり,表された関係を読み取ったりしていくことで,割合や比を用いて数量の関係どうしを比べることである。
 第4学年では,日常生活の場面で,二つの数量の組について,基準量をそれぞれ決め,基準量を1とみたときに,比較量がどれだけに当たるかを,図や式で表す。そして,個々の数量の大きさと混同することなく,割合を用いて,数量の関係どうしを比べ,考察していく。(略)

(p.65)
二つの数量の関係の特徴を基に,日常生活に生かすこと
 これは,二つの数量の関係どうしを割合や比で比べた結果を,日常生活での問題の解決に生かしていくことである。
 第4学年では,基準量の異なる二つの数量の関係どうしを,2,3,4などの整数で表される割合を用いて比べる場面で,得られた割合の大小から判断をしたり,割合を用いて計算をした結果から問題を解決したりする。(略)

 「算数(2)」で第4学年を見ていくと,「乗数や除数が整数である場合の小数の乗法及び除法の計算ができること」(p.189)のところで,「除法の意味は,乗法の逆で,割合を求める場合と基準にする大きさを求める場合で説明できる」と書き,その次の段落の「6mは4mの何倍かを求める場面」が,割合を求めるように読めます。ただしこの節では,6÷4=1.5によって得られる1.5倍が割合となることを明言していません。A(数と計算)の領域です。
 同じ学年のC(変化と関係)の領域では,「簡単な場合について,ある二つの数量の関係と別の二つの数量の関係とを比べる場合に割合を用いる場合があることを知ること。」が(解説のつかない)学習指導要領に入っていることもあり,詳しく解説されています。ここで「簡単な場合」とは,上で引用したとおり,「基準量を1とみたときに,比較量が,基準量に対する割合として2,3,4などの整数で表される場合」です。例題としては「ある店で,トマトとミニトマトを値上げしました。トマトは1個100円が200円に,ミニトマトは1個50円が150円になりました。トマトやミニトマトではどちらがより多く値上がりしたといえますか。」(p.214)や「平ゴムAと平ゴムBがあります。平ゴムAは,10cmが30cmまで伸びます。平ゴムBは,80cmが160cmまで伸びます。どちらがよく伸びるゴムといえますか。」(p.215)が書かれています。
 2つの領域で,わり算によって得られる値が異なります。Aの領域では,「整数÷整数=小数」を行い,ある場面ではその商(小数)が割合に対応します。Cの領域では,「整数÷整数=2または3または4」です。割合を計算するだけでなく,「乗法的な関係でみてよいかを判断」することや,「図や式を用いて数量の関係どうしを割合で比べること」などが,Cの領域では要請されています。
 ただし,解説には明記されていませんが,共通点もあります。これらのわり算は,「割合の第1用法」であり*2,かつ,整数÷整数による計算に限られます。
 演算の対象を小数にまで広げるとともに,意味の拡張を行い,p:割合,B:基準量,A:比較量として,「p=A÷B」「A=B×p」「B=A÷p」の場面でも適切に式を立てて答えを求められるようになるのは,5年の学習事項です。なお,4年では,「10mは4mを1とすると2.5にあたる」(p.188)などにより,小数を用いた倍を学習しますが,4×2.5=10といった式は対象外です。
 ここまでのことは,日本学術会議 数理科学委員会 数学教育分科会が昨年公表した初等中等教育における算数・数学教育の改善についての提言の,pp.6-7に書かれた「改善の具体案」が反映されたものとなっています。長くなりますが抜き出します。

(1) 小学校
① 「割合」の背景にある考えの位置づけ
 割合の意味の理解については学力調査などの結果から課題があることが明らかである。割合の扱いは、第5学年の百分率や異種の2つの量の割合のときだけでなく、乗法・除法の意味付けや分数で表記された数量の解釈などでも用いられている。それらの系統を明示するとともに、特に、以下の位置づけについて、改善すべきある。
ア 分数倍、小数倍の位置づけ
 小数倍、分数倍を系統的な観点から位置づけるべきである。
 例えば、5mと2mのテープを比べるとき、「差で3mの違いとみる見方」以外に、「2mを1とすると5mは2.5倍(5/2)となり、5mを1とすると2mは0.4倍(2/5)となる見方」があり、後者を除法の系統の中で明らかにすべきである。また、分数の指導において、「8の1/2は4」「6の1/3は2」などの2つの数の関係を分数で表すことも扱うべきである。小数の指導においても同様であり、小数と分数を関連させて、同じ数を表す異なる表記であることを強調すべきである。
イ 演算の意味指導の位置づけ
 乗数や除数が整数から小数や分数になったとき、演算の意味が拡張し統合されることをより一層強調すべきである。第5・6学年での乗法・除法の意味の拡張については、現行の学習指導要領では「乗法及び除法の意味についての理解を深め」とあり、学習指導要領解説で数直線を用いた割合の意味付けが書かれている。しかし、教科書や授業では、意味の拡張を意識せず、言葉の式による指導が行われている現状がある。そこで、意味の拡張については、「乗数を割合と捉えて乗法の意味を拡張し、乗法の理解を深める」と乗法の拡張における割合の意味付けを学習指導要領に明記する。
 また、乗法・除法の意味と関わる整数倍・小数倍・分数倍の指導の位置づけや系統が明確にされていない。そのため、学力調査の結果では倍についての理解が十分とは言えない状況である。そこで、整数倍、小数倍などを何学年でどのように指導するかを明らかにすると同時に演算の意味指導を視野に入れた割合の指導系統を明確にすべきである。
 その際、演算の意味指導や計算の仕方を導き出すために有効な働きをする数直線の系統を明確にする。乗法・除法において何学年から数直線を導入し、どのように発展させるかを学習指導要領解説に明記する。

 この具体案では,割合を4年で学習するようにせよとは明記していませんが,「割合の意味の理解については学力調査などの結果から課題があることが明らかである」や「乗法・除法の意味と関わる整数倍・小数倍・分数倍の指導の位置づけや系統が明確にされていない」などから,現行どおり5年で割合を学習しているのでは良くないという問題意識を見ることもでき,これが,新しい学習指導要領にも反映されたと解釈できます。
 今後は新しい学習指導要領に基づいて,教科書が作られ*3,授業で展開することとなります。個人的には,「6mは4mの何倍か(6÷4=1.5)」は4年の学習なのに対し,「4mの1.5倍は何mか(4×1.5=6)」は5年となるところで,何らかの弊害が生じないか気になっています。
 なお,提言からの引用のうち,「分数の指導において,「8の1/2は4」「6の1/3は2」などの2つの数の関係を分数で表すことも扱うべきである」は,新しい学習指導要領では2年の学習となります。解説のp.106には,3行4列のアレイを用いた図が入っていました。

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*1:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm

*2:整数÷整数で基準量を求める,第3用法に相当するものも,Aの領域に入っていますが,連続量÷分離量であり,商はもとの数量よりも小さくなります。

*3:算数教科書で次に検定を受けるのは,平成31年度使用分からなので,平成32年度以降適用の次期学習指導要領との間でどうなるのかも,気にはなります。現行では,先行実施があったのですが,今回については文科省サイトでとくに公表されていません。