かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

「20分/500円」から,駐車料金と最大駐車時間を計算してみる

 第2特集(pp.57-78)に「なぜ、コンピュータは割り算が下手なのか!?」というのが組まれていました。第1章(割り算はなぜ難しい?),第2章(コンピュータ内部での取り扱い),第3章(CPUレベルで考える実装上の話題)で構成され,執筆者はいずれも,中央大学の飯尾淳氏です。
 あら探しからいきます。というのも,第1章をざっと読んで、「小数」のことを「少数」と書いてしまいがちだよなと思いながら,読み返すと,p.61の左カラムに「少数」があったのでした。そこを含む段落に書かれた「9割る4は、2、余り1」は,「小数や分数をまだ習っていない小学生」ならそう答えることになるでしょうが,次の段落の「小学校の算数では,「9は4で割り切れない」と考えます」は言いすぎで,小数にすること(割り進み)や分数表記は高学年で学習し,6年生が解く全国学力テストの算数Aでも出題されています。
 「小学校の復習:割り算の意味」(pp.62-63)については,「小学校では、割り算は2つの意味があると教えるので、それで混乱する児童が出てきてしまうのだとか。」(p.62)から,除法の指導に関してネガティブな認識を持っているなと判断しました。
 「教えるから混乱」というのは奇妙なロジックで,片一方だけ教えるのでは,もう一方のタイプの割り算が学べないことになります。実のところ,割り算でつまずきやすいのは,割合や小数の割り算が絡んだ5年のところで,そこでは「大きい数を小さい数で割る」といったやり方が通用しなくなるのが一因です。
 今回読んだ記事では,昨今の「かけ算の順序」を念頭に置きつつ(p.63の「いずれの計算も,5×3=15という計算を逆から見ているだけにすぎません」から始まる段落が特徴的です),算数教育の用語を意図的に使われなかったと読めますが,使えば,(小学3年で学習する範囲において)「包含除は累減」「等分除は累減に帰着できる」と表せます。累減以外の方法でも等分できます(例えば,大まかに分けてから,同じ数になるよう調整すればいいのです)。また等分除に対する累減においては,キャンディ配りの1回分が,それぞれの子供の1個分になるという,変換の操作も,必要となります。
 第2章については,負の数を含む整数における余りのある割り算について言及があればと感じました。第3章のCのソースと実行時間を見て,最適化をかけるとどうなるんだろうと読んでいくと,最終ページにあり,あっけない結末でした。
 それでやっと本題なのですが,p.63に「「20分/500円」という表記は正しいか?」と題する文章が始まります。同ページの右下には,写真もついています。「平成26年9月17日付けで「時間貸駐車場における表示・運用に関するガイドライン」という文書を出していました」とあるので,検索すると,http://www.gia-jpb.jp/guideline.pdfより読むことができました。
 「○円/○分」ではなく「○分/○円」と表記していることについては,今年,https://twitter.com/LimgTW/status/901674024530436096https://twitter.com/takehikom/status/901688635677802496というやりとりがあり,当ブログでは駐輪場の時間当たり料金という記事を書いていました。
 「x分/y円」でも「y分/x円」でも,どちらでも計算できそうです。今回の表題に合わせてx=20,y=500とし,駐車時間は20分を少しでも超えれば,さらに500円が加算されると仮定して,以下の3つの事例を検討してみます。

  • 60分駐車すれば,料金はいくらか?(1500円)
  • 90分駐車すれば,料金はいくらか?(2500円)
  • 1500円あれば,何分駐車できるか?(60分)

 カッコ書きの答えは,かけ算やわり算をせず,「20分経過で500円」のルールにより求められます。90分駐車なら,「20分と20分と20分と20分と10分」と考えればいいのです。
 それでは,「20分/500円」をもとに,計算を試みます。はじめに,「20÷500[分/円]」すなわち「\frac{1}{25}[分/円]」と変換しておきます。1円あたり,\frac{1}{25}分間,駐車できるという考え方です。1円あたりの単価,と言いたいところですが,普通の意味の単価ではないので,「'」をつけ,「単価'」と表すことにします。
 「単価'[分/円]×料金[円]=駐車時間[分]」という式を用います(この式の導出については後述します)。この両辺を「単価'[分/円]」で割って,「料金[円]=駐車時間[分]÷単価'[分/円]」という式を得ます。ここに,駐車時間は60[分],単価'は\frac{1}{25}[分/円]を代入して,分数の割り算を行うと,料金は1500[円]と出ます。
 駐車時間に90[分],単価'に\frac{1}{25}[分/円]を代入して,同じように計算すると,料金は2250[円]です。これは単価'を「\frac{1}{25}[分/円]」としているからで,500円単位で切り上げるという処理を入れることで,請求額は2500円となります。
 「1500円あれば…」では,「単価'[分/円]×料金[円]=駐車時間[分]」の式に,単価'は\frac{1}{25}[分/円],料金は1500[円]を代入し,かけ算で,60[分]を得ます。今回のセッティングでは60分を1秒でも超えると,500円加算されるので,「1500円があれば,60分駐車できる」でよさそうです。
 飯尾氏が正しい書き方とする,「500円/20分」についても,「500÷20[円/分]」すなわち「25[円/分]」を単価(1分あたり25円。こちらは「'」なしです)としておきます。基礎となるかけ算の式は,「単価[円/分]×駐車時間[分]=料金[円]」で,これは「駐車時間[分]=料金[円]÷単価[円/分]」と変形できます。
 60分駐車したときの料金は,かけ算の式に代入すると,25[円/分]×60[分]=1500[円]です。90分も同様で,25[円/分]×90[分]=2250[円]ですが,やはり500円単位の切り上げ処理により,請求額は2500円です。
 1500円から始まる件で,活用するのは,割り算の式です。駐車時間[分]=1500[円]÷25[円/分]=60[分]となります。これが最大なのは,1円あたりのときと同じです。
 以上より,「\frac{1}{25}[分/円]」という,1円あたりに基づく単価'でも,「25[円/分]」という,1分あたりに基づく単価でも,駐車時間に応じた料金や,支払額に対する最大駐車時間は,かけ算・わり算で計算できることを確認しました。
 最後に,「単価'」の件を含む式の導出を行っておきます。まず,「'」を使わないほうのかけ算の式,「単価[円/分]×駐車時間[分]=料金[円]」については,問題ないでしょう。そのものの形で,算数の教科書や学習指導案で目にしたことは,ありませんが,これは「もとにする量×割合=くらべる量」の典型パターンです。
 次に,「駐車時間[分]=料金[円]÷単価[円/分]」を変形によって得たと書きましたが,小学校の算数では,両辺を同じもので割るといった操作はしません。「もとにする量×割合=くらべる量」から,「割合=くらべる量÷もとにする量」を認めるというのは,割合の三用法を根拠とします。なお,「三用法」なのに,計算したのは「料金」と「駐車時間」の2つだけだったのは,残り1つの「単価」があらかじめ決まっていたからです。
 「単価'[分/円]×料金[円]=駐車時間[分]」を導出する前に,「\frac{1}{25}[分/円]」と「25[円/分]」の関係を見ておきます。2つをかけると,ちょうど1となり,単位もなくなります。「\frac{1}{25}[分/円]」と「25[円/分]」は,逆数の関係なのです(「逆内包量」と名付けた書籍もあります)。形式的には,「単価'[分/円]×単価[円/分]=1」であり,「単価[円/分]=1÷単価'[分/円]」と表すこともできます。
 この関係式を,先ほどの「駐車時間[分]=料金[円]÷単価[円/分]」に代入して,文字式の性質をもとに整理すれば,「単価'[分/円]×料金[円]=駐車時間[分]」が得られるという次第です。


 本日の記事作成にあたり,メインブログの以下の記事を通じて考えたことを取り入れました。