かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

単位なしの立式はミスのもと?

  • https://twitter.com/yamasati39/status/968061933495640064*1

 「単位なしの立式はミスのもと」には賛同できません。次元解析や組立単位を,小学校の算数に適用することは,個人的にふさわしくないと考えているからです。


 式に単位を入れることについては,メインブログで以前にまとめていたので,取り出しておきます*2。「45人で,講堂にイスを運んでいます。1人が1個ずつ4回運ぶと,みんなでイスは,何個運ぶことになるりますか」という文章題に対し,現在,小学3年生に出題するなら,期待される式は,「4×45=180」です。
 単位を入れた立式となると,「4個/人×45人=180個」が考えられます。この式では「個/人」も,一つの単位となります。他の可能性として,「4個×45人=180個」も,分からないではありませんが算数・数学的に好まれません。かつては「4個×45=180個」のように,かけられる数と積に単位を明記し,かける数は(問題文では「45人」とあっても)「45」と無名数にする,というスタイルもありました。
 「単位ありの式」は,加減乗除で利用できます。たし算やひき算の式では,どの項も,また計算結果も,同種の量とし,同じ単位をつけます。お花の数なら「2ほん+3ほん=5ほん」,人数の増減なら「13にん-8にん+5にん=10にん」などです。
 導入時(2年)で学習するかけ算では,「3こ/さら×5さら=15こ」といった表記になります。かけられる数の単位は「a/b」と書かれ,「3こ/さら」は,1皿にリンゴが3個ずつ乗っている状況などを表します。かける数の単位は「b」で,かけ算により,単位が「a」の量が得られます。これは日本独自というわけではなく,Schwarz*3やKaput*4も,理論化ならびに実際の教育への適用を試みています。それらの文献で,「こ/さら」「さら」「こ」に対応する概念は,dimensionでもunitでもなく,referentと呼ばれます。次元解析*5では通常,対象とする量は連続量ですが,referentにおいては分離量も許されます。
 「3こ/さら×5さら=15こ」の式をもとにすると,わり算には2種類の式のパターンが考えられます。一つは,「15こ÷5さら=3こ/さら」のように,1あたり量を求めるわり算です。もう一つは,「15こ÷3こ/さら=5さら」のように,1あたり量がわる数になる場合です。前者は等分除,後者は包含除に対応します。なお,面積計算や直積の計数では,ここまで書いてきたのと異なるタイプのかけ算となりまして,式に,「/」を含む単位が出現しません。


 「単位なしの立式はミスのもと」については,「立式するときは必ず単位をつけましょう」ではなく,「立式するときに単位をつけて書くと便利ですよ(ミスが減りますよ)」という意味だと考えられます。しかし,そのように解釈するとしても,算数の具体的な問題における適用に関して,十分に考慮されてきたとは思えません。
 例えば,面積や直積などでない,言い換えると被乗数と乗数の違い(非対称性)があるかけ算でも,単位を書くと手間が増え,その一方で式の正しさや計算の用意さを支援しないような場面が考えられます。2年で学習する倍概念がその最初で,例えば,「6cmの2ばい」をかけ算の式で表す場合,「6cm×2ばい」では積の量が不明瞭(「cmばい」は明らかにおかしい)であり,かといって「6cm/ばい×2ばい」と書くわけにいきません。数学教育協議会の方々の著書を読んできた限り,この倍概念については,「6cm×2」と表しており,「3こ/さら×5さら=15こ」のタイプのかけ算より,学習における優先度が下げられています。
 面積計算においても,4年で学習する正方形や長方形の面積,またそれらの複合図形くらいであれば,「○cm×△cm=○×△㎠」は有用かもしれませんが,5年の台形で「(2cm+3cm)×6cm÷2」,6年の円で「3cm×3cm×3.14」と書いてみると,どうでしょうか。そして,これらにおいても組み合わせたり一部をカットしたりした図形の問題まで考慮すると,立式(答案に書くかどうかはさておき)における単位の有用性を主張するにも,限界があるように思います。
 そして,昨年公開された『小学校学習指導要領解説算数編』*6が,「単位ありの立式」の不都合さに拍車をかけます。具体的には,第1学年の「異種のものの数量を含む加法・減法」と,第4学年の「伴って変わる二つの関係」が該当します。
 「異種のもの」は,例えば,「お皿に1個ずつ,コップを乗せていきます。お皿は5枚,コップは7個あります。どちらがいくつ多いですか?」という文章題で,「7個-5枚」と書いてよいのか,よいとしたとき,差となる量をどう書けばいいのか,ということです。
 「伴って変わる二つの関係」について,解説からは「(三角形の数)+2=(周りの長さ)」や「段数×4=周りの長さ」を見つけることができます。前者の式の被加数と和は異なる量ですし,後者の式の被乗数と積も同様です。
 後者はもう少し検討します。「段数を増やしていくと周りの長さがどのように変わるか」の件では,リフレッシュ研修8(変わり方) | 授業がんばりMATHの最も下の図形のように,変形することで,一つの正方形の長さは4cm,それがだんの数だけあるから,「4×段数=周りの長さ」と表すこともできます。ここで「4」につけるべき単位は,段数の単位と長さの単位をもとに,「だん/cm」と表せます。10段のときの周りの長さは,図や表を用いることなく,「4だん/cm×10だん=40cm」とできます。

 ただし,『小学校学習指導要領解説算数編』の記載を読む限り,そのように表すことは,望まれていません。「だん/cm」という単位を認めない,というわけではありません。むしろ,小さな段数について,図を描いたり,2行の表にしたりすることで,帰納的に,「段数×4=周りの長さ」を得ること,そしてこの式を得たら,10段でも100段でも,当てはめて計算すれば求められることが,ここでの学習の意義となっています。

*1:「ツイートは非公開です...承認された場合のみツイートを表示できます」と表示されます。

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130428/1367096291

*3:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130312/1363031965

*4:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20111029/1319835106

*5:算数教育における文章題について書かれた中に,"Dimensional Analysis"の語が出現するものもあります。例えばhttp://books.google.co.jp/books?id=Vyl42R9JV1oC&pg=PA197より読めます。

*6:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htmより,PDFがダウンロードできます。本記事ではhttp://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/07/25/1387017_4_2.pdfの内容をもとにしています。