かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

自然数の意味と活用について

 この中で「(3)「自然数の意味」-悪問中の悪問-」と題して,全国学力・学習状況調査の2016年度 数学Aで,以下の問題が出されたことを批判しています。

(2) 下のアからオまでの数の中から自然数をすべて選びなさい。
  ア -5
  イ 0
  ウ 1
  エ 2.5
  オ 4

 趣旨や,解答類型と反応率の画像が貼り付けられており,「ウ,オ」の正答が41.4%,そして0を含めており誤答扱いの「イ,ウ,オ」が32.0%となっています。
 ここまでについて,0を自然数に入れる定義や活用の仕方も,中学高校を離れた数学ではそれなりにあるので,中学校の教科書ではいずれも0を自然数に含めておらず,そのことを学び理解が定着しているかを,全国学力テストにて出題し,0を自然数に含めて考える生徒がそれなりにいたんだなと,認識していました。
 当該ブログの記述で戸惑いを覚えたのは,主に2つあります。一つは「しかし,学問としての数学では」から始まる段落です。以下「学問としての数学」の言葉を何度か使用します。
 もう一つは,そのまま引用します。

何より気になるのは,問題の趣旨が「自然数の意味を理解しているかどうかをみる」だということです。
自然数の意味を理解する」・・・・真面目に考えると,「自然数の意味を理解する」とはどういう状態を指すのでしょうか・・・・

 このうち「~の意味」は,算数・数学の授業や学力調査でしばしば見かけるもので,「~とは何か*1」「~を,類似する別の概念や用語と区別でき(てい)るか」を表します。
 それで,出題意図を確認しておこうと思い,解説資料を読み直しました。国立教育政策研究所のサイトで,以下の順に進めばアクセスできます。

 数学A大問1(2)を読むと,ブログの批判で欠落している,主要な記述が浮かび上がってきました。
 具体的には,趣旨・解答類型と反応率・分析結果と課題のあとの「学習指導に当たって」です。「数の集合を捉え直し,自然数や整数の意味を理解できるようにする」が太字になっています。
 となると,「自然数とは何か? 整数とは何か? それらはどのように違うのか? 教科書や授業では,どのように取り扱われているのか?」という疑問を持つことができます。
 自然数と整数との違いは,数行あとに記されています。段落全体を抜き出すと,「本設問を使って授業を行う際には,新しく捉え直した数の集合の定義に基づいて,様々な数の中から自然数や整数を判断する活動を取り入れることが考えられる。その際,0は整数に含まれるが,自然数には含まれないことを確認することが必要である。」のところです。
 なお,「新しく捉え直した数の集合」について,文脈から「自然数」と「整数」が挙げられますが,そもそも小学校の算数における「整数」は0,1,2,…,と書くことができ,「学問としての数学」の「自然数」と同じ集合になります。中学数学で負の数の概念を学ぶ際に,整数は…,-2,-1,0,1,2,…に置き換わり,「正の数」「負の数」「0」のいずれかに分類されます。これが「捉え直し」です。正の整数を自然数と呼ぶのか,学問としての数学の自然数を扱う(0を自然数に含めて考える)かは,捉え直しの枠外となります。
 そうすると,小学校の算数における「整数」と,「学問としての数学」の「自然数」とが,集合として一致することになります。たまたまと見ることもできますが,一致していることを踏まえた自然数の活用例も考えられます。
 具体的には「整列集合」です。wikipedia:整列集合では,定義などのあと,自然数の全体Nについて,0を含むものとして取り扱っています。整列集合の性質として,「任意の狭義単調減少列は必ず有限な長さで停止する」というのがあります。
 小学生向けには,「おはじき取りのゲーム」で表現できます。多数のおはじきを用意し,2人で順番を決めて取っていき,最後に取ったほうが負けとなります。1回で取れる数には上限と下限があり,しばしばnを定数として「1個以上n個まで」と表せます。0を入れると,パスとなり,2人ともパスをするとゲームが進まないので不可とされます*2。1個以上取る,言い換えると進行につれて場に置かれた残数は減っていきまして,最終的にはどちらがが最後の1個を取ってゲームセットです。n=2(1回に取れるのは1個か2個)とし,7個から始めると,7→6→4→2→1→0と減るような状況が想定でき,不等号を用いて7>6>4>2>1>0と表すこともできます。
 場にあるおはじきの数(のとり得る値の集合)もまた,整列集合であり,「任意の狭義単調減少列は必ず有限な長さで停止する」ことが保証されています。
 現行および次期の『中学校学習指導要領解説数学編』も読んでおきます。自然数は0を含まないものとするといった断定は見当たらなかったものの,「小学校算数科では整数を0と自然数の集合として用いてきたが,中学校数学科では同じ用語を正の数と負の数を含む数学の概念として用いることになる」から,含まないことが読み取れます。自然数の活用という観点では,「2x+y=7の解については,変数x,yの変域が自然数全体の集合であれば,その解は有限個であり,(1,5),(2,3),(3,1)である」も共通して出現しますが,0を含めるなら解に(0,7)を加えるだけです。「十の位が同じで一の位の数の和が10である2桁の自然数の積を暗算で計算する方法」などの速算法(簡便算)は,現行のみですが,難しかった,あるいはデータの活用に「食われて」しまったのでしょうか。

*1:英語で表すと“what X means”です。“What does X means?”と,疑問文にもできます。2016年度と2018年度とで,「証明の必要性と意味」に関する出題があり,2018年度のほうでは「それが証明になっているのか」を問うています。

*2:取る個数を「n以下の自然数」と表記するのは,「不自然」だと思います。