かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

三用法は,掛算順序自由と両立するのか

 このアカウントの方(@Goto_Manabu)の情報を少し調べてみました。氏名と所属(後藤学 相模女子大学)から,http://www.sagami-wu.ac.jp/faculty/arts_sciences/edu/teacher/details/goto_manabu.htmlを見つけました。平成27年度から使用の算数教科書のうち,学校図書(みんなと学ぶ 小学校 算数)の著作者に名前が入っていました。
 次に,http://manabugoto.info/にもアクセスしました。現時点で最新の記事はhttp://manabugoto.info/?p=1213で,その中に「私の師匠である,玉川大学の守屋誠司教授」とあります。昨年の記事http://manabugoto.info/?p=933では,「杜威先生と昼食でご一緒し」たことが書かれています。
 かけ算の順序をウォッチしている者としては,この2件で,ぎょっとなります。「玉川大学の守屋誠司教授」で連想するのは,『小学校指導法 算数』です。編者であるとともに,「第2学年や第3学年では、読み取った数を、「1つ分の数×いくつ分=全体の数」と表現できることが重要であり、逆に、この立式ができているかで、数の読み取りができているかを判断できる。」(p.92)や「「子どもが7人います。1人に4個ずつアメをくばります。アメはみんなで何こいりますか」という問題に対して、7×4=28答え28こ、と解答した小学校2年生の子がいました。この解答をどのように解釈して、どのような対応をしたらよいか、乗法の意味と関連させてまとめてみましょう。」(p.96)を含む第5章の執筆者でもあります。
 「杜威先生」というと,中国における乗法の導入の状況を,http://www.nier.go.jp/seika_kaihatsu_2/risu-2-310_s-china.pdf#page=9より読むことができます。画像の下には「乗法を最初から // 因数×因数=積 で学習する」とあるほか,本文の「これについて現場の授業等を観察したことがある。この処理は数計算の場合大きな差支えがないかもしれないが,量の扱いではやはり不具合があって,教師たちの丁寧な対応によって乗り越えているところである。」という記述が,特徴的です*1
 さて,https://researchmap.jp/mgoto2015/から,後藤氏の著書の一つに,『小学校算数』があるのを知りました。本棚にありました。

小学校算数 (教科力シリーズ)

小学校算数 (教科力シリーズ)

 さっそく開いて,読んでみました。後藤氏の執筆分担は,第5章と第6章で,章題はそれぞれ「量と測定1(基本的な量)」「量と測定2(複合的な量)」です。一通り読み直して,こういうのが算数教育の専門家の書いた文章なのだと感銘を受けました。「同じ道を,行きは60km/時,帰りは40km/時で行けば,全体では時速何kmになるか」をベクトル和で表現して計算する話(p.62)は,速さと分数のかけ算・わり算の組み合わせとして,小学校の授業でも使えるかもしれません。
 2つの章を読んで気になったことも書いておきます。「一般道路で車の移動時間を調べ時速を計算した活動」(p.75)について,手順を箇条書きにし,100mの移動時間を秒単位で20個,並べたのはいいのですが,その後の「車が100m進むのに9.3秒かかった」から車の平均時速を求めるのには,まったく使われていません。割合に関連して,p.80にある「判断量」は馴染みではなく「比較量」のことではないかと思いますし,同じページの「鈴木君の読んだ本は本全体の70%で210ページであった。本全体は何ページか」において基準量は一意に定まらない(210×□=○と,2つの数が(当初は)未知とする式を立ててもいいのではないか)と思いました。
 「割合の3用法」について,3つの式には同意するのですが,学び方・活用方法については,個人的な理解と異なっています.というのも,p.77で以下のように書かれています。

(5) 割合の3用法
 割合についての計算は次の3つの式にまとめられる。
  ①p=A÷B (第1用法) 割合を求める
  ②A=B×p (第2用法) 比べる量を求める
  ③B=A÷p (第3用法) もとになる量を求める
 割合の定義である①の第1用法をきちんと理解させ,第2,第3用法は□を使った式を用いて未知数として,代数的に計算させて解くことを目標とする。児童には第2,第3用法までも記憶させるのではなく,第1用法をもとに式変形させるのである。

 学び方・活用方法についてですが,第3用法は,第1用法からではなく,第2用法をもとにするほうが,使いやすいはずです。例えばhttp://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/05/page5_23.htmlを見ると,割合の第3用法すなわち「もとにする量を求める」文章題では,鉛筆キャラの吹き出しから「□×1.6=24」という式がイメージできるのです。
 この記事のタイトルにした「三用法は,掛算順序自由と両立するのか」については,問題意識を簡単に書くにとどめます。掛算順序自由(掛算順序強制批判)の発展形として,除法の意味が包含除と等分除に分かれることへの批判があります*2。包含除と等分除,第1用法と第3用法を,同一視できるのであれば,三用法ではなく二用法で済みます。あるいはかけ算について,「A=B×p」でも「A=p×B」でもよいとすれば,4つの式になります。これらへの答えを提示する中で,これまでの算数教育の規範や学校現場でなされている指導,そして論文・書籍で書かれた内容に対し,見直しが生じてくるのかもしれません。

*1:https://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/51, https://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/70

*2:本記事作成中にhttps://twitter.com/Goto_Manabu/status/1023473104595480576を見ました。もうしばらく,ツイートの伸びをウォッチする必要もありそうです。