かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

8÷4ではなく4÷8~文献読み直し

 メインブログのA2 - わさっき順序を問う問題 - わさっきに記載していたURLがデッドリンクになっていましたが,題目で検索すると,異なるURLで,PDFファイルをダウンロードできました。メインブログの2件について,URLを変更しておきました。
 この文献で興味深いのは,p.113から始まる第3章(実践研究)第4節(実態調査からみる考察)のところです。平成22年度(2010年度)の全国学力テスト,算数Aの中の「8mの重さが4kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。求める式と答えを書きましょう。」という出題に対し,著者が指導に関わってきたB小の配属学級では,正答率が75.8%で,誤答のうち「8÷4」の式を立てたという類型5の割合は,18.2%となっています。この割合は全国の国立と同程度で,全国の国・公・私立や岩手県と比べて,明確に正答率が高くなっています。
 その高さにおごることなく,誤答の状況を,次のように分析しています(pp.113-114,強調は引用者)。

 この問題で式と答えの両方を正答していたのは、配属学級は75.8%(全国国立76.9%)であった。しかし、18.2%が式を「8÷4」と解答した、解答類型5の誤答をしている。これは、「整数÷整数」の除法では、被除数の方が除数より大きくなると考えている、つまり、除法は「大きい数÷小さい数」であると考えて8÷4と立式したと推測される。また、問題文に出てきた順に、数を式に当てはめて立式しているかもしれないとも考えられる3)。このような誤答は、授業実践の中でもみられた。実践授業Iでは、「2Lのジュースを3等分したうちの1つ分」を求める際の立式において、「3÷2」という誤答があった。学力調査だけでなく、普段の授業の中でも、このような誤答は現れており、子どもたちの中で除法は「大きい数÷小さい数」、あるいは「先に出てきた数÷後から出てきた数」という誤った理解がされている可能性は高い。この2つの誤った理解を区別するには、問題文を「8mの重さが4kgの棒」という表現から「重さ4kgの長さが8mの棒」というように数値を入れ替えて提示し、立式させてみる必要がある。そして、普段の授業では、立式を考えるとき、何が被除数で何が除数になるのかを明確に捉えたうえで立式するという指導が必要であると考える。

 段落の文章は続くのですが,いったんここでストップします。数量*1を入れ換えても意味が変わらないというのは,「かけ算の順序」とも関連してきます。
 例えば,「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」という文章題に対し,「1さらに りんごが 3こずつ のって います。そのような さらが 5まい あります。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」と,提示の順番を変えてみます。どちらも同じ数量の関係を表しており,後者は1つ分の数×いくつ分に基づき3×5の式を立てられるのだから,前者も3×5と書けばいい,ということです。この種の問題では,何が被乗数で何が乗数になるかを明確に捉えたうえで立式するという指導がなされているわけです。
 段落の文章の続きは,誤答に対する指導です。「想定」と明記されているのに加え,全国学力テストの出題および結果の公開の時期と,この文献(修士論文)の執筆そして提出の時期を照らし合わせると,実際にこのように指導したわけではないことが読み取れます。

そこで、普段の授業の中でこのような誤答をする子どもがいたときに、講じなければならない指導と評価を、次のような具体的な場面で想定していくこととする。なお、ここで取り上げる誤答は「8÷4」と立式したものとし、数直線図は既にあるものと想定して進める。なお、提案する働きかけは、以後、破線で示すこととする。

 働きかけそのものについては,字数が多くなるため引用を避けますが,はじめに「8÷4になると思います。」と言い最終的には「4÷8。」と言うようになった児童は,C1で一貫しているのに,働きかける側がT1からT11まであって,11人が指導している光景が目に浮かんでしまいました。
 それはさておき,指導の流れとして,児童は「全体÷比べられる量=もとにする量」を含む,割合の三用法を言葉の式として覚えていて,働きかける側は,与えられた場面に対して適切な式を引き出すという指導になっています。
 肝心の「全体÷比べられる量=もとにする量」について,混乱が見られます。「8mの重さが4kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。求める式と答えを書きましょう。」は等分除の拡張であり,第三用法です。言葉の式は,割合の3用法|算数用語集の用語を使うなら「比べる量÷割合=もとにする量」と表されます。被除数と商が,同種の量となります。しかし「全体÷比べられる量=もとにする量」からは,そのことが見出せません。
 また数直線図があるというのであれば,そこに「×8」や,その逆演算となる「÷8」が,どこに該当するかを書き加えることで,割合やナントカの量といった言葉が不要になります。原図(p.114),「×8」を加えた図,「÷8」を加えた図を,以下に並べておきます。2番目の図より「□×8=4」,3番目の図より「4÷8=□」の式を得ることができます。
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 最後に,p.115の<調査結果概要で提案されている図>を見て,関連する調査があるのを思い出しました。

 詳しくは,かけ算およびわり算の文章題に対する子どもたちの解法:長期調査 - わさっきをご覧ください。原文ではSub-divisionという分類で例示された"I have 3 apples to be shared evenly between six people. How much apple will each person get?",日本語に訳すと「3つのりんごを,6人に同じになるよう分ける。それぞれの人はどれだけのりんごをもらえるか?」の問題文が該当します。
 小学2年生でかけ算・わり算が未習という最初の段階でも,Table 2によると,小さな数の文章題の正答率が41%あると報告されています。Arrayと同程度であり,FactorやCartesianよりも,高くなっています。
 日本に話を戻して,新しい学習指導要領では,「12個の\frac12は6個」など,簡単な分数を第2学年で学ぶことになりますが,「\frac12個」のようないわゆる量分数としての使われ方は,解説に例示されていません。「3つのりんごを,6人に同じになるよう分ける。それぞれの人はどれだけのりんごをもらえるか?」の文章題で3÷6の式を立てることは,これまでどおり第5学年での学習*2となりそうです。

*1:原文では「数値を入れ替えて提示し」となっていて,これでは,「8mの重さが4kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。」に対して「4mの重さが8kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。」という文章題を考える,という解釈ができてしまいます。数値だけを交換することで,状況が異なり,求めるべき値も違ってくるというのを示すのには,有用かもしれませんが,演算決定が適切にできていない子どもにとっては,入れ換え前の問題で「8÷4」という式を立て,そして入れ換え後の問題は「4÷8」だ,としてしまう可能性もあります。

*2:次期解説には「除法が用いられる場合として,ほかに,例えば,重さが4kgで長さが2mである棒の1mの重さを求める場合,2kgで400円のものの1kgの値段を求める場合など,一人分を求める場合でなく,比例関係を仮定できる,伴って変わる二つの数量がある場合にも用いられる。」が第3学年の内容として入っています。期待される式はそれぞれ,4÷2=2,400÷2=200です。