かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

面積図の縦と横は何を表すのか

 算数で「面積図」というのが,さまざまな形式や用途で使われています。
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 教科書で見かける面積図は,分数のかけ算・わり算が主な適用対象となっています。最初に単位量となる箱---本記事で「箱」とは,長方形または正方形をいいます---を描き,そこに縦や横の線を入れていくことが,あとで述べる他の面積図との違いとなっています。使用方法を知るには以下の2つがおすすめです。

 受験算数で活用されている面積図は,適用対象が異なります。出現する数はたいてい整数です。ある数量を表す箱について,導入(定義)においては1つだけで表しますが,具体的な問題を解く際には複数の箱を並べて,そこから未知の数量が可視化できるようになっています。今月に入って読んだ解説記事にリンクしておきます。

 TOSSの指導で見かける面積図は,5~6年の割合(三用法)が主な適用対象となり,出現する数は整数・小数・分数があります。描き方について,受験算数の面積図と似ていますが,違いもあります。演算決定のツールであり,使用する箱は1問につき一つが基本です。形状については,箱の底辺を少し左に,また左辺を少し右に伸ばし,4つの,数量を書き込む領域をつくります。そこに,問題文に合うよう数量を書き入れます。以下のページがもっとも明快で,そのベースになっている本は『子どもが“面積図”を使いこなす授業』とのことです。

 最後に,「面積図」という名称ではありませんが,同等の図を紹介します。「タイル図」または「かけわり図」と呼ばれ,2年のかけ算の導入から,高学年に至るまで活用されています。タイルを用いて長方形を構成する場合*1,縦のタイルの数が「1あたり量(1あたりの数)」に,横のタイルの数が「いくつ分」に対応します。全体量を箱で描き,左や下に別途,1あたり量やいくつ分に関する要素を描き添えます。数学教育協議会(水道方式)のもとで普及がなされ,例えば以下のページより読むことができます。

 いずれの図においても,箱の面積が,1つのかけ算に対応します。さらに言うと,箱の縦の長さにあたるものが,かけられる数に,横の長さがかける数に,それぞれ対応しています。4年で学習する長方形の面積の公式,「たて×横=面積」を応用した図と言えます。


 当ブログおよびメインブログで,「面積図」に言及した記事には以下があります。

 学術的にはどうか,ということで,CiNii Articlesにて「面積図」を検索したところ,23件が該当しました。タイトルより,小学算数に関するものが10件,中学数学の適用*3が5件,算数・数学教育以外の論文が8件ありました。算数では1972年発表のタイトルにも「面積図」が含まれていることが分かりました。
 ところで,次期の『小学校学習指導要領解説算数編』に,「面積図」の言葉が出現します。第6学年のA(1)(分数の乗法,除法)のところで,分数のわり算の式展開を示したあとに段落を設けて,「なお,このように計算に関して成り立つ性質などを用いて計算の仕方を考えることは,抽象度が高く,児童によっては分かりにくいということがある。そういう場合は,適宜,面積図などの図を用いて考えさせることも大切である。」と記載しています。現行の解説にはない記述です。図は(次期の)解説に入っていませんが,分数のかけ算・わり算ですので,現行の教科書の内容を追随したものと思われます。
 そこでhttps://twitter.com/takehikom/status/1033471112078749696のツイートをしたところ,https://twitter.com/tetragon1/status/1033488398877487104https://twitter.com/tetragon1/status/1033489654358523904のリプライをいただきました。
 面積図|算数用語集で,「下の図を見て\frac45\times\frac13の計算のしかたを考え,説明しましょう。」*4と書かれた図を見直します。上で述べたとおり,縦軸をかけられる数,横軸をかける数とするのが最も素直な解釈です。受験算数の面積図でも,TOSSで見かける面積図でも,同様です。
 しかし,1㎡,または\frac45㎡を表す箱の底辺と,dLの数直線とが,表示上,別になっています。
 これについて,箱の底辺と,dLの数直線とで,二重(比例)数直線を考えることができます。箱の底辺を数直線に見立てて,数と単位,そして未知の値には□を書くと,以下のようになります。
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 ロジックとしてはこうです。\frac45㎡の量を,底辺の右端(1㎡の箱の右下の頂点)に,また0㎡を左端(左下の頂点)に,対応づけます。そうすると比例の考え方*5から,\frac13dLのペンキでぬることのできる面積は,\frac13のすぐ上の,底辺上の点となり,ここが□です。「□」と「\frac45」と「\frac13」と「1」の位置関係から,□はかけ算で求めることができ*6,具体的には□=\frac45\times\frac13です。
 これは,分数のかけ算の面積図を,数直線図に帰着して取り扱えることを意味します。歴史的には,面積図が先に使われてきたわけですが,後発の二重数直線との関連性を見出せたと言えます。
 計算の手続きとしては,dLの数直線において\frac13は1を「÷3」したものだから,面積の数直線においても,\frac45を「÷3」すればよいと考えると,\frac45×\frac13\frac45÷3=\frac{4}{5\times3}\frac4{15}を得ます。
 かける数が単位分数ではない場合には,分子aも分母bも2以上で互いに素のとき,\frac{1}{b}および\frac{a}{b}に対応する箇所をそれぞれ,底辺上*7にとることで,\frac45×\frac{a}{b}\frac45÷b×a=\frac{4\times{a}}{5\times{b}}となります。分数のわり算のうち,等分除(第三用法)はかけ算の逆演算で同様に考えられます。包含除(第一用法)はもう少し工夫が必要かもしれません。
 なお,面積図において縦軸は,かけられる数としてきましたが,「何倍か」,言い換えると割合(したがってかける数)に対応するものとして,認識することも可能です。ここまで見てきた分数のかけ算では,1㎡を\frac45倍してから\frac13倍する,と解釈します。これは4年で,単位正方形をもとに長方形の面積の公式(たて×横=面積)を導く際に,「長方形の面積=単位正方形の面積×縦が単位長の何倍か×横が単位長の何倍か」と考えられることと関連します。面積図|算数用語集の下段にある「砂場(\frac25\frac{1}{10})」についても,「広場の面積=公園全体の面積×\frac25」と考えれば,\frac25はかける数となります。

*1:タイルを並べますので,いわばボトムアップに構成します。それに対し,教科書の面積図は,単位量または全体量を刻んでいきますので,トップダウンのアプローチと言えます。

*2:そこでリンクしたhttp://doi.org/10.5926/arepj.51.198の本文にも,市川伸一氏の発言として「面積図」が書かれています。ただし該当箇所の文は「教科書(それは,教科教育学の結晶でもある)では,線分図や面積図を使って,通分や分数の加減が説明されているが,概念理解や計算手続の定着が極めて悪い。」となっており,ネガティブなとらえ方をしている上に,本記事の想定する適用と異なっています。

*3:例えば(x+a)^2=x^2+2ax+a^2の幾何的解釈として,1辺の長さがx+aの正方形を用いて図にすることができます。

*4:https://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/06/page6_03.htmlにある「1dLで\frac45㎡ぬれるペンキがあります。」「\frac13dLのペンキでは何㎡ぬれますか。」に対し,\frac45\times\frac13の式を得てから,計算のしかたを説明することとなります。

*5:リプライツイートに書かれた「倍比例」のことです。個人的にはproportional reasoningという表現が気に入っています。

*6:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/20140117/1389903547より:1と□が“はすかい”になっていれば,かけ算!

*7:a>bの場合には,かける数が1を超えます。このとき底辺を右に伸ばした半直線を考えれば,\frac{a}{b}に対応する点を見つけることができます。