かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

4×100m,-60kgに+100kg

 「小学校では『1つ分の数×いくつ分』でかけ算の式を習うけど,オリンピック種目の『4×100m』は,順番が違うんじゃないか」という疑問について,答えとなる説明を試みます。
 もっとも分かりやすそうなのは,4×100mと書いても,かけ算の答えを求めるものではないというものです。「1つ分の数×いくつ分」は(日本の小学校の)算数で,式を立てるときに使うものだ,と言うこともできます。そうしたとき「4×100m」は,日本でも世界でも通じる,4人が100mずつ走るリレー競技*1を表したもの,となります。
 また別の説明は,海外では「4×100m」と書かれるけれども,これまでに学んだかけ算の意味に基づき,式で表すときには「100×4」と書けばよい,というものです。算数では基本的に,式に単位を付けませんが,日常生活では「100m×4」と表すことがよくあり,「100m×4」のYahoo!検索(リアルタイム)を通じて使用例を見ることもできます。
 他の説明のしかたとして,当ブログで以前に活用していたのは,Vergnaudによる「関数関係」です。「4×100m」の「4」を,かけられる数とみなします(ただし「1つ分の数」ではありません。実のところ,「1つ分の数×いくつ分」とは異なるタイプのかけ算を使用しています)。そこに「100m」をかけることにより,「4」という,チームの人数から,「400m」という,チームで走るトータルの長さに変換します。このとらえ方は,「来店人数×100ポイント」や「400gカット×6.9円=2,760円」といった,学校の外で見かけるかけ算の式にも,適用することができます。
 算数教育に関連する出版物を見るなら,2010年と2011年に別々に書かれた本の中で,「4×100m」が取り上げられています。さらに,昨年,文部科学省サイトでPDFファイルがダウンロード可能となり,今年,書籍化された,『小学校学習指導要領解説(平成29年告示)算数編』*2にも,記載されています。

 関数関係という名称ではありませんが,それと同様のかけ算の考え方が,『解説』の第4学年で取り上げられています。平成27年度からの6社の算数教科書に,すでに記載があります*3

 新しい方向性を模索します。4×100mのような,演算記号を使った表記が,スポーツの分野でどのように使われているか,そして算数・数学と違うものはあるか,という問いを立ててみます。
 思いつくのは,柔道の体重別です.

 「JUDO」のあと,左に「MEN'S EVENTS(男子)」,右に「WOMEN'S EVENTS(女子)」が並べられています。男子の階級は以下のとおりです。なお,ブラウザで表示される英字はすべて大文字ですが,コピーして貼り付けると基本的には小文字になります。手作業で*4,大文字に変換しました。

  • - 60 KG MEN*5
  • + 100KG (HEAVYWEIGHT) MEN
  • 60 - 66KG (HALF-LIGHTWEIGHT) MEN
  • 66 - 73KG (LIGHTWEIGHT) MEN
  • 73 - 81KG (HALF-MIDDLEWEIGHT) MEN
  • 81 - 90KG (MIDDLEWEIGHT) MEN
  • 90 - 100KG (HALF-HEAVYWEIGHT) MEN

 ここに出現する,プラスとマイナスの記号は,いずれも算数・数学で用いられるものと意味が異なります。「-60kg」と書かれていても,体重計か何かでマイナス60kgを測ろうというわけにいきませんし,競技者の体重を60kg,減らそうということでもありません。「- 60 KG MEN」を日本語に訳すなら「60kg以下」であり,「男子・60キロ級」のほうが通じやすそうです。
 「+ 100KG (HEAVYWEIGHT) MEN」も同様で,このプラスは,正の符号の意味とは考えられません。ただし「- 60 KG」と対をなしていて,プラスは「以上」と解釈できます。しかし「男子・100キロ以上級」というのはなじみではなく,むしろ「男子・100キロ超級」でしょう。
 最重量と最軽量の間の階級は,「60 - 66KG (HALF-LIGHTWEIGHT) MEN」のように,体重の下限と上限を記し,マイナス記号を間に置いています。これについて60-66=-6と,ひき算をするわけにもいきません。ここのマイナス記号は範囲の指定を表しており*6,日常生活で見かける代わりの記号は「~」です。
 柔道とは別の体重別競技として,レスリングが思い浮かびます。以下のページで見ることができ,「- 55KG」「55 - 60KG」の表記は柔道と同様です。ただし「+ キログラム」(「○キロ超級」)はありません。

 「4×100m」と同様のリレー競技は,陸上のほか水泳で見られます。

 よく見ると,かけ算の記号は「×」ではなく「X」です。コピーして貼り付けると,小文字の「x」になります。この表記がオリンピック公式であるとは考えにくく,ウェブで提供し,URLや本文をコピー・貼り付けする際の便宜として,「x」が採用されていると推測します。
 水泳に関しては,1人で4種類を泳ぐ「個人メドレー(INDIVIDUAL MEDLEY)」では,かけ算の表記をとっておらず,4人による「メドレーリレー(MEDLEY RELAY)」や「(自由形の)リレー(FREESTYLE RELAY)」についてのみ,「4X100M」「4X200M」と書かれています。


 そのうち種目名や階級などが変わるかもしれませんので,柔道・レスリング(フリースタイル)・陸上・水泳の順に,記事作成時点のスクリーンショットを残しておきます。
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*1:「リレー」と書くことで,チームの4人が100mを同時に走るわけでないのも,明確になります。

*2:isbn:9784536590105

*3:ただし場面を表すかけ算の式として,5社が「段数×4」,残り1社が「4×段数」の形をとっています。

*4:EmacsのM-c(upcase-word)を使用しました。

*5:原文ママ。他の項目と合わせるなら,「- 60 KG (EXTRA-LIGHTWEIGHT) MEN」と書かれるべきところです。

*6:「- 60 KG」について「0 - 60 KG」の省略形と見なすことも可能ですが,「+ 100 KG」について「100 - KG」や「100 - ∞ KG」と表すのは不自然です。