かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

かけ算の構造その3:関数関係・変わり方とその周辺にあるもの

 「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」に対して5×3=15の式を正解とする根拠は,かけ算の順序論争について(日本語版) - わさっきのA-1からA-6でリストアップしてきたとおりですが,そこでA-4として挙げた「皿の枚数をかけられる数,1皿あたりのりんごの数をかける数と見なせばよい」について,以下の図のように表せます。
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 かけ算と構造 - わさっきで示した解釈を,この問題に読み替えると,次のようになります。「×3」は,数だけ見れば3倍ですが,実際には,「さらの枚数」という量空間から「りんごの個数」という量空間へ,変換しています。あるいは,「×3」が,それら2つの異なる量空間の仲立ちをしている,と考えることもできます。
 単位を付けて書くなら,「5まい×3こ/まい=15こ」です。しかしながら,パー書きの量を積極的に採用する,数学教育協議会の人々が手がける(小学校の算数を対象とした)著書や指導例を読み直しても,パー書きの量がかける数のほうに出現する式は,ちょっと見当たりません。
 単位や団体とは別に,日本の本で上の図のような解釈を支持するものがあります。その2で紹介した,『授業に役立つ算数教科書の数学的背景』です(2013年はトランプ配り,1988年はアレイ - わさっき)。そこの記載を,今回の問題に置き換えると,「皿1枚とりんご3個の間,皿5枚とりんご15個の間に,同じ関係を認める」となります。
 ところでこの関係は,「変わり方」といった単元で,現在,4年の算数の教科書でも見ることもでき,『小学校学習指導要領解説(平成29年告示)算数編』に取り入れられています。詳細は段数×4=周りの長さをご覧ください。https://kids.gakken.co.jp/box/sansu/04/pdf/B034407070.pdfhttps://happylilac.net/kawari-02.pdfでも,考え方・求め方を知ることができます。
 そのほか,「時間に60をかけると分になる」や「分に60をかけると秒になる」についても,この関係をもとに説明ができます(単位の換算 - わさっき)。円周にも活用できます。具体的には,直径の長さを上の行,対応する円周の長さを下の行とする,2行(列数は任意)の表をもとに,円周=直径×3.14という関係を確認する*1ことができます。
 この記事で述べてきた数量の関係のとらえ方は,その1で述べたのとは異なる「かけ算の構造」と言えます。『算数・数学科重要用語300の基礎知識』*2のp.187では,「関数関係に基づく乗法」と名づけています。その1で取り上げたものは,「スカラー関係に基づく乗法」です。
 それでは,4年でこの表のつくり方を学習して以降,「かけ算の順番はどちらでもいい」と,理解をしていいのでしょうか。残念ながら,「そうです」とは言えません。5年で小数のかけ算を通じて,「乗法の意味の拡張」を学んだり,6年で(かける数が)分数のかけ算を習得したりする際にも,かけられる数とかける数との違いが重視されています。

*1:ただし直径と円周はどちらも同じ単位の量であるほか,円周率は「直径が円周の何倍になるか(円周の直径に対する割合)」として定義されているため,三用法に割り当てると(第2用法では割合はかける数となるので),「円周=直径×円周率」と表すことになる点にも,注意をしないといけません。

*2:isbn:4185007183