かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

ゆえにアレイ

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 画像はコマ番号17 (p.29)の一部です。「∴(ゆえに)」を,「点が3つある形」と認識すると,これを横に5つ,縦に4つ,長方形状に並べたとき,点の総数は3×5×4で求めることができます。
 読み進めて見ることのできる,総数を求める式には,「3×(5×4)」「(3×5)×4」「「3×(4×5)」があります。どの式も,最初に出現する数は「3」であり,「4」や「5」が先頭に出ることはありません。
 それに対し,5と4については,順序を反対にした式も見られます。なお,コマ番号17 (p.28)には,「ヽ(片仮名繰返し記号)」を横に5つ,縦に4つ,長方形状に並べた配置をもとに,「例へば4に5を掛けて得る所の積は5に4を掛けて得る所の積に等しきなり」と記しています。同じコマ番号の右側(p.29)で「5×4=4×5」の式もあります。
 とはいえ同様の並びで,何種類か,かけ算の式が立てられるのは,この2年前に刊行されたものにも出現しており,今回見てきた事例が最古というわけでは,ありませんでした。

 書き下ろしで2014年に刊行された志村五郎『数学をいかに教えるか』*1では,批判的な立場から取り上げています.メインブログにて,該当箇所の引用のほか,類似する場面について検討をしてきました。

 志村氏の批判の結語は,「順序を気にする連中はこのうちどれが正しい書き方でほかのはすべて誤まりであるとしたいのだろう.」となっていますが,これはミスリーディングと言わざるを得ません。アレイ(長方形的配置)を中心として,ものの並びに対しては,かけ算を含むいくつもの式を立てるのを,外在的評価を通じて容易に見つけることができます。例えば都算研の学力実態調査のうちhttp://tosanken.main.jp/data/H26/gakuryokujittaichousa/H26jittaichousa.pdf#page=3(大問5)では,おはじきのL字型配置に対してかけ算を使った式(求め方)を2つ書かせています。ダイヤモンド的配置で,平成元年に日米の小学校4年生に出題したというのもあります*2
 とはいえ志村氏が挙げた,3トン積のトラックの場面も,今回見てきた「∴のアレイ」にしても,小学校の算数でほとんど見かけません。3口のかけ算で,いくつかの式を立てられる(いずれも,その場面を説明した式である)ことの学習に関しては,よりよい場面そして指導の事例が確立されていると想像できます。以下の記事に書いたうち,《倍の合成》と《箱売り》が該当します。

 「∴のアレイ」は,《2つに比例》に密接に関係しますが,異なる点もあります。《2つに比例》の中心となる式は,n1[d1/d2・d3]×n2[d2]×n3[d3]=n1n2n3[d1]なのに対し,今回の件はn1[d1]×n2×n3=n1n2n3[d1]です。《倍の合成》とも異なり,n1[d1]×n3にも意味を与えることができます。


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