かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

定数関数は,関数

 xとyの関係として,xがどのような値であってもy=2となるというのは,定数関数です。yがどのような値であってもx=3となるというのも,定数関数です。前者は「yはxの定数関数」,後者は「xはyの定数関数」です。


 中学の数学で学ぶ関数について,一階述語論理の枠組みで,少し考えてみます。
 発端はhttps://twitter.com/esumii/status/1055780029441892352のツイートなのですが,https://twitter.com/esumii/status/1055785005941645313のツイートを少し書き換え,
F1={f|[∀x∈D1 ∃y∈D2 (x,y)∈f] ∧ [∀x∈D1 ∀y1∈D2 ∀y2∈D2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2]}
として,集合F1を定めます。「(x,y)∈f」を「y=f(x)」に読み替えると,F1は,「yはxの関数である」と言えるようなもの全体の集合となります。
 「∧」の左の部分,「∀x∈D1 ∃y∈D2 (x,y)∈f」については,「変数xのそれぞれの値に対し,変数yの値が(少なくとも1つ)存在する」を意味します。右の「∀x∈D1 ∀y1∈D2 ∀y2∈D2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2」は,「変数xのそれぞれの値に対し,対応する変数yの値は,2つ以上ない(たかだか1つ)」と解釈できます。これらを合わせると,「変数xの値を決めると,変数yの値がただ1つ決まる」ということです。
 なおD1およびD2のDは,domainの頭文字で,訳すなら「定義域」ですが,中学数学の用語では「変域」であり,グラフをかくなどの際にはD1,D2とも実数全体の集合が想定されます*1。以下も実数を対象としますので,「∈D1」「∈D2」を取り除くと,
F1={f|[∀x ∃y (x,y)∈f] ∧ [∀x ∀y1 ∀y2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2]}
と表せます。
 同様にして,「yはxに比例する」という関数全体の集合F2を,以下のとおり表すことができます。
F2={f|[∀x ∃y (x,y)∈f] ∧ [∃a ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax]}
 比例といったらy=ax,なのですが,「∀x ∃y (x,y)∈f」がないと,例えばy=ax(aは任意の定数)だけれどもx=2のときだけyの値が定められていないような,xとyの関係について,比例と言えなくなってしまいます*2。「∃a ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax」は「∀x ∀y1 ∀y2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2」を含む([∃a ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax] ⇒ [∀x ∀y1 ∀y2 (x,y1)∈f ∧ (x,y2)∈f ⇒ y1=y2]を示せる)ので,F1でfに要請されている2番目の条件は,F2では明示していません。なお簡単のため,a=0の場合(y=0という定数関数)も,F2に属するものとしています。
 一次関数,より正確には「yはxの一次関数である」という関数全体の集合F3は,次のようになります。
F3={f|[∀x ∃y (x,y)∈f] ∧ [∃a ∃b ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax+b]}
 同様にして,2次元平面上でグラフが直線になるような,xとyの対応付けを記述してみます。
F4={f|[∀x ∃y (x,y)∈f] ∧ [∃a ∃b ∃c ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ ax+by+c=0 ]}
 このように書いてみましたが,これでは,y軸に平行な直線を表す,x=h(hは任意の定数)が対象外となります。少し考えてみると,「∀x ∃y (x,y)∈f」を仮定したとき,「∃a ∃b ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax+b」と「∃a ∃b ∃c ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ ax+by+c=0」は同値と分かります*3。ですのでF3=F4です。
 ここまでの集合F1からF4までは,「∀x ∃y (x,y)∈f」とあるとおり,任意の実数xに対し,xにfを適用したときの値が存在することを,要請しています。これを入れている限り,x=hで表される,「xはyの定数関数」には対応できないということです。
 https://twitter.com/takehikom/status/1056007347787620352では「定数関数を中学数学で教える必要はなさそう」と書きましたが,『中学総合的研究 数学 三訂版』*4ではp.243に,「x = h,y = kのグラフをかく」というのが入っていました。

*1:反比例を関数として考える場合,変域は,実数全体から0を除いた集合となります。

*2:x=1のときy=aです。しかしx=2のときy=2aではありません。これは,「xの値を2倍すると,yの値も2倍になる」という,比例の性質を満たしません。

*3:「[∃a ∃b ∃c ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ ax+by+c=0 ] ⇒ [∃a ∃b ∀x ∀y (x,y)∈f ⇒ y=ax+b]」を示すには,異なるx1,x2において,ax1+by1+c=0,ax2+by2+c=0を満たすy1,y2が存在することを用います。x1≠x2で,2点(x1,y1),(x2,y2)を通る直線の式は,y=a'x+b'の形で表せます。

*4:isbn:9784010220573