かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

3種類を5人に

 何ページかに分けられたまとめに目を通すと,1.2は偶数?へのリンクを見かけました。山本良和氏の著述に関して,今年,増加と合併の区別を読む機会があり,被加数と加数の順序じゃんけんゲームの時系列処理という記事を書いたのでした。
 まとめのツイートに2つ,コメントに1つ,興味深いかけ算の場面が入っていました。

 それぞれのツイートから,問題を抜き出し,ラベルをつけておきます。

  • お弁当の問題:「3日開催のイベントに5人のスタッフを雇いました。お昼にお弁当を出します。いくつ必要ですか?」
  • 参加賞の問題:「クラス対抗のリレーをします。3クラスあって、選手は4人です。選手に参加賞をあげるなら、いくつ必要ですか?」
  • カードの問題:「3種類のカードがたくさんあります。この3種類のカードを1枚ずつ5人の子供たちに配ると、子供たちに配られるカードは全部で何枚でしょう?」

 出題意図や出典を,ツイートした方々は明示していませんが,お弁当の問題とカードの問題は,複比例の関係であり,「積」の乗法が背景にあります。「3×5」または「5×3」の式を立てたとき,それらのかけ算の答えが,どんな数量になるかについての見通しを,読者に委ねた形となります。
 3つの問題のうち,「ひとつ分」が明示されているのは,カードの問題です。「1枚ずつ」とありますが,「1人に1種類,1枚ずつ(カードを配る)」ということですから,1[枚/種類・人]という複内包量*1を見いだすことができ,そこで「1[枚/種類・人]×3[種類]×5[人]=15[枚]」という式に表せます。「1[枚/人・種類]×5[人]×3[種類]=15[枚]」としても,差し支えありません。メインブログの記事(3口のかけ算,かけ算の順序 - わさっき)の《2つに比例》の出題例,「5人家族があります。それぞれ,1日に3個ずつ,ミニトマトを食べます。7日間で,この家族は全部で何個のミニトマトを食べるでしょうか? 式と答えを書いてください。」について,「1日に1個ずつ」に置き換えたものと同型と言えます。
 お弁当の問題では,1日に1人が1個のお弁当を食べることを踏まえて,1[個/人・日]×3[日]×5[人]=15[個]と表すことができ,3[日]と5[人]は入れ換え可能です。
 参加賞の問題は,様相が異なります。というのも,1[個/クラス・人]という量を,考えるわけにいかないからです。参加賞は1人に1つを想定すると,これを表す内包量は1[個/人]です。各クラスから4人ずつ,リレー走者が選出されることと合わせると,式は「1[個/人]×4[人/クラス]×3[クラス]=12[個]」となります。この式において,「1[個/人]×4[人/クラス]=4[個/クラス]」は,「1つのクラスで4つ(ずつ)参加賞を受け取る」と解釈でき,「4[人/クラス]×3[クラス]=12[人]」は,「クラス対抗リレーの参加者数は全部で12人」というのに対応づけられますが,「「1[個/人]×3[クラス]」という式や,かけて得られる「3[個・クラス/人]」について,意味づけを与えるのは困難です。3口のかけ算のうち《箱売り》と関連し,2つの「倍」のかけ算を注意して並べた数量の関係が,背景にあると言えます。
 さて小学校の算数で,お弁当の問題,参加賞の問題,カードの問題について,式を立てて答えを出すとすると,どうなるでしょうか。次元を取り除くと,「1×3×5」あるいは「1×5×3」,「1×4×3」となりますが,いずれも1が不格好です。そこで「3×5」「5×3」「4×3」としてみると,今度は「ひとつ分」が何であるかが不明確になります。高校の数学のように(カードの問題を用いますが他の文章題も同様です),「3枚ずつ5人の子供に配ると考えると,3×5=15(枚)」と,「3種類のカードを1枚ずつ」を「3枚ずつ」に読み替えることを,筋道立てて答えを書くにあたり,要請すべきでしょうか。
 ところでカードの問題には類題があります。デカルト積のピクトリアル - わさっきで紹介した「ふしぎな花のさく木」「お菓子」「風船」です。風船の件はhttp://www.nier.go.jp/seika_kaihatsu_2/risu-2-ikkatu.pdf#page=191より画像のほか,本文中には「この処理は数計算の場合大きな差支えがないかもしれないが,量の扱いではやはり不具合があって,教師たちの丁寧な対応によって乗り越えているところである。」と,そのとらえ方(乗法の意味づけ,と言ってもいいでしょう)に基づく指導で現れる困難な点が記されています。これをもとに,http://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/51では「中国の追随になるかも」,http://www.slideshare.net/takehikom/2x3-3x2/70では「日本の算数教育で「どっちでもいい」を採用するのは性急」と,書いてきたのでした。
 「1つの場面に対し,複数のかけ算の式を立ることができる」という場面の提示を目指すとすると,お弁当の問題,参加賞の問題,カードの問題のいずれも,算数教育において十分に洗練されているとは言いがたく,例えばL字型アレイ*2に取って代わるものではないようにも思います。

*1:この用語は,asin:B000JA2798によります。古い文献や洋書をもとにした,複比例の状況は,当ブログを始めて間もないころのメインブログで,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20120418/1334700739にて整理しています。

*2:http://tosanken.main.jp/data/H22/jittaityousa.pdf#page=5, http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20151229/1451314800