かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

難しいのは,等分除でも包含除でもなく

 A÷B=Cという割り算によって,AとBとCの関係式が定義されているときに,A÷C=Bの式でBを求めるのが,間違えやすいと言えます。AとBが同種の量(Cは割合)のときにも,異種の量(Cは単位量あたりの大きさ)のときにも,成り立ちます。


東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた 数に強くなる本 人生が変わる授業

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 第3部(技術編)の最初は「5時限目 数字を比べる」(pp.154-190)です.その最初のページには,講演時に「お手元の紙に○を6個書いてください。そして6÷3=2という割り算を、6個の○を使って実現してみてください」と尋ねると,「6個の○を2つずつ3つに分ける」のと,「6個の○を3つずつ2つに分ける」のに分かれるとしています。両方とも正しく,前者は等分除,後者は包含除です。これらの用語は,あとのページに太字で書かれており,「ぜひ覚えてください」とも記されています。
 等分除か包含除かを,4つの例題と割り算の式で整理しています(pp.160-163)。番号・言葉の式・例題を書き出しておきます。求めるための式はいずれも,6÷3=2です。

練習①「距離÷時間=速さ」
例題:6kmの道のりを3時間かけて一定の速さで歩いたときの速さを求めなさい。

練習②「距離÷速さ=時間」
例題:6kmの道のりを時速3kmで進むと何時間かかるかを求めなさい。

練習③「合計÷個数(人数)=平均」
例題:3人の点数が2点、1点、3点のとき、3人の平均点を求めなさい。

練習④「質量÷密度=体積」
例題:ある物質の質量を測ったら6gでした。この物質の密度が3g/㎤であることがわかっています。この物質の体積を求めなさい。

 引用しなかった解説の文章によると,①は等分除,②は包含除,③は等分除,④は包含除です.
 文章は等分除・包含除から離れます.n分の1(1/n)が1÷nであること,A÷BがA/Bという分数で表されること,「比べられる量÷もとにする量=割合」について「比べられる量→は(主語)」「もとにする量→~の(修飾語)」「割合→どれくらい(述語)」と読み替えて理解することなどを経て,p.178では「分数計算のトライアングル」を提示しています。
 式はA:B=C:Dという比例式から始まります。このとき,比の値から\frac{A}{B}=\frac{C}{D}です。外向の積=内項の積に基づくと,AD=BCと書くこともでき,この積の等式の両辺をCDで割ると,\frac{A}{C}=\frac{B}{D}という式にもなります。
 ここでD=1とすると,以下の3つの式が得られ,これが分数計算のトライアングルというわけです。

  • \frac{A}{B}=C
  • A=BC
  • \frac{A}{C}=B

 もちろん,比例式を起点としなくても,3つの式は(A,B,Cが0でない任意の実数のとき)等価と言えます。実際,中学で習う「等式の性質」を使えば,残りの2つの式を導くことができます。
 そして著者としては,3つ(比例式も含めると4つ)のうち1つだけを覚えておき,式変形して使うことを推奨していません。「分数計算や割合(比)が得意な人と苦手な人の差は、この「分数計算のトライアングル」が頭に入っているかどうかだと言っても過言ではありません。ぜひこの機会に身につけてしまいましょう。」(p.179)と述べ,頭に入っている=すぐに取り出して使えることを読者に要請しています。
 直後に,例題があります。

例題:1つ売れると3600円の利益が出るセーターの利益率(価格に対する利益の割合)は20%であることがわかっているとき、このセーターの価格を求めなさい。

 小学5年の知識だと,3600÷0.2=18000 答え18000円ですが,なぜ「0.2で割る」かを説明するのは,ちょっと手間を要します。この本では,「利益/価格=利益率」に数値を割り当て,「3600(円)/価格=0.2」としてから,「3600(円)/0.2=価格」に変換し,価格=18000(円)を得ています。書籍で明示されていませんが,これは等分除にあたります(一方,「利益/価格=利益率」の式に基づき,利益と価格が分かっていて利益率(割合)を求めるのは,包含除です)。
 もっとも興味深かったのは,このセーターの例題のあと,p.180で太字で書かれた2つの文です。例題の直後には「この問題の答えがすぐにわかる人は、数字に強い人です。なぜなら、この問題は、割合に関する問題の中では最も難しいタイプだからです。」とあり,同じページの終わりから3行目には,「政府や民間が行っている学力調査の類を見ると、分母を答えさせる問題は正答率が目立って低いことが多いのです。」も太字です。上記の練習④については,「他の問題よりも難しく感じませんでしたか? これも「質量÷体積=密度」を変形して体積を求めさせる問題だったからです」(p.181)と解説しています。
 セーターの例題は等分除,練習④は包含除であることに注意すると,割り算で包含除と等分除のどちらが難しいかを検討するのは不適切ではないかと思えてきます。わり算,包含除・等分除,トランプ配り (2016.05) - わさっきや,割合モデルは淘汰されたのか~数直線モデルとの比較を通して考えるでは,いくつかの文献やテスト事例を挙げながら,3年の割り算の導入でも,5年の割合(小数の乗法・除法)でも,等分除のほうが難しいことを見てきました。
 これについて,練習④のもととなる,「質量÷密度=体積」や,「質量÷体積=密度」は,小学5年の学習対象外であることに留意すれば,(日本の)算数教育における矛盾は回避できます。
 ただ個人的には,速さを求める練習①よりも,時間を求める練習②のほうが(数値が小数・分数になるか,1時間よりも小さな値が答えとなるような出題では)間違えやすいようにも思います。移行措置により小学校算数での「速さ」の学習は来年度より,5年生となる点と合わせて,出題例や授業例を見ていきたいところです。