かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

交換法則を根拠として,2年で「かけ算の順序はどっちでもいい」と言っていいのか

 上記のページはツイートにて教えていただきました。こちらからのツイートはhttps://twitter.com/takehikom/status/1093363011358605313https://twitter.com/takehikom/status/1093363168959651840(いずれもリンク切れ)になります。
 はじめに2つの疑問文で,「3×4」という式の解釈を尋ねています。"Should we say that 3 x 4 is 3 'lots of' 4 = 4+4+4 ?"を訳すなら「3×4は,“3つの4”で,4+4+4か?」,"Should we say that 3 x 4 is 3 'multiplied by' 4 = 3+3+3+3 ?"のほうは「3×4は,“3の4倍”で,3+3+3+3か?」といったところでしょうか。
 このページでは,子どもたちが交換法則を学び始めるときには,「どっちでもいい」("it does not matter which way round you write a multiplication, they are equivalent")と述べ,Howeverから始まる段落を続けて,しかしながら最初の導入にあたっては「一貫すること」("you need to be consistent in the way that you teach it"),そして明示されていませんがいずれか一方を採用することを,提唱しています*1
 かけ算の導入時は,乗算記号の左右について意味を定めておき,交換法則などの理解によってその制約を解除する(自由であってよい),というのは,日本語で書かれた算数教育の解説でも見かけます。すぐに見つかるのは次の2つです。

(略)しかし、高学年になり、乗法では交換法則が成り立つことや外国での立式を知り、数の意味をしっかり理解できていれば、必ずしも第2学年で学んだ順序で立式することを強制しなくてもよい。(p.92)

(略)文章題を式に直したとき,順序を問題にすべきかどうかがいつも議論になるが,教育的な観点から見たときの結論は明らかである.すなわち子どもが足し算(あるいはかけ算)の意味がきちんと分かるようになるまでは表示の順序は厳密であるべきで,それが自由にできるようになったら気にしなくてもよい.(以下略) (p.63)

 ところで日本の算数では,現行でも次期でも,また一つ前の学習指導要領でも,乗法の交換法則は算数の第2学年のところに出てきます。現行だと第2学年,3 内容の取扱いの(4)に「 内容の「A数と計算」の(3)のイについては,乗数が1ずつ増えるときの積の増え方や交換法則を取り扱うものとする。」(3)に「内容の「A数と計算」の(2)のウについては,交換法則や結合法則を取り扱うものとする。」と記載されています。
 ここまでの内容を組み合わせると,2年のうちに「かけ算の順序はどっちでもいい」と言っていいのか,と考えることができます。
 しかしながらこれについては,指導においても評価(テスト)においても,肯定できる要素は見当たりません。
 例えば外在的評価に位置づけられる,東京都算数教育研究会の学力実態調査*2では,「子どもが 3人 います。みかんを 1人に 4こずつ ふくろに 入れて くばります。くばる みかんは ぜんぶで 何こ いるか かんがえます。」から始まる問題で,式は3×4を不正解,4×3を正解としています。
 指導に関して,読んだ情報を集約する形で作ったのは,次の2枚の画像になります。
*3

 米国の交換法則を学ぶ授業において,「5個入りのリンゴが2袋」と「2個入りのリンゴが5袋」を用いて説明する生徒の発表について先生は「それぞれ違った場面を表すのに使える」を付け足したのに対し,「どっちでもいい」と言う生徒にはそれでいいのと質問しています*4。国内の授業事例はというと,小さな情報のつなぎ合わせですがトランプ配りと,うまくやっていく - わさっきhbを挙げておきます。
 なお個人的には,交換法則を根拠として「どっちでもいい」と言うタイミングは,小学校の算数ではなく,中学1年の数学で負の数を含む四則演算を学習し*5,文字式(例えば2a×4=8a)より前が,最もよいと考えています。
 乗法の交換法則を根拠とし,それを小学校低学年の子どもたちが学習していなくても「式の順序はどちらでもいい」を支持する文献を収集・整理したいところですが,やる気が起こりません。

*1:なお同サイトのかけ算の文章題においては,https://www.math-salamanders.com/image-files/2nd-grade-math-problems-multiplication-problems-2-1a-ans.gifを見る限り,2つの数が出現する順で式にしており,犬の足の数など明示されていない数は,乗算記号の右に出現します。

*2:http://tosanken.main.jp/data/H25/happyou/20131018-7.pdf#page=6, https://takehikom.hateblo.jp/entry/20131229/1388265996

*3:https://www.slideshare.net/takehikom/23-32-123835241/58, https://twitter.com/takehikom/status/1092928737702596608

*4:https://takehikom.hateblo.jp/entry/20150822/1440184614

*5:交換法則・結合法則を合わせて「順序はどうでもいい」となります。