かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

平行四辺形の面積は,底辺×高さ

 平行四辺形の面積の公式は,「底辺×高さ」であり,「高さ×底辺」とするものは見かけません。関連する言葉の式を見ながら,整理することにします。
 小学校学習指導要領解説でリンクされる各解説のURLが変更されているのを知り,https://twitter.com/takehikom/status/1108117394935803904よりツイートしました。
 一本化された【算数編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 (PDF:6769KB)をダウンロードして通し読みし,5年の,平行四辺形の面積のところで,公式(言葉の式)が,明示されていないことに気づきました。
 6年の,円の面積(p.298)では,「(円の面積)=(平行四辺形の面積)=(底辺)×(高さ)=(円周の長さの半分)×(半径)」と書かれ,平行四辺形の面積の公式が既習とされています。
 解説のページを前後しながら,かけ算を含む言葉の式をいくつか拾いあげます。長方形の面積については,4年のp.210で「(長方形の面積)=(縦)×(横)(又は(横)×(縦))という公式について理解できるようにする。」と記されています。柱体(角柱・円柱)の体積については,「(角柱や円柱の体積)=(底面積)×(高さ)」(p.300,6年)です。それから,図形以外の領域では,「(被除数)=(除数)×(商)+(余り)」というのもあり,解説のつかない学習指導要領に記載されている言葉の式です*1
 解説における平行四辺形の面積の扱いは,p.256から始まります。(解説でない)指導要領からの抜粋では「三角形,平行四辺形,ひし形,台形の面積の計算による求め方について理解すること。」となっていますが,解説を読んでいくと「公式をつくったりする過程を重視することが大切である」「公式をつくりだしていく資質・能力の育成を目指すことが大切である」「計算による求め方を通して公式にして,三角形や平行四辺形,ひし形及び台形の面積は公式で求められることを理解し,それらを公式を使って求められるようにする」と,公式の文字が何度も出てきます。
 その後は,底辺×高さの式にすることよりも,「底辺をどこにとるかで高さが決まること」を重視し,図形の底部に限らず,視覚的に縦や斜めになっている線分を「底辺」とし,「高さ」とともに示した図が,三角形と平行四辺形で2つずつ,例示されています。
 「長方形に変形して面積を求める」という図がp.259にあり,これが,この学年での平面図形の面積の解説の最後となっています。

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 図の下には「長方形の横と縦が平行四辺形のどこの長さに当たるのか調べる」が添えられています。啓林館 算数用語集の等積変形も同様で,変形してできた長方形の横の長さは,元の平行四辺形の底辺の長さと等しく,縦は高さと同じとなることから,それらをかければ面積が求められるというわけです。
 ここで長方形の面積には「縦×横」ではなく「横×縦」を使用します。

  • 長方形の面積=横×縦

という公式(既知の式)に対し,

  • 長方形の面積←平行四辺形の面積
  • 横←底辺
  • 縦←高さ

の置換を行うことで,

  • 平行四辺形の面積=底辺×高さ

として,面積の公式を導出できるというわけです。
 4年で長方形の面積を学習する際に,「横×縦」を認めておくことで,平行四辺形の面積の公式に活用できる,とも言えます。
 なお,長方形の面積の公式に関して,「縦×横」でも「横×縦」でもよい理由として,乗法の交換法則は必ずしも使用されません。以下のページにて,「一意的に縦・横の別がない」「there is no asymmetry」と書かれたものを紹介しています。

 平行四辺形の底辺と高さも,同じ次元(長さ)ではありますが,図形として見たとき,互いに交換するわけにいきません。底辺が5cmで高さが3cmという平行四辺形(ただし長方形ではないものとします)と,底辺が3cmで高さが5cmという平行四辺形は,どのようなペアを持ってきても,合同となりません.それに対し,縦が5cmで横が3cmの長方形と,縦が3cmで横が5cmの長方形は,常に合同です.
 さて,なぜ平行四辺形の面積の式が「底辺×高さ」であり「高さ×底辺」を採用していないかですが,柱体の体積の公式の「底面積×高さ」との関連付けが考えられます。
 連想するのは「カバリエリの原理」です。wikipedia:カヴァリエリの原理では,以下から話を始めています。

  • 2つの平面図形 A, B が平行な2直線に挟まれているとする。この2直線に平行な任意の直線に対し、A との交わりの部分の長さと B との交わりの部分の長さが等しいならば、A の面積と B の面積は等しい。
  • 2つの立体 A, B が平行な2平面に挟まれているとする。この2平面に平行な任意の平面に対し、A との交わりの部分の面積と B との交わりの部分の面積が等しいならば、A の体積と B の体積は等しい。

 平面図形Aを,横が3cmで縦が5cmの長方形(これは一意に定まります),平面図形Bを,底辺が3cmで高さが5cmの平行四辺形の一つ(角が不明なので一意に定まりませんが,面積は等しくなります)とします。平面図形Aの「横」の向かい合った辺と,平行四辺形Bの「底辺」の向かい合った辺を,上記の「平行な2直線」に含まれる線分とします。この「平行な2直線」の距離は,5cmです。また「この2直線に平行な任意の直線に対し、A との交わりの部分の長さと B との交わりの部分の長さ」は平面図形A,Bとも3cmです。したがってAの面積とBの面積は等しいと,推論するわけです。
 ただしカバリエリの原理は,2つの平面図形や立体図形の面積や体積が等しくなる十分条件の一つに過ぎず,面積・体積が具体的にどのようになるのかは,別に情報を与える必要もあります。
 柱体の体積については,別の面からの関心があります.具体的には,Greer (1992)の表です(かけ算・わり算でモデル化される場面 - わさっきhb).このうち量の積(Product of measures),について,電力×時間=電力量という言葉の式が内包されていますが,電力を,単位時間に電流がする仕事と見なすと,速さ(割合,Rate)と同等であるように見えます。
 2つの因数と積がいずれも異なる量で,かつ小学校(日本の小学校の算数)で学習できる,量の積に位置づけられる場面として,「底面積×高さ=柱体の体積」が良いのではないかと思っています。平行四辺形の面積の式は,長方形の面積(Recutangular area)と量の積とをつなぐものとなります。


 以下の記事もついでにどうぞ:

*1:除数と商の順序を交換して,「(被除数)=(商)×(除数)+(余り)」と書いてもいいのではないか,という問題意識については,https://takehikom.hateblo.jp/entry/20120104/1325617625にて検討済みです。数学的にはどちらでもいいのですが,余りは除数よりも小さいことが要請されます。「76まいの色紙を3人で分けたとき,1人25枚ずつの色紙を持ち,1まいあまります」という場面は,「76÷3=25あまり1」そして「25×3+1=76」と表記できますが,「76まいの色紙があります。3人が20枚ずつの色紙を持ち,16まいは誰のものでもありません」という場合には,「20×3+16=76」とできるけれども「76÷3=20あまり16」とするわけにはいかないのです。