かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

分数の第一義,次期解説では

 分数の第一義は,\frac{a}{b}=1\div b\times aと表されます。『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』には,\frac{a}{b}=\frac{1}{b}\times aという式が見られます。
 このことを知るきっかけとなった本があります。

初等算数科教育 (MINERVAはじめて学ぶ教科教育 2)

初等算数科教育 (MINERVAはじめて学ぶ教科教育 2)

 読み通した限りでは,近年の算数教育の状況を,手堅くとりまとめられたものと判断しています。整数の加法の意味で,合併と増加の演算の記号を別にすべきではという疑問への回答は,p.47側注に書かれており,減法・乗法・除法についても適用可能となっています。整数の乗法はp.48で,リンゴの場面から3+3+3+3+3(5×3ではなく)と3×5を並べて後者が「能率的である」としています。次期解説を読んで関心を持ち,段数×4=周りの長さで紹介した件も,「段数が20段の時の周りの長さを求めなさい」という問題と,1段から3段までの図を箱で囲み(p.89),表をつくってそこから2つの特徴を見出して,「4×倍数(段数)」と「段数×4」という言葉の式を得ます。そして与えられた問題については,「4×20=80」「20×4=80」のどちらも正解(問題の解決)としており,周りの長さ~算数授業研究よりと同趣旨と思ってよさそうです。いくつかの章の参考文献には,『復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方』を挙げていました。
 さて,「分数の意味と表し方」の解説を見ていきます。そこでは,分割分数(操作分数)・量分数・商分数・割合分数に先立って,「二つの意味」を述べています(p.46)。

 分数には大きくは二つの意味がある。一つは,\frac23は1を3等分したものの2つ分を意味するというように「1を等分割したもののいくつ分」(\frac{m}{n}=1\div n\times m)を表すという意味であり,もう一つは,\frac23は2÷3の商を意味するというように「除法の商」(\frac{m}{n}=m\div n)を表すという意味である。これら二つの意味を背景として,算数科では次のような場面における事象を分数を用いて表現できるように段階的に指導していく。

 上の引用の第2文,句点の直前の「る」の上には,注釈番号がついており,側注の該当箇所には「前者を分数の第一義,後者を分数の第二義という。」と記されています。
 なじみでないので,少し調べてみると,啓林館の用語集がヒットしました。

「1を分母の数でわったものを分子の数だけ集めたもの」
このような意味づけを分数の第一義といいます。分数は,次のような意味にも解釈できます。
「分子を分母でわった商を表すもの」
この商を表す分数を,分数の第二義といい,第5学年で指導します。

分数|算数用語集

分数には,次のような2つの意味があります。
b/a=1÷a×b(第一義)
b/a=b÷a(第二義)
第一義は,2/3を例にとれば,「1を3等分したものを2つ集めたもの(1÷3×2)」となります。
第3学年に分数を導入したとき,2/3mを1/3mの2つ分としたことがこれにあたります。
第二義は,「2を3でわったもの(2÷3)」となります。下の例で説明があるように,わり算の商としての意味があり,商の分数ともいわれています。

分数の第二義|算数用語集

 分数の第一義・第二義と,ナニナニ分数との関連付けを紹介したものとして,以下を見つけました。

 ブログ記事からも,一つ。

 小学校学習指導要領解説よりダウンロードのできる,次期解説のPDFで,「第一義」や「第二義」を検索しても,見つかりませんでした。ですが「分数の意味」で,文書の後ろから検索すると,関連するものがみつかりました。第5学年,p.288*1です。

イ 思考力,判断力,表現力等
 (ア)  数の意味と表現,計算について成り立つ性質に着目し,計算の仕方を多面的に捉え考えること
 分数の乗法及び除法については,分数の意味や表現に着目したり,乗法及び除法に関して成り立つ性質に着目したりして,分数の乗法及び除法について多面的に捉えて,計算の仕方について,児童が工夫して考え出せるようにする必要がある。
 分数の意味や表現に着目することとは,分数の意味に基づいて\frac{a}{b}\frac{a}{b}=\frac{1}{b}\times aと捉えたり,a÷bを\frac{a}{b}とみたり\frac{a}{b}をa÷bとみたりするなど分数を除法の結果と捉えたりすることなどである。

 現行の解説の該当する箇所は,第5学年の「イ 除法の結果と分数」で,「a÷b(a,bは整数でbは0でない)の商を\frac{a}{b}という分数で表すようにする」や「また,a÷bを\frac{a}{b}とみたり,\frac{a}{b}をa÷bとみたりすることを,分数を小数で表すときや,分数の乗法,除法などの計算で有効に生かすことが大切である。」とあました。もっぱら第二義が取り上げられ,第一義には関心が払われていなかったと解釈できます。