かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

約340×6

 以下の記事を見かけてKindle版を購入し,読み終えました。

 先にいくつか関連情報を書いておきます。著者の名前と算数・数学教育へのスタンスは,一昨年7月および昨年4月の東京新聞の記事にて目にしています。まえがきに『分数ができない大学生』の執筆者の一人であることを書かれていますが,その本についてメインブログで批判的な文章を書いたのは12年前のことです。本文で何度も「本質」の言葉が使用されており,使いすぎという印象を持ちました。

 さて,タブレット端末で読み進めると,第4章(数学は「心」が大切)の中に,「数学の例を挙げるときのヒントになるような題材を3つ」の最初に,かけられる数とかける数とが逆になった文章題が入っていました.

 まず一つ目。同じ340×6=2040という式でも、花子さんは340円の弁当を6個買いました。さて、合計するといくらになるでしょうか」という題より、次のような例を用いた話題のほうが面白くなるのではないだろうか。
「遠くの花火大会で、ピカッと光ってから6秒後にドーンという音を聞きました。花火までの距離はどのくらいでしょうか。なお、光の速さは秒速約30万キロメートルで、音の速さは秒速約340メートルです」

 とはいえこの,花火大会の文章題について,6と340をひっくり返してかけることに主眼が置かれたものには見えません。光の速さは,距離の算出において不要なのと,速さ×時間=距離の式に適用することが,問われています。
 この認識をもとにしても,文章題は良問とは思えなかったのです。「約」の解釈をどうするかに,引っかかりを覚えました。
 具体的に数を書いてみます。秒速340メートルなら,有効数字2桁とすると,335m/s以上345ms未満,有効数字3桁とすると,339.5m/s以上340.5m/s未満となります。これだけ,幅があると,6倍したら2010m以上2070m未満となり,有効数字2桁だと「2000メートル」も「2100メートル」もOKということになります。
 算数では,概数を計算の対象にするとき,「約~」ではなく,「~とする」として示すことで,範囲を考えずに1つの計算式で表せます。「音の速さは秒速340メートルとします」です。円を扱う問題に「円周率は3.14とする」の注意書きを添えるのと,同様です。
 ただしこの問題では,光の速さが入っています。現実的には,光の到達時間は無視してよいのですが,これを考慮するとなると,旅人算(追いつき算)です。一次方程式で解くなら,距離をxとして,\frac{x}{340}=\frac{x}{300000000}+6という式を立て,これを解いてx=\frac{30600000000}{14999983}≒2040.002を得ます。