かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

令和2年度算数教科書読み比べ(5)~a×bとb×a,答えは同じでも意味が違う

 6社の2年の算数教科書で,a×bとb×aの違いを知ることができる出題を取り上げます。これまでの「読み比べ」からの加筆修正もあります。
 教育出版『小学算数』2下ではp.8です。「つぎの問題の式や答えをくらべましょう。」から始まり,①は「トマトが4つずつ入ったさらが2さらあります。トマトはぜんぶで何こあるでしょうか。」なのに対し,②は「トマトが2つずつ入ったさらが4さらあります。トマトはぜんぶで何こあるでしょうか。」で,違いは「4」と「2」の出現位置だけです。続いて小問があり,その最初*1は,「それぞれ,1つ分の数はいくつでしょうか。」で,これにより①と②について,式で表す際に異なることが分かります。続く小問は①と②でそれぞれ,式を書く欄が設けられており,「□×□=□」の3つの空欄の上には,「1つ分の数」「いくつ分」「ぜんぶの数」が添えられているため,①は「4×2=8」,②は「2×4=8」と書き分けることになります。
 東京書籍『新しい算数2下』ではp.21です。「つぎの 2つの もんだいの しきと 答えを それぞれ 書き,くらべて みましょう。」から始まり,(1)は「えんぴつを 1人に 2ほんずつ,5人に くばります。えんぴつは ぜんぶで 何本 いりますか。」なのに対し,(2)は「えんぴつを 2人に 5本ずつ くばります。えんぴつは ぜんぶで 何本 いりますか。」です。どちらも,「2」が先,「5」があとに出現しますが,数量の関係は異なります。(1)と(2)のそれぞれに,式と答えを書く欄があり,その下に「かけ算の しきの いみを 見なおそう」と書かれています。「 (1),(2)の もんだいの 1つ分を あらわす 数は,それぞれ いくつですか。」という小問があるほか,「「1つ分の数」×「いくつ分」=「ぜんぶの数」だったね」が,しほ(キャラクター)による吹き出しとなっています。
 東京書籍の教科書ではp.22に,「かけ算の式に合う絵をえらんで,線で結びましょう。」という問題もあります。かけ算の式は,「2×5」「4×3」「5×2」「3×4」です。またp.24では,みかんが皿に乗った絵があり,4個ずつ3枚の皿に乗った絵の①では,式は「4×3=12」,3個ずつ4枚の皿に乗った絵の②では,「3×4=12」に,それぞれ対応づけられています。
 啓林館『わくわく算数』2下では,a×bとb×aとで場面が異なる事例を見かけませんでしたが,p.21の「おかしの はこが 3はこ あります。1つの はこには,おかしが 5こずつ はいっています。おかしは ぜんぶで,何こ ありますか。」という問題文の下には,「しきは,3×5かな,5×3かな...」の吹き出しがありました。
 日本文教出版『小学算数2下』ではp.11です。「プリンの 数を かけ算の しきに 表しましょう。」から始まり,①はプリン3個がパックになっていて,2パックあるのに対し,②ではプリン2個がパックになっていて,3パックあります。式を書く欄が設けられています。リスによる「1つの まとまりの 数が ちがうと しきも ちがうね。」という吹き出しもあります。
 日本文教出版の教科書ではそのほか,p.38に,「あめを 4人に 6こずつ くばります。あめは ぜんぶで 何こ いりますか。」という文章題があります。その下には,6こずつ囲まれた●が4つの絵と,「4×6=24 答え 24こ」の囲みが見られます。はるなさん(キャラクター)の吹き出しで,「4×6だと(絵省略)になるから,おかしいな」となっています。教科書の後ろのほうのp.114では,「ぐっとチャレンジ」として,6×6のドットを,点線で囲んで「●の 数を もとめて います。どんな かけ算の しきで あらわすことが できますか。」を出題しています。この中で②は田の字型に囲んで,9個ずつ,4つの囲みができています。③は4個ずつ,9つの囲みです。式はそれぞれ,②は9×4,③は4×9が期待されます(①と④は異なる囲み方ですが,6個ずつ,6つの囲みなので,式はどちらも6×6です)。
 学校図書『みんなと学ぶ算数』2年下では,p.27に,「2×4は,みかんの ぜんぶの 数を あらわす しきです。この しきが あらわしている ばめんは つぎの(ア),(イ)の どちらですか。」と出題し,2つの絵があります。(ア)は,みかんが4個ずつ,2つのカゴに乗った絵なのに対し,(イ)では,みかんが2個ずつ,4つのカゴに乗った絵です。正解と思われるのは(イ)のほうです。
 大日本図書『楽しい算数』2年では,a×bとb×aの違いを意図した出題を書き取ることができませんでした。

関連1

 式を読み取る指導に際しては,例えば,3×5の式から,「プリンが3個ずつ入ったパックが5パックあります。プリンは全部で何個ありますか。」という問題をつくることができる。このとき,上で述べた被乗数と乗数の順序が,この場面の表現において本質的な役割を果たしていることに注意が必要である。「プリンが5個ずつ入ったパックが3パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」という場面との対置によって,被乗数と乗数の順序に関する約束が必要であることやそのよさを児童が理解することが重要である。

 『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』より。現在はhttp://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_004.pdf#page=121の下から4行目より,読むことができます。

関連2


 「9×3と3×9とはどうちがひますか。」は,http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/938863/110の右側(p.207),上から2行目です。大正14年(1925年)の出版物です。

*1:右向三角(▷)の中に番号が入っています。他の教科書でも見かけました。三角形の文字について,Unicodeの符号位置やHTML文字参照の値は,wikipedia:三角_(記号)で整理されています。