かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

令和2年度算数教科書読み比べ(7)~0は偶数だが2の倍数ではない

 同じ対象に関する教科書ごとの取り上げ方の違いを知るため,『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』に記載の「偶数,奇数」と「約数,倍数」をチェックしました。
 経緯を書いておくと,現行(2008年公開)の『小学校学習指導要領解説算数編』では,「8の倍数は{8,16,24,32,…}であり」という例示から,0は,8(に限らずあらゆる整数)の倍数でない扱いなのを,読み取ることができました。そして2013年度に検定され,2014年度の教科書展示会で見ることのできた算数の教科書に,「6に整数をかけてできる数を,6の倍数といいます。」は定義として不正確という修正意見により,「0は,入れないで考えます。」が追加されたという事例を,https://twitter.com/takehikom/status/482834235892314113にてツイートしました。
 2017年6月21日に文科省サイトで公開された,次期解説では,「3に整数をかけてできる数を3の倍数という。3,6,9,…は3の倍数である。このとき0は倍数に含めない。」として0の除外を明文化していました。この第3文は,のちのバージョンで「(このとき0は倍数に含めていない)」に書き換えられて第2文の句点の直前に移動し,『小学校学習指導要領解説(平成29年告示)算数編』のp.235およびhttp://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htmからダウンロードできる【算数編】で見ることができます。
 関連して作成したのは以下の記事です。


 教科書展示会にて,「平成31年3月5日検定済」で来年度より使用される5年の算数教科書(教科書センター用見本)に目を通したところ,すべての教科書会社(東京書籍,大日本図書,学校図書日本文教出版,啓林館,教育出版;閲覧順)でおおむね同じ取り上げ方でした。概要は以下のとおりです。

  • 偶数と奇数の解説が先,倍数と約数の説明があとです。
  • 偶数と奇数を定義したあとに,1社を除いて「0は偶数です。」または「0は偶数とします。」と書いています。
  • 倍数を定義したあとに,「0は,倍数に入れないことにします。」または「0はのぞいて考えます。」といった文を入れています。
  • 偶数・奇数は,2で割り切れるか割り切れないか(2による整除)を用いて定義しており,一部の教科書ではそのあとで,かけ算を含む式を入れています。
  • 倍数は,かけ算を用いて定義しており,1社を除いて3の倍数です。一部の教科書ではそのあとで,整除を述べています。
  • 倍数の定義のあと,0から始まる整数の(0, 1, 2, ...が振られた)数直線があり,左には「3の倍数」などと書かれています。指示された数の倍数をすべて○で囲むこと(そして0は囲まないこと)が期待されます。*1


 以下は詳細なメモです。図や表,改段落および漢字のルビは入れていません。〔……〕は補足・所感です。

  • 東京書籍 新しい算数 5上
    • 「8 整数の性質を調べよう」はp.96から
    • p.98:
      • 2でわりきれる整数を,偶数といいます。
      • 2でわりきれない整数を,奇数といいます。
      • 0は偶数とします。
    • p.100: 3に整数をかけてできる数を,3の倍数といいます。3の倍数は,3,6,9,12,……と,いくらでもあります。0は,倍数に入れないことにします。
    • p.101: 下の数直線で,2,3,4の倍数を○で囲みましょう。〔数直線は0から始まる〕
  • 大日本図書 たのしい算数 5年
    • 「8 整数の性質」はp.97から
    • p.98: 整数を2でわったとき,わりきれる数を偶数といい,あまりが1になる数を奇数といいます。
    • p.98: 0は偶数とします。整数は,偶数と奇数の仲間に分けられます。
    • p.100: 3,6,9,……のように,3に整数をかけた数を3の倍数といいます。
    • p.100: 3の倍数は,3でわりきれて商が整数になる数です。0は倍数に入れないことにします。
    • p.101: 次の数直線で,3の倍数と4の倍数に○をつけましょう。〔数直線は0から始まる〕
  • 学校図書 みんなと学ぶ小学校算数 5年上
    • 「10 整数の分け方について考えよう」はp.125から
    • p.126: 整数のうち,2でわり切れる数を偶数,2でわり切れない数を奇数といいます。0は偶数とします。
    • p.128: 3×1,3×2,3×3,…のように,3を整数倍してできる数を3の倍数といいます。0はのぞいて考えます。
    • p.128: 〔「(あ)2の倍数」から「(う)4の倍数」までの数直線。いずれも0から始まる〕
  • 日本文教出版 小学算数 5年上
    • 「7 整数の性質」はp.92から
    • p.94: 2でわったとき,わりきれる整数を偶数といい,あまりが1になる整数を奇数といいます。0は偶数です。
    • p.96: 3,6,9,…のように,3に整数をかけてできる数を3の倍数といいます。0は,倍数に入れないで考えます。
    • p.96: 〔「2の倍数」から「5の倍数」までの数直線。いずれも0から始まる〕
  • 啓林館 わくわく算数 5
    • 「7 整数」はp.100から
    • p.100: 2でわり切れる整数を偶数,2でわり切れない整数を奇数といいます。
    • p.100: 〔ベン図で整数・偶数・奇数の集まりを図示し,偶数に「0 2 4 6」とあり,0は偶数であることが読み取れる。他社と異なり,0は偶数であることを書いた文はなかった〕
    • p.102: 3,6,9のように,3に整数をかけてできる数を,3の倍数といいます。
    • p.102: 3の倍数は,3でわりきれます。0は,倍数には入れないことにします。
    • p.102: 3の倍数は,いくらでもあります。倍数というときには,0の倍数や整数の0倍は考えないことにします。〔倍数・約数|算数用語集をほぼ踏襲〕
    • p.102: 〔「(あ)2の倍数」から「(え)5の倍数」までの数直線。いずれも0から始まる〕
  • 教育出版 小学算数 5
    • 「7 整数の見方」はp.97から
    • p.98: 〔◆偶数,奇数〕2でわったとき,わりきれる整数を偶数といい,あまりが1になる整数を奇数といいます。
    • p.99: □を整数とすると,偶数は,2×□と表すことができる数で,奇数は,2×□+1と表すことができる数です。0は偶数です。
    • p.102: 〔◆倍数〕ある整数を整数倍してできる数を,もとの数の倍数といいます。
    • p.102: 0は倍数に入れないことにします。□を0以外の整数とすると,3の倍数は,3×□と表すことができる数です。
    • p.102: 〔「3の倍数」と「4の倍数」の数直線。いずれも0から始まる。3の倍数のほうの3に,鉛筆(のイラスト)で○がつけられている〕

*1:偶数・奇数についても同様の数直線を見かけましたが,すべての教科書に入っていたかどうかは,記録していませんでした。倍数に関する数直線は,すべての教科書に収録されていました。