かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

順序を問う3口のかけ算

 Kindle版を購入し,かけ算のところはじっくりと,他の箇所は右から左へスワイプしながら,読み終えました。
 「2.6 掛け算と九九の導入」が,p.66より始まります。そのページには,「3+3+3+3+3=15」と「3×5=15」という式も載っています。
 さて,p.68に,いわゆるかけ算の順序論争に対し「学校でそのように指導されるならば,それに従っておく方が無難でしょう.しかし私の本心は,どちらでも構わないという考えです.」と述べ,ページ中央には,○を5行3列に配置したアレイ図を用いて,「この図を見れば,3×5でも5×3でもどちらでも構わないことが分かるでしょう.」と記しています.続いて「質問1」というのがあります.

質問1 犬を大好きな4人が,それぞれ3匹の子犬を連れてきて集まりました.ある御隠居さんが,「可愛い子犬がたくさん集まりましたね.それでは,どの子犬にもビスケットを5枚プレゼントしましょう」と言いました.御隠居さんは何枚のビスケットを用意すればよいでしょうか.

 著者が提示した式は,「(4×3)×5=12×5=60(枚)」と「(5×3)×4=15×4=60(枚)」*1の2つです。
 問題文と後者の式を照らし合わせます。質問1では「4」「3」「5」の順に出現するのに対し,「(5×3)×4」と式を立てた場合には,ちょうど反対になっています。
 個人的に見聞きしてきた限り,3口のかけ算で,このように3つの因数の順序が反対になるのが(日本の小学校の算数で)正解となるような文章題は,見覚えがありません。
 3口のかけ算,より正確には,乗法の結合法則を学習する段階では,出現する順に数を並べ,間に「×」を置けばOKというものばかりです。検索して見つけた学習指導案によると,http://www1.iwate-ed.jp/db/db2/sid_data/es/sansu/essa_2013/essa2013301.pdfには「1こ75円のおかしがあります。1箱に5こずつ入っています。2箱買うと、代金はいくらですか。」という文章題が使用されています。
 質問1に話を戻すと,「どのかけ算から先にするか」と「分解式か,総合式か」を考えることにより,以下の4通りの式が得られます。

  • 1人が連れてきた3匹の子犬に必要なビスケットから先に求めると,5×3=15。4人が連れてきたので,15×4=60 答え60枚
  • 上記を総合式で表すと,(5×3)×4=60 答え60枚
  • 子犬の数から先に求めると,3×4=12。どの子犬にもビスケットを5枚ずつなので,5×12=60 答え60枚
  • 上記を総合式で表すと,5×(3×4)=60 答え60枚

 乗法の結合法則を「順序を変えてかけても,答えは同じ」と学んでいれば,総合式からカッコを取り除いた「5×3×4=60」という式も,認めてよいことになります。
 著者の提示した最初の式が(日本の算数の3年の授業で)認められないと予想できるのは,4×3が何を表すか,説明がつかないからです*2。Vergnaudによる「関数関係」や,それと同等で「表をたてに見て○が□の何倍になっているかに注目」*3の学習が期待されるのは,4年です。
 次のページの質問2は,場合の数の「積の法則」に基づくものであり,そのことを明示せず小学校の算数の文脈で持ち出すのは,興味深いところです。著者は九九の覚える数を持ち出していますが,2つの質問を見比べると,かけ算で表される場面が異なっています。Greerの分類表*4をもとに,質問1は2つのEqual groupsを組み合わせた場面なのに対し,質問2は2つのCartesian productと言えます。

*1:この式の直前には,「反論をガタガタ言われる方の立場からすると,」というのが入っています。

*2:箇条書きにした中で「3×4=12」だけ,匹数を求めており,それ以外は枚数です。いずれも,かけられる数とかける数が同種の量になっていますが,偶然というわけではなく,例えば5×3は5+5+5と(計算上も,犬とビスケットを持ってきて操作的にも)表せるからで,同様に4×3=4+4+4としてみると,人を3倍してどうするのですかとなります。

*3:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2019/06/17/061053

*4:https://books.google.co.jp/books?id=N_wnDwAAQBAJ&lpg=PR1&hl=ja&pg=PA280#v=onepage&q&f=false