かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

全国学力テストの,乗法の結合法則の出題

 掛け算の解説から少しあと,p.76に「2.10 交換法則と結合法則と分配法則」のセクションがあります。「積の結合法則」は,p.78で取り上げられており,「たて△cm,横□cm,高さ○cm」の直方体を用いて,立方体の個数を数えることで,「(△×□)×○=△×(□×○)が導かれます.」*1としています。
 しかしこれでは,結合法則の面白さや有用性を知ることができません。順序を問う3口のかけ算で,ある学習指導案より抜き出した「1こ75円のおかしがあります。1箱に5こずつ入っています。2箱買うと、代金はいくらですか。」には,「75×5=385,385×2=750と計算すると,筆算が必要だったり,計算ミスが発生しやすかったりするけれど,5×2=10,75×10=750とすれば,筆算なしで簡単に計算できるね」というのが含まれていました。
 より広範囲な児童を対象とした出題と,正答率などの算出の事例があるのではと思いながら,全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の小学校算数で,結合法則をもとにした問題を調べてみました。
 各年度の情報は,国立教育政策研究所の教育課程研究センターが公開していて,https://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.htmlよりアクセスできます。「調査問題・正答例・解説資料」は,実施後すぐに公開されているのに対し,「報告書・集計結果資料」は正解率・誤答率などを含んだものです。
 そこで,2つの出題を見つけました。
 まずは,平成19年度の算数B大問2です。解説資料には,囲まれた実際の問題の上に,「計算法則を用いた工夫(チョコレート)」と書かれています。筆算をしないで25×12を求める方法を2つ示しており,「同じように,25×32をくふうして計算しましょう。」という問題です。続いて「計算のくふうを,言葉や式を使って書きましょう。」の文が,独立した段落となっています。
 報告書から見ることのできる,解答類型の表によると,正答率は59.0%です。また「筆算で計算しているもの(筆算の考えを用いて計算しているものも含む)」は4.7%となっています。
 もう一つは,平成26年度の算数B大問1で,小見出しは「計算法則の解釈と説明(計算のきまり)」です。「37×3=111」「37×6=222」となることについて,2人が説明を行い,それを受けて(2)で「2人の説明のどちらか一方をもとにして,37×24の積が888になることを,式や言葉を使って書きましょう」と出題しています。
 正答率は55.5%です。誤答のうち、筆算で計算しているものは1.3%ありました。「計算の工夫を書いているが,37×3=111(37×6=222)を基にしていないもの」というのは,8.1%でした。
 平成26年度の報告書に,平成19年度の問題と比較する表があること,平成27年度以降では見当たらない*2ことから,全国学力テストの算数において,乗法の結合法則をふまえた出題は,これら2題と判断してよさそうです。
 2つの問題には,いくつか共通点があります。学習指導要領における領域・内容として,いずれも,第3学年のA(数と計算)を挙げています*3。直方体を持ち出して,立方体の数を算出するのと別の方法で,「順序を変えても答えは同じ」の応用問題を小学生が解くことができるわけです。
 また別の共通点として,乗法の結合法則は,3つの因数を用いた式で表されますが,25×32にせよ37×24にせよ,出題としては2つの因数です。解答にあたっては,25×(4×8)や37×(3×8)に変形して3つの因数にすることが,期待されています。
 これに関して,平成26年度の報告書のp.59に「このことから,一つの数をほかの数の積としてみることや,数の乗法的な構成についての理解に改善が図られていると考えられる。」という文が入っています。文脈としては,平成19年度と比べて,その他の誤答や無解答の率が下がっている(改善が図られていると考えられる)理由を述べたものですが,「一つの数をほかの数の積としてみること」も「数の乗法的な構成」も,第2学年での学習です(前者は解説のつかない小学校学習指導要領の算数に,後者は解説のほうに,記載されています)。第2学年の「数の乗法的な構成」には,結合法則は含まれませんが,見方を変えると,「数の乗法的な構成」は2年だけでなく,3年でも,それより上でも,学年に応じた学びをすることができると言えます。

*1:「1つ分の数×いくつ分」のみで,この式の右辺が,立方体の個数となると言うのは難しく,いったん(□×○)×△としてから,交換法則を適用するか,この直方体をスライスして移動させ,立方体が縦に△個,横に□×○個並んだ長方形のようにしてから,式を立てるといった工夫が必要となります。

*2:平成31年度の大問3では,400÷25を求めるにあたり,被除数と除数を4倍して,1600÷100=16を求め,だから,400÷25の答えは16というのが,問題文に例示されています。このとき(400×4)÷(25×4)=400÷25であることを,代数的に(例えば400\times4\times\frac{1}{25}\times\frac{1}{4}400\times\frac{1}{25}\times4\times\frac{1}{4}として)示すとなると,乗法の結合法則が含まれていると考えることもできますが,この計算に関しては「除数及び被除数に同じ数をかけても,同じ数で割って計算しても商は変わらない」として4年で学習するものであり,結合法則は現れません。

*3:加えてどちらにも,D(数量関係)として,「四則に関して成り立つ性質」「交換法則,結合法則,分配法則」の事項を挙げていますが,現行より前の学習指導要領に基づく平成19年度実施分では第5学年,また平成26年度実施分では第4学年です。