かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

かけ算の本質を確かにする?

 2年のかけ算の授業が,pp.62-65に書かれていました。「袋の中の団子の数は全部で何個かな?」というタイトルです。この4ページに8つのイラストと,最後のページの下段には板書写真が載っています。イラストは基本的に,団子を塗りつぶした丸,串を縦線で表しており,その状況に応じて,団子の総数を,かけ算の式に表すというものです(表せないものもあります)。一部を隠した状況からも,「袋の中に同じ数ずつ串に刺さった団子が入っている」(p.63)という情報に加え,串1本に刺さっている団子の数と,串の数から,団子の数をたし算・かけ算で表すことが試みられています。
 最後のページ(p.65)では,「(3)かけ算の本質を確かにする」という小見出しが,網掛けになっています。直後の文でも,「本時を振り返るだけでなく,かけ算の本質を確かにするため,様々な団子の入った袋でかけ算で表せるものとそうでないものを考え,式で表します。」とあります。
 こうあると,「(この授業事例における)かけ算の本質とは何か?」が気になってきますが,そこでは明示されていません。
 他の情報と照合します。現行(2008年公開)と次期(2017年公開)の『小学校学習指導要領解説算数編』には,「乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。」が書かれています。これを,執筆者が「かけ算の本質」に置き換えて,実施した授業に重ね合わせたと考えるのがよさそうです。
 『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』では,「串が3本,団子が4個ずつ」の写真から,4+4+4や4×3の式に表す事例が入っています(現行分には見当たりません)。今回の授業では,板書写真に,3×4の場面と,4×3の場面が見られますが,別個の場面(「1つ分×いくつ分=全部の数」(p.64)という共通点はありますが)であり,交換法則は意識されていませんでした。


 かけ算に関連して「本質」が書かれた事例を,メインブログから1件,当ブログから2件,取り出しておきます。

上の図式は,A×p(=B)という「かけ算の本質(構造)」を,「Aを1としたときpに相当する大きさを表すこと」,すなわち,「pに比例する」という考えでとらえ,それを「関数尺」として表わしているものである。乗数pが小数,分数の場合は,下側の目盛りで,整数点以外のところをよめばよいということで,その一般化が比較的容易とみられるところに一つのポイントがある。(30×2のようなかけ算を「30の2ばい」といって,いわゆる「ばい」で規定していこうというのは,上の考えにのせていこうということを指していると解してよい。)

 「意味」はともあれ,上記の「算数科では」から始まる段落は,新しい学習指導要領および解説の記述にも適合します。時系列としては,2008年に現行の『小学校学習指導要領解説算数編』が公開・発行され,それをもとに『新しい学びを拓く算数科授業の理論と実践』で解説がなされ,「意味がある」が「本質的な役割を果たしている」や「約束が必要である」に置き換えられて,2017年6月,新しい学習指導要領に基づく『小学校学習指導要領解説算数編』に記載された,という流れを見ることができます。

 書き方から中身に移っていくことにします。芳沢氏のコメントのうち「掛け算学習の本質には、順序を入れ替えても答えは同じという交換法則を理解することがある」に,違和感を覚えました。算数・数学教育で,そんな「本質」を聞いたことがなく,むしろ,演算の対象を整数,有理数(小数,分数),実数,複素数へと拡張していっても,交換法則などが成り立つことを確かめる活動が期待されています。(以下略)