かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

かける数は,はたらきを表す数

算数科の深い学びを実践する

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 第2章の「3 整数の乗法・除法とその意味の指導」はp.72より始まります。2年のかけ算に関する具体的な解説は,p.75からで,このページには遊園地の乗り物に乗る子どもたちのイラストが載っています。次のページからは,●を使用した図が活用され,言葉の式としては「(1つ分の数)×(いくつ分)=(全体の数量)」「(1つ分の数)×(いくつ分)=(全体の数)」が書かれています。「順序」の言葉は,p.77に「「乗法九九」の指導順序」として出現します。順序論争の意味合いの「順序」の出現はなく,『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』にある「被乗数と乗数の順序」も,この本には見かけませんでした。
 アレイ図を使って乗法の交換法則を解説し,「類推的な見方・考え方や一般的な考え方などを働かせている。」で段落が終わったあと,次の段落では,かける数の役割に着目して,かけられる数との違いを,以下のとおり説明しています(pp.78-79)。

 ここで,乗法における被乗数と乗数の意味について,被乗数は「1つ分の数(単位とする数)」であり,乗数はその「いくつ分」であることを表す数であることは,これまでも確認できている。この両者は加法・減法と違って,全く意味が異なるものである。例えば,「みかんが1列に4個ずつ3列に並んでいる。みかんは全部で何個あるか」というときの「3」は,みかんの数に目を向けると,4個の3つ分の「3」,すなわち4個の3倍を表す「3」であり,その意味では,ただ単なる3列に並んでいる「3」ではないことが理解できる。しかし,このように「はたらきを表す数」としての乗法の意味を捉え,「3列」から「3つ分」のように数をみるようにすることは,子どもにとってとても難しいことである。そのため,具体的な場面から「1つ分の数」と「いくつ分」を捉えた上で,乗法の式を立式できるようにして,被乗数と乗数の意味の違いに気づき,乗数を「はたらきを表す数」として理解できるようにすることが大切である。

 「乗数(かける数)」と「はたらき」の組み合わせで,連想するのは,これまで[Greer 1992]と書いてきた文献です。海外では,「かけ算の順序」「たし算の順序」についてどのような見解を出していますか?より抜き出し,重要な文を強調表示しました。

(p.276)
A situation in which there is a number of groups of objects having the same number in each group normally constitutes a child's earliest encounter with an application for multiplication. For example,

3 children have 4 cookies each. How many cookies do they have altogether?

Within this conceptualization, the two numbers play clearly different roles. The number of children is the multiplier that operates on the number of cookies, the multiplicand, to produce the answer. A consequence of this asymmetry is that two types of division may be distinguished.
(いくつかのグループがあって,各グループで同じ個数のモノがあるときというのが,子どもが最初にかけ算を用いる場面になる.例えば

3人の子どもが4つずつクッキーを持っている.全部合わせるとクッキーは何個か?

これをかけ算の式で表そうとするとき,2つの数は明らかに異なる役割を担っている.子どもの数は「乗数」であり,クッキーの数すなわち「被乗数」に作用して,答えとなる総数が得られる.この非対称性から言えるのは,2種類のわり算を考えることができてそれぞれ区別されるということである.)

 「オペレータ」は,啓林館の算数用語集にも出現します。

 前者には「3倍,2倍などは「3倍する」「2倍する」といったかけ算の働きをもった数量」と書かれており,後者は加法・減法の話として「+6,-4」という表記が見られます。これをかけ算に適用し,3倍や2倍を「×3」「×2」と表すこともできます。
 ここまで紹介してきた,かける数を「はたらきを表す数」「オペレータ」と見る状況においては,かけられる数と,かけ算の答え(積)とが,同じ種類の数量になります.『算数科の深い学びを実践する』より引用した「みかんが1列に4個ずつ3列に並んでいる。みかんは全部で何個あるか」であれば,4×3=12と表したときの4も12も,みかんの数です。たまたまというわけではなく,「~倍」によりどのような操作がなされるのかを考えたり,累加(4×3=4+4+4=12)で表したりすることで,この段階で学習するかけ算は,被乗数と積が同種の数量となることを(帰納的に)導くことも,可能なように思います。
 「オペレータ」を含む,指導案を見つけました。

 作成の意図は「関係図、変化表の扱いを重点指導事項として年間指導計画に位置づけ、小中学校で共有して系統的に指導していけるようにこの手引きを作成した」(p.1)にあります。「オペレータ」は,p.13に書かれており,「文ぼう具店で,同じねだんのノートをさつ買いました。次にスーパーに行って,100円のジュースを買うと,全部で940円でした。ノート1さつの値段は何円ですか。」で,小学4年の問題ですが,中2理科との連携も記されています。
 文ぼう具店の文章題について,関係図のあと,留意事項の最初の項目に,「オペレータの合成はできない。(「何倍でしょう」との相違点)」とあります。
 数学的には,「6をかける」と「100をたす」を,それぞれ写像とみせば,その合成写像を得ることができます。もとの数値(金額)を,変数xで表し,かける操作とたす操作を,異なる写像となるよう,f(x)=x×6,g(x)=x+100と書いたとき,g(f(x))=(x×6)+100=6x+100を得ます。
 とはいえ,6x+100=940と立式してx=140を得るのは,中学1年の活動です。「逆思考で解決するための関係図のかき方」は---「6をかける」か「×6」かは選択の余地がありますが---小学4年で学ぶのが最適と言っていいでしょう。