かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

包含除は比の値へ,等分除は比例定数へ

数学的に考える資質・能力を育成する算数の授業

数学的に考える資質・能力を育成する算数の授業

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東洋館出版社
  • 発売日: 2019/11/11
  • メディア: 単行本

 カバーには「Before Afterで分かる!」と書いてありまして,本書の中心となる第2章は,第1学年から第6学年までの(来年度からの学習指導要領に基づく)各領域より1つずつ,全部で24個の学習内容について,板書写真と文章を通じて「Before」と「After」を読むことができます。
 第3章では,2年「かけ算」,3年「分数」,6年「比と比の値」についての板書写真を含む授業案が載っています。ミニシンポジウムに入る直前のp.186に,「割合」に着目して系統的に何を学習するかが,図になっていました。

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 目を引いたのは,図の最上部の「包含除→同種の二つの量の割合→比の値」と,最下部の「等分除→異種の二つの量の割合→比例定数」です。
 それぞれに対応する文章題を作ってみます。「割合」だけ平成30年度実施の全国学力・学習状況調査,他は『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』からです。

  • (包含除)12個のあめを1人に3個ずつ分けると,何人に分けられるか。
  • (同種の二つの量の割合)200人のうち80人が小学生のとき,小学生の人数は全体の人数の何%か。
  • (比の値)水と凝縮液を3:2の比で混ぜて作ったジュースについて,水は凝縮液の何倍の量になるか。
  • (等分除)12個のあめを3人に同じ数ずつ分けると,1人何個になるか。
  • (異種の二つの量の割合)10㎡の部屋に7人いるときの混み具合は,1㎡あたり何人か。
  • (比例定数)直方体の水そうに水を入れていくと,水の量が5dL,10dL,15dL,20dLのとき,深さが4cm,8cm,12cm,16cmであった。水の量をx(dL),深さをy(cm)として関係をy=k×xで表したときのkの値を求めよ。

 式は省略しますが,6項目のうちはじめ3つは,被除数と除数が同種の量となるのに対し,あとの3つは異種の量となります。
 ただし,比の値と比例定数ではそれぞれ反例が作れます。比に関しては,今回見てきた『数学的に考える資質・能力を育成する算数の授業』のpp.184-185,板書写真のうち「20:40=100:□」*1が該当します。比例定数に関しては,円の半径と円周*2など,同種の二つの量のあいだで比例関係を考えるといいでしょう。
 ですのでp.186の図は,典型的な「わり算」の分類と見るべきところです。算数では,比は同種の量のあいだで,比例は異種の量のあいだで考えることが多いことの現れとも言えます。
 「割合の見方・考え方の成長」の図として,異論はありませんが,これらの基礎になるのは,「かけ算」,より正確には「乗法と除法の関係」であるように思います。2年で「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」に習熟することにより,ぜんぶの数といくつ分をもとに1つ分の数を求めるのが等分除(ニコニコわり算,つ割,ドレド型,分配,sharing),ぜんぶの数と1つ分の数をもとにいくつ分を求めるのが包含除(ドキドキわり算,ずつ割ドドレ型,累減,repeated subtraction)となります*3。教科書では「割合」と書かれる「同種の二つの量の割合」と,「単位量あたりの大きさ」と書かれる「異種の二つの量の割合」に関しては,それらに先立って「小数のわり算」で,二重数直線を用いて数量の関係を把握し,式を立てて答えを求める活動が(教科書を見る限り)なされています。


 目次ほかを見て,少し気になったことを:

  • 1年から6年までのABCDの領域,となると領域数を求めるかけ算の式は,6×4でしょうか,4×6でしょうか? これに関して,当ブログを開設した年に6学年5領域という記事を書いていまして,その中の「乗法としては,特に頭を悩ませる話ではありません.デカルト積であり,それは〈乗数と被乗数を区別しない文脈〉なのだと思えばいいわけです.」がもっとも大事なところです。なのですが目次を見直しますと,1つの学年にABCDの4つの領域が並んでおり,それが6学年ですので,4×6=24と表せばいいでしょう。学年と領域の直積を,2年で学習する「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」に帰着して式にし,求めるわけです。
  • 目次では,どの学年にも「A(数と計算)領域」「B(図形)領域」「C(測定)領域」「D(データの活用)領域」のあとに,カギカッコで単元名が書かれています。ですが4~6年のCの領域は,「変化と関係」のはずです。本文では,領域の名称が書かれておらず,高学年のC領域の単元名である「簡単な場合についての割合」「割合」「比」はいずれも,来年度からの学習指導要領では,C(変化と関係)領域の内容です。ということで目次の記載ミスということですが,他にもミニシンポジウムの文章(以下はいずれもp.189)の中に「包含徐」「等分徐」や,「2mの\frac14\frac14」など,おかしな誤記が目につきました。

*1:「20本で40gのくぎがあります。このくぎ100本では何gになりますか。」という問題の,2番目(B)の式です。1番目(A)は「20:100=40:□」です。

*2:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/03/13/040342

*3:等分除・包含除の括弧書き(別称)はhttps://takehikom.hateblo.jp/entry/20160522/1463842800から抽出しました。