かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

明治図書の算数板書本

 算数の「板書」を見開きのイラストにした書籍として,東洋館出版社の『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて』シリーズ*1が知られています。新教科書への対応版が今月に出る*2というのを,ツイッターで見かけていましたが,書店ではまだでした。かわりに,明治図書のほうから算数の1年から6年までの「上」に関する書籍が並んでいました。本のサイズも,ぱっと開いたときの板書の配置も,似通っていました。
 5年上と6年上を購入しました。本記事では5年上*3を通して読み,興味を持った箇所を取り上げます。
 小数のかけ算(pp.56-85)の単元について,導入の文章題は「1mのねだんが80円のリボンがあります。このリボンを□m買ったときの代金は、いくらになるでしょう。」(p.58)で,右ページの板書には「80×1」「80×2」「80×3」,そして「80×2.5」という式があります。読み進めると,p.66までは,最初の文章題は「1mのねだんが」または「1mの重さが」で始まっており,「1mのねだんが」または「1mの重さが」の直後の値は,かけられる数になっています。Greerのモデル*4だとRateに分類できる場面ばかりです。
 板書の中で目を引いたのは,p.61です。

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 時間をかけて解くのは,上記の□を2.5とし,「2.5mの代金の求め方を式で表そう!」というものです。②の式は「80÷10×25」で,「80÷10」により0.1m分の代金を求めてから,「×25」で25倍すれば,0.1mの25倍,したがって2.5mの代金になるという考え方です。それに対し③の式は「80×25÷10」となっており,「80×25」で25m分の代金を求めてから,10で割っています。
 この③の二重数直線に,省略の二重波線が入っています。このような省略をせず,倍率を維持して(なおかつ②の長さ0,1m,2.5mと,横位置を合わせるようにして)③において「25m」の箇所をとろうとすると,ずいぶんと横長になり,黒板(や子どものノート)の右端を超えてしまうことは,想像にかたくありません。省略が効果的に用いられていると言ってもいいでしょう。とはいえ,子どもたちのノートや,テストで図をかいたりする際には,二重波線なしの図や,二重波線の下に横線がある場合にも,減点や「かき直し」とすべきでないように思います。
 本書の板書例で見ておくべきもう一つは,赤字の使用です。上の画像では下段に「式と数直線を関連づけて板書する」が読めますが,上部の見切れている箇所や,他のページを見ても,これらの赤書きは板書するものではなく,教師が頭の中に入れておくべき情報となっています。
 「かけ算・わり算の意味」に関して,p.66の最初に「1あたりの文章題」も見えますが,その後は(p.75まで),筆算を含む計算の仕方に主眼が置かれており,純粋な数どうしのかけ算の学習です。その後のpp.76-79には,長方形・正方形・直方体の面積・体積計算で,小数の場合を取り扱っています。小数のわり算の単元では,第1時から第5時までは等分除,第6時は包含除(小数÷小数のあまり),第8時は,式は6.29÷3.7で「1あたり問題」(等分除)と「ずつ分ける問題」(包含除)とで答えは異なるという内容です。小数のかけ算で使用する図は二重数直線ばかりですが,小数のわり算の単元での使用は控えめに見えます。また第9時に,4マス関係表が出現します。
 かけ算・わり算の式のいずれも無名数(単位をつけない)と思って読み進めると,公倍数の考え方を使う授業の中で,反例が見つかりました(p.161)。

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 単元は「整数の性質」で,敷き詰めの問題です。たての長さが4cm,横の長さが6cmの長方形を同じ方向にすきまなく*5ならべていき,正方形を作ります。最小公倍数の考えから,1辺の長さは12cmとなるのはいいのですが,続いて「一番小さい正方形をつくるのに,長方形の板は何まい必要?」と問い,これに対する式が「たて3まい×横2まい」で,等号を書かずに「6まい」を答えとしています。「たて3まい×横2まい」は,日本の算数では「タイル×タイル」*6に関連付けられますが,ふたたびGreerのモデルと照合すると,Rectangular areaではなくCartesian productに近い事例といえます。

*1:http://www.toyokan.co.jp/news/n2352.html

*2:http://www.toyokan.co.jp/search/g2838.html

*3:書籍の紹介,立ち読み,ダウンロード(書籍に記載されたパスワードなどが必要)は,https://www.meijitosho.co.jp/detail/4-18-423512-0よりアクセスできます。

*4:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2019/09/10/211914

*5:これらの条件を指定しないと,この長方形を4つ使ってできる,一辺の長さが10cmの正方形(中央に2cm×2cmの正方形のすきま)のほうが,もっと小さくなります。

*6:「たて3まい×横2まい」は,公倍数の応用としては必須ではないようにも見えます。板書の右下,バスの発車頻度に関する練習問題において,15と10の最小公倍数は30ですが,続いて「8時に同時に出発し,次に同時に出発するまでに,北行南行でバスは合わせて何本出るでしょうか。(8時発のバスは,数に入れて,次に同時に出発するバスは,数に入れません。)」を考えてみると,式は2本×3本=6本ではなく,2本+3本=5本となります。