かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

自由研究に「かけ算さがし」を

夏休みの自由研究をすることになった,3年生のお子さんをお持ちの保護者の方へ:
「かけ算さがし」をさせるのは,いかがでしょうか.

用意するもの

必要なのは,「デジカメ」「パソコン」「プリンタ」の3つです.
たぶん家電量販店でもネット通販でも,手軽に購入できると思います.
お子さんが生まれて,カメラは,ビデオは,と言っていたときと比べて,びっくりするほど安くなっていますよ.

さがす

デジカメが用意できたら,「かけ算さがし」を始めましょう.
最初に1枚は,大人が,家の中で,かけ算の式が書かれているものを取り出し,パシャっとしてみましょう.*1

それから,お子さんにデジカメを渡し,撮ってもらってください.
お子さんが撮っていくと,初めのうちは,かけ算で計算できないもの,例えば割烹着のたすき掛けなんてのが,写真に収まるかもしれません.そういった「バツ印」は,「これはかけ算じゃないね」と,収集の対象外とするよう伝えましょう.
しかし「かける」の字形は,「×」に限らなくてもいいのです.「X」や「x」,アルファベットのエックスのこともあります.
「数×」ということも,あります.下の写真で,中央よりやや下の「4.4X」です.

小学校の算数では,「数×」はまず出てきません.「×数」のほうは,高学年で2つの数の関係を表すときに,使うことがあります.
そのうち,家の外にカメラを持ち出して,撮りたくなるかもしれません.お店の中ではダメです.どうしてもというときは,お店の人の許可をもらってからにしましょう.

一覧して,何か一言

撮り貯めたら,パソコンで,画像を見ていきましょう.「これ,何?」「どこで撮ったんだっけ?」と尋ねたり,逆にお子さんの「この字,何ていうの?」に答えたりして,楽しい時間を過ごしましょう.
すべて見たところで,面白かったね,おしまい…というのでは「研究」になりません.
まずは,そうして撮った内容から,思いついたことを,言葉にしましょう.
おそらく全体を一言であらわすのが難しいと思います.ここもまた,大人のひと押しが,必要なところです.
「いろいろあるね.それでね…」と言って,その中から,いくつかの写真を選び,「これとこれ,似てない?」「何かな,これ?」と言葉を投げかけ,それらの共通点を言ってもらいましょう.
そうすると,別のいくつかでも,別の共通点を見つけることができます.

振り分ける

いくつか共通点が見かったら,画像をグループ化していきましょう.
PCで,活用したいのは,「フォルダ」です.ひとつ作って,フォルダ名を変え,共通する画像を,そこへコピーします.名前の変更など,いくつかは大人の手が入らざるを得ませんが,できるだけお子さんが操作するようにしたいところです.
「共通点」には,例えば次のものがあります.

  • 数×数
  • 数量×数量
  • 単価×数量,数量×単価
  • ×数(「×」の左には何もない)
  • 数×(「×」の右には何もない)
  • 名前×数量
  • 名前×名前
  • 寸法(2次元,3次元)

とはいえ,調査してこれらすべてが見つかるわけではないし,ここにない共通点も,発見できるかもしれません.
フォルダの中の画像を見ていって,振り分けがきちんとできているか,間違いがないかを確かめましょう.ときには,さらに細かく分けることができるかもしれません.そういうときは,フォルダの中に,フォルダを作って,そこへ移動させましょう.
「かけ算」の観点では,「数量×数量」「単価×数量」「数量×単価」について,それらのかけ算でどんな数量になるか(単位にも注意して)も,見ていきましょう.

反例

家の内外のかけ算を探していると,「数量×数量」には次の特徴があることに,気づくと思います.

  • 「×」の左の数量の単位と,かけ算の結果となる総量の単位が,同じになります.
  • 「×」の右の数量の単位は,かけ算の結果となる総量の単位に,現れません.


これは,数量表記の一つの慣例とみてよさそうです.小学校の算数では,「(24枚)2枚×12包」のところは「2×12=24」と書き,式に単位をつけませんが,それでも,2と24は「枚(まい)」で,12の単位の「包」は,かけ算において無視されます.
この逆になっているものも,撮った写真の中にあればいいのですが,もしかしたら見当たらないかもしれません.
そうだととすると,ここでも,大人の出番です.こちらでかつて,実際に逆になっている事例を見つけているので,見せて「120枚」「2色×60枚」を指し,「これはどうかな?」と言ってあげてください.

こういった例を,数学では「反例」といいます.安易な一般化をさせないよう,注意したいものです.

まとめる

自由研究の結果を,1冊にまとめましょう.
パソコンが堪能なお子さんなら,編集ソフトを使ってもいいのですが,とてもとても,というのでしたら,まとめるのは紙に手書きして,事例だけをプリンタから打ち出すのでも,いいと思います.
実施したこと,分類の結果,思ったことを書かせましょう.
結果では,振り分けた名前と,それに何枚の写真があるかを盛り込みましょう.定量情報を明記することは,この種の「研究」では大事なことです.総枚数も,さらに言えばデータ量(バイトサイズ)も,ほしいところです.
撮影したすべての写真を打ち出すのは,おすすめしません.代表的なものに限るか,サムネイル画像にしましょう.画像編集ソフトを活用して,「×」周辺だけを取り出した画像を作ってみるのも,面白い経験です.

この自由研究の効果

あなたとお子さんとの二人三脚となるこの自由研究には,いくつかの効果が期待できます.
まずは算数と日常とのリンクです.身近なところに「×」そしてかけ算があることを知り,数量などの表現方法を学ぶことができます.
デジカメで写真を撮っていく中でも,学べるのが多いと思います.ぶれないように撮影する方法,何を撮ってはいけないかといったマナーが,その典型です.人間の目で見ているものと,撮影写真との違いを,知る経験にもなります.
多数の情報に対し,「いろいろある」で終わらせず,何らかの共通点や規則性で「分類する」ことの重要性を理解するきっかけにもなります.
とはいうものの,金額においては,「単価×個数」も「個数×単価」もあるので,かけ算ではかける順序はどちらでもよいことを知ることにもつながります.これは一般の数量の表記まで拡張することができます.「いくつ分×一つ分の大きさ」という,小学校で学ぶのと反対の式も,しっかり探せば見つかります.
この事実は,数量を多様な観点で見る際に活用できます.

*1:日用品の袋や箱で,すぐ見つかると思いますが,もしどうしてもなければ,http://f.hatena.ne.jp/takehikoMultiply/から画像を選んで見せ,「こんなのがあるんだ.我が家の中でも,さがしてみよう」としていただければ幸いです.