かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

二重数直線〜2012年アメリカ,1980年日本


Katie Tatumによる1年前に公開された動画です.途中に「フィート」「オンス」が出てくるので,おそらくアメリカでしょう.
4つの文章題を取り上げ,解き方を解説しています.問題出現の分秒,英文による問題,私訳を以下に記します.

  • 1問目[0:23]
    • There are 4 apples on each plate. If there are six plates, how many apples are there together?
    • それぞれの皿に4個ずつりんごがあります.皿が6枚あるなら,りんごは全部で何個ありますか.
  • 2問目[3:12]
    • 1 meter of wire weighs 6.7 grams. How much will 8.7 meters of the same wire weigh?
    • 1メートルの針金は6.7グラムの重さです.同じ針金が8.7メートルあるとき,何グラムになりますか.
  • 3問目[5:07]
    • There are 24 students in a classroom and six large tables. How many children should be seated at each table if there must be the same number of children at each table?
    • 教室に24人の生徒と,6つの大きなテーブルがあります.どのテーブルにも同じ人数の生徒が席につくとき,それぞれのテーブルには何人が座りますか.
  • 4問目[7:15]
    • 1 foot of wire weighs 5.75 ounces. How long will it be if it weighs 62 ounces?
    • 1フィートの針金は5.75オンスの重さです.62オンスあるとき,長さを求めなさい.

1問目と2問目は,かけ算です.3問目はわり算のうち等分除または割合の第3用法,4問目は包含除または割合の第1用法です.第1用法があとなのは,2つの量にまたがった,乗除の関係を必要とするからです(それに対し3問目までは,数直線の横方向,すなわち同一の量における乗除の関係で求められます).これは,もう一つのブログで書いた以下の内容を,海外でも裏付けるものとなっています.

それから,『4マス関係表で解く文章題』では,B×P=Aのタイプ,A÷P=Bのタイプ,A÷B=Pのタイプの順に問題セットがあって,解きながら習熟を図っていきます.《算数解説》*1では,B×P=A,P=A÷B,B=A÷Pの順に記載があり,「多くの児童にとっては,P=A÷Bの場合に比べ,B=A÷Pのほうがとらえにくい」としています.言ってみれば田中方式は,難しいと思われているほうから先に手をつけ,それでもうまくいくんだよと,提案しているわけです.
乗法・除法の関係や順番を,表にしてみます.

《算数解説》 『4マス』 三用法 整数のとき
B×P=A さいしょ さいしょ 第2用法 乗法
A÷B=P つぎ さいご 第1用法 包含除
A÷P=B さいご つぎ 第3用法 等分除
4マス関係表

Katieの解説は,動画撮影が前提とはいえ,「実演」の要素を多数見ることができ,楽しい内容でした.2問目や4問目は,計算が少し煩雑ですが,"apologize"を連呼するなどしながらカンニングペーパーを参照し,「58.29g」「10.78ft」と書いています.要は計算そのものは省略し,関係の把握に主眼を置いているわけです.
1問目の図解では,矢印に「×6」を添えていて,一般化した「□×△」([3:04]ごろ)の△がこの6に対応します.アメリカではそのりんごの問題,6×4になるんじゃないのかなあと思って見ていったのですが,「単位×割合」という式に関しては,日本と同じといったところです*2
わり算の式も,「実演」を物語っていました.第3問で[6:13]ごろですが,赤ペンで「÷」,そしてその左に「6」を書いています.右から左への矢印なので,その流れということなのでしょう.「6÷」と書かれていても,「6わる」ではなく「わる6」を表しているのです.


二重数直線は,その名称こそないものの,昭和55年(1980年)の,文部省による冊子にも記載がありました.

指導計画の作成と低学年の指導〈小学校算数指導資料〉 (1980年)

指導計画の作成と低学年の指導〈小学校算数指導資料〉 (1980年)

図は次のとおり(p.138).

そのほか,「二重」ではありませんが,1本の数直線の上と下に異なる数量を記して,小数のかけ算を視覚化しているものは,昭和53年(1978年)5月発行の『小学校指導書 算数編』に入っていました.


この記事は,学習指導要領解説を批判的に読む - わさっきの一部内容を掘り下げたものです.問題意識をもって『小学校学習指導要領解説 算数編』を丹念に読み込んでらっしゃる@さんにコールしておきます.

*1:引用注:『小学校学習指導要領解説 算数編』のPDF版.

*2:割合にあたるものを×の右に書くのは,Vergnaud (1983)でも採用されています.関連:かける数が1あたり