かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

6年比例の文章題について

 かけ算の順序論争の高学年版と見ることができます。言葉にしますと:

「買ってきた針金の重さは810gです。これと同じ針金3mの重さをはかると、54gでした。買ってきた針金の長さは何mですか。」という問題に対し,式に「810÷54=15 15×3=45」,答えに「45m」と書いたら,式のうち「15×3=45」は減点され,正しい式は「3×15=45」であるという。
「高速道路を、ある自動車は、16分間で20km走りました。同じ速さで走ると、この自動車は2時間で何km走りますか。」という問題に対し,式に「120÷16=7.5 7.5×20=120」,答えに「150km」と書くと,式のうち「7.5×20=150」は減点され,正しい式は「20×7.5=150」であるという。

 なぜ不正解なのかというと,https://twitter.com/sekibunnteisuu/status/1070175830230261760に書かれた「最初の問題だと、810÷54で15倍と出して、3mの15倍だから、15×3じゃなくて、3×15とすべき、という話でしょう。」が明快です。以下も,aのb倍はa×b(b×aは不正解)を前提としています。最初のツイートの画像から,対象学年を読み取ることはできませんが,小学6年の知識で解くものとします。
 かけ算・わり算の式にするにあたり,針金の長さと重さ,同じ速さで走る自動車の時間と道のりが,それぞれ比例関係であることに,注意をしないといけません。そして表を見ると,「1」もしくは比例定数にあたる数値がないため,複数の演算を要することが想定されます。
 なのですが,2問とも「わり算をしてかけ算をする」という手順で求められるのは,単調に感じました。表を活用しているようにも,感じられません。
 比例関係に基づいて計算をすること,そして同種の「何倍」のほか異種の量の間の「何倍」も考えられることに注意すると,例えば次のような出題にすることができます。

[4] 買ってきた針金の重さは810gです。これと同じ針金3mの重さをはかると,54gでした。買ってきた針金の長さを求めます。
(1) 下の表をうめなさい。?には何も書かなくてよい。
f:id:takehikoMultiply:20181212055126j:plain

(2) 重さが54gから810gになると,何倍になりますか。式と答えを書きなさい。

(3) 次の文章の□に当てはまる言葉を答えなさい。

針金の長さと重さは□します。針金の長さが2倍,3倍,...になれば,それにともなって重さも2倍,3倍,...になります。

(4) これまでの結果を使って,810gの針金の長さを求める式と答えを書きなさい。

 高速道路の問題は,計算しやすいよう,少し数値を変更しています。

[5] 高速道路を,ある自動車は,16分間で24km走りました。同じ速さで走ると,この自動車は2時間で何km走るかを求めます。
(1) 下の表をうめなさい。?には何も書かなくてよい。
f:id:takehikoMultiply:20181212055140j:plain

(2) 数が16から24になると,何倍になりますか。式と答えを書きなさい。

(3) 次の文章の□と◇に当てはまる言葉をそれぞれ答えなさい。

同じ速さで走るとき,時間と道のりは□します。対応する時間と道のりの◇は一定です。

(4) これまでの結果を使って,2時間で何km走るかを求める式と答えを書きなさい。

 このように書いてみたとき,「2時間で何km走りますか」の問題は,針金と同じ考え方,もしくは「16分で24kmなら,分速1.5km」と暗算することで,式として1.5×120=180でもよい,と言っていいでしょうか。
 上記の問題案は,そうではないよという意図を入れています。表に値を書き,「?倍」を添えることで,基準となる量は何で,それを何倍すれば,(同種または異種の)求めたい量になるかが,視覚化できるというわけです。
 いくつか関連情報を書いておきます。「1」または比例定数がない状態での,2×2の比例関係については,http://hdl.handle.net/10513/2146からPDFが無料で読める文献に,授業事例が紹介されています。高速道路の問題案のように,表の上下の関係で「~倍」を考えることは,『田中博史の算数授業のつくり方』*1のp.145に言及されているほか,昨年の小学校学習指導要領解説算数編に収録された4年の「段数×4=周りの長さ」*2や,Vergnaudによる乗法構造の一つ*3も,密接に関連します.中学数学になると,穴埋め問題を通じて3(n+1)が「n+1の3倍」は正解,「3のn+1倍」は間違いというのを,平成23年全国学力・学習状況調査として実施を予定していた調査問題の数学B大問2*4より見ることができます。