かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

4×2だと鼻の穴が4個

数学的活動を通した深い学びのつくり方 (こうぶんエデュ)

数学的活動を通した深い学びのつくり方 (こうぶんエデュ)

 ジャケットの裏のプロフィールによると,筑波大学附属小学校教諭の盛山隆雄氏は編著者で,「盛算研」(せいさんけん)の代表者は,島根大学教育学部附属教育支援センター准教授の田中径久氏とのこと。おわりに(p.126)には,「盛算研のメンバーが書いた原稿は,盛算先生が1本1本丁寧に読んで,具体的に価値づけてくださっています。」ともあります。
 本文を読んでいくと,かけ算の順序を問う授業がありました。「ブタのはなのあなは何こかな?」と題し,pp.40-43に,授業展開,イラストによる板書,授業者の振り返りと盛山氏のコメントが書かれています。執筆者は前述の田中氏です。
 授業の展開を書いていきます。教師は事前に,ブタの耳・しっぽ・鼻の写真と,問題文を書いた短冊を用意しておき,授業ではまず,3つの写真を順に黒板に掲示し,子どもから「ブタだ」という反応を得ます。
 短冊は次の3つです。この順に,黒板に掲示します。

ブタが4ひきいます。

ブタのはなのあなは,2こです。

ブタのはなのあなは,ぜんぶで何こでしょう。

 自力解決の時間をとり,先生が子どもを指名すると,ある子は「4×2=8」の式を,別の子は「2×4=8」の式を答えます。
 子どもたちのやりとりのあと,「じゃあ,問題文に書いてあることを図で表してみようか」と先生は持ちかけます。子どもを指名して黒板に絵をかかせ,「ブタの鼻の穴は2個」,そして「ブタは4匹」という情報から,「2×4=8の式がいいんじゃないかな」という反応を引き出します。2+2+2+2=8という,累加の式を言う子もいます。
 次に「4×2=8」の式についても,黒板に絵をかかせます。「こんなブタになるよ」と言い,「おかしいよ」「鼻の穴が2個のブタが4匹分だね」「やっぱり正しい式は,2×4=8になるんだね」という,子どもたちの発言を並べて,問題解決を終えています。
 類題(いわゆる適用題。本文では「3人がりんごを5こずつもっています。りんごはぜんぶで何こでしょう。」)の前に,先生が,問題文の短冊を並べ替えて,次のようにします。

ブタのはなのあなは,2こです。

ブタが4ひきいます。

ブタのはなのあなは,ぜんぶで何こでしょう。

 これに対する子どもの反応は,「この問題だったら,2×4=8ってすぐ分かるよ。」「最初の問題文は,意地悪だったね。」です。
 他の情報源との照合を試みます。内容面で関連し,批判を浴びた授業事例があります。

 とはいえ細部に違いも見られます。まずタコの授業には「足が2本のタコを8匹、パネルに貼っていった」とあって,かけられる数とかける数を反対に書いたときの状況を表す図を,先生が用意していたのに対し,今回の授業では子どもに絵をかかせています。
 もう一つ違いがあって,上で「子どもたちのやりとり」と書いた中に,先生が,「4×2じゃなきゃいけないという人」「2×4じゃなきゃいけないという人」「どちらでもいいという人」ごとに手を挙げさせ,それぞれの理由を言ってもらっています。この段階で「どちらでもいい」という意見を認めているのは,意図的なものと思われます。
 鼻の穴が2つのブタが4匹と,鼻の穴が4つのブタが2匹の絵を黒板にかかせてからは,「どっちでもいい」という意見が出てきません。それでも,どっちでもいいんじゃないのという子どもが,もし,いたときには,他の授業例(シュスター先生の授業〜かけ算の順序と交換法則 - わさっきhb)にあった「2つの式が違った場面を表すのに使えないって言うのですか?」を尋ねることになるのかな,とも思います。
 2つの式を並べて,それから,どっちがいい(場面を表した式である)かを判断するのに図示を用いるのは,『算数科 授業づくりの基礎・基本』に先例があります。板書例を含む同様の授業としては,『アイディアシートでうまくいく! 算数科問題解決授業スタンダード』を連想しました。
 タイトル(p.40)のすぐ下,授業のねらいには「被乗数と乗数の順序について,図を用いて表現することを通して,かけ算の意味について考える。」とありますが,このうち「被乗数と乗数の順序」という表記は,2017年6月に最初のバージョンが文部科学省サイトで公開された『小学校学習指導要領解説算数』に入っています。そのもととなる文章や,「数値順に立式すると間違える」(p.40, 盛山からのコメント)事例については,小学校学習指導要領解説算数編と合わせて読みたい,2010年・2011年の文献にて整理を試みてきました。


 盛山氏による「はじめに」(p.2)は,「実践的な研究をする場合は,仲間がいた方がいいと考えています。なぜなら,文献から情報を得るのではなく,子どもたちを相手にした数多くの実践から情報(データ)を集める必要があるからです。」という段落から始まっています。
 当ブログでは,書籍・論文のほか,教科書や問題集,そして公開されたテストを横断的に見ていきながら,先生方は何を身につけさせたいのか,子どもたちは何を学び理解の変容をしているのかを明らかにする,という形で今後も「実践的な研究」を進めていきます。