かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

算数で連続量 (2019.05)

目次

1. 分離量と連続量
2. 数えられる連続量
3. 出題例1: 対角線の長さが8cm
4. 出題例2: 7.5mのロープ

1. 分離量と連続量

 小学校の算数だと多くの場合,整数が分離量に,小数と分数が連続量に対応づけられます。
 本を見ていきます。

小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)

小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)

(1) 分離量(離散量)と連続量
 量は自然数(あるいは整数)と対応付けられる場合に「分離量」(または離散量)、実数と対応付けられる場合に「連続量」と呼ばれる。従来の科学での多くの量は連続量であるが、その近似値である測定値は離散量であり、近年コンピュータの発達とともに離散量の取り扱いの重要性が増している。
 個数や人数など0を含む整数で表現できるものは「分離量」であり、長さ、時間、重さ、面積などは「連続量」である。量は正の実数(小学校においては正の有理数)に対応させることが可能であり、これによって大小・相等の比較ができる。
 小学校算数科「量と測定」領域においては、長さ、面積、体積、時間、重さ、角の大きさ、速さなどの連続量、及び、メートル法の単位の仕組みを学習する。
(p.136)

 簡潔で,かつ小学校の先生向けの記述になっています。
 教師でない者が読む際には,「量と測定」という領域に,注意を払う必要があります。これまで(2019年度まで)の学習指導要領の小学校算数科では,「A 数と計算」「B 量と測定」「C 図形」「数量関係」という4つの領域で構成されていましたが,2017年に公開され,2020年度より適用となる学習指導要領の小学校算数科では,「A 数と計算」「B 図形」「C 測定(第1学年から第3学年まで)」「C 変化と関係(第4学年から第6学年まで)」「D データの活用」という領域に変わっています。量と測定の領域で,高学年で学習している内容,例えばキロ・ミリといった単位の仕組みは,今後,第3学年で学習することとなります。
 上の引用に限らず,「分離量」または「離散量」に相対する量は,「連続量」と呼ばれます。「分離」「離散」ともに,学習指導要領にもその解説にも出現しません.「連続」は,いくつか見かけますが,大部分は上記とは異なる使われ方です
 ただし次期解説には「小学校算数科においては,第6学年にドットプロットを入れ,連続データでも数値データに目を向けて分布をみることができるようにし」と記し,一つの段落に「連続データ」が3回出現しています。「連続データ」の定義や対象は明記されていませんが,連続量の測定値(データを数値化したもの)と思われます。
 算数教育では「分離量」のほうが「離散量」よりもよく使われているので,本記事でもこちらを採用します。ただし,「分離量」とは言うけれども「分離値」「分離的」「分離化」とは書かれず,「離散値」「離散的」「離散化」となる,という点にも注意をしておきたいところです。
 また別の本を見ます。

算数教育指導用語辞典

算数教育指導用語辞典

[1] 分離量
 みかんの個数,児童の人数などのように,それを細かく分けていくと,ある単位以上に細かく分割できない,おのずから最小単位が決まってくる。このように最小単位の決まっている量を分離量(離散量)という。
 したがって,その分離量が幾つあるかを調べれば,その量の大きさが決まる。その量の大きさの決定は「数える」ことによってなされる。このことから,分離量は物の個数を表す量のことであり,自然数(1,2,3,…)で表される。
(略)
[2] 連続量
 コップの中の水は,一つにつながっており,いくら細かく分割しても水がある状態に変わりがないし,しかも分割したものを一つのコップに入れて合わせると元どおりのつながった水になり,全体の体積に変化を生じない。このような量は,個体をなしておらず,数えることのできないもので,連続量という。
 連続量は,分離量と違って最小単位がおのずから決まっていない。したがって,連続量の大きさは,人為的に単位を決めて,測定という操作によって,その幾つ分であるかを調べなければならない。
 小数や分数は,その連続量の測定においてはしたの部分の処理に伴って生じた数とも考えられる。したがって,小数・分数,さらに実数の概念形成はこの連続量が基礎となる。小学校では実数のうちの小数や分数で連続量を表す。
(p.84)

 ここで目を引くのは,「最小単位」です。最小単位が決まっているなら分離量,そうでないなら連続量,というわけです。
 このあたりのことを,数学的に論じているのは,1970年代の書籍です。

量の世界―構造主義的分析 (1975年) (教育文庫〈8〉)

量の世界―構造主義的分析 (1975年) (教育文庫〈8〉)

 要約すると次のとおりです(pp.32-43)。(1) 量の全体Gがアルキメデス的全順序群をなす。(2) Gの正の要素の中で最小元があれば,Gは整数群Zと同型である(すなわち分離量)。(3) そのような最小元がなければ,Gは実数群Rの中に忠実に埋め込まれる(すなわち連続量)。ここでアルキメデス的全順序群には,「任意の量aおよびc(ともにGの要素)に対して,a<ncとなる自然数nが存在する」という,アルキメデスの公理(の量への適用)が含まれています。


 注意したい量の例を2種類,取り上げておきます。
 一つは,小数・分数で表されるものの中にも,離散量とみなせる量がある点です。
 例えば円形のピザを等しい大きさに切ることにします。いくつに分けるかが決まっていないのなら,最小単位がないので連続量,ですが,3つに切っていくつかを持てば,それが何切れあるかというのは明らかに分離量ですし,合わせると1枚のピザのいくつ分(何倍)になるかというのも,最小単位があるわけですから,分離量とみなせるのです。「3つ」を他の数にかえても同じです。
 小数で表すものだと,通貨が思いつきます。日本の場合は,1円単位が当たり前です。もちろん分離量です。ドルやユーロでは,レシートを見れば分かるように,1ドルまたは1ユーロを表示上の単位として,それ未満の値は「セント」となります。1セント未満は無視されます。日常生活の支払い,お勘定という点で見れば,最小単位は1セント,すなわち0.01ドルまたはユーロ,となるわけです。これは,小数を含んでも分離量になる事例です。
 どうやら「金額」は,計算で一時的に分数だとか循環小数だとかが必要になるとしても,最終的には分離量で表すことが想定されている,と考えるのがよさそうです。
 反対に,連続量になるものを取り上げましょう.
 人数の数値化に関して,ヒトを切って分けるわけにもいきません。では,「人」という単位で表されるものは,常に分離量なのかというと,実際には連続量になり得えます。もちろん,小学校の算数の範囲でです。具体的には「平均値」です。
 あるクラスで,2月4日月曜日は2人休み,5日火曜日は3人休み,…と欠席人数を数え,1週間でも1か月でも1年でもいいのですが,平均の欠席者数を求めたら,おそらくは整数値になってくれません。その際,わる数(または分母)にあたる出席日数は,固定ではないため,最小単位がないことになります。といったわけで,「人」という単位であっても,またどのような分離量をもとにしても,平均値を求めることで,連続量になり得るのです。
 『算数教育指導用語辞典』では,この取り扱いについて,次のように書いています(p.254)。

 回数が等しくない場合は,平均による比較となる。この場合,前出の例のように,17÷5=3.4(人),20÷6=3.3(人)などと,人数が小数で表されることに疑問を覚える児童がでてくるであろう。人数を数えるときは整数を用いるが,人数の平均を表すには,3.4人のように小数で表すことがあることを十分に理解させておくことが必要である。これにより,平均値を比較したり,計算に用いたりできるわけである。


 小学校で学習する,かけ算・わり算を,整数・小数・分数で分類してみます。

  • 整数×整数
  • 整数÷整数
  • 小数×整数
  • 小数÷整数
  • 整数または小数×小数
  • 整数または小数÷小数
  • 分数×整数
  • 分数÷整数
  • 整数または分数×分数
  • 整数または分数÷分数

 実際にはもう少し,配慮しておきたいこともあります。「整数÷整数」は,割り切れる場合もありますが,あまりが出る場合もありますし,4年になれば「整数を整数で割って商が小数になる場合」,すなわち割り進みも学習します。ここではあまりは生じないものとします。連続量を含む,あまりのあるわり算の事例は,あとで紹介します。
 さて上記の計算を,分離量・連続量という言葉で書き直すと,次のようになります。

  • 乗法(かけ算)
    • 分離量×分離量=分離量
    • 連続量×分離量=連続量
    • 分離量×連続量=分離量? 連続量?
    • 連続量×連続量=連続量
  • 除法(わり算)
    • 分離量÷分離量=分離量
    • 分離量÷分離量=連続量
    • 連続量÷分離量=連続量
    • 分離量÷連続量=分離量? 連続量?
    • 連続量÷連続量=分離量
    • 連続量÷連続量=連続量

 ここで考える「量」「分離量」「連続量」は,数学的には集合で表現できます.このとき「分離量×分離量=分離量」というのは,2つの集合(分離量)M1とM2に対して,{a×b|a∈M1, b∈M2}もまた分離量になることを意味します.他の言葉の式も同様です。なお,集合である「量」と,その要素となる「値」は異なります.\sqrt{2}\times\frac{1}{\sqrt{2}}=1という式で,無理数×無理数有理数になり得るのを確認できますが,この式だけでは,連続量×連続量=分離量という関係があるのを示したことにはなりません.
 かけ算の式よりも,わり算の式のほうが多いのには,理由があります.「分離量÷分離量=連続量」と「連続量÷連続量=分離量」が,小学校の算数の範囲で,考えられるからです.前者の例は,先ほど書いた,平均を求める場合です.後者は,「12.6リットルのミカンジュースがあるとき,4.2リットルずつで,何人に与えられるか?」といった出題例が該当します。このミカンジュースの問題のオリジナルは以下の文献で,和訳したものはかけ算・わり算でモデル化される場面 - わさっきhbにあります。「等しい量」という場面での包含除(全体の量÷1つ分の量=幾つ分)です。

  • Greer, B.: "Multiplication and Division as Models of Situations", Handbook of Research on Mathematics Teaching and Learning, National Council of Teachers of Mathematics, pp.276-295 (1992). isbn:1593115989

 右辺を「分離量? 連続量?」と書いたかけ算・わり算の関係式について,事例が思いつくのは,ともに右辺が分離量になるものです。「金額」に関するものです。

  • (分離量×連続量=分離量)1mのねだんが273円のリボンを0.85m買うと代金はいくらか。
  • (分離量÷連続量=分離量)リボンを0.85m買うと232円でした。このリボン1mのねだんはいくらでしょう。

 かけ算のほうは簡単で,273×0.85=232.05ですので,小数は切り捨てて,答えは232円です。
 わり算も,計算のほうは232÷0.85=272.9…と,さほど難しくありません。ここから「リボン1mのねだん」を出すのは,かけ算よりも少し手間を要します。
 まず小数を切り捨てて,「272円」が答えになるでしょうか? 検算しますと,1mのねだんが272円のリボンを0.85m買うと,代金は,272×0.85=231.2としてから小数を切り捨てますので,231円。なので,「272円」は答えにならないわけです。
 1円増やして,リボン1mのねだんを「273円」とすると…これは,かけ算の件から,題意を満たします。
 ここで終わらず,もう1円増やしてみます。リボン1mのねだんを「274円」とすると,どうでしょうか? 1mのねだんが274円のリボンを0.85m買うと,代金は,274×0.85=232.9としてから小数を切り捨てますので,232円です。ということで,274円も答えとなるのです。(ちなみに単価をもう1円アップさせて「275円」にすると,これはさすがにオーバーします。)
 なので,わり算の問題の答えは「273円,274円」となります。ここのカンマは,中学の2次方程式の答えで「x=-1,2」などと書くのと同様のものです。
 このように,式は単純なわり算でも,場面に即して答えとなる値が複数出てくるのは,ここでは「切り捨て」,一般には「離散化」が入ってくるからです。
 次に,「分離量×連続量=連続量」「分離量÷連続量=連続量」になるような事例があるかですが…わり算すなわち「分離量÷連続量=連続量」のほうは,考えなくてもよさそうに思っています。というのも,この言葉の式を変形すると,「連続量×連続量=分離量」であり,この関係を満たす現実的なシチュエーションが思いつかないからです。
 ただし,「分離量×連続量=連続量」も「分離量÷連続量=連続量」,その分離量を「数えられる連続量」と見なせば,算数教育で意味のある場面が作れるかもしれません。


 ここまでの内容は,分離量と連続量,かけ算とわり算 - わさっきhbをベースに,次期学習指導要領をはじめ,その後に得た情報を書き加えたものです。「整数」「小数」「分数」で構成した,かけ算・わり算の式については,小数・分数のかけ算を何年で学習するかも合わせてご覧ください。

2. 数えられる連続量

 「分離量」と「連続量」という2つの量の,中間的な役割を果たす量も,知られています。以下の文献では,「Countable Continuous」と書かれており,訳すなら「数えられる連続量」です。

  • Behr, J. M., Lesh, R., Post, T. R., and Silver, E. A.: "Rational-Number Concepts", Acquisition of Mathematics Concepts and Processes, Academic Press, pp.91-126 (1983). isbn:012444220X

 この文献のp.101に,算数で使用される場面と,3つの量とが,クロス表として表現されています。

 表の各行,「Discrete」は分離量,またはそれを数に対応させたものです。「Continuous」は連続量です。「Countable Continuous」は,数えられる連続量となります。例えば,5mや5gは,数えられる連続量です。この値が,かける数となるような演算(かけ算)もまた,累加で計算ができます。
 国内の算数となると,『小学校学習指導要領解説算数編』を見ておきましょう。http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htmより,算数編の解説を読んでいくと,小数のかけ算を扱うより前,第3学年に,「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」というのが例示さています。この25mが,数えられる連続量です。したがって累加で計算したり,1mを25個分かいた図を作ったりできるわけですが,精密な図にしなくても,場面を認識でき,計算で求めることが期待されています。
 「1メートルの長さが80円の布を2.5メートル買ったときの代金が何円になるか」となったとき,長さは「数えられる連続量」でなくなり,連続量として扱うような学習となっています。
 国内では,以下の文献で,場面と使用される量のクロス表(マトリックス)作成がなされています。

 前述の文献(Behrら, 1983)を引用しています。表はp.6の「図6」です。

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 そこでは「Countable Continuous」に「可算の連続」を割り当てています。「チップ」「面積図」「長方形の紙」「テープ図」「1Lマス」「直線」「数直線」「二重数直線」は,Behrらの図にない特色となっています。


 「Countable Continuous」は,メインブログでも記載してきましたが,より具体的に紹介した記事は当ブログの2.3×5となります。

出題例1: 対角線の長さが8cm

 現在の算数で,無理数(連続量に含まれ得る数)の存在にも注意しながら,どのようにかけ算の意味を決めたり活用したりするか,と意識を切り替えると,思い浮かぶ論文が1つ,本が1冊あります。論文は次のものです。

 ただしそこでは,かけ算の意味をこのようにすれば,無理数にも適用できる,と主張しているわけではありません。「\pi\times\sqrt2」という,かけ算の式は,アメリカの雑誌における論争を取り上げる中で出現します。
 有理数を対象とした,かけ算の意味づけは,次のとおりです(p.76)。

 b) 小数・分数(有理数)の場合に,どんな意味づけをするか.
 累加の考えの問題点は,周知のように,整数の場合でなく,乗数が有理数の際に起こる.わが国の場合は,累加という考えをそのまま用いないで,次のような意味に一般化(拡張)する方法をとっている.すなわち,
 A×Bについて,A,Bを次の意味に対応させる.下の図では,A×Bは,Bの目盛に対応する大きさをよみとることに当たる.
  A……基準(単位)とする大きさ
  B……Aを単位とした測定数(measure)
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 これは,割合の考えともいわれているが,A×BはAという単位量のスカラー倍(Bに比例して拡大縮小した大きさ)を表すという考えである.

 「Bの目盛に対応する大きさをよみとる」や「測定数」といった表記から,Bに無理数がくる(例えば測定数が\sqrt2になる)というのは,算数において非現実的だと言えます。ですが,そのことを取り入れた授業例が,次の本に収録されていました。

「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント)

「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント)

 4年の「面積の求め方」の単元です(pp.60-63)。4cm×8cmの長方形と,対角線の長さが8cmの正方形を横に並べ,先生は「どちらの面積が大きいですか」と問います。
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 子どもらが,正方形の一辺の長さを測ると,5.6cmと5.7cmの間です。
 mmに直せば,4年でも,面積が計算できます。56mmだと,56×56=3136㎟,57mmだと,57×57=3249㎟で,長方形の面積(3200㎟)は,その間になります。
これは意図的なもので,p.61には「実際は、1辺を4\sqrt2cmとしているため、5.656…cmである。」と,根号を含む表記も見られます。
 三角形やひし形の面積は,まだ学習していないものの,先生のヒントにより対角線の長さが8cmであることを子どもらは知ります。図形を切って貼って,1辺の長さが4cmの正方形を2つ作り,最終的に,面積は32㎠となることを,導いていました。
 この授業から,平方根無理数の概念を,子どもたちが学んだわけではありません。\sqrt2を取り入れ,定規できちんと測れない長さの図形を用意したのは,先生による「作為」です。その作為を乗り越え,面積を求めることができたという経験が,授業としては大事なところです。そして切り貼りしても面積は変わらないこと(量の保存性)や,1cm=10mmだけれど1㎠≠10㎟であることなど,小さなポイントも,見逃すわけにはいきません。


 ここまでの内容は,姑息手段の後半を取り出して見直しを図ったものです。

出題例2: 7.5mのロープ

 教科書に,わり算の式は同じでも,結果が異なるという,2つの文章題が載っていました。

 「小数×整数,小数÷整数」の単元の,最後の文章題(p.55)です。

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 問題文を文字にしておきます。

  • 7.5mのロープがあります。
    • (ア) 2等分すると,1本分の長さは何mになりますか。
    • (イ) 2mずつに切ると,2mのロープは何本できて,何mあまりますか。

 式を立てて求めるとなると,(ア)も(イ)も,「7.5÷2」です。
 しかしその後は異なります。(ア)では「7.5÷2=3.75」となって,「答え 3.75m」です。一方,(イ)は,「7.5÷2=3あまり1.5」で,「答え 3本できて1.5mあまる」となります。
 (ア)は等分除,(イ)は包含除の場面となります。連続量・分離量がどれにあたるかに注意しながら,表をつくりました。編集の都合上,(イ)であまりの長さは答えの対象外としています。

(ア) (イ)
問題文 7.5mのロープがあります。2等分すると,1本分の長さは何mになりますか。 7.5mのロープがあります。2mずつに切ると,2mのロープは何本できますか。
7.5÷2=3.75 7.5÷2=3あまり1.5
答え 3.75m 3本
わられる数 7.5m…連続量 7.5m…連続量
わる数 2つ…分離量 2m…連続量
3.75m…連続量 3本…分離量
あまり (生じない) 1.5m…連続量
連続量 わられる数,商 わられる数,わる数,あまり
分離量 わる数
除法の意味 等分除 包含除

 (ア)については,「わり進み」も行っています。実際,7.5÷2=3.75を求めるとなると,わられる数は\frac{1}{10}の位の数を持ち,わる数は整数ですが,商は\frac{1}{10}の位で収まらず,\frac{1}{100}の位を必要とします。このような,小数での「わり進み」は,画像の右上でヒントとして示されている,p.51に,15.6÷8を求める出題がありました。なお,現行および次期の学習指導要領では,第4学年の小数の乗法・除法に関連して,「整数を整数で割って商が小数になる場合も含めるものとする」が入っており,解説で「割り進む」という表記を見つけることができます。小数÷整数でのわり進みは,学習指導要領の範囲外と見なすこともできます。
 (ア)と(イ)はそれぞれ明らかに異なる操作であり,答えも異なる数量となっています。以下,これらを統一的に取り扱うための,数学的な枠組みを記しておきます。活用するのは,1970年代に出版された以下の2つの「量と数」の理論です。

 後者は前者を引用しています。関連文献は,数学者による「かけ算の順序」 - わさっきhbよりご覧ください。
 「7.5mのロープ」の件の形式化を試みます。Nagumo (1977)で与えられた,正の量の公理を満たす集合Qを考えます(有理数全体の集合として慣例的に用いられているQとは異なります)。「正の」は,いわゆる「ゼロ量」がQの要素ではないことを意味し,これにより,アルキメデス性(Qの要素となる量aより,量bのほうが大きくても,aを何回か足したらbより大きくなること)が保証されます。
 ロープの文章題に対応させるため,Qを,あらゆる長さの集合とします。「1m」も「2m」も「3.75m」も「7.5m」も属します。平たく言うと「“正の実数”メートル」*1は,すべて,Qの要素となります。
 次に,Qを対象とした演算として,加法,大小比較,それと正整数倍が利用できるものとします。a∈Q,そしてnを正整数としたとき,aのn倍をnaと表記します(「an」「n×a」「a×n」とはしません)。結局のところ,この「量と数」の理論に基づいて考えることで,被乗数と乗数の区別が,当然のものとなります。
 (ア)について,「7.5m」と「2」の数量を変数に置き換えて,(無限の個別問題を含む)問題として記述すると,「a∈Qと正整数nが与えられたとき,nb=aを満たすb∈Qを求めよ」と表現できます。このときa=7.5m,n=2を割り当てると,1つの個別問題となり,その場合にはb=3.75mが,求めるべきものとなります。
 ここでもし,「a∈Qと正整数nが与えられたとき,na=bを満たすb∈Qを求めよ」だったら,単純なかけ算(量の正整数倍)です。しかし(ア)の定式化とは,aとbが反対になっています。算数では,「倍(2倍,3倍,…)」と「等分除(2等分,3等分,…)」がちょうど反対の操作となることと,関連付けることができます。
 次に,上の表で包含除に対応付けた(イ)について,同様に問題として表現するなら,「a,b∈Qが与えられたとき,na≦bを満たす最大の正整数nを求めよ」となります。a=2m,b=7.5mを割り当てると,n=3が得られます。またそのようなnが定まったら,na=bであれば余りはなく,そうでなければna+c=bを満たすc∈Qが余りとなります。a=2m,b=7.5mなら,c=1.5mです。なお「na≦bを満たす最大の正整数n」は,累減*2を表したものとなります。
 「“正の実数”メートル」に関して,例えば出題する側が5\sqrt2mのロープ(7mよりも,少し長くなります)を用意して,「2等分せよ」または「2mずつに切れ」と指示しても,分けることができます。「7本のバットを2等分せよ」とするとあまりが出てしまう(1つだけになると,さらに分けることができないのであれば,「バット」は他の物に替えられます)のと対比すると,冒頭の問題は「連続量の自然数倍」でモデル化できる話となります。
 「連続量の自然数倍」は,Greer (1992)の「等しい量」のことです。この文献では,累加でモデル化される場面の重要な特徴として,かける数が整数でなければならないことを指摘しています。かけられる数に制約はありません。「連続量×分離量=連続量」と表すことができ,これを変形して「連続量÷分離量=連続量」となるのが(ア),「連続量÷連続量=分離量」となるのが(イ)ということです。


 ここまでの内容は,7.5÷2は?によります。

*1:小学校算数の範囲で,計算で答えを求めるというのであれば,「“正の有理数”メートル」としても差し支えありません。

*2:https://takehikom.hateblo.jp/entry/20160522/1463842800で紹介したとおり,昭和初期の書籍に「包含除の本質は累減にあると見ることが出来る.」が書かれています。