同じ対象に関する教科書ごとの取り上げ方の違いを知るため,「速さ」を調査しました.これまでは,6年でしたが,新しい学習指導要領では5年の学習となります.
教科書展示会にて,「平成31年3月5日検定済」で来年度より使用される5年の算数教科書(教科書センター用見本)に目を通したところ,教科書会社(学校図書,東京書籍,日本文教出版,教育出版,啓林館,大日本図書;閲覧順)のあいだで,共通するところと共通しないところがありました。共通点は以下のとおりです。
- 速さの導入に使われるのは,3者*1が走ったとき*2の,道のりと時間です。
- その次に,「単位時間当たりに移動する長さ(道のり)」のほうを速さとして採用し,「速さ=道のり÷時間」を明記しています。
- 速さの言葉の式*6の直後に,時速・分速・秒速を定義しています。
- 「道のり=速さ×時間」を導く直前の文章題には,二重数直線が使われています。どの教科書も,速さのところで複数回,二重数直線を使用しています。
- 「みはじ」「はじき」の図を載せている教科書は,ありませんでした。
共通しない点は以下のとおりです。
- 「単位量あたりの大きさ」の単元の後半に「速さ」を入れている教科書と,「単位量あたりの大きさ」と「速さ」を別々の単元にしている教科書に分かれました。
- 速さの言葉の式を導く際には,すべての教科書が二重数直線を用いているわけではありませんでした。
- 「時間=道のり÷速さ」は,この言葉の式を明示している教科書と,していない教科書がありました。していなくても,時間を求める文章題は載っていました。
- 音速は,3つの教科書が取り上げていました。値(秒速)は「300m」「331m」「340m」と,ばらばらでした。
- 走る速さだけでなく,仕事の速さの問題を入れている教科書が複数,ありました。
- 1つの二重数直線に「速さ」「道のり」「時間」を吹き出しで添え,3つの関係を図で示している教科書が複数,ありました*7。
以下は書き留めたメモです。教科書そのものの記載と,教科書に書かれていない補足・所感が,混ざっています。
- 学校図書 みんなと学ぶ小学校算数 5年上
- ⑤単位量あたりの大きさ(1) 1つ分に表して比べる方法を考えよう p.50から
- ⑧単位量あたりの大きさ(2) どちらが速いか比べ方や表し方を考えよう p.98から
- p.98: 「リニアモーターカーって速いの?」「東京から名古屋まで約40分で着くらしいよ。」速さの数値化は見当たらず
- p.99: 「右の表は,それぞれの家から学校までの道のりと時間を表したものです。だれがいちばん歩くのが速いか調べましょう。」こうじ・720m・12分,みゆき・660m・12分,ゆうご・660m・10分
- p.100: 「速さは,単位時間あたりに進む道のりで表します。」「速さを求める式 速さ=道のり÷時間」
- p.101: 時速・分速・秒速の定義。二重数直線2つ
- p.103: 二重数直線1つ。「道のりを求める式 道のり=速さ×時間」
- p.104: 二重数直線1つ。「時間を求める式 時間=道のり÷速さ」
- p.107: 音の速さ。「気温0℃のとき1秒間に331m(秒速331m)進みます」
- p.101: 二重数直線に「速さ」「道のり」「時間」の吹き出し。4マス関係表も
- 東京書籍 新しい算数 5下
- ⑫単位量あたりの大きさ 比べ方を考えよう(1) p.28から。なお「比べ方を考えよう(2)」は割合・歩合・百分率
- p.34: 「かかった時間と走ったきょり」の表。弟・16秒・80m,ゆみ・18秒・100m
- p.35: 二重数直線4つ
- p.36: 二重数直線2つ
- p.37: 「速さは,単位時間あたりに進む道のりで表すことを使うと,求め方を次のように式にまとめることができる。速さ=道のり÷時間」時速・分速・秒速の定義も
- p.38: 二重数直線2つ。「道のりは,次の公式で求めることができる。道のり=速さ×時間」「この公式が表している関係は,「速さ=道のり÷時間」と同じだね。」
- p.39: 二重数直線1つ。「速さと道のりから,時間を求める方法を考えよう。」ただし「時間=」から始まる式にはしていない。「速さ,道のり,時間のうち2つがわかれば,残りの1つを求めることができるね。」
- p.40: 「音が空気を伝わる速さは,およそ秒速340mであることが知られています。」かみなり
- 日本文教出版 小学算数 5年下
- ⑩単位量あたりの大きさ p.16から
- p.23: 「2 速さ」「上の表を見て,3人のソーラーカーの速さを比べましょう。」ななみさん・48m・2分,えいたさん・48秒・3分,ひろとさん・60m・3分
- p.25: 「新幹線の「のぞみ」号は3時間に690km走り,「はやぶさ」号は2時間に480km走ります。どちらの新幹線が速いですか。」二重数直線2つ。「速さは,単位時間あたりに進む道のりで表します。速さ=道のり÷時間」時速・分速・秒速の定義。リス「速いほど,数が大きくなるね。」
- p.26: 二重数直線1つ。「道のり=速さ×時間」
- p.27: 二重数直線1つ。「時間=道のり÷速さ」
- 教育出版 小学算数 5
- [10]単位量あたりの大きさ p.138から
- p.147: 速さ
- p.148: 「下の表は,えりさんたちが家から図書館まで走ったときの道のりと時間を表しています。だれがいちばん速く走ったでしょうか。」えり・3km・20分,ゆか・2km・20分,ゆうた・2km・15分
- p.149: 二重数直線2つ
- p.150: 「◆速さを求める式 速さ=道のり÷時間」時速・分速・秒速の定義。二重数直線の1に「単位時間」,その上の180に「時速」の吹き出し。ページ下段に「時速の単位をkm/hと表すことがあります。」
- p.152: 二重数直線1つ。「道のり=速さ×時間」
- p.153: 二重数直線1つ。「時間=道のり÷速さ」
- p.155: 二重数直線に「速さ=道のり÷時間」「道のり=速さ×時間」「時間=道のり÷速さ」の吹き出し。
- 啓林館 わくわく算数 5
- ⑪単位量あたりの大きさ p.158から
- ⑰速さ p.220から
- p.221: 「上の表は,キリン,カンガルー,ダチョウの,走った道のりと時間を表しています。どの動物がいちばん速いですか。」キリン・160m・10秒,カンガルー・200m・10秒,ダチョウ・160m・7秒。動物名が表頭(他の教科書は人物名が表側)
- p.222: 二重数直線2つ。「速さは,単位時間に進む道のりで表します。」「速さは,次の式で求めることができます。速さ=道のり÷時間」。時速・分速・秒速の定義
- p.223: 二重数直線1つ。「道のり=速さ×時間」
- p.224: 二重数直線に「速さ」「道のり」「時間」の吹き出し。「時間=」から始まる式なし。鉛筆のキャラクターが「時間を表す数が1のときの道のりを表す数が速さだね。」
- p.225: 「時速900kmで飛ぶ飛行機があります。この飛行機が飛ぶ1万mの上空では,音の速さは秒速約300mです。飛行機と音の速さを比べてみましょう。」
- p.227: 光の速さ,1光年
- 大日本図書 たのしい算数 5年
- ⑪単位量あたりの大きさ p.134から
- ⑰速さ p.222から
- p.223: 「右の表は,Aさん,Bさん,Cさんが走った道のりとかかった時間を表しています。だれが一番速いでしょうか。」Aさん・50m・8秒,Bさん・50m・9秒,Cさん・60m・9秒
- p.224: 二重数直線4つ
- p.225: 二重数直線2つ
- p.226: 「速さは,単位時間あたりに進む道のりで表します。速さ=道のり÷時間」時速・分速・秒速の定義。ウサギ「1時間あたりに進む道のりで速さを表すと,速いときほど数が大きくなるから,わかりやすいね。」
- p.227: 二重数直線2つ。「道のり=速さ×時間」
- p.228: 二重数直線2つ。「時間=道のり÷速さ」
- p.231: 「速さの比べ方が考えられるかな」印刷機(あ)と(い)
学校図書の「二重数直線に「速さ」「道のり」「時間」の吹き出し」を,PowerPointで復元し,画像として保存しました。
*1:1社だけ2者。
*2:1社だけ歩いたとき。
*3:表見出しがついているものは,いずれも表の上でした。
*4:3者の表を入れた教科書(5社)では,あるペアは時間が等しくて道のりが異なっており,また別のペアは道のりが等しくて時間が異なっているため,それらの間では計算することなく,どちらが速いか分かるようになっています。
*5:この2つのカギカッコは,『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』p.265によります。教科書の記載は異なります。
*6:「公式」と書いている教科書は,見かけませんでした。
*7:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/12/17/050921の「four-place relation」に基づいている,と言うことができます。。