かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

1列に5台ずつ並べると~余りの大きさで分類する授業

改訂新版 講座 算数授業の新展開 第3学年

改訂新版 講座 算数授業の新展開 第3学年

 この本のpp.88-91の授業を紹介します。このはじめ2ページは授業の展開*1を表にしており,あとの2ページの上部には板書例,そして下段には実線のまとめと考察,ならびに指導者のコメントが書かれています。なお巻末によると,この授業の執筆者は神奈川県川崎市立東高津小学校の奥村利香氏,コメントは日本体育大学で「新算数教育研究会『講座 算数授業の新展開』編集委員会 委員長」の金本良通氏でした。
 中心となる問題は,「自転車のおもちゃが□台あります。1列に5台ずつならべると,□台目はどこにならぶでしょう。」です。2箇所の□には同じ数が入ります。はじめに考えるのは,□=27で,それが解決できたら,□=33の場合を考えます。
 「どこに」について,黒板の左側には,1から5まで書かれた,5本の旗が縦に並んでいます。そして1台目は「1」の1列目,2台目は「2」の1列目,…と順に,自転車の絵を並べていきます。5台で1列目が終わり,6台目は「1」の2列目です。「どこに」を「どの番号の旗に」に置き換えれば,□が正の整数のとき,5で割った余りで求められます。「剰余類」と言ってしまえばそこまでですが,本書にこの語は見当たらず,かわりにp.84の副題には「余りの大きさで分類」と書かれていました。
 □=27のとき,次の5つの考えが出て,黒板に書かれました(原文から一部変更しています)。いずれの方法でも,「2」の旗となります。

  • 考え1: 続けて数える。
  • 考え2: 近い5のだんにいくつたすかで分かる。
  • 考え3: 近い5のだんからひいても分かる。
  • 考え4: 5ずつ増えているきまりをつかう。
  • 考え5: 1の位にきまりがある。

 考え3を式で表すと,5×6-3=27です*2。このように,「余りの2を求める」以外の求め方を許容しているのは興味深いです。
 ところで□=27のときの求め方で,「考え2」は2箇所に出現しています。上記と異なる「考え2」は,一言で説明されていませんが,おおよそ次のとおりです。「5のだん+1」のときは「あまり1」,「5のだん+2」のときは「あまり2」,…と分類し,もとの数がどのグループに入るかを求める,というものです。
 □=33の場合には,式が活用されています。そしていくつかの考え方には,「その求め方でいいの?」を意図したツッコミも,入っています。考え1から5までを並べるにあたり,「⇒」以降にツッコミを書いてみました*3

  • 考え1: 続けて数える。⇒数が大きくなったら数えるのが大変
  • 考え2: 5×6+3=33
  • 考え3: 5×7-2=33 ⇒図がないと分かりにくい,-2があまりいくつになるかすぐには分からない
  • 考え4: 33-5-5-5-5-5-5=3
  • 考え5: 1の位を見てあまり3のグループ ⇒5のだんのときは使えるけどほかのだんのときは!

 そして考え2と考え4の式と等価な式として,「33÷5=6あまり3」を四角で囲み,さらに余りの「3」を丸で囲んで,□=33のときの答えとしています。明示されていませんが,□=27のときも,5で割った余りが答えになりますし,九九の範囲を超えた場合にも,総台数とグループ(番号付けられた旗)の数が分かれば,わり算で求められるというわけです。
 いえ,少し検討が抜けています。余りがある場合には,その「余り」の番号でいいのですが,割り切れる場合には,「5」の旗としないといけません。5に限らないのであれば,「最後のグループ」です。
 授業では,このことへの対応が明示されていませんが,指導計画よりも前,pp.84の最後の段落に,余りのない除法と余りのある除法との統合が,きちんと書かれていました。段落を書き出します。

 さらに,余りに注目し被乗数が変化する場合,除数と余りの関係について考える。被除数が1増えることで,余りは1ずつ増える。しかし,余りの数は除数-1になっていることを理解する。なぜ,余りの数は除数を超えないのかを,図を基に考える。そのとき,わりきれる場合を余り0と見ることで,余りのない除法と余りのある除法を統合する場面として,統合的な考え方が扱える場面である。余りのない除法と余りのある除法を統合して考えることが,その後の,余りのある確かめや余りの処理について,具体的操作や図や式を関連させて,さらには発展させて考えることが容易になる。具体的な場面として,背の順に何列かで並ぶとき,どこに並ぶかやカレンダーで曜日を特定するときなど,日常の場面で,余りのある除法を使って,筋道立てて考えられるようにしたい。

 原文をよく見直しましたが,「余りの数は除数-1になっている」は間違いで,「余りの数は最大でも除数-1になっている」または「余りの数は除数-1以下になっている」としないといけません。また列を作って並ぶという話であれば,「どこに並ぶか」よりも,「最後の人は何番目か」に着目したいところです。例えば体育の授業の開始前と開始後で,最後の人の番号が違っていれば,遅刻者または早退者がいたことを意味します*4
 今回の授業はp.86によると,「余りのある除法」の単元で7時間で構成されたうちの最後です。「余りのある除法」そのものは,はじめの3時間で学習しており,確かめや,余りの処理を学んだのち,「活用」を行う授業となります。上記の考え2では「5のだん」が出てきて,他の段が取り上げられないのは,それまでに,余りのない除法も余りのある除法も「除数の段の九九を用いて能率的に求めることができる」ことを学び,クラスで共有していたから,と考えられます。

*1:実際の授業でのやりとりではなく,「案」です。表の左側の列は「教師の働きかけと予想される子供の反応」です。

*2:板書例にはこの式の代わりになぜか「5×5-1=24」が書かれていました。

*3:個人的には,考え4にも「⇒数が大きくなったら計算が大変」のツッコミを入れたいところですが,今回見た書籍には,特に書かれていませんでした。

*4:ただし,最後の番号が同じだった場合に,列の数の倍数の人数だけ,途中で追加またはエスケープがあっても分からない,という課題もあります。