かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

「時速4kmで3時間進んだときの道のり」と「時速4kmの3倍の速さ」の違いを,数直線で

 はじめに,作成した図をお見せします。
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 ただし,速さの数直線はオリジナルではなく,教科書展示会で見た内容をもとに,以下のとおり,画像を作っていました。「単位時間あたりに進む道のりを,速さという」と表現できる,速さの定義を,あとで活用します。

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令和2年度算数教科書読み比べ(8)~速さ

 それと別に,ツイートを見かけました。


 ツイートのうち,速さに絞って内容を確認します。「秒速4mを3秒間で動く距離」と「秒速4mの3倍の速度」について,小学校の算数で,式と答えを書きなさいと出題されたら,どちらも式は4×3=12と表せる*1けれども,答えはそれぞれ「12m」「秒速12m」と違ってきます。
 「速さの何倍」を,二重数直線で表現するとどうなるか,考えてみたところ,冒頭の,2番目と3番目の図が思い浮かんだのでした。
 順に見ていきます(それから,小学校の出題を意識して,用語と単位を変更しています)。はじめに考える問題を「時速4kmで3時間進んだときの道のりは?」とします。このときの数直線,式そして答えは以下のとおりです。
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 図の見方を,「比例関係」とともに記しておきます。ここで比例関係は,速さが固定のとき,時間が2倍,3倍,…になると,進む道のりも2倍,3倍,…になるという関係をいいます。時速4kmは,1時間で4km進むというのと合わせると,時間が1時間から3時間と,3倍(「×3」)になれば,道のりも3倍になるということで,4×3=12の式で求められます。答えは「12km」です。
 次に,「時速4kmの3倍の速さは?」を考えます。このとき,「時速4kmの速さで進む物体の,道のりと時間の関係」を表す二重数直線と,「時速4kmの3倍の速さで進む物体の,道のりと時間の関係」を表す二重数直線を,想定することができます。そしてそれらを,別々の数直線にするのではなく,道のりを合わせる形で一体化します。この方針により,次の図を得ます。三重数直線*2です。
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 左端が「時間」となる数直線は,2つ上下に並びます。上の「時間」の数直線が,時速4kmの速さで進む物体の(道のり・時間・速さの関係における)時間を表し,下の「時間」の数直線は,時速4kmの3倍の速さで進む物体の時間となります。
 「時速4kmの3倍の速さ」を求めるにあたり,まず,道のりの数直線に注目します。実のところ,時速4kmの速さで1時間に進む道のりの「4」を,3倍すればよく,その結果は(「12」と書きたいところですが)「4×3」で求めることができ,そして「4」と「4×3」とをつなぐものは,「×3」という倍関係になります。
 そして他の数直線と対応させます。この「4×3」は,時速4kmの速さで進む物体の(時間の)数直線ではなく,その3倍の速さで進む物体の数直線の「1時間」になります。こうすることで,「4×3=12」で得られる値は,「12km」ではなく「時速12km」となるわけです。
 左端の2つの「時間」の間に,同じ色の矢印と「×3」を添えました。これは,「時速4kmの速さで進む物体の時間(として考えることのできる集合*3)」を3倍して得られる,「時速4kmの3倍の速さで進む物体の時間(として考えることのできる集合)」となります。簡単のため「3倍」を使用しましたが,「半分(0.5倍)」や「\frac27倍」といった場合でも,同様に,下の時間の数直線を拡大縮小すれば,値を割り当てることができます。
 「速さの何倍*4」と「時間の何倍」とを組み合わせた文章題を解くのにも,数直線が使えそうです。「時速4kmの3倍の速さで2時間進んだときの道のりは?」という問題について,図と式,そして答えは次のようになります。
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 実際に図示して,式を立てるとなると,道のりの数直線の「4×3」と「(4×3)×2」のところには,「□」などを置く必要もあります。
 この三重数直線では,真ん中の数直線の役割が小さいようにも見えますが,その数直線上で「2(時間)」の目盛りをとり(対応する道のりは「4×2(km)」),この時間の数直線を3倍する,という考え方で,(4×2)×3=24という式が得られます。「時速4kmの速さで2時間進んだときの道のりと,その3倍の速さで同じ時間,進んだときの道のりは?」という問題に答えるなら,そうなるでしょう。

*1:次元を含む式にすると,「4m/s×3s=12m」「4m/s×3=12m/s」と区別できます。

*2:この言葉の当ブログでの初出は,http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/06/03/081146です。

*3:時間を,時刻の集合とみなしています。負の時刻は考えません。数学的には非負の実数の集合に対応しますし,https://projecteuclid.org/euclid.ojm/1200770204より読める文献と関連付けることもできます。なお小学校の算数では,実数の代わりに有理数で考えれば十分です。

*4:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/11/28/062506で紹介した都算研の問題の(2)では,求め方の一つに「速さの差」を挙げています。とはいえ小学生は「足せる(引ける)速さ,足せない(引けない)速さ」を学んでいるわけではなく,速さの定義をもとに,計算ができる問題となっています。