かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

『小学校指導法 算数 改訂第2版』に見る,乗法の順序で強制

 奥付には「2011年2月25日 初版第1刷発行」そして「2019年9月25日 改訂第2版第1刷発行」と書かれていました。初版は以下の本です。

小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)

小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)

 なお,改訂第2版はA5判で,初版のB5判よりも小さくなっています。カバーは,白と青と黒ですが,2冊を並べて見るとデザインが異なるのが分かります。カバーの内側には「教科教育法シリーズ 改訂第2版」として国語から特別活動までがラインナップされていました。
 初版では,乗法(かけ算)の文章の中に,「必ずしも第2学年で学んだ順序で立式することを強制しなくてもよい。」で終わるけれども,それを含む文が最も主張したいのではない*1という段落を見かけました。改訂第2版にも,ありました(pp.82-83)。

 乗法の場面,「1ふくろにみかんが3こずつ入っています。5ふくろでは,みかんは何こでしょう。」は,3×5と立式される。立式は,「1つ分の数×いくつ分=全体の数」とまとめられ,それぞれを被乗数,乗数という。ところで,「オリンピックの400mリレー」や「このDVDは16倍速で記録できる」,「xk倍は」の式は,どのように表されるであろうか。それぞれ,一般的には「4×100mリレー」,「16×」,「kx」と表される。被乗数と乗数の位置が教科書の書き方と逆になっていることに気づくであろう。この例からわかるように,乗法では,数の位置ではなく,数が意味する内容に注目して,どの数が1つ分の数であるか,いくつ分はどの数かをしっかりと読み取ることが大切である。第2学年や第3学年では,読み取った数を,「1つ分の数×いくつ分=全体の数」と表現できることが重要であり,逆に,この立式ができているかで,数の読み取りができているかを判断できる。しかし,高学年になり,乗法では交換法則が成り立つことや外国での立式を知り,数の意味をしっかり理解できていれば,必ずしも第2学年で学んだ順序で立式することを強制しなくてもよい。

 初版のpp.91-92とほぼ同じです。初版の「ミカン」「400メートル」「気付く」「分かる」が改訂第2版では「みかん」「400m」「気づく」「わかる」に書き換わっているほか,読点について初版は「、」,改訂第2版は「,」となっています(句点はいずれも「。」)。
 文章と異なるところの相違点として,初版に収録されていた,「1~16×高速対応」の入ったDVDの写真が,改訂第2版では,なくなっています。2匹が1パックになっている魚の写真*2は,どちらにも載っています。
 「必ずしも第2学年で学んだ順序で立式することを強制しなくてもよい。」について,乗法(かけ算)よりも前のところで,「強制」の語が使われていました。初版ではp.87,改訂第2版ではp.77です。小見出しとして「①十進構造に強制される活動」が太字になっており,読み進めると「...11個入れたいが10個しか入らないので,仕方がないけど10個で一塊にするという,強制的な制約から始まる。教科書に掲載されているブロック図のケースはこの強制を内包した教具であり...」(改訂第2版p.77)として「強制」が出現します。
 かけ算に話を戻して,章末の課題の2番目を見ておきます。これもほぼ同じ内容です。以下は改訂第2版のp.86からです。

2. 「子どもが7人います。1人に4個ずつアメをくばります。アメはみんなで何こいりますか」という問題に対して,7×4=28 答え28こ,と解答した小学校2年生の子がいた。この解答をどのように解釈して,どのような対応をしたらよいか,乗法の意味と関連させてまとめなさい。

 第5章の執筆者は,初版も改訂第2版も,編著者の守屋誠司氏です。巻末の「執筆者および執筆分担」を見ると,守屋氏のほか富永順一氏が両方に出現しますが,他は異なっています。改訂第2版では,構成がかなり変わっており(最も大きな変化を知るには,いずれも第9章で,初版は「数量関係」,改訂第2版は「変化と関係」となっている章を読むといいでしょう),初版刊行後の成果も取り入れられています。
 そんな中,そして『かけ算には順序があるのか』の出版やネット上の批判を反映することなく,改訂第2版の「乗法・順序・強制」の文章や章末課題が微修正のみとなったのは,初版の執筆と第2版の改訂のあいだで,第2・3学年で指導する乗法に関して,学術・実践における新たな知見が特になかった,と解釈すればよいのでしょうか。
 初版の記載内容や,2010-2011年の関連する出版物については,小学校学習指導要領解説算数編と合わせて読みたい,2010年・2011年の文献にて紹介していますので,合わせてご覧ください。

*1:関連:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/12/08/062042

*2:この写真から,一部しか表示されていないものも含めて魚の総数を求める式は,2×6,2×2×3,2×3×2が考えられます。