かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

きれいに並べられて簡単にメモできる袋がある

 「全部同じ数なら,簡単に言えるよ[かけ算]」と題する授業例を,pp.30-33で読むことができます。巻末によると執筆者は,市川市立第九小学校の上月千尋氏です。
 かけ算の,最初の授業です。色や形の異なるサイコロを袋に入れて配布し,そこから「かけ算で表せるもの」を見つけさせ,まずはたし算,そしてかけ算の式へと導いています。
 板書計画の絵のすぐ下に,「色や形の異なるサイコロ」の例が,絵になっていました(p.31)。

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 絵の形状について,六角形は,十面ダイスまたは二十面ダイスと思われます。三角形は四面ダイス,ダイヤモンド型は八面ダイス,八角形は十二面ダイスです。wikipedia:サイコロで写真を見ることができます。
 授業の流れを読んでいくと,気になるところが2つ,ありました。一つはp.32の子どもの発言です。

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 子どもの発言のうち「きれいに並べられて簡単にメモできる袋がある」は,「メモできない袋がある」との対比*1として,読んで理解はできるものの,流れとして自然には見えません。発言としてありそうなのは,例えば「私の袋(のサイコロ),きれいに並べられる!」です。
 もう一つは,p.33の授業のあとの文章です。ページの中ごろには,先生の吹き出しがあります。「3個が8個」「3個ずつ8色分」に対して,「これを算数の言葉で「3×8」と表すことができます。このような計算を,かけ算といいます」で締めているのですが,直後の地の文では,「本時で,子どもたちは「3×8」が「8×3」とも見られることを経験している」と書いています。
 実際,p.31の図のうち,「●かけ算で表せるもの」は,3×8でも8×3でもよいことを示したものとなっています。
 ところでかけ算の最初の授業で,一つの場面から,a×bとb×a(という式で表すかどうかはさておき)を含む,さまざまな「1つ分の数」と「いくつ分」のペアを求めるというのは,『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて』とその新版に載っています。

新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 2年下

新版 小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 2年下

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東洋館出版社
  • 発売日: 2011/10/22
  • メディア: 単行本

 前者は40人を並べて「8人ずつ5れつ」や「5人ずつ8れつ」などを作るのに対し,新版では3行4列のおだんご(おはじき)をもとに「3こずつ4こ分」「4こずつ3こ分」の分け方そして数え方を,板書のイラストにしています。
 そういった導入授業や,『小学校学習指導要領解説算数編』に見られる「12個のおはじきを工夫して並べる」活動について,結局のところそこから学ぶのは,かけ算の式はa×bでもb×aでもよいというのではなさそうです。かけられる数(1つ分の数)とかける数(いくつ分)を認識して,かけ算の式に表すことの意義について述べたものであると解釈すれば,各情報源の後ろで紹介されている場面と整合します。

*1:サイコロを袋に入れる際に,「きれいに並べられて簡単にメモできる袋」と「きれいに並べられない袋」を先生が事前に用意しておく必要もあり,手間を要します。これもまた,「しかけ」と「しこみ」と思えばいいのでしょうか。なお子どもごとに異なるのではなく,皆が同じものを見て,どのようなときにかけ算で求められるかを認識する授業として,「おなじや」「ばらばらや」というのがあります。http://www5a.biglobe.ne.jp/~east2/sansu/2nen/kakezan%20report.pdf