かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

帯分数排斥運動?

 帯分数の表記で連想するのは,wikipedia:キングス・クロス駅の9¾番線です。あれも\frac{39}{4}番線のほうが分かりやすい,と主張されたいわけではないでしょう。
 9\frac34は,9+\frac34と解釈することになります.整数と分数が,加法的に結び付いています。9\times\frac34(乗法的)ではありません.乗法的な結合は,例えば,万有引力の法則の式,\displaystyle F=G\frac{Mm}{r^2}に出現します.この右辺を\displaystyle G+\frac{Mm}{r^2}とするわけにはいきません。
 以下は小学校の算数を対象とし,加法的に結び付くものとします。整数部分も,分母も分子も,整数です。そこから何を学ぶことが期待され,また問われてきたかについて,まず見ておくのは,現行と次期の『小学校学習指導要領解説算数編』です。現行はp.143,次期(今年4月からの適用)はp.194です。後者の該当箇所を取り出します。

 真分数とは,\frac12\frac35のように分子が分母より小さい分数のことである。仮分数とは,\frac22\frac75のように分子と分母が等しいか,分子が分母より大きい分数のことである。また,帯分数とは,1\frac25のように整数と真分数を合わせた形の分数のことである。1\frac25は,1と\frac25を加えた分数である。
 1より大きい仮分数は,帯分数で表すと,その大きさが捉えやすくなる。例えば,\frac94は,2\frac14に直すと,2より少し大きい数であると分かる。このようにして,分数の大きさについての感覚を豊かにするように指導する。
 真分数や仮分数で表すと,その計算が進めやすいという場合がある。例えば,第6学年で指導する分数の乗法及び除法については,帯分数よりも仮分数で表しておく方が計算を進めやすくなる。

 なお,『小学校学習指導要領解説算数編』を根拠とする際,「1より大きい仮分数は,帯分数で表さなければならない」というのは意図されていません。実際,上の引用のあとには,「例えば,真分数と真分数の加法である\frac35+\frac45の計算では,(略)結果は\frac75と表すことができる。」とあります。続くのは,その和は\frac7{10}ではないことを確認する内容であり,帯分数は見られません。
 この解説の1つ前のページでは,学習指導要領の記載が囲まれており,「〔用語・記号〕 真分数 仮分数 帯分数」も囲まれています。第4学年でこれらの用語を学び,識別(与えられた分数表記が真分数・仮分数・帯分数のいずれであるか)や,整数と仮分数*1,仮分数と帯分数の相互変換も,ここで学習することが,期待されるわけです。
 そうして校内でも,また学校の枠を超えたテストでも,帯分数が出現することがあります。公開されている出題の一つを,全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)より見ることができます。平成25年度の算数A大問1(6),2\frac57+1\frac17の計算です。
 この調査の報告書(【小学校】算数)のp.31によると,趣旨は「同分母の分数の加法「(帯分数)+(帯分数)」の計算をすることができるかどうかをみる。」となっています。
 同じページの解答類型では,「3\frac67\frac{27}7と解答しているもの」を,◎の正答としており,その反応率は88.2%でした。帯分数でも仮分数でもよく,それらの違いは解答類型において区別されていません*2
 これまた同じページに,参考として書かれた平成21年度調査問題では,\frac76-\frac26の計算で,仮分数が出現します。もちろん答えを仮分数にするわけにいきません。
 全国学力テストの出題に基づくと,計算問題で,仮分数と帯分数が出現することもあるけれど,結果が1を超える場合,答えの書き方は帯分数でも仮分数でもよい,と言ってよさそうです。分数部分だけの計算で1を超えないのは,複雑さを避けた,意図したものなのでしょう。
 帯分数+帯分数で,分数部分の計算で1以上になる出題も,検索して,見つけることができました。平成28年度大分県学力定着状況調査結果(小学校:算数)の2ページ目,3\frac35+1\frac45です。そこでは整数部分と分数部分とを相互に足しただけの4\frac75を,誤答扱いとしています(前年度よりもその解答の割合が下がり,正答率は上回っているとも書かれています)。なお,1以上になる状況のことを「繰り上がりあり」と表記しているのは,興味深いところです.
 ただし読み進めると,「解答は、仮分数、帯分数のいずれかの形であらわすことになる。」でして,この計算問題では3\frac35+1\frac45\frac{18}5+\frac95\frac{18+9}5\frac{27}5,答え\frac{27}5でも正解となります。
 帯分数-帯分数で繰り下がりのあるもの(例えば,3\frac35-1\frac45。これを3+\frac35-1+\frac45としてはいけない)や,帯分数×整数で繰り上がりのあるもの(例えば3\frac35\times3)も,頭では思いつきますが,正誤の反応率を含む出題例は,得られていません。


 結論:

  • 1より大きい仮分数は,帯分数で表すと,その大きさが捉えやすくなります。例えば,ハリー・ポッターの「9と4分の3番線」から,9番線と10番線の間であることが読み取れるわけです。
  • 多人数が解答する外在的評価で,仮分数・帯分数を含む計算問題が出現することがあります。ですので,それらの意味や計算の仕方を理解しておく必要があります。ただし結果が1を超える場合に,帯分数にする必要はありません(そうするよう指示がない限り)。


 同日追記:1970~80年代を中心に,「新しい算数研究」という雑誌に掲載された記事をピックアップして,東洋館出版社がシリーズを出しています。2011年のことです。分数については以下の本です。

 この本のp.48に,「帯分数どうしの加法の構造」として,次の式が書かれていました。
m\frac{b}{a}+n\frac{d}{c}(m+n)\times\frac{b\times c+d\times a}{a\times c}
 右辺の,分数記号の直前の「×」は,「+」でなければなりません。(m+n)+\frac{b\times c+d\times a}{a\times c}に修正したとしても,分数部分を計算すると仮分数になることがある(繰り上がりが起こり得る)のを,この式から読みとることは困難です。

*1:整数と等しい仮分数は一意に定まりませんが,例えば,「\frac{\Box}7=2に当てはまる□を答えなさい」と出題することは可能です。

*2:3\frac67と大きさの等しい分数を解答しているもの」というのも類型に含まれていて,○の正答(準正答)とし,反応率は0.8%でした。