かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

「6秒で8m進むと、15秒で何m進むか?」を,二重数直線で

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 上の図では,「6秒で8m進む」とき,時間も道のりも半分にすると,「3秒で4m進む」となります。その次に,時間も道のりも5倍することで,「15秒で20m進む」として,求めています。式にすると,8÷2=4 4×5=20です。
 下の図は,いわゆる帰一法です。「6秒で8m進む」とき,「1秒で何m進むか」を考えます。二重数直線でも,「はじき(みはじ)」でも,8÷6の式で求められますが,これを\displaystyle\frac{8}{6}(または\displaystyle\frac{4}{3}\displaystyle 1\frac{1}{3})にする必要はありません。「1秒で8÷6m進む」と分かったら,次は「15秒で何m進むか」です。二重数直線と「はじき(みはじ)」のいずれでも,8÷6×15という式になります。わってからかけるのを,かけてからわる*1とすることで,分数を使用することなく,8÷6×15=8×15÷6=120÷6=20と計算できます。もちろん答えは20mです。


 「6秒で8m進むと,15秒で何m進むか?」は,東京新聞 2020年7月2日夕刊の「「掛け算の順序」問題 根底にあるもの」に出てきます。段落は以下のとおりです。

 私が塾で教えるときは、公式も速さも教えないで、「6秒で8m進むと、15秒で何m進むか?」と出題する。戸惑うようだと、「何秒で何mになるか分かるのを片っ端から書き出して」とヒントを出す。そうすると大抵、「3秒で4mだから、15秒だと…」と気づく。数値を変えて何問かやれば、解法は自然と身につく。「1/3秒で4mなら1mで何秒か?」などとすることで、分数や小数の計算方法を自分で発見することも出来る。「秒速とは1秒間の距離」などは後で教えればいい。私は算数・数学を教える際には、このように公式・解法を教えないで問題を出す。

 前後の段落も読んだ上で,2つの点に違和感を持ちました。一つは,「6秒で8m進むと、15秒で何m進むか?」を求める際に,速さが一定であるのを確認していないことです。速さが一定であるために,時間を「×2」「×3」や「÷2」「÷3」などとしたとき,それに合わせて道のりも「×2」「×3」や「÷2」「÷3」などになるという,比例の考え方が活用できます。そして速さが一定という保証がないと,「はじめの6秒は8m進んだけれど,あとの9秒では6mしか進まなかった,だから8+6=14で14m」という主張ができてしまいます。
 もう一つは,学校教育とどのように整合するかしないかについてです。「はじき」を回避する速さの指導事例である一方で,分数が入り得る状況でも「×整数」「÷整数」に帰着して計算でき,いまどきの算数教育の考え方を活用すれば解けるように見えます。そういった学校の算数授業の状況や,二重数直線を用いて複数の(分数の乗除が出現せず,速さを学習する5年生でも立式・計算のできる)解き方が可能である点は,新聞に掲載された文章そしてツイートを見る限り,執筆者の関心外と推測できますが,今回,図を作ってみて興味深いものに映りました。
 関連情報2点にリンクしておきます。

*1:ただしこのような順序交換ができるには,小学6年で習う「逆数」を必要とします。a\div b\times ca\times \frac{1}{b}\times ca\times c\times \frac{1}{b}a\times c\div bです。